麦わらの副船長   作:深山 雅

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第12話 ルフィとの出会い

 先日のアレは、俺とエースの初喧嘩と言ってもいいと思う。

 6年一緒に暮らしてきたけど、これまでは多少揉めることはあっても喧嘩にまでは発展してなかった。

 だから、この状態にも初めて陥ったわけで……どうすりゃいいのかね?

 

 「………………」

 

 「………………」

 

 うん、お互い無言で山の中を歩いて帰るのってすっごい気まずいね!

 

 

 

 

 あの時は、俺も殴っちゃったし結構酷いことも言った。

 だから、少し落ち着いてから一応謝ったんだ。エースも許してくれたんだけどさ……何となーく、ぎこちない。

 嫌われた、って感じじゃない。実はまだ怒ってるっていうのとも違う気がする。話しかければ最低限答えてくれるし、傍にいても嫌がらない。……むしろ、そっとしといた方がいいかと思って距離をとって歩いてたら、追いつくまで止まって待ってたし……。

 ただ、微妙に不機嫌で口数が少ない。俺だけじゃなくて、サボに対しても、だ。俺の前でだけかとも思ったけど、サボと2人きりになっても同じらしい。ものすっごく不審がってた。

 ……原因が俺だってのは確実なんだけどねぇ……いかんせん、どういう心理が働いてこういう風になってるのか解らない。この前はあんな偉そうなこと言ったけど、俺だってそんなに人生経験豊富なわけでもないしねぇ……。

 うん、解らん!無責任に断言する!

 

 

 

 

 ダダンの家がもうすぐって地点で、俺は今日狩って小さくしていた野牛を元のサイズに戻した。

 持ち運びに便利だから移動時には小さくしてるけど、能力のことをダダン一家に知られたくないから、途中で元のサイズに戻している。

 まぁ、本当に知られたくないのはダダン一家よりむしろ祖父ちゃんなんだけどね。祖父ちゃんに知られたりしたら……一波乱ありそうな予感がひしひしと……ね?

 出来れば、海に出るまでは知られたくない。

 んでもって、元のサイズに戻したらかなり大きいから、そこからはエースに持ってってもらってるんだけど……今日はいつもと違った。

 

 「? 騒がしいな……」

 

 エースが訝しげな声を出した。

 何事か知らないけど、なんだかダダンの家の方が騒がしい。

 

 

 

 

 俺はこの時、何で気付かなかったのか……ヒントはたくさんあったのに。

 現在、俺は6歳。つまりエースは10歳。

 今日の狩りの獲物は、野牛。

 騒がしいダダンたち。

 もうお解りだろう。

 とうとう連れてこられたんだ。原作主人公・ルフィが………………え~と……エース? 何でそんなに凶悪な目つきなの?

 数日ぶりの祖父ちゃんと一緒にいる麦わら帽子がトレードマークなよく伸びる子を滅茶苦茶睨みつけている。……本当に伸びてるんだよ、祖父ちゃんに口ンとこ引っ張られて。

 うん、解ってた。エースが実はすっごい警戒心の高いタイプの人だってことは。俺のことをあっさり受け入れてくれたのも、当時の俺が赤ん坊だったからってのが大きいんだろう。流石に赤ん坊に警戒心なんて抱きようが無い。おまけに、祖父ちゃんによって山賊に押し付けられた海賊の子っていう共通点もあったし。

 そうでなく、俺もこうやってルフィのようにある程度大きくなってから連れてこられてたら、簡単に兄弟分になんてなれなかったに違いない。

 でも、ねぇ……やっぱそれはやりすぎじゃない?

 

 「うわっ! ツバ! きったねぇ!!」

 

 うん、まだ顔も合わせる前からツバ吐きかけるって、随分なご挨拶だね!? やりすぎだと思うよ!?

 

 「おぉ、エース、ユアン! そこにおったか!」

 

 ……祖父ちゃん。俺は今無性にあなたのその無自覚なKYっぷりが羨ましいよ。

 こんなすっさまじく睨み合ってて空気最悪な状態でよくそんなに明るい声と笑顔が出せるね!? 俺は内心天を仰いでいるのに。

 

 「ルフィ、お前より3つ年上のエースと1つ年下のユアンじゃ。今日からこいつらと暮らすんじゃ、仲良くせい」

 

 「決定ですか!?」

 

 思わずツッコむダダン。

 

 「ダダン……諦めなよ。どうせ祖父ちゃんが1度決めたことを諦めるなんてないんだから」

 

 俺はエースとルフィの睨み合いの真っ只中に立ちたくなかったこともあって、さりげなくダダン傍まで移動してポンポンと足を叩いた。

 

 「ユアン! お前はお前でなんだい、ガキのくせにその悟りきったような面は!? 人を哀れむような目で見るんじゃない!」

 

 いや、実際哀れんでるし。

 

 「ダダン……諦めてあの子を引き取りなよ。脅されて引き取るのと諦めて引き取るの、どっちの方が気が楽だと思う? 祖父ちゃんと関わりを持ったのが運の尽きだと思ってさ」

 

 ブタ箱で一生を終えるか、とか既に言われてるんだろ?

 

 「ユアン……お前は祖父ちゃんをどんな人だと思っとるんじゃ?」

 

 祖父ちゃんが何だか微妙な顔で俺を見てた。

 何って……そうだね、一言で言えば……。

 俺はニッコリと一見無邪気な笑顔を浮かべた。

 

 「ものすごい『てんさい』だと思ってるよ?」

 

 『てんさい』を『天才』と捉えたのか、嬉しそうに笑う祖父ちゃん。

 うん、そう取ってもらえるような言い方したからね。本当は『天災』って意味だけど!

 いや、ある意味『天才』なのかな? 人を巻き込む天才。

 ダダンを見ると……うん、何か諦念が漂ってる。どことなく哀愁も漂ってる気がする。どうやらこっちは俺の言ってる意味を正確に汲み取ったみたい。多分ダダンもそんな風に思ってるからだろう。

 

 

 

 

 改めてルフィを観察してみる。まだエースと睨み合ってるから、俺の視線には気付いてないらしい。ぶしつけな視線はあまり気分のいいものじゃないから、じっくり観察するにはこの状況はうってつけだった。

 まず気付いたこと……ルフィ、俺よりちょっと大きい! あー、くそ、1歳差ぐらいならひょっとしたら俺の方が大きいかも、とか期待してたのに……俺が1番チビのままかよ。

 しかし……どうにも、丸っこいな。特に鍛えてたりしてない子供らしい体型だ。筋肉とかもあんまり付いてない。まぁ、普通の村の普通の子供だったんだから、当然か。

 今なら俺の方がが強いかもな。……ルフィより強い……何か嬉しい俺はミーハーです。相手が今はただの7歳児とか、この際気にしません!

 

 

 

 

 さて、ルフィとエースの初対面は原作通り最悪なわけだけど……俺はどういう対応をしようかねぇ。


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