麦わらの副船長   作:深山 雅

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第113話 アラバスタまでの数日間 後編

 ⑥薬は薬でも

 

 メリー号には、ウソップ工場というものが存在する。そこでは日夜ウソップによる武器開発が行われているのだ! ……って、格好つけて呼んでも実態はただの台座だし、武器もほぼウソップ専用なんだけどね。

 

 俺はある日、そんなウソップ工場を訪ねた。

 というのも、貝に入っていた医薬品以外の薬……睡眠薬やしびれ薬・毒薬などを1番有効活用できるのはウソップなんじゃないかと思ったからだ。

 

 「例えば、麻酔弾とかさ」

 

 実例を提示して渡してみたけど、ウソップは疑いの眼差しで俺を見てきた。

 

 「効くのかよ、そんなの。お前の母親の腕前ってどんなもんだったんだ?」

 

 

 クロッカスさんとドクトリーヌから直々に指導を受けたレベルです。特別ダメだしはされてなかったみたいだから、彼らから見ても及第点以上の腕前があったのは間違いないんじゃないかな。ついでに言うと、お前の父親の元仲間だよ……なんてことは言えず。

 

 「さぁ……俺も実際に見たことは無いからね」

 

 と、苦笑するしかない。でもここで、俺はあのレポートも取り出して見せた。

 

 「一応は調合法や効能について纏められてるし、見た限りでは特に不審な点は見られなかったんだけど」

 

 チョッパーにも確認済みだよ。自分でだって、図鑑とかを見ながらちょっと調べたし。

 ウソップはそれを受け取って、パラパラと流し読みをしている。けど見ているのは効能の辺りばかりで、調合についてはスルーしている。多分、専門家じゃないからパッと見じゃあ解らない、とでも思ってるんだろう。

 読み進めている内に、ウソップは次第に微妙な顔になっていった。

 

 「……お前の母ちゃん、随分とエグイ薬を作ってたんだな」

 

 「否定はしない」

 

 本当に、それは否定できない。結果的に出来てしまったってだけで狙って作ったわけじゃないんだろうけどさ。特にそれはレポートの前半に多い。

 抜粋して例を挙げてみよう。

 

 『自分実験:1晩、眠れなかった。 被験者Ⓑ:3日ぐらいハイになってた。 結論:失敗。抗鬱薬』

 

 『自分実験:特に変化無し。 被験者Ⓑ:1晩トイレから出て来なかった。 結論:失敗。下剤』

 

 『自分実験:特に変化無し。 被験者Ⓑ:幻覚を見た。 結論:失敗。幻覚剤』

 

 けど、これらはまだマシな例と言えるだろう。

 

 『自分実験:ぐっすり眠れた。 被験者Ⓑ:効能は解ってるのに何故か飲んでた。寝た。2日経っても起きないから医務室に運ぶ。 結論:失敗。睡眠薬』

 

 『自分実験:かなり気分が悪くなった。 被験者Ⓑ:危険だからやめた方がいいって言ったけど、飲んだ。倒れて動かなくなったから医務室に運ぶ。 結論:失敗。毒薬』

 

 『自分実験:手足がしびれた。 被験者Ⓑ:危険なのに飲んだ。全身痙攣。医務室に運ぶ。 結論:失敗。しびれ薬。』

 

 これは一部に過ぎないけど、取りあえず一言言いたい。

 

 哀れなり……被験者Ⓑ。

 

 まぁこの場合、自業自得っちゃあ自業自得なんだと思うけど。だって母さんはまずは自分で試してみて、危険を感じたら頼まなかったみたいだし。それをわざわざ志願するなんて。そんなに気を引きたかったのか?

 

 ちなみに、後の方の開発薬の被験者はⒷではなくⓈとなっていた……何も言うまい。

 結論が全て『失敗』なのは、背を伸ばすという効果が得られないからだろう。

 けどまぁ今は、母さんのそんなちょっとマッドな一面は置いといてだ。

 

 「何にせよ、効果は期待できると思う。使うかどうかはウソップの勝手だけど……いる?」

 

 あげても何ら問題は無いんだよね。レポートには調合法も書いてあるから、材料さえあればいくらでも作れるし。

 ウソップはちょっと考えてたけれど、暫くしてソレを手に取った。

 

 「とりあえず、実験してみらァ。使えるようなら応用させてもらうぜ」

 

 俺としても、何気なく思ったことでしかないから別にそれでいい。強制する気は無い。

 ……というより、本当に役に立つかどうかすら不明だしね。

 

 

 

 

 ⑨余暇

 

 チョッパーの加入によって、俺は暇になった。

 いや、実質的な労働時間は以前と大差無いんだけど、これによって漸く音楽家以外の代理職はすべて返上出来たと思うとね。精神的に楽になったんだ。

 

 「いい天気だな~」

 

 ドラムの影響下から出てからこっち、ここがグランドラインだってことなんて忘れてしまいそうなぐらいのどかな日が続いている。

 

 筋トレも一段落させた俺は甲板で座り込み、膝に大福を乗せて茶を啜りながらまったりしていた。気分は縁側で日向ぼっこをするご老人だ。

 

 みかん畑ではナミがみかんの手入れをしている。あの畑を外敵(←主にルフィ)から守ってるのはサンジだけど、実際に育ててるのはナミだし。サンジをパシリに使ってるけど。

 勿論、時々は収獲してる。でないと折角育てたみかんも腐るだけだからね。でもそれは殆どナミ自身とビビによって消費されるので俺たちにはあまり回ってこない。たま~に、ナミの機嫌がとてもいい時にお相伴に与れる程度だ。畑に最も貢献しているサンジですら、それは変わらない。

 ちなみに味はとても美味である。ルフィが断続的に狙うのも無理ない。

 

 さて、何が言いたいかと言うとだ。

 

 みかん食べたいよねって話なんだよ、うん。

 

 ぽかぽか陽気、湯気の立つお茶、膝上には丸くなった猫(本当は虎)。場所が縁側じゃないのが残念だけど、船に縁側なんて無いからそれはしょうがないと諦めよう。で、出来る範囲ではこれで完璧だと思ってたけど、いざとなるとお茶請けが欲しくなってくる。

 そのためには……ナミの機嫌を取らなきゃならない。

 でもどうしたらいいんだろう?

 流石にこんな真昼間っから酒を注ぐのもアレだし。金は、ドラムでエースの食費を払ったことで無くなっちゃったし……難題だ。

 

 どうすっかな~と少し眉根を寄せながら空を見上げると、上空に1羽の鳥が飛んでいるのが見えた。ニュース・クー……じゃ、ないね。種類までは解らないけど、そこまで大きくない。

 別に、ただ鳥が飛んでいるのが見えただけならそこまで気にしない。気になったのは、その鳥がメリー号の上を旋回していたからだ。明らかに怪しい。

 

 でもすぐに理解した。

 

 あ、あの鳥みかんを狙ってるんだ。

 今までにもそんなことはあった。みかんを狙う外敵は主にルフィだけど、ルフィだけじゃない。ああいう手合いもいる。そういうのもサンジが追っ払ってきたけど。

 夜? 夜行性の鳥なんて海のど真ん中にはそうそう来ないから特に問題無い。

 さて、あの鳥に対して……。

 

 「気付いてないな」

 

 ナミもサンジも気付いてない。あいつらが現場にいるからか鳥も襲撃してこないから仕方が無いけど。でもこれは、2人が行っちゃえば来そうだな……まぁ、サンジが何とかするだろうけど。

 そんなことをつらつらと考えていると、一通りの作業を終えたのかナミが手を叩いて泥を落としていた。ここからじゃ聞こえないけど、サンジに何かしら声をかけているらしい。

 すると、サンジはメロリン状態になりながら船内に戻っていった……ありゃまあ。

 それとほぼ時を同じくして木から離れるナミ。

 うん、すぐに鳥が急降下して来たよ! そんでもって、みかんを1つ銜えてまた飛び立った!

 

 「あ、ちょっと!」

 

 距離があるせいでさっきのサンジとの会話は聞こえなかったけど、今回は驚いたのもあってそれなりに大きな声が出たんだろう。俺の耳まで届いてきた。

 これは……アレか?

 点数稼ぎのチャンスか!?

 

 「大福、ちょっとどいてくれ! 剃刀!」

 

 ポンッと大福を床に放って、俺は空に駆け上がった。あ、大福はちゃんと着地してくれてるよ。流石はネコ科動物。

 

 「クエッ!?」

 

 「返せ」

 

 鳥はあっさりと捕まえることが出来て、みかんも取り返せた……この鳥、焼き鳥にして食っちまうか? いや、今のところ別に食料には困ってないし、どうでもいいか。

 取り返したみかんを見てみると、運良く傷はついていなかった。これなら洗えば何の問題も無いだろう。

 内心でほくそ笑み、1個ぐらい貰えるかな~と思いつつ船に戻ると……何故かサンジに絡まれた。

 

 「テメェ、それはおれの役目だぞ!?」

 

 いや、そう言われても。

 

 「だって、いなかったじゃんか」

 

 「おれはナミさんに頼まれて水を取りに行ってたんだ!」

 

 見るとサンジは、手に水の入ったコップを持っていた。なるほど、パシリか。

 

 「結局、いなかったのには変わらないっての」

 

 肩を竦めながら、それに、と続ける。

 

 「放っといたらサンジ、あの鳥追いかけられなかっただろ? 飛んでる鳥を捕まえられるのなんて俺の月歩か剃刀、そうでなければルフィのゴムぐらいだし」

 

 この俺の発言に、意外なところから援護射撃が来た。

 

 「それもそうよね」

 

 「ナミさん!?」

 

 ナミのあっさりとした肯定に対してあからさまのガーン状態になるサンジは、まぁ、放っておいてだ。

 

 「ナミ、このみかん貰ってもいい?」

 

 今のうちにと強請ってみました。

 

 「ハァ……いいわよ。ただし、大事に食べてよね!」

 

 よっしゃ! みかんゲット! でも……。

 

 「空が……鳥が……ナミさんが……」

 

 サンジがウザい! ってか、すんごい恨みがましい顔で睨んできてる!?

 

 「あー……何なら教えてあげよっか? 月歩」

 

 ウザいけれど同時に何となく哀れでもあって、俺はそう提案してみた。

 実際サンジの脚力なら、剃と月歩と嵐脚は割とすぐに覚えられると思うんだけどな。それは本心で、親切心のつもりだったんだけど。

 

 「誰がテメェになんざ教わるか! このクソ赤毛ェ!!」

 

 全力で拒否されてしまった。何だろう、背後に業火が見える気がする。

 やれやれ、とみかんの皮を剥きながら溜息をこぼしていると、ナミが不思議そうな顔で見てきた。

 

 「今回は怒らないのね」

 

 はい? 何が?

 俺のきょとん顔を察したのか、ナミは続けた。

 

 「前にジョニーに言われた時、ちょっとムッとしてたから……赤い髪、嫌いなのかと思ってたわよ」

 

 ジョニーに言われた時? …………あぁ、あの時か。

 思い出して、俺は苦笑した。

 

 「別に髪色にコンプレックスなんて持ってないよ」

 

 いや、母さんやエースやルフィとかと同じ黒髪だったら、それはそれで嬉しかったんだろうけど。

 でも某空想少女じゃあるまいし、赤でも問題は無い。別の意味で問題はあるけど。

 人に言われるにしても、『赤毛』なら何とも思わないんだよね。『赤髪』だと嫌なだけで……という本心は言えない。何で『赤毛』は良くて『赤髪』はダメなのか、なんて聞かれたら困るから。

 

 「ま、気分だよ。気分」

 

 俺は皮を剥ききったみかんを1房ずつ口に運びながら、ヒラヒラと手を振ってさっきの場所に戻った。

 再び甲板に座り込むと、大福が待っていたと言わんばかりに膝に飛び乗って丸くなる。

 みかんも美味いし、今日は平和だねぇ。

 

 

 

 

 余談かもしれないが、1つ追記しておこう。

 この日から、サンジが夜中コッソリと月歩の練習をするようになったことを、俺は知っている。

 知っているけど、でも……隠そうとしてるみたいだし、出来るようになるまでは黙ってあげてた方がいいんだろう。どうせあの調子じゃ、俺の助言なんて聞かなさそうだしね。

 まぁでも、その内モノにするんじゃないかな?

 

 

 

 

 ⑧敵を知り己を知れば百戦危うからず

 

 孫子は偉大である。なので、実行しようと思う。

 

 

 

 

 

 「バロックワークスって会社のシステムは、一体どうなってんだ?」

 

 もうじきアラバスタに着くかな~という頃合いになって、ウソップが今更な疑問を口にしていた。これまでの流れでもそこそこ解るだろうに。

 そしてそれに対して、ビビが簡単な説明をする。

 

 「システムは簡単よ」

 

 実際、システムそのものは簡単な構造だった。

 Mr.0であるクロコダイルを筆頭に、12人と1匹のエージェント。エージェントたちは、実力の見合った女性のエージェントと組む。ただし、Mr.13とミス・フライデーのペアはちょっとした例外。

 本当に重要な任務を任されるのがMr5以上のオフィサーエージェント。部下を率いて資金集めをするのがそれ以下のフロンティアエージェント。

 それにオフィサーエージェントの部下であるビリオンズが約200人、フロンティアエージェントの部下であるミリオンズが約1800人。

 最終的には、構成員およそ2000人の大所帯だ。

 

 うん、クロコダイルって絶対に才能の使いどころ間違えてるな! それだけの組織力や統率力、政府から隠すだけの周到さがあれば、国盗りなんて危ない橋を渡らなくても色々とやりようがあっただろ!? ……って、ダメか。そうしなきゃプルトンを手に入れられないもんなぁ……面倒くさっ!

 

 「そーか! じゃあ、クロコダイルをよ! ぶっ飛ばしたらいいんだろ!?」

 

 おぉ、ルフィが張り切ってる。そして何気に核心を突いてる。

 

 「でも、クロコダイルだけじゃないな。アラバスタ乗っ取りはバロックワークスの最終目的なわけだから、それが近いとなればそのオフィサーエージェントの残りも……」

 

 「ええ」

 

 話を振ると、ビビは強張った顔で頷いた。

 

 「集結するはず」

 

 だよねー。

 

 

 

 

 さて、それだけで話を終わらせちゃいけないな。

 原作知識として知っているけど、知っているということを不審に思われないためには、事前に聞き出しておいたという『事実』が必要だ……って内心もあることだし。

 なので、甲板での全員への説明が終わってから、ビビを捕まえて話を聞いてみることにした。

 

 「取り敢えず、残りのエージェントについて知ってることを教えてくれないか?」

 

 俺の質問にきょとんとした顔をするビビ。俺、そんなに変なことは言ってないはずなのにな。

 

 「Mr.0が七武海のクロコダイル、そのペアのミス・オールサンデーが『悪魔の子』ニコ・ロビンっていう大物なんだ。特徴だけでも解れば、そいつらも案外見当が付くかもしれない」

 

 さて。

 

 「オフィサーエージェントはMr.5以上って言ってたけど、Mr.5ペアとMr.3ペアはもう事実上落ちてるよな? となると、後はクロコダイルたちも含めて8人か?」

 

 「いいえ、7人よ」

 

 ビビはふるふると首を振った。

 

 「Mr.2は、ペアを持たない単独のエージェントなの。会ったことはないけど、オカマだかららしいわ」

 

 ……あぁ、うん。

 

 「オカマ……ね」

 

 何と言っていいやら。

 ま、いっか。少なくとも10年前に見たイワンコフよりは刺激少ないだろうし……アレは強烈だった。

 

 「ええ。Mr.2は大柄なオカマでオカマ口調、白鳥のコートを愛用していて背中には『オカマ道ウェイ』と書かれてるんですって」

 

 ………………いや、ちゃんと解ってるくせに何で気付かないんだよ。原作ビビ。

 やめよう、考えるのは。どうせ答えなんて出ないだろうし。それよりも情報だよ、情報。

 

 

 

 

 その後の話でMr.4ペアについてはそれなりに情報を仕入れられた。けど、会ったことが無いというMr.2とMr.1ぺアに関してはあんまりだ。

 

 まぁそうは言っても、推測を立てる分には問題無いと思えるだけの情報は入ったけどね。

 他はともかく、Mr.1……ダズ・ボーネスに関しては事前に注意しておきたい。能力からして戦うのはまず間違いなくゾロになるだろうけど、あそこまで大怪我されるのはね……流石に嫌だよ。

 嫌といえば反乱もだ。反乱を止めてもクロコダイルを止めなければ次なる反乱の種が撒かれる。それはその通りだけど、今起こっている反乱も止めなければ結局戦争になるんだ。

 何か考えないといけないかなぁ。クロコダイルを止めつつ反乱も止める方法……いや、この際クロコダイルは置いといてもいいか。

 

 ルフィがクロコダイルをぶっ飛ばして止めようとしている。ならば俺は、反乱を何とか出来ないか考えるまでだ。

 

 ユバを出た後、2手に分かれるか? ビビに護衛を付けてカトレアまで行ってもらって、反乱軍を説得してもらうとか……いや、時間的に間に合うかどうか解らない。カトレアに着くまでにユートピア作戦が発動されてしまえば、無駄に戦力を分散させてしまうだけだ。

 

 ビビの説得以外に反乱軍を止める方法は何だ? 要するに大事なのは、雨を奪ったのがコブラ王ではなくクロコダイルであると理解してもらうことなんだよな。それさえ解ってもらえば、少なくとも『反乱』をする意味など無くなる。

 ………………出来ないこともない、と思う。ある程度までは原作通りに進んでもらわなきゃならないからかなりの博打ではあるし、準備も必要だけど……不可能じゃない。多分。方法はある。

 けどなぁ……いくらなんでも、不確定要素が多すぎる。そもそも『アレ』を貸してもらえなければ話にもならないし……う~ん……。

 

 あ、それならああすればいいんじゃね?

 

 「ユアン君!」

 

 「っ!」

 

 ヤバッ、ビビの話聞いてなかった。

 

 「どうしたの、急に考え込んだりして」

 

 「……ゴメン、ちょっとね。悪い癖なんだ」

 

 考え事に没頭すると、周囲を忘れてしまうんだよな……参った。

 これに関しては、また後で考えよう。

 

 「……まさか、病気がぶり返したなんてことは無いわよね?」

 

 本気で案じているらしく、ビビの声音は不安そうだった。気持ちは解る。俺ってばほんの数日前まで死線を彷徨ってたんだもんな。

 

 「大丈夫、大丈夫」

 

 俺は手を振って、ヘラッと笑った。

 

 「病気なんてもう何ともないよ。ナミだってそうだろ? 気にしすぎだって」

 

 そう、実際にはもう既にナミも俺も完治している。チョッパーのお墨付きだ。ビビは明らかにホッとしていた。

 

 「そう? ならいいけど……無理しないでね、まだ小さ……幼いんだから」

 

 ………………おーい、お前今『小さい』って言い掛けなかったか?

 でも可笑しいな、この話の流れだと『小さい』ってのは身長のことよりもむしろ……。

 

 「ビビさ……俺のこと、何歳だと思ってる?」

 

 今になって引っ掛かってくる。ビビは俺だけを何故か君付けで呼んできた。最近はチョッパーもだけど、何だか嫌な予感がする。

 

 「? 13~14歳ぐらいじゃないの?」

 

 ビンゴだ! やっぱり小さく見られてた!

 

 「俺……16歳なんだけど……」

 

 「えっ!? 同い年!?」

 

 うおぉい!? 何でそこまで驚く!? ってか、本当に13~14歳だったらここまでこの身長を気にしてねェよ!?

 

 「………………」

 

 「あ、あのね、ユアン君? 私、その……悪気があったわけじゃ……」

 

 ふ……解ってる、解ってるよ。

 どーせ俺がちっこいのが悪いんだ。でも拗ねる。拗ねてやる。

 

 

 

 

 怒る気にはならなかったけど、どうにも物悲しくて……俺はこの日、ちょっとネガティブになりながら過ごしたのだった。

 

 


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