麦わらの副船長   作:深山 雅

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第122話 ビブルカードの使い方

 ユバまではもう少しらしいけど、まだ着かない。なので今日も俺たちは砂漠を行く。

 

 現在時刻は昼、岩場にて食事休憩中だ。

 

 「おかわり!」

 

 ルフィには足りなかったみたいで、皿をスプーンで叩きながら催促している。おかわり自体はウソップも要求しているけれど、あいつはそこまで行儀悪くはしていない。

 そして、2人揃ってサンジに蹴られてる。それはいい、問題なのは……。

 

 「はい、ストップ」

 

 おかわり要求が跳ね除けられたルフィの手がゾロの皿に伸びてたから、阻止しておいた。それでジロッと不満そうな目で見られるけど、その隙にゾロが自分の皿のガードに入ったから本格的に手が出せなくなる。

 

 うん、いつもの光景だ。ルフィが他人の皿に手を伸ばし、それを阻止して注意がこっちに向いてる間に本人がガードを固めるっていうね。

 それでルフィはますます膨れっ面になるけれど、食事に関してはキッチリしといた方がいい。いくら余裕はあるとはいえ、途中で中々補給が出来ないというのは航海中も砂漠横断中も共通している。万が一にでも不測の事態が起こったら大変だよ。

 俺はやれやれといった気分で肩を竦め、元居た場所にまで戻る。そう、ルフィの不穏な動きであっちに行ったけど、俺は地面ではなく岩の上に座って食事を摂っていた。何故ならその方が足が楽だからだ。つまり、深い意味は無い。

 

 でもその為か、俺の位置はルフィたちよりもナミやビビ、それにエースと近い。よって、エースが食べ終わった後の食器を拭いているのも良く見える。

 エース……お前、いつの間にそんな風に……昔の、丸焼き肉をルフィと奪い合いながら噛り付いていたエースはどこに行った!? いや、今でもいざとなれば奪い合って齧り付くんだろうけど。

 

 「見て、エースさん。食べ終わった食器を拭いてるわ」

 

 ビビもエースの様子に気付いたらしくて、ナミに囁いていた。ナミもそれに大きく頷く。

 

 「本当、モノが違うわよね。出来の悪い弟とは」

 

 ナミの視線は眼下のルフィに向けられているけど……。

 

 違うんだ、違うんだよナミ。エースも昔はルフィよりずっと粗野だったんだよ。それも仕方が無い部分はあるけど。元を辿れば、フーシャ村で村民に見守られながら育ったルフィと、コルボ山で山賊に育てられてたエースだし。

 俺? 俺は……それなりに礼儀正しくしといてたよ! 愛想って大事だよね! だから今も多分、ナミの言う『出来の悪い弟』に俺は入ってないと思う。

 改めて考えてみれば、俺たちの中で真に礼儀正しかったのってサボだと思う。まぁ、いくら厭っていたとしても貴族生まれなのは間違いなく、礼儀作法は叩き込まれていたんだろうし。

 

 ナミとビビがエースに掛かってる賞金のことだとか、エースが追ってる『黒ひげ』のことだとかを話題にして喋ってる間、俺はそんなことをぼんやり考えながら食事を進めていた……けど。

 

 「ん?」

 

 咀嚼する口は止めず、俺はふと首だけを巡らせて砂漠の向こうを見た。肉眼ではその先にはこれといったものは見受けられない。

 それでも何となく、向こうの方から敵意を感じるような……あ、ひょっとしてアレか? スコーピオン……だったよね? あの賞金稼ぎの名前。

 

 「………………………………」

 

 って、何で仕掛けて来ないんだよ!? バズーカ砲が来るかと思ってちょっと身構えてたのに! 俺が間抜けな子みたいじゃねぇか!

 

 「さ、そろそろ行くわよ」

 

 そうこうしてる間に、焚火がナミによって砂を掛けられて消火された。

 あれ、スコーピオン戦ってまだだっけ? この辺もうろ覚えなんだよなァ……って、すぐ傍に小さな気配が二つ……あ、そうか。ガキどもと出くわすんだよ! いや~、思い出してよかった!

 

 「スッゲェ!」

 

 うんうんと1人で頷いていると、いつの間にやらルフィが叫んでいた。

 

 「肉が逃げたぞ!」

 

 しかも、すたこら走り去るし……うん、アイツはちょっと放っておこうか。

 

 

 

 

 ルフィは闇雲(?)に走り去って行ったけど、その一方でこちらはちゃんと肉を確認しながら追いかけた。あ、こちらってのはエースと俺ね。他のみんなはあんまり『逃げる肉』に興味が無いらしい……何故だ。一大事じゃないか。

 

 そして追った先では、2人の子供が1つの肉を分け合っていた。何て思いやりに溢れた兄弟なんだ! どこぞの4兄弟なんて分け合うどころか奪い合ってたのに! いかん、思わずホロリときてしまった。

 そしてそんな2人は、バッドランドという所から来たらしい……誰だよ、それ命名したヤツは。もっとマシな名前が山ほどあっただろうに。

 バッドランドという所は俺はあまり知らなかったけれど、エースによると随分なド田舎らしい。

 

 しかしお2人さん、『食い物は返さないぞ!』って。うんまぁ、俺だって流石に10日ぶりに食い物にあり付いたと言う子どもから奪い返すなんて鬼畜な真似はする気無いし、別にいいんだけど。これが大人だったら取り返すが。

 

 「う、動くと命は無いぞ!」

 

 黙って見下ろすエースが怖かったのか、兄の方が銃を構えた。ちなみに俺は2人からは死角となる岩陰から様子を見守ってるから、未だに気付かれてない。

 

 「おれは物騒なことは好まねェ性質なんだがな」

 

 …………………………え!?

 聞きましたか皆さん!? (←『皆さんって誰?』とかそういうツッコミはしちゃいけない)

 エースって物騒なこと好まないんだって! ゴア王国の下町で喧嘩を繰り返したり食い逃げの常習犯だったり、ルフィに丸太を転がしたり同じくルフィを橋から叩き落とそうとしたり、ブルージャムから金品を強奪したり、海賊で賞金首になった挙句『白ひげ』に喧嘩を売ったりした人間が、物騒なことを好まないんだって! 驚愕の事実だ!

 

 俺があまりの衝撃に呆然としていると、子どもは銃を撃ってしまっていた。エースは自然系だから弾丸なんてどうってことないだろうに、わざわざ石でそれを撃ち落としていた。

 凄い、と子どもたちが感嘆している間に他のみんなもこっちにまで来ているのが見えた。

 その隙に、俺は子どもの手にあった銃をヒョイと奪っておく。

 

 「没収だ」

 

 「あ!」

 

 けれどその時、何故か突き刺さるような視線を感じて振り返ると、エース以外の全員に非難がましい目で見られていた。何故だ。

 

 「あんた、そんな小さな子どもからまで……」

 

 「返してやれよ!」

 

 ………………何故俺が非難されねばならないのだろうか。日頃の行いが悪いのか?

 

 「あのなぁ」

 

 俺は辟易としながら頭を掻いた。

 

 「お前ら、俺が単なる略奪でこの銃を奪ったと思ってるのか?」

 

 《思ってる》

 

 「………………」

 

 何だよ、見事にハモりやがって。

 

 「んなわけあるか!」

 

 はっきり言ってこいつらは運が良いだけだ。銃なんて、当たれば非力な子どもであっても十分相手を殺傷出来る武器なんだから、それを向けるということは反撃されても文句は言えない。これで相手がエースじゃなくて……例えばどこにでもいるような、絵に書いたような悪役海賊だったら、反対に殺されてたのかもしれないってのに。

 それなのに『動くと命は無いぞ』だなんて言って簡単に銃を向けるようなことは、しちゃいけないだろ。

 とはいえこんな偉そうな説教は柄じゃない(それに面倒くさい)から、この銃は没収してスコーピオンに渡そうと思っただけなのに……こんな視線に晒される謂れは無いぞ!

 でもな……今何を言っても、言い訳にしか聞いてもらえないだろうしな……うん、どうでもいいか。

 

 俺が非難めいた視線を浴び続ける中、銃を奪われた当の本人はもうそんなことはどうでもいいのか、エースに妙な依頼をしていた。

 曰く、100万ベリーで人探し。しかも出世払い。

 この子……相場ってモンを知らねェのか? 俺が頼まれたわけじゃないからどうでもいいが。その内あくどいヤツにぼったくられそうだな。

 

 

 

 

 子どもたちが差し出した写真に写っている1人の男。賞金稼ぎで、名はスコーピオン。

 

 「あんたたちは何で賞金稼ぎを追ってるのよ」

 

 ナミの尤もな疑問に、子ども2人は口ごもる。

 隠す理由なんてあるのか? 普通に『父親です』でいいじゃん。誰もが納得するぞ? 母を訪ねて三千里ならぬ、父を訪ねて三千里。

 何故か答えない2人の助け舟になったのはエースの発言だった。本人はそんな気は無かっただろうけど。

 エースの得た情報では、ユバで『黒ひげ』を倒したのがそのスコーピオンらしい……どこで掴まされたんだ、そんなガセネタ。

 写真を覗き込んで見たけど、俺はちょっと頭痛がした。

 

 「これが『黒ひげ』倒した? ……この、作業着で鍬持ったオッサンがねェ」

 

 失礼を承知で言いたい。絶対あり得ねェ。

 

 「エース……お前、その情報を信じてるのか?」

 

 コッソリと小さな声で耳打ちして聞いてみると、苦笑いが返ってきた。うん、お前も既に信じてないだろ!

 

 「会ってみねェことには解らねェ……と言いてェとこだが」

 

 断言はしないのか! そんな大人な対応、いつの間に身に付けた! 

 ……とか何とかやってる間にも。

 

 「何か来るな」

 

 「ってか、ルフィに+αがくっ付いて来てる感じ?」

 

 そう、『何か』がこっちにやって来るのが解った。真っ先に反応したのはエースと俺だったけど、次いで反応したのはチョッパーの鼻だったらしい。

 

 「来る!」

 

 青っ鼻をヒクヒクさせて、動物全開だ。同じく動物のはずの大福は我関せずって感じでずーーーっと寝てるけど。ちなみに俺のポケットの中で。

 『何か』が来る方向を見詰めていると、やがて砂埃と共にダチョウっぽい鳥に乗った男が現れた。

 

 「いたな、『火拳』のエース! おれの名はスコーピオン! 不撓不屈の英雄だ!」

 

 うわー、仰々しい自己紹介。

 ヤツの要求は実に簡単だった。エースに真剣勝負を申し込むらしい。

 え、あいつ自殺志願者? ……とまぁ、冗談は程々にして。

 

 「勝負するならその前にその後ろに乗ってるゴムを返してくれるか?」

 

 そう、はっきり言ってスコーピオンの後ろに乗っているルフィは邪魔である。位置的に。

 

 「よォ! みんないるか!?」

 

 ひょっこりと顔を覗かせるルフィよ、俺はお前に一言言いたい。

 

 「いなくなってたのはお前だけだ」

 

 俺のツッコミにみんながうんうんと頷いていた。

 エースとスコーピオンは睨み合ってる……と言いたいところだけど、スコーピオンは完全に腰が引けている。ぶっちゃけて言えば、ビビってる。それでも口上は続けているけどね。お前の武勇伝もここまでだ、とか。

 これから始まるらしい真剣勝負に1番ノリノリなのはルフィらしい。エースに『手加減するなよ!』と発破をかけてスコーピオンの退路を断っていた。天然って酷い。

 

 「行くぞ! 『火拳』のエース!」

 

 そうして、エースVSスコーピオンが始まったのだった。

 

 

 

 

 そう、始まったんだよ。でももうね……一方的だった。スコーピオンは根性はあるみたいだけど、実力的にエースには及ばない。

 それに、消火剤を撃ちこんでやるとか言って圧縮銃を持ち出していたけど、エースは別に能力使わなくても強いもんなぁ。

 結果的には、スコーピオンのどてっ腹にエースが拳を叩き込んで終わった。早いなオイ!

 

 「悪ィが勝負になんねェな」

 

 肩を竦めてのウソップの発言に全力で同意する。

 そしてスコーピオンのその、ハッキリ言って弱い実力を見てエースもとうとう結論を出した。即ち、『黒ひげ』を倒したなんて嘘だろう、と。スコーピオンはそれを認め、まだ諦めずにもがく。

 本当に、根性だけは大したもんだよ。けれど当人以上にその光景に耐えられない者たちがこの場には若干名いた。

 

 「もう止めろよ、父ちゃん!」

 

 そう、子どもたちである。この子らがスコーピオンの子どもだなんて全く予想していなかったのか、揃いも揃ってみんな驚いていた。そんな彼らには構わず、子どもたちは父に駆け寄る。駆け寄った子どもたちへのスコーピオンの呼び掛けからして、彼らの名前はディップとチップらしい。ゴメン、完全に忘れ去ってた。

 

 再会した彼らの会話から察するに、どうやらスコーピオンがエースを狙ったのは子どもたちの何気ない一言が原因だったらしい。

 

 しかし、何でその対象がエースなのかね? 『世界一の戦いを制してここに戻って来るからな!』と父は息子たちに宣言したそうだけど……じゃあ『白ひげ』の方を狙えよ。そりゃあ、お蔭で俺らはエースと再会出来たわけだけど。

 内心で呆れている間に、親子3人はあーだこーだと絆を確かめ合って和解していた……結局何だったんだろう、こいつらは。振り返ってみれば俺ら、変なホームドラマを見せ付けられただけなんじゃね? 麗しい父子愛ですねとでも言えば良かったってのか?

 最終的には、バッドランドに帰ろうってことで纏まったようだ。

 

 

 

 

 その後、誤作動(?)したバズーカ砲のせいで崩壊した岩の下敷きになりかけた親子をエースの火拳で救出し、事態は完全に収束した。あ、没収しといた銃はちゃんとスコーピオンに返しといたよ。

 そしてそれは、エースとの別れを意味する。『黒ひげ』がいないと解った以上、エースがわざわざユバまで行く意味は無いからね。

 日も暮れかけた夕焼けをバックに、俺たちは向かい合う。

 

 「本当に行っちゃうのか、エース」

 

 チョッパーが微妙に寂しそうな声音で尋ねた。チョッパーにしてみれば、人数が多い方が楽しいという気分だったんじゃないかと思う。けれどもエースはさっぱりとしたもので、もう次の場所に向かうと明言した。

 スコーピオンが『黒ひげ』を倒したなんていうのは完全なガセネタだったけど、そのスコーピオンから聞き出した新たな情報によれば、西でヤツを見掛けた者がいるらしい……俺らと一緒にいればジャヤって島で巡り会えるんだけど、なんてことは言わない。俺は預言者になるつもりは無いからね。

 

 「ルフィ、ユアン」

 

 エースは上着のポケットから紙を取り出すと、ルフィと俺にそれぞれ放った。良かった、俺も貰えたよ。

 

 「そいつを持ってろ、ずっとだ」

 

 「何だ、ただの紙切れじゃねェか」

 

 メモ書きがあるわけでもない、見た目には何の変哲もないただの真っ白な紙にルフィは訝しげだ。

 

 「そうだ。その紙切れがおれとお前らをまた引き合わせる……ユアン」

 

 エースの視線が俺に向けられた。

 

 「お前なら知ってるよな。それが何なのか」

 

 そりゃそうだ。何しろ、1番最初にエースにこれを教えたのは俺なんだから。

 

 「ビブルカードだろ?」

 

 渡されたビブルカードをひらひらと振りながら答えると、正解と言わんばかりのニヤリとした笑みを浮かべられた。

 

 「? 何だ、ビブルカードって」

 

 聞いてきたのは同じくカードを渡されたルフィだけど、これについて聞きたいのは誰もが同じだったらしい。視線で説明を求められている。なので、簡単にだけど説明させてもらった。

 

 「このビブルカードも、掌にでも乗せれば動くんじゃないか?」

 

 ルフィは俺のこの言葉に反応して試していた。

 

 「おォ! 動いた!」

 

 その言葉通り、固定されること無く掌に乗せられたビブルカードはじりじりと動いている。方向は勿論、今現在目の前にいるエースだ。そのエースははしゃぐルフィに肩を竦めるとポケットからまた別の紙を2枚取り出し、纏めて俺の方へ渡してきた。

 

 「んで、これがお前に頼まれてた分」

 

 「ありがとう」

 

 いやー、コレ便利だもんな。これでゾロの迷子癖も少しは改善………………されると、いいなァ………………何でだろう、遠い目になってしまう。

 気のせいだよね? 『焼け石に水』とか『猫に小判』とか、そういう諺が脳裏に浮かんでくるのは、きっと気のせいだよね?

 

 「それ何だ?」

 

 俺が叶わぬ(可能性が極めて高い)夢に思いを馳せていると、チョッパーが見上げて聞いてきた。

 

 「ビブルカードだよ。ルフィと俺の」

 

 「おれの?」

 

 これは話してないのだから当然ルフィにしてみても初耳の話だったわけで、きょとん顔で首を傾げていた。それに俺はサラッと返す。

 

 「3年前、エースの出航前夜に爪のカケラを渡して頼んどいたんだ。もしも機会が有ったら作っといてくれって。今この時のように渡すチャンスが出来たら儲けものだし、そうでなくても生存確認には使えるから」

 

 俺の返答を傍で聞いてエースは苦笑しながら頭を掻いていた。

 

 「まさか、本当にこうして渡す機会が出来るたァ思ってなかったがな」

 

 そりゃそうだろう。仲間殺し未遂なんて事件が無ければ、グランドラインを逆走なんてするはず無いだろうし。

 そんな中、何やら考え込む……というより、思い出していた様子だったルフィがポンと手を叩いた。

 

 「あ! だからあの時、指がちょっと切れてたのか!」

 

 覚えてたのか。

 

 「ゴメン。寝てる間に削らせてもらったんだけど、ちょっと手が滑ってさ」

 

 「いや、何それを今謝ってんだよ!」

 

 手を合わせて謝罪してると、何故かウソップにツッコまれた。それはスルーさせてもらって、俺は肝心の封筒を見やる。それには名前が書かれていた。

 ルフィの分はルフィに渡し、自分のビブルカードを取り出すと少し千切ってエースに渡した。

 

 「俺もこれ、渡しとくよ」

 

 その後、その様子を見ていたルフィも、同じくビブルカードをエースに渡していた。

 さて、これでいよいよ用事は全て片付いたわけだ。エースは改めて一同を見渡す。

 

 「出来の悪い弟を持つと、兄貴は心配なんだ。性格の悪い弟もある意味心配だが」

 

 ………………おい、それはどういう意味だ?

 

 「お前ェらもこいつらには色々手を焼くだろうが、よろしく頼むよ」

 

 エースは苦笑いしながら軽く会釈をすると、不意にもの凄く真剣な顔になった。

 

 「ルフィ、ユアン。次に会う時は、海賊の高みだ」

 

 うん……そうだといいね。だってマリンフォードよりはそっちの方がずっとマシだ。

 頂上戦争改変は当然目論んでいるけれど、そもそも起こらなかったら起こらなかったで構わない。だから心の一部では、エースVSティーチがエースの勝利で終わることを願ってもいるよ。

 

 「来いよ、高みへ」

 

 ……行くさ。いずれ、な。

 その時だった。背後の方からスコーピオン親子の別れの挨拶が聞こえて、俺たちは揃って振り向いたんだけど……ヤツらとの簡単な別れも済ませ、今度はエースをちゃんと見送ろうと思って再び向き直ると既にいなくなっていた。いつの間に……。

 

 「また会えるさ」

 

 ルフィの物言いは実にあっけらかんとしていた。そしてそれは、その通りだ。いつかまた会うことになる。きっと。

 

 「ところで、ユアン」

 

 もう気分を切り替えたのか、ルフィが真っ直ぐ俺を見た。

 

 「この……ビブルカードっての、何に使う気だ?」

 

 この、というのはエースに貰った分ではなく、作ってもらっておいた俺たちの分のことだろう。俺は肩を竦める。

 

 「頼んだ時は、あれば便利かな、程度の気持ちだったんだけどな。今はもう、取りあえずするべき事があるだろ?」

 

 あえて聞き返して答えを促すと、ルフィも含めて全員が思い至ったらしい。

 

 「おれを見るな!」

 

 揃いも揃って、ゾロに無言で視線を突き立てていた。

 うん、誰もが考えるんだな。迷子対策……例えビブルカードを持たせても、それでゾロの方向音痴が改善出来ると明言出来ないのが怖いけど。

 最終的には、全員にビブルカードの切れ端を行き渡らせることになったのだった。

 

 

 

 

 じゃあな、エース。いつかまた。

 




 エースの出番、終了。

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