麦わらの副船長   作:深山 雅

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第115話 変わった過去、変わらぬ現在

 メシ屋に近付くごとに、気持ちは弾んだ。

 

 何か重大な事を見落としているような気がするけど具体的に思い出せないのでスルーして、漸く辿り着いたメシ屋の扉を、壊さない程度の手加減は忘れずに勢いよく開け放つ。

 店内に響いた音に、そこにいた客たちがほぼ一斉にその元……俺を見る。当然、扉のド真ん前のカウンター席にいた人間もだ。

 俺とそいつの目がしっかりと合い。

 

 「……………………………………………………」

 

 パタン、と俺は無言で扉を閉めた。

 うん落ち着け冷静になれ? 俺は今何を見た?

 

 ヤベェ変態だ、変態がいる! ……いや落ち着けって、アレはエースだ。顔を思い出せ、エースだっただろう!? 思い出すな、顔の下は思い出すな! あぁでも、忘れようとすればするほど記憶が鮮明になっていく!

 何だこれ、生半裸の威力パネェ! 再会に浮かれてる場合じゃ無かっただろ、半裸の衝撃に備えとくべきだった! てか、何で半裸!? 今更だけど何で!? 半裸は変態で変態は半裸で……って、意味解んねぇよ! つーかどうして俺がこんなに半裸半裸と連呼しなきゃなんねぇんだってまた半裸って言っちまった!

 

 うん、いい具合に混乱してるな! 自分で自分の思考がコントロール出来てない!

 深い苦悩に頭を抱えて久々にorz状態になっていると、ついさっき俺自身が店内の光景を遮断する意味合いも混めてキッチリと閉めた扉がキィと開かれた。

 

 「やっぱりな! お前、ユアンだろ!?」

 

 「………………」

 

 うわー、間違いなくエースの声だー、久しぶりだなー………………顔を上げられない。

 

 「? おい、どうした? 何でそんなに打ちひしがれてんだ?」

 

 お前が変態化しちゃったからだよ! 

 うぅ、それでもこれじゃあまともに会話も出来ない。よし、意を決して直視しよう、現実を!

 

 「………………」

 

 無理でした。

 思い切って顔を上げたら、すぐ目の前に半裸の変態が……思わず視線を逸らしてしまった。

 けどその前に一瞬、腕の刺青が見えた。『ACE』になってた。やっぱサボのマークは入れてないんだな。いや、それはそれでいいんだけど……。

 ダメだ。あんまりしっかり見たら多分俺、蹴りかかる。まぁ自然系には効かないだろうけど、そんな再会は嫌だ。

 

 「おいどうしたんだよ! おれの顔、忘れちまったのか!?」

 

 そんなわけがない、わけないけど……。

 

 「ゴメン、変態の兄を持った覚えは無い」

 

 自分でも驚くほど冷たい響きを持って発せられたその言葉に、エースはまるで雷に打たれたかのごとくショックを受けたらしい。直接見てはいないけど、大きく息を飲む音が聞こえた。

 

 「へっ……! おいコラ、誰が変態だ!!」

 

 自覚が無いのか!?

 

 「半裸の男を変態と言わずして、他に何て言うんだよ!」

 

 あれ、何だろう? 目から汗が……。

 けどさぁ言ってみろ。反論があるなら言ってみろ! 他の言い様なんて精々『露出狂』だ!

 

 「…………………………これでいいか?」

 

 何だかもの凄く疲れたような声音に、恐る恐る視線をエースに戻してみると……。

 

 「あ、エース。久しぶり」

 

 エースが半裸じゃなくなってた。

 

 「あァ……まァ、久しぶり」

 

 さっきの『間』でエースは、以前出航前に俺がプレゼントしたジャケットに袖を通したらしい。

 

 

 

 

 どうやら相当目立ってしまったらしくて、俺が店に入ってから少しの間は注目を集めてしまったけど、食事を勧めているとやがて周囲も各々の食卓に集中していく。その方がありがたい。聞き耳立てられたくはないし。

 

 「よく一目で解ったよね。俺、髪染めてるのに」

 

 そう、俺は現在黒髪である。なのにエースはすぐに気付いてくれた。

 ちょっとばかり感動していたけど、エースは微妙な顔で首を捻った。

 

 「普通解るだろ? 顔は変わって無ェしな」

 

 「………………」

 

 ルフィは気付いてくれなかったんだよ! やっぱりエースは凄ェ! 変態だったけど!

 自分であれだけ拒否っといて何だけど、エースの背中の刺青は『誇り』を背負ってるって意味なのに随分とあっさり服を着たな、と内心で感心していたら。

 

 「……凝ってるね」

 

 以前は無地だったジャケットの背中には現在、『白ひげ』のマークが刺繍されていた……いやいや、誰がしたんだこの精巧な刺繍を!

 

 「おう! これはおれの『誇り』だからな!」

 

 食事を再開したエースの機嫌は上々である。笑顔が眩しい。

 あ、俺もその隣に座ってメシにありついてたりする。

 ちなみに話を聞くとこのジャケット、普段は腰に巻いて袖を結んで留めてるらしい。手配書の写真では上半身しか映ってなかったから気付かなかったけど。

 

 「けどお前なァ、あそこまで嫌がるこたぁねェだろ?」

 

 凄い勢いで皿の上の食料を消費しながら、エースは呆れるように言った。多分、俺が変態だ何だって言ったからだろう。

 対する俺も、エースに負けず劣らずの勢いで食事を進めながら口を開く。

 あ、念のために言っとくけど、エースも俺も口を開くのはその中に何も入ってない時だからな? ルフィと違って。

 

 「ゴメン。最近気づいたんだけど俺、どうも変態を見ると拒否反応が出るらしくて……倫理の問題?」

 

 いや、海賊が倫理だなんだってのも可笑しな話かもだけどね。

 苦笑していると、エースの様子が可笑しくなっていた。

 

 「お前が………………倫理?」

 

 おいこら、何だその驚愕の表情は。まるで、『お前に倫理なんてあったのか?』とでも言わんばかりの顔じゃん……失敬な。俺は至って常識的な感性を持ってるつもりだぞ。良識的かどうかはともかくとして。

 

 「……それはともかく。俺、エースに聞きたいことがあったんだ」

 

 若干面白くなかったので、話題を変えてみる。

 

 「どうして俺を探すのに、あの手配書を使ったんだ?」

 

 いくら俺自身の手配書が似てない似顔絵だからって、何だってあんなもんを使うんだ。悪気も悪意も無いだろうとは信じてるけど、意味が解らない。

 その辺りは皆まで言わずとも、察してもらえるだろう。事実察してくれたらしく、エースはあァと頷いた。

 

 「いや、だって似てたし」

 

 ………………………………うん?

 

 「それだけ?」

 

 「便利だったからな」

 

 ……本当に悪気も悪意も皆無だった! だからこそ尚更性質が悪いけどな!

 俺は僅かに頭痛を感じ、米神を擦った。

 

 「あのな、エース……想像してみてくれ。もしも俺が、お前と同じことをしたらどう思うかって」

 

 「同じだと?」

 

 「だからさ、俺がお前を探すのに昔の手配書を引っ張り出して『この手配書の男と似た男を探してるんだけど~』とか言って回ったらお前、どう思う?」

 

 ピタッと、ものの見事にエースが固まった。そりゃあもう、時間が止まったかのように。

 まぁ、現実的にはそんな方法は無理だろうけど。エースとロジャーじゃ外見上、一目でそれと解るほどは似てないし。

 でも俺の例え話の効果は絶大だったらしい。エースは張り詰めたような顔になっていた。

 

 「……すまん。悪かった」

 

 「うん。」

 

 まぁ、謝ってくれたならいいや。

 他は……食費に関してはもう過ぎたことだし。服も着てくれたし。もう無かったよな……。

 

 「他に何か変な事してないよね?」

 

 でも一応本人に確認は取ってみよう。

 

 「あァ、何……も……」

 

 ……あれ? エースってば何で思いっきり視線を逸らしてるんだろう? おまけにその逸らした視線が泳いでるし。心なしか顔色も悪くなってるような……額に浮かんでる汗の種類は何だろう。冷や汗? 脂汗? どっちにしろ碌なモンじゃない。

 

 「エース?」

 

 ギクゥッと。声をかけると、そりゃもう挙動不審な反応を返してくれた。そしてその様子に、俺は直感した。

 あ、これはまだ他にも何かやらかしてるな。

 

 「いや、その……何だ。そ、そういやルフィのヤツはどうしたんだ!?」

 

 無理やり話題を変えた! 絶対怪しい!

 けど……。

 

 「……その内来るんじゃないか? 『メシ屋ーッ!』って叫んで飛び出してったから」

 

 深くは詮索しないでおこう。何だか嫌な予感がするから。パンドラの箱は開けないに越したことはない。

 

 「はは、アイツらしいな」

 

 エース……そんなあからさまにホッとして……本当に、何をやらかしたんだ? そして、何にそんなに怯えてるんだか。

 

 「……ルフィを誘うのか? 白ひげ海賊団に」

 

 「ま、一応な。そんでルフィが受けたら、お前も来ることになるな」

 

 やっぱりか。でも。

 

 「受けないだろ、あいつは」

 

 俺も白ひげ海賊団に興味が無いとは言わない。何せ生ける伝説だ。けどそれとこれとは話が別だし、ルフィだってそんなタイプじゃない。

 エースもそれは解ってたようで、特に気を悪くすることもなく笑う。

 

 「だろうなァ。ま、一応だ。けど『白ひげ』はおれが知る中で最高の海賊さ。おれはあの男を海賊王にしてやりてェ」

 

 う~ん、あのエースにここまで言わせるとは。

 俺は最近よくブラコンって言われるし自覚もしてる。でもエースは……。

 

 「エースって、ファザコンだったんだな」

 

 感心して呟くと、それを聞きとがめたエースがブハッと吹き出した。

 

 「ゲホッ!? な、何だいきなり!?」

 

 突拍子もないことを言った気はするけど、ここまで動揺するとは。

 

 「白ひげ海賊団のクルーは『白ひげ』にとって我が子同然で、クルーたちも『白ひげ』を『親父』と慕っているって聞いたんだけど……違った?」

 

 「いや違わねェが……どこで聞いたんだ、ンなこと」

 

 そりゃ、情報源は色々とあるさ……あれ? そうなると白ひげ海賊団は全員ファザコンか?

 

 「ゴメン、変なこと言った」

 

 ジロリと睨んでくるので謝ると、盛大な溜息を吐かれた。何故だ?

 

 「ま、今はおれもそうそう戻れねェけどな」

 

 しみじみと嘆息するエース。軽い感じに聞こえるけど、実際にはそんなに軽い話じゃないだろう。俺はちょっと気を引き締めた。

 

 「何かあったのか? ……ってか、間違いなくあったよな? 天下の白ひげ海賊団2番隊隊長殿が、こんなグランドライン序盤の海にいるんだから」

 

 予想はつくけれど、白ひげ海賊団内部の揉め事まで俺が知ってるのは流石に可笑しいだろう。なので聞いてみる。するとエースは、一気に真顔になった。

 

 「おれは今、重罪人を追ってる……最近『黒ひげ』と名乗ってるらしいが、元々は白ひげ海賊団2番隊隊員。おれの部下だ」

 

 やっぱりか。エースはティーチを追って……。

 

 「……それは、どうしても追わなきゃいけないのか? 見過ごすわけには」

 

 「いかねェな」

 

 俺の発言は言い終わる前に遮られてしまった。

 引いてはもらえないか……ぶっちゃけ、そうしてもらった方が楽なんだけどな。

 

 原作において、ティーチはエースを手土産に七武海入りした。けどここでエースが引き返してくれれば、その時点で頂上戦争は回避できるのに。

 そうしたらそうしたでティーチはルフィに狙いを付けるかもしれないけど、何と言っても海は広い。遭遇しないようにルフィ……一味を誘導する方が、頂上戦争の結果を変えるよりも簡単だろう。それでシャボンディ諸島にでも辿り着けられれば後はどうとでもなる。ルフィに拘らなくたって億越えに出会えるんだから。

 この場合俺としては、ティーチが捕まえるのがエースかルフィでなければ、後はどうでもいいんだ。世界がどうこうなんて知ったことか。

 

 けど、エースに引く気が無いならそんな考えは意味が無い。

 そして既にエースの腹が決まってしまっている以上、それを曲げるのは難しい。いや、むしろ無理だ。そうなればエースがティーチに勝たない限り、頂上戦争ルートだろう。

 ハァ……腹括ったとはいえ、頂上戦争……やっぱり気が重い……。

 

 「ヤツは海賊船で最悪の罪、仲間殺しをしようとして逃げた……隊長のおれが始末を付けなきゃならねェってわけだ」

 

 そうか、そして頂上戦争に行き着く未来が………………あれ?

 考え事しててちょっと聞き流し気味だったけど……さっきのエースの発言、ちょっと変じゃなかったか? 

 

 「エース……仲間殺しを『しようとした』のか? 仲間殺しを『した』んじゃなくて?」

 

 ほんの数文字。けれどそのニュアンスは大違いだぞ?

 

 「? あァ、そうだ……どうした?」

 

 いやいやいや、どうしたって……こっちのセリフだよ。

 え、何? つまりサッチ、死んでないの? 何で? いや、別にどうしても死んで欲しいわけじゃないけど。それともまさか、その『仲間殺し』の対象がサッチじゃなかったとか? どうなってるんだ?

 

 「いや……詳しい事情を聞いてもいいか?」

 

 俺は白ひげ海賊団のクルーでもなければ、これから入る予定も無い。なので本来なら余計な詮索だろうけど、この際兄弟の縁に甘えて聞き出してしまおう。一体何があったのか。

 エースはちょっと考えたみたいだけど、割とすぐに頷いてくれた。

 

 「『黒ひげ』……ティーチってんだけどな。そいつは元々白ひげ海賊団では古株だったんだが……ある日、4番隊隊長のサッチってヤツが手に入れた悪魔の実を狙ったらしくてな……奪って逃げたんだ」

 

 「………………」

 

 あ、やっぱりサッチだったんだ……って、そんなのどうでもいいよ。それよりエースの持ってる情報が随分と多いな、おい!

 

 「……逆によく助かったな、そいつ。ティーチってのだって、そんな事を起こすからにはタイミングを見計らってただろうに。」

 

 現に原作では死んでる。

 

 俺は別に、原作を絶対だとは思ってない。むしろ絶対だったら困る。目的は頂上戦争改変なのだから。

 今となってはもう昔のことだけれど、ジジイ(←神のことね)は俺が転生する世界を『ONE PIECEの世界』だと言った。それは間違っていない。

 けれど俺は、何も無い所から降って湧いたわけじゃなければ木の又から生まれたわけでもない。血縁は何人もいる。ちゃんと親もあれば、従兄弟も祖父も伯父もいるんだ。それも、原作とは明らかにズレて。

 であればここは『ONE PIECEの世界』ではあっても、『ONE PIECEそのものの世界』ではなく、あくまでも『ONE PIECEをベースとした世界』なのだろうと、そう解釈している。

 

 ベースとしているから、過去にしろ現在にしろ大まかな流れは原作と同じであり、それがそのまま続けば未来も同じように紡がれていくだろう。でも、変えることは不可能じゃない。現にこれまでも、原作と変わったことはいくつもある。例え世界への影響は皆無であっても。

 だがそうであっても、原作が1つの大きな指針であることは間違いない。だからこそ原作知識も生かせるのだ。今はまだ、それが大きく崩れてもらっては困る。いざという時に折るべきフラグを見失っちゃたまらない。

 

 何度も言うけど、別にサッチにどうしても死んで欲しいわけじゃない。けど、その相違がどこから生まれたのか……せめてそれは把握しておきたい。事が白ひげ海賊団内部に関するだけに、下手したら頂上戦争にも繋がりかねない。

 俺のそんな内心なんて知るはずも無く、エースは皿の上の肉を口に放り込んで話を続けた。

 

 「あァ、まァ……気を付けてたからな」

 

 ………………はい?

 え~と、つまり……何だ?

 

 「それって……エースが警戒してて未然に防いだってことか?」

 

 確認してみると、エースはサラッと頷いた。なるほど納得……いやいやいや、ちょっと待て。ティーチの何がエースに警戒心を抱かせたんだ?

 

 「『白ひげのトコのでっぷりとして脂ぎった変な笑い方する最低最悪なヒゲ野郎』」

 

 「?」

 

 俺の不思議そうな表情に気付いたのか、エースはポツリと呟いた。それは確か、母さんの日記に有った記述のはずだ。

 あぁ、そういえばエースもアレは読んでたっけ。俺ほどじゃないけど。

 俺にはその1文が何所から来ているのか解ったというのを察したのか、エースはそのまま続けた。

 

 「ちょっと気になってたんだ。ああまで書かれてたのは、ソイツの他はジジイぐらいだっただろ?」

 

 エースの言うジジイってのは祖父ちゃんのことだ。当たり前だけど、決して神ジジイのことではない。そして確かにその通りだったので俺は頷く。

 

 「何だってそこまで嫌われたんだろうってな……それで、白ひげ海賊団に入ってからしばらく経って、そういうヤツを探してみたんだ。古株で、でっぷりとして、変な笑い方で、ヒゲなヤツ。」

 

 「で、その条件に当て嵌まったのがそのティーチだったと?」

 

 「そうだ」

 

 ………………まぁ、特徴的だしね。

 

 「あそこまで嫌われるなんて、何があったんだろうかって気になったんだ」

 

 それは俺も思った。思ったけど、でも……。

 

 「俺も印象には残ってたけど……そこまで気にはしてなかったな。母さんがソイツを嫌ってても、可笑しくないって……どうも、3本傷の原因らしいから」

 

 3本傷ときて、連想されるのは1人だろう。エースもそれに行き着いたらしく、目を丸くしていた。

 

 「本当か?」

 

 俺はコクリと頷いた。

 

 「らしいよ。名前は知らなかったけど……多分、同一人物」

 

 これは実際には日記では無く原作知識だから、ちょっとぼかした発言にしてみた。でもそう思えばこそ、俺はあの記述をそこまで深くは考えなかった。

 だが、とエースはそれを否定した。

 

 「確かにそりゃあ面白くはなかっただろうが、海賊同士のいざこざだろ? 命が無くなったわけでも無けりゃ、後遺症も無さそうだ……そんなのを一々気にしてたら、キリが無いぜ?」

 

 ………………うん、言われてみればそうかも。

 ってことは……ティーチには他にも『何か』があるのか? あれ、俄然気になってきた。

 

 「しかもだ。ただ嫌ってるだけならともかく、物騒なことも書いてあっただろ?」

 

 確かに。『あのまま大人しく白ひげの一味にいるとは思えない。きっといつか何か騒動を起こす。そんな気がする。』……だったっけ? そりゃあ気になるよな、白ひげ海賊団に入った身としては。

 

 「それに、おれが2番隊の隊長にならねェかって話が出た時……アイツとこんな話をしたんだ」

 

 

 『お前は随分古株だろ、ティーチ』

 『ゼハハハ、いいんだ気にするな。おれァそういう野心がねェのさ!』

 

 

 

 「でも、確か『野心家』って評されてたよな?」

 

 うん……『すっごい強欲な野心家』ってあった。

 うわ~、発言と矛盾しまくってる。いや、あくまでも『そういう』野心という話であって、更なる野心は別にあったって意味かもしれないが。

 けどさ……。

 

 「でもそれは、母さんの感想を踏まえて見た結果だろ? 今となっては意味無いかもしれないけど、当時は仲間だったんだよな? その頃のティーチはどうだったんだ?」

 

 そう。ふたを開けてみればその通りだったとはいえ、事前の根拠としては弱い。

 エースと母さんは、面識はあるとはいえ1回きりのことだと聞いている。無条件に信用するには縁が薄いんじゃなかろうか。

 

 「……何も怪しい所なんざ無かった。だからおれも心の底から疑ってたわけじゃなかったし、誰にも言えなかったんだ」

 

 エースは顔を顰めた。

 

 「けど、だからって忘れることも出来なかった。どうもあの人は、ルフィに似た感じがしてたからな……野生の勘は侮れねェ」

 

 「………………」

 

 野生の勘……何だろう、納得してしまった。

 

 「それで気になってたんだ……そしたら、あんなことになってよ。」

 

 この説明では詳しいことまでは解らないけど、多分ティーチの動向を気にしてたエースが気付いて、割って入るか何かしたんだろう。

 そしたらエースは勿論、4番隊の隊長だというサッチも弱いわけがない。ティーチとしてはまだヤミヤミの実も食べてなかっただろうし、2対1じゃあ分が悪い。時間を掛けてしまえば他のクルーも騒ぎを聞き付けたはずで、下手をすればそれこそ『白ひげ』本人が出張って来る可能性もあったかもしれない。だからさっさと実だけ奪って逃げるなり何なりしたのかな。

 

 けど……そういうことか。

 

 原作との相違と言うなら、それは俺だけじゃない。母さんだって十分イレギュラーだ。ズレが生じても可笑しくなんてない。

 俺は色んな意味で納得して、大きな溜息を吐いてしまった。

 けど同時に、因果関係がはっきりしてちょっとスッキリした。それに、恐らくはそこまで気にする必要も無いだろう。

 

 正直に言えば、サッチ死んで無ェならエースはモビー・ディック号を出て来んなよ! と叫びたい気持ちもあるけど。

 過去は知らない内に変わっていたのに、結局エースは今ここにいる。

 流れを変えるってのは難しいようでありながら実は簡単で、でも簡単かと思えば実は難しい。ままならないものだね。

 まぁ、前向きに考えれば……戦力が増えたとでも思えばいいんだろうか?


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