「と、いうわけなんだよ。お願い、祖父ちゃん」
あの食い逃げの日から……あ、いや、食い逃げはしょっちゅうしてたんだけどね。あれ以来行ってなかったけど。とにかく、あの日から数日。今日はおれの6歳の誕生日である。
予想通り、今日祖父ちゃんが来た。んで、俺は先日のことを話して、エースから何があったのか聞きだしてくれるように頼んでみました。
あ、ちゃんと食い逃げのくだりは伏せといたので心配ない。
……いやね、何だかんだ言っても、現段階で祖父ちゃん以上に適役の人っていないんだよね。無茶苦茶ではあるけれど一応大事に思ってくれてるらしいってのは解るし。
祖父ちゃんは難しい顔をしてたけど、ポンポンと俺の頭を叩いた。
「解った、任せておけ」
「本当!? 祖父ちゃんありがとう! 大好き!」
ニッコリと、満面の無邪気な笑顔で抱きついてみました。すると。
「!! だ、大好きか!? そうかそうか!!」
祖父ちゃんは、途端にデレッデレに笑み崩れた。うん、こんな状態になるだろうなって予想してたよ?
祖父ちゃん……本当に『孫に愛されたい』んだね……。
あ、いや、好きってのは嘘じゃないよ? ただ、こうやって口にして言うのには腹の内にちょっと打算があるからなんだけどね。一種の懐柔策です。でなきゃ恥ずかしくて言えないって! 俺ってば転生者だから中身はそれなりの年なのに!
そうだ、ついでに釘も刺しておこう。
「ちゃんと聞いてね? いつもみたいに無茶しないでね? もしエースに変なことしたら、嫌いになるからね!」
できるだけしかめっ面を作って頬を膨らませてみた。幼い子供の間だけ使える手だよね、こういうの。
「き、嫌いに!? 待てユアン、祖父ちゃんは別に変なことなんて……」
「殴ったり、ぶん回したり、投げ飛ばしたりしないでって言ってるだけだよ?」
「………………わしはただ、お前たちに強くなってもらいたいと」
「しないでね?」
ニッコリ笑顔で『お願い』したら、祖父ちゃんは快く(?)頷いてくれました。
さてさて。
エースと祖父ちゃんが2人で話してるのを、俺はその近くの木の陰に隠れて聞いていた。
祖父ちゃんはちゃんと真面目に聞き出してくれてたし、エースもポツポツとだけれどわりと素直に話してたんだけど……。
この間何があったのかってのについては、簡単な話だった。
簡単だったけど……根深い話だ。
あの日俺とサボを先に逃がしたエースは、追いかけてきたレストラン店員を引き付けながら逃げて頃合いを見計らって撒き、俺たちと合流すべくグレイターミナルを目指していたときに偶々通りかかった裏道のパブで、ある話を聞いたらしい。
ある話……かの海賊王・ゴールド・ロジャーの話を、だ。
しかも不運だったのは、何の拍子でそんな話になったのか『もしロジャーに子どもがいたら』なんて話題が出て来たらしい。
決して品が良いとは言えない店で、酔ったオッサンたちが話していたのだ。それはかなり悪し様な言い草だったという。
多分もう予測はつくだろうけれど、そうアレだ。原作でもあったあの言葉たち。
『ゴールド・ロジャーにもし子供がいたらァ?』
『そりゃあ“打ち首”だ!』
『世界中の人間のロジャーへの恨みの数だけ、針を刺すってのはどうだ?』
『火炙りにしてよ! 死ぬ寸前のその姿を、世界中の笑い者にするんだ!』
『みんなが言うぞ!? 【ザマアみろ】って、ぎゃはははは!』
『遺言はこう言い残して欲しいねェ、【生まれてきてすいませんゴミなのに】』
そんで、頭に血が上ってソイツらをボコった、と。でも、相手も人数が多かったからエースも多少怪我を負う羽目になってしまったらしい。
胸糞悪い。
多分エースは、今までにも似たようなことを言われ続けてきてるはずだ。間接的に、ではあるんだろうけど。でなきゃあんなにまでコンプレックスを抱くはずがない。
酔った席での戯言だ。言った当人達は、そのロジャーの子供が実在するとすら思ってないに違いない。けれど、だから気にするな、だなんてのは所詮他人事だから言えることで、当事者にしてみれば心の傷を抉る言葉だ。黙って流せるほどに大人でもない。
エースが傷つくのも怒るのも、当然だと思う。
けれど俺は……エースにも腹が立っている。
原作で読んだときに気になったんだよね。エースが言った一言が。本人には一大事なんだろうし、『そう』思うのも無理ない状態なんだろうけどさ……。
「ジジイ……」
俺が変わらず木の陰で立ち聞きしていると、初めて聞くんじゃないかってぐらい神妙なエースの声がした。
あ、来るぞ、コレは。あの一言が。
「おれは……産まれてきてもよかったのかな……」
おぉ、来た来た、超ネガティブ発言!
今のエースにはネガティブホロウ効かないんじゃないか? ペローナよ、君の天敵はネガッ鼻だけじゃないかもしれないぞー?
……うん、ちょっと茶化して気持ちを落ち着けようと思ったけど、やっぱり無理っぽいネ✩
ものすっごく腹が立つよエース! 今まで6年一緒に生きてきたけど、これほどまでにエースに怒りを覚えたのは初めてだ。
よし、決めた。ここはじっくり語り合ってやる!
俺は出来る限り力を込めて拳を握り締めると、思いっきり振りかぶりながら今出せる最高速度で木陰から駆け出し。
「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ドカァッ、と渾身の力でエースの顔をぶん殴ったのだった。