麦わらの副船長   作:深山 雅

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第105話 ドラム島

 豚肉と牛肉なら、牛肉の方が好きだ。ってか、スキヤキ食べたい。要するに、精を付けたい。

 あ、それならニンニクもいいかな……。

 

 

 

 

 何かもう俺は現在、熱にやられて思考がグッダグダになってます。頭を巡るは食料のことばかり。

 

 状況を整理しよう。

 

 ドラムに向かうということになってから1日が経過して、俺の体調は確実に悪化している。熱は40度に達したし、何だかフラフラする。はっきり言って、前世ですらここまで参ったことはない。

 うん、頭の中では元気に語っているように見せかけて、現実の俺は男部屋のハンモックにて寝込んでるよ。

 

 そしてその一方で、ナミは少しずつだけど快方に向かっていった。まだ完全には治ってないみたいだけど、熱はもう微熱と言っていい程度だ。無理して起き上がったりはしてない(というか、周囲がさせてない)けど、ベッドからこまめに航海の指示を出しているらしい。主にサンジをパシリに使って。

 

 え? 男部屋で寝込んでいる俺が何でそんな状況を知ってるのかって?

 それはな。

 

 「ユアン! 調子はどうだ?」

 

 様子を見に来るルフィに聞いたからだよ。

 

 「悪ィよ……でもどうにもならねェだろうが。落ち着け船長」

 

 ごめんなさい、身体がキツイんでついついガラの悪い対応をしちゃってます。病気ってストレスが溜まるんだな。

 いや、それは置いとこう。

 

 「……で? 今度は、何があったんだ……?」

 

 俺は小さく溜息を吐いて先を促す。

 正直に言えば、口を開くのも辛い。言葉も途切れ途切れになってしまうけど勘弁してほしい。

 

 「あ、それがな!」

 

 ルフィは、俺の質問にそれはそれは満面の笑顔を浮かべた。寝込むようになってからこの笑顔を見るのは何回目だろう、と遠い目になる。

 ……自分で言うのも何だけど、その笑顔は俺と全く違うよ。一切の含みも邪気も無い、何とも純粋な……臭いことを言うなら、天使の笑顔ってヤツだ。

 そう、全く何の邪気も悪意も感じないんだ。感じないのに……これまでの経験上、嫌な予感が止まらない。

 

 「雪が降ってきたんだ! 雪!」

 

 あぁ……道理で何だか気温が下がったと思った。

 

 「ドラムは、冬島らしいからな……。近付いて来てるんだろ……で?」

 

 冬島云々については今度説明するか……いや、ビビ辺りがもうしてくれてるだろうからいっか。

 

 「あァ! それでな、これだ!」

 

 「ぶへっ!?」

 

 どん! と。

 

 どどーん! と。

 

 まさにそんな擬音が付きそうな勢いで、コイツが何をしたと思う?

 

 「殺す気かッ!」

 

 俺は顔面に思いっきり押し付けられた雪の塊を跳ね除けた。

 そう、コイツは人の頭がスッポリと収まりそうなデカい雪玉を俺の顔に叩きつけてきたんだよ! あぁ、俺の頭は綺麗に雪玉に埋め込まれたね! 

 思いっきり怒鳴りつけた俺はきっと悪くない。けどそれをやらかした当の本人は顰めっ面になった。

 

 「ダメだぞ、起き上がったら!」

 

 「………………」

 

 何でこの状況で俺が怒られなきゃならないんだ? 何だか悲しくなってきた。

 

 「熱は冷ませば引くんだろ? ならああすれば手っ取り早いじゃねェか!」

 

 窒息するわ! そう怒鳴りたかったけど、もうその気力も湧いてこない。

 まさか、雪玉で熱を冷まそうとしてくるとは……性質が悪いのは、これが100%善意からくるこうどうだということだ。ルフィは本当に、ただひたすらに熱冷ましのことしか考えてない。

 

 例えばこれが俺だったら、これは善意ではなく悪戯心から起こす行動だっただろう。でもコイツは本気で心配して真面目に考えた上でこんな行動を取っているんだ。

 もうこれで何度目だ……?

 

 1人で寝てるのは退屈だろう、と頻繁に顔を覗かせては色んな話をしてくる……大抵の場合はいいけど、タイミングによっては安眠妨害だ。

 

 ケスチアの薬は無いということになってるけど、対症療法のために頭痛薬や熱冷ましを取ってもらえば、取り違えて下剤を持ってくる……うっかり飲んで、30分くらいトイレとお友達になった。

 

 熱を計ろうと思って体温計を取ってもらったら、テーブルにぶつけて割る。そして散らばったガラスの破片と零れた水銀は、ちゃんと掃除しておいた……俺が。

 

 頭に乗せるタオルを冷やすための氷水を持って来てもらえば、タオルを冷やすのではなく直接俺の頭にぶっかけて冷まそうとした。冷たかったな、アレは。着替えてシーツを替えて、床も拭いといた……俺が。

 

 食事時には、熱々のお粥が入った土鍋をわざわざ持って来てくれたはいいけど(正直に言えば、食欲は衰えてないから普通のメニューが良かったんだけど)、うっかり引っくり返してやっぱり俺の頭上に降らせる。熱かったな、アレは。着替えてシーツを替えて、床も拭いといた……俺が。

 

 それらを避けられなかったって時点で、俺が本気でダウンしているってことを解って欲しい。ハンモックで寝てて良かったよな~、俺。もしもこれがベッドだったら、乾くまで使えなかったよ。

 

 そう。

 

 これまで病気になったことも無ければ病人と接したことも無かったルフィは、恐ろしく看護が下手だった。それなのに何くれとなくしようとしてくる。この場では言及しないけど、失敗談はまだまだたくさんあるよ。

 

 でも、一生懸命なのも100%善意なのも解ってる。あのルフィが、病人食とはいえ食事を持って来たのに、ほんのちょっとしかつまみ食いをしていなかったんだぞ? その事実だけでも、どれだけ真面目に、そして真摯に看護に当たろうとしてくれているのかが窺い知れる。気持ちはとても嬉しい。

 加えて俺自身に負い目もあるもんだから、どうしても拒否しきれない。

 

 おかげで全然安静に出来ないけどな!

 

 勿論、様子を見に来てくれるのはルフィだけじゃない。ナミ以外のメンツも時々来る。そしてその度に哀れみの視線を向けられる。でも誰も看護役を変わってはくれない。

 

 はっきり言おう。俺はスケープゴートにされたらしい。

 

 ルフィは放置しておくと何を仕出かすか予測がつかない。そして、俺が被ってきた数々の被害のようなことがナミにまで及ばないように、みんなはルフィに俺の看護を一任させたのだ。

 

 そんな裏事情になんて全く気付いちゃいないルフィは、そりゃあもう、『任せろ!』と張り切ってる。そして完全にから回っている。しかも、俺はこの体調だからいつもみたいにツッコみきれず、どんどん加速していく。何かしらポカをやらかして俺に被害が及ぶ度に、俺に代わって大福がルフィを引っ掻いてツッコミを入れてくれてるけど……堪えてないし。

 あ、ちなみに今のところ大福は常に猫サイズだ。そうしないとカルーが怯えるからね。んでもって、この部屋に黙って居座っている。くっ付かれると暑いから傍には寄らないように言ってあるけど。

 ……耐えろ、耐えるんだ俺。ほんのちょっとの間の辛抱だ。あの無邪気な笑顔を思い出せ。看護なんていらないって言えばきっとしょげるぞ、あの笑顔を奪っていいのか、いや否! 今は黙って看護に耐えろ! このストレスは療養後に晴らすんだ!

 

 

 

 

 こんな感じで、俺にとっては苦行と言っても過言じゃない航海は進んで行く。

 

 

 

 

 変化が訪れたのは、その翌日のことだ。

 

 俺の病状はますます悪化している……これはケスチアのせいだ、病気のせいだ、断じてルフィの看護のせいじゃない。頭が割れそうなのも、体が熱くてたまらないのも、意識が朦朧とするのも病気のせいであって、決して気疲れのせいじゃない!

 

 反比例するかのように、ナミは順調に回復。冬島の近海だからか船の外には出てないようだけど、ベッドからは時々起き上がって船内から海の様子を見ることもあるとか。

 ちゃんと指針に沿っているらしいので、もうじきドラムへ着くだろう。つーか、着いて欲しい。マジで。

 

 「島が見えたぞー!!」

 

 天に祈りが届いたのか、船の外からサンジの声が聞こえてきた……って、アレ? ワポルは?

 あ……永久指針を従って航海して来たから原作とは違うルートを辿ったのか。それで遭遇しなかった、と。予測に過ぎないけど、多分間違ってないと思う。

 

 ま、いっか。この付近にはいるはずなんだ、そう掛からずにあっちもドラムに着くだろう。その時にやり合えばいいだけの話だ。知らん内にメリー号破損フラグが折れたと思えばいいや。

 むしろ、出会わなくてホッとした。だってワポルは俺の中で、出来れば関わりたくないウザったいキャラBEST3に堂々ランクインしてるし。嫌いとか腹が立つとかそういうのじゃなくて、ただひたすらにウザいヤツっていうランキング。

 ちなみに他のメンツは、クリークとフォクシーだったりする。クリークは最強最強って五月蠅いし、フォクシーはワレ頭だし。

 閑話休題。

 

 「……行ってこいよ、俺は大丈夫だから。あ……でも、何か上に着てけよ……冬島なんだから……」

 

 島が見えた、という声が聞こえてからあからさまにそわそわしてるルフィにそう告げると、ルフィはすぐさま飛び出して行った。全く……あの『冒険しないと死んでしまう病』め。

 

 その後は暫く、俺は1人で待っていた。少し経つとぼんやりとした意識の中、言い争う声や銃声も聞こえてくる……あ。ビビ、大丈夫かな……何かしら策を立てておくべきだったか? くそ、やっぱりうまい事立ち回れねェや……いや、病気のせいにするのは言い訳だよな……ハァ。

 

 「おい、起きられるか?」

 

 ちょっと自己嫌悪に陥っていたら、いつの間にかルフィが戻ってきていた。

 

 「ん……。」

 

 身を起こすのは辛いけど、起き上がれないわけじゃない……けど、歩いて上陸が出来るかって言われたら微妙かな……いや、根性だ根性!

 

 「く……!」

 

 すいません無理でした。上陸どころか、部屋から出ることすら出来ませんでした。途中で倒れました。

 ヤバい、足に力が入らない。視界が反転してるような感じがする。昨日はここまでじゃなかったのに……少なくとも、床掃除が出来るぐらいの体力は残ってた。

 五日病……恐ろしい病気だ。たった1日でここまで目に見えるほどに病状が進むなんて……って。

 

 「何、してんだ……お前は」

 

 「だって歩けねェんだろ?」

 

 今、俺的にとても情けない状態に陥っている。

 ルフィに負ぶわれてます、はい。

 うん、まぁ確かにぶっ倒れ状態だけどさ……何となーく、情けない気分になる。

 ハァ……仕方が無い。この際、贅沢は言っていられないしなぁ。

 

 

 

 

 船番にゾロを残し、他のメンバーはビッグホーンという村へ向かう……あ、カルーと大福も船に残ってるよ。

 俺がルフィに背負われてるように、ナミもサンジに背負われていた。まだ本調子ではないらしい。それでもナミの容体には差し迫った危険が感じられないからか、サンジはやたらとやに下がった締まりのない顔をしている。思いっきり目が♡、メロリン状態だ。

 そして道中に出会ったハイキングベアは、やたらとデカかった。見上げるような巨体である。急に見たウソップが咄嗟に死んだフリをしてしまったのも無理が無い。

 でもさ……あれだけデカければ、さぞ食いでがあるだろうな……ここのところ病人食ばっかで、腹減ってんだよ……。うん、俺ってば相変わらず思考回路がグダッてるな。ヤバい、目が回る……。

 

 

 

 

 そんなこんなで着きました、ビッグホーン。ここまで先導してくれたドルトンさんだけど、村中の人にすっごい慕われてます。いや、そんなもんじゃないか。

 

 「やあドルトン君、2日後の選挙が楽しみだな。みんな、君に投票すると言っとるよ」

 

 人のよさそうなオッサンが掛けていた言葉からすると、村中どころか国中で慕われてるんだろう。

 俺たちがひとまず連れて行かれたのは、ドルトンさんの家だった。

 

 「申し遅れたが、私はドルトン。この島の護衛をしている。我々の手荒な歓迎を許してくれ」

 

 申し訳なさそうにしてるけど、そんな必要は無いと思う。今回は俺は実際に見てはいないけど、海賊に対してはそれが普通の反応なんだ。ウィスキーピークとかの反応の方が明らかに怪しい。

 

 「1つ聞いていいかね? どうも私は、君をどこかで見たことがあるような気がするのだが……」

 

 ドルトンさんにそう尋ねられたビビは、ビクリと明らかに挙動不審な反応を示したけど、すぐにあからさまに話を逸らした。

 

 「き、気のせいです、きっと! それより、魔女について教えて下さい」

 

 魔女……魔女、か。

 

 「Dr.くれはの……こと、か?」

 

 ドルトンさんに貸してもらったベッドの中から口を挟むと、全員に驚いた顔をされた。特に驚いているのはドルトンさんだ。

 

 「そうだ。知っているのか?」

 

 「まぁ……『100歳を超えるけどピチピチなおばーさんで凄い名医』だって……風の噂……で聞いたことがあるんだ……。」

 

 正確には『風の噂で聞いた』じゃなくて『日記で読んだ』だけどね。後々ツッコんで聞かれると面倒だから、その辺は偽らせてもらおう。

 100歳を超えるのにピチピチってどういう意味だ、とウソップがどこかでツッコんでたような気もしたけど、もういい加減マジでキツイのでスルー。

 

 正直もう寝たい。でもまだだ、まだダメだ。このまま寝たらドラムロッキーを登ることになっちまう。それしか方法が無いなら腹を括るけど、そうする必要が無いならそんな危険な登山はしたくなしさせたくない。

 俺の言葉にドルトンさんは頷いた。

 

 「確かに、腕はいい……少々変わり者だが。あと……そうだな。梅干しが好きだ」

 

 ……今その情報いらない。マジで。それよりさっさと話を進めてくれ。

 

 「Dr.くれはは、この家の窓からも見えるあのドラムロッキーの頂上に住んでいる。気紛れに山を下りてきては患者を探し処置を施し、そして報酬にその家から欲しい物をありったけ持って行くんだ」

 

 何だか、話だけ聞くと凄い悪徳医師みたいだ。

 俺が内心で溜息を吐いていると、出された温かい茶を啜りながらウソップとルフィが憤慨していた。

 

 「そりゃタチの悪いババアだな」

 

 「まるでユアンみたいだな」

 

 ………………おーい、ルフィ? 

 お前、俺のことそんな風に思ってたのか!? いや、自分でも否定しきれない部分はあるけど! でも俺の略奪の動機は一味の活動資金を集めるため……というかむしろ、お前の食費を稼ぐためだぞ!?

 

 「でも、そんなお婆さんが、あの山からどうやって降りてくるの?」

 

 ビビ……折角習得したスルースキルを、こんな時に発動しなくたって……。

 質問の答えとしては、ドルトンさんによると、月夜の晩にソリに乗って駆け下りてくるのを数人が目撃したことがあるらしい。それが魔女と呼ばれる所以だって言ってるけど……それって魔女じゃなくてサンタクロースじゃね? 魔女なら箒か絨毯だろ?

 

 「次に山を降りてくるのを待つしかないな……」

 

 それがドルトンさんの結論だった。

 

 「前に……降りてきたのは、いつですか……?」

 

 ふと気になったので聞いてみた。

 

 「昨日だ。だから、恐らく次に降りてくるのは数日後になるだろう」

 

 昨日降りてきた……よし、それなら大丈夫だ。

 俺はその答えにホッとしたけど、他の面々はそうじゃなかったらしい。そんな、と誰かが呟いていた。

 

 「これは治療しなきゃ5日ぐらいで死ぬような病気で、もう発症して3日目なのよ!?」

 

 ナミがドルトンさんに詰め寄るけど、彼にはどうしようもないことだ。

 そんな中で1人、ルフィが俺の顔を覗き込んできた。

 

 「山、登らねェと医者に会えねェんだってよ」

 

 「聞いて……たっての」

 

 「うん。だからな、山、登るぞ」

 

 ……言うと思った。みんなはギョッとしてるけど。

 

 「無茶言うな、お前!」

 

 「悪化するに決まってるじゃない!」

 

 非難囂々だな。それでもルフィは、おぶって行くから、と譲らない。

 これは……早いとこ、ケリをつけよう。そして寝よう。

 

 「ルフィ……」

 

 俺が声を出すと、ピタリと喧騒が静まった。渦中の人物だからね。

 

 「頼む……って、言いたいところだけど、な。どうも……その必要、無いみたいだ……」

 

 「? どういう意味だ。」

 

 当然の疑問が投げ掛けられるけど……うん。俺、本当にこの能力のこと言っといて良かったな。

 

 「山の、上から……誰かが降りてくる……気配、した……。誰かって……Drくれはしか、いない……だろ?」

 

 実際には何も感じてないけど、そんなことはみんなには解らないもんな。

 でも、昨日降りてきたって言うなら今日も降りてるはず。俺は要領を得ていないらしいドルトンさんに視線を向けた。

 

 「この島の……地図って、ありますか?」

 

 「! あ、ああ」

 

 急に予想外の質問を向けられたせいだろうか、ドルトンさんは訝しげな顔をしている。けどすぐに机の引き出しから地図を取り出し、俺に渡してくれた。

 

 「感じた……距離と、方角……。多分それで、Drくれはがどこに降りたか……解ると思う」

 

 別に、本当に算出するわけじゃない。ただ知っている、その事実をそれっぽく話すための方便に過ぎない。俺は地図を広げ、少しの後にある1点を指し示した。

 

 「ココアウィード……多分、ここにDr.くれはは……いる。……もしも、勘違いだったら……その時は、登山……頼むよ、ルフィ」

 

 「おう! 任せろ!」

 

 ルフィはどん! と胸を張った……看護の時の『任せろ!』との安心感と頼り甲斐の差が半端ないな。

 

 「ん……じゃ、俺……ちょっと、寝る……」

 

 正直、もう本当に限界だ。でも、俺の眠りはまたもや阻止される。

 

 「おいユアン、寝るなよ! 雪国で寝たら死ぬんだぞ!」

 

 ルフィが厳しい声で注意してくるのが聞こえた……もう頼む……マジで寝かしてくれ。

 

 「間違っちゃいないけど……大げさだ……」

 

 ついつい苦笑が浮かんでくる。確かに寒いところで寝るのは危険だけど、それですぐ死ぬってわけでもなかったはずだ。

 

 「大げさなもんか! だから雪国のヤツは寝ねェんだぞ!」

 

 ……あれ? 何だかルフィの口ぶりが可笑しくないか? ってか、寝かさないためなんだろうけど、往復ビンタをするな!

 

 「ルフィに何を吹き込んだんだ、ウソップ」

 

 横で話を聞いていたらしいサンジもジト目でウソップを見ている。けれどウソップは慌てたようにブンブンと手を振った。

 

 「おれじゃねェよ! んなこと言ってねェ!」

 

 ありゃま、この嘘ップが犯人じゃなかったのか。ウソップに掛けられた濡れ衣は、ルフィの次なるセリフで完全に晴れることになった。

 

 「ウソップじゃねェぞ。昔、人から聞いたんだ。村の酒場でな」

 

 騙されてる! 騙されてるぞ、ルフィ! もしくは、与太話を吹き込まれてからかわれてるか遊ばれてるかだ!

 

 誰だ、そんな言ったヤツ! 俺の眠りの邪魔しやがって! 疫病神か!?

 え? 邪魔をしてるのはルフィなんじゃないかって? ………………あいつはただ素直すぎるだけなんだよ、うん。多分。きっと。

 村って……フーシャ村のことか? じゃあ俺はその話、知らなくて当然か。ルフィはダダンの家に来てから、フーシャ村には全然行ってないし……行くとしたら、中心街の方だったもんな。つまりはその話を聞いたのは俺やエース、サボと出会う前で………………あれ何だろう、嫌な予感がしてきた。

 

 俺たちと出会う前に? フーシャ村の酒場で? 変な話を吹き込まれた?

 

 ………………まさかね。きっと酔った村人の誰かが話したんだ。よしスルーしよう。間違っても確かめようとかしちゃいけない、もしも嫌な予感が当たったらどうするんだ。

 あれ、何かもう本当にダメだ。意識が薄れていく……。よし、もう寝ようそうしよう、これはいかん。

 

 でもルフィ……俺がこう言うのも何だけどさ。もっと……人を疑うということをしようぜ。

 

 これが、俺が気を失う寸前に考えたことだった。

 




 ユアンがダウン気味なので、地の文がダレダレになってます。

 看護が下手すぎるルフィと、それに振り回される病身のユアン。
 実はユアンは心が広いので、悪気が無ければそこまで怒りません。身長に関して揶揄されなければ、そうそう切れたりしません。
 しかも、無邪気な笑顔を拒否できないのでどんどん被害は積み重なっていく。

 尤も、相手がルフィの場合に限りかなり沸点が低い子なので、健康体だったら多少は咎めてたでしょうが。

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