麦わらの副船長   作:深山 雅

130 / 133
第125話 準備

 もうじきレインベースに着くという所で、ナミがマツゲの上からウソップに声を掛けていた。どうやら、クリマ・タクトを受け取ったらしい。

 

 「一見前と変わらねェただの棒だが、全然違う! 3つの棒の組み方で、何と攻撃が変わるんだ!」

 

 ふーん……これは、言っといた方がいいか?

 

 「具体的にはどんな攻撃が出来るんだ?」

 

 ウソップの隣に並んで聞くと、開発者殿は胸を張って教えてくれた。

 

 「聞いて驚け! おれ様のアイデアを!」

 

 クリマ・タクトを三角形に組んでボタンを押すと2匹の鳩が飛び出す、ファイン・テンポ。

 小銃のように組んでボタンを押すと銃口から花が出て来る、クラウディ・テンポ。

 3本のボタンをそれぞれ押すと噴水のように水が出て来る、レイン・テンポ。

 Y字型に組んでボタンを押すとボクシンググローブが出て来る、サンダー・テンポ。

 …………………………うん。ウソップ、期待を裏切らない男だ!

 

 「誰が宴会芸のための道具を作れって言ったのよ!?」

 

 「ウソップーーー!!」

 

 クリマ・タクトを思いっきり顔面に投げつけられ沈むウソップを、チョッパーが必死で揺さぶっている。

 

 「医者ァー!」

 

 いや、それお前だから。

 

 「まぁ、確かに聞いて驚いたけどね。……チョッパー、大丈夫だ。ウソップはきっと、ちゃんと成仏してくれる」

 

 「勝手に殺すんじゃねェ!」

 

 あ、起きた。

 俺はさっきナミが投げたクリマ・タクトを拾いながら苦笑する。

 

 「冗談だ。で? それで終わりか?」

 

 拾ったクリマ・タクトを1本ずつ指の間に挟みながら持ってフラフラと揺らしながら先を促すと、ウソップは口ごもった。

 

 「あー、後は宴会後の余興用のサイクロン・テンポと、1発限りの必殺技のトルネード・テンポがあるけどよ」

 

 それを先に言えば良いものを……何だって数多の宴会芸をまず口にするんだ。

 しかもそのせいか随分とナミの信用を失ってしまったらしい。フンと鼻を鳴らしている。

 

 「どうだか」

 

 ほらね。俺にもその原因の一端はあるかもだけど……ちゃんとフォローはしておこう。

 

 「けど実際、大した発明だとは思うよ? 鳩と花とボクシンググローブはともかく、水を出すんだから」

 

 改めてクリマ・タクトを観察してみる。本当に、見た目は何の変哲もない。元々が武器としても制作依頼でなければ、宴会芸用の道具としても中々の代物なんじゃなかろうか。

 

 「噴水の様にってことは、予め水を棒の中に水を仕込んでるわけじゃないんだろ? それじゃすぐに切れちまうもんな。どうやって発生させてるんだ?」

 

 「あァ、それは……」

 

 それでウソップは漸く説明してくれた。クリマ・タクトは振ったり吹いたりすることで、ヒートボール、クールボール、サンダーボールという3種類の小さな気泡を出すことが出来、その組み合わせで何やかやと現象が起こせるらしい。

 何でそこを最初に話さないんだよ、そこが肝なんだろ?

 やっぱりその話を聞いて、ナミも興味が湧いたらしい。何故解るかって? クリマ・タクトの引き渡しを要求されたからだよ。ナミならあの説明でクリマ・タクトの有効的な使い方を察するだろう。

 俺としては、ナミがクリマ・タクトを使っての初戦で説明書を見ながら戦うという羽目に陥らなきゃいいと思う。

 

 「別に戦わなくたって、ナミさんとビビちゃんはおれが守る!」

 

 ……何か煩いサンジは放っとこう。

 フェミニストは結構だけど、海賊やってる以上は絶対的な安全なんてあり得ない。身を守れる程度の戦力はあった方がいいに決まってる。ましてや今回ナミが戦う力を求めたのは、自分の為というよりむしろビビのためなんだし。

 

 「プリンスって呼べ! ハハ!」

 

 「プリンス(笑)」

 

 「ぶっ飛ばすぞ、てめェッ!」

 

 呼べって言ったくせに、本当に呼ばれるとサンジは怒った。まぁ、呼んだのがゾロだったからだろうけど。あの2人は見てて飽きない。まるでミニコントだ。

 あ、何だったら俺のこともプリンスって呼んでくれていいよ、母さん一応『姫』らしいしー……ごめんなさい調子に乗りました。しかも、呼ばれてるの想像したら鳥肌立った。よく自称できるな、サンジ。今、その凄さが垣間見えた。

 でもこの法則で考えると、プリンスはむしろエース……うん、本人に言ったらぶん殴られそうだ!

 

 「ところでよ、バロックワークスはおれ達がこの国にいることに気付いてんのか?」

 

 ゾロの今更とも言える質問にビビが頷く。

 

 「恐らくね。Mr.2にも遭ってしまったし、Mr.3もこの国に来ているようだし……知られてると考えてまず間違いないと思うわ」

 

 「それがどうした?」

 

 「顔が割れてるんだ、やたらな行動は取れねェってことさ」

 

 その辺のことを理解してないのは、どうやらルフィだけだったらしい。

 面が割れてしまっていては、バロックワークスの社員にすぐ見付かってしまって手を打たれてしまう。例えば暗殺とか。

 

 「大丈夫なのはチョッパーとサンジぐらいか……あ、でも、俺も髪染めれば大丈夫かな」

 

 染め粉は持って来てるし、レインベースに着いたらすぐにやろう。

 

 「よーし! クロコダイルをぶっ飛ばすぞー!!」

 

 「話聞いてんのか、テメェ!」

 

 ウソップはいつも通りツッコむ……けど。

 

 「ここまで来たら、波風立てずにってだけじゃいかないさ。近い内に激突するのは間違いないし」

 

 「そうね……今はとにかく全てにおいて時間が無いの。考えてるヒマなんて無いわ」

 

 ビビももう腹を括っているようで、強い口調だった。

 確かに、時間が無い。ユートピア作戦の始まりは、確か7時だっけ? 今は6時前……後1時間弱しかない。時間との勝負と言って過言は無い。

 いざ、レインベース。

 

 

 

 

 レインベースは活気に溢れた町だった。最初に上陸したナノハナも活気はあったけれど、このレインベースは街並みにせよ通行人の格好にせよ、ナノハナよりも幾分派手な感じがする。大きなカジノがあるからだろう。尤も、そのカジノがクロコダイルがオーナーを務めるレインディナーズだと思うと、この活気を素直に喜ぶ気にはなれないんだけど。

 レインベースに着いてすぐ、ルフィとウソップが水を買いに行った。まだ予備はあるけれど、ちゃんと冷えた水が飲みたかったらしい。

 

 「あいつらに任せて大丈夫かな?」

 

 「お使いぐらい出来るでしょ? 平気よ」

 

 ナミの認識が甘い……ルフィは天然のトラブルホイホイだぞ?

 え? じゃあ何でルフィを行かせたのかって? 『水ー!』ってダダ捏ねてたからだよ。もうここまで来たら多少のトラブルなんてどうでもいいしね。

 そんな風に嵐の前の静けさ的な小休止に入る中、チョッパーが輪から外れた。

 

 「おれ、小便行ってくる」

 

 って、そうだ。こんなのんびりしてる場合じゃ無い。

 

 「あ、俺も髪染めてくる」

 

 それだけ言い置いて、俺はチョッパーとはまた別方向に歩き出す。

 髪を染めてくる、というのは半分は方便みたいなものだ。

 何故そんなことを言うかといえば、みんなからさり気なく離れるため。多分ルフィたちは海軍を引き連れて戻って来るだろうし、そんなことになれば町中大騒ぎだ。追い掛け回されて無駄な時間は使いたくないし、目立ってバロックワークスの下っ端に目を付けられても面倒。数だけはいるし。

 さて、方便とはいえ言ったからには実行しよう。髪を染めるとなると鏡があって水が使える所がいいよね~と、いうわけで。

 

 「ここがレインディナーズか」

 

 一足先にやって来ましたレインディナーズ。天辺にワニの模型が付いたピラミッド型の建物だ。いや~、追われてなければこんなにあっさり着けるもんなんだな。

 今って丁度いいんだよね。まだ騒動が起こってないから、クロコダイルはおれ達がこの町に来ていることを知らない。反乱軍のいるカトレアに向かってるとでも考えてるだろう。つまり、警戒が薄い。

 そんな状態ならここに入っても、『髪が赤い』ってだけじゃ俺の正体はまずバレない。何しろ、俺の顔は知られてないから。

 だから、ここのトイレで髪染めようってわけだ。目的も考えれば、正に打ってつけ。

 

 

 

 

 レインディナーズは、賑やかなレインベースの中でも特に賑やかなんじゃないかと思う。それぐらい人で溢れかえっていた。

 はっきり言って、俺はカジノに入るのは初めてだ。これまでそんな機会は無かったから。

 スロット、ルーレット、ブラックジャック、ポーカー……ゲームは様々で、気楽にやる分には楽しそうだ。もしもただの観光としてここに来てたらの話だが。

 髪を染め終えてトイレから出ると、適当にスロットするフリでマシンの前で座って待つ。するとそう掛からずに騒々しいヤツが飛び込んできた。

 

 「クロコダイルー! 出て来い!!」

 

 はい、どこぞの麦わらゴムですね。

 こんなに騒々しい店内なのに、ルフィの叫びは見事に響き渡っている。よく通る声だな。

 俺は思惑とは別の所で、進んで他人のフリに徹している。主に心情的な理由で。店のド真ん中で叫んで……恥ずかしいったらありゃしない。何でアレが俺の兄なんだ? もう俺が兄でもよくね? どうせ1歳しか違わないし。あ、兄弟を止める気は無いよ。今してるのもあくまでも他人の『フリ』だから。

 

 ルフィと一緒に入ってきたメンツは、ゾロ、ナミ、ウソップ。こう言っちゃなんだけど、原作通りで少しホッとした。あまりに原作と変わり過ぎても、先の予測が面倒になる。

 所構わず叫んだルフィにウソップとナミがツッコんでたけど、ビビがいないからクロコダイルの顔が解らないという結論に至った。ってなわけで。

 

 「「「ビビー! ユアンー! クロコダイルー!!」」」

 

 今度は3人揃って叫んでいた。ビビや俺の名前をクロコダイルと同列に並べるなと言いたい。

 あ、俺の名前も入ってるのは、俺がクロコダイルを昔の手配書で見て知ってるらしいって話をゾロがしたからだ。そういえば言いましたね、そんなこと。砂漠でルフィが錯乱してた時に。

 でもそんな叫びには応えず、俺はひたすらスロットをするフリをしながら他人になりきっていた。

 にしても、7時までまだ30分以上あるじゃん。ということは原作でのアレ、ルフィたちって結構長いこと牢の中にいたんだな。

 そうこうしてる内に、また別の人間がカジノに飛び込んでくる。

 

 「追い詰めたぞ麦わら!!」

 

 スモーカーだ! 本物だ! 本当にここまで追ってくるなんて……正にストーカー! 真性のストーカー! そんなにルフィが好きなのか!? (←え?)

 けど海賊と海兵に店内で騒がれるなんて、面倒以外の何物でもないだろう。商売あがったりだ。そもそも、この店は政府関係者立ち入り禁止らしいし。

 だから警備員が数人立ちはだかったんだけど……。

 

 「ん? 何かぶつかったか?」

 

 ルフィが轢いたらそのままぶっ飛んで行った。そのせいだろうけど、店の奥の方で店員が慄いているのが解る。

 

 「大変です、マネージャー! 何者かが……」

 

 ん? あれは……。

 

 「VIPルームへお迎えしなさい。クロコダイルオーナーの命令よ」

 

 ロビンキター! 良かった、タイミングを見計らってたんだ!

 やがてルフィたちは、赤絨毯の先のVIPルームへと促されて行った。ストーカーをくっつけたまま。

 まぁ……今はあいつらはそう心配いらないだろう。それよりも。

 

 「……」

 

 俺は外に出て行こうとするロビンに背後からさり気なく近付く。スロット? どの道やってるフリだったからね、問題無い。

 そして、この賑やかさに紛れて周囲の人間には会話が聞こえないだろうという所まで距離を詰めると、声を掛けた。

 

 「おはよう、ミス・オールサンデー」

 

 あえて名前ではなくコードネームの方で、ね。

 ロビンは俺の接近には本当に気付いてなかったようで、一瞬だけれどピクリと肩を揺らした。

 まぁ、気付いてなくても無理は無い。俺は敵意も戦意も出していないし、でもだからって妙に気配を消しているわけでも無いから。あくまでもいつも通り、平常心でいるようにしてる。

 人気の無い所ならば気配を消すけど、これだけ賑やかならば消すよりも紛れてしまう方がいっそ解りにくくなるだろう。

 さて。ロビンだけど、動揺したのはほんの僅かな間だけだったようだ。少なくとも表面上は。何故なら、振り向いた時には既に感情を隠すように微笑んでいたからだ。

 尤も、それは俺もだからお互い様なのだが。

 

 「あら、おはよう。その髪はどうしたの?」

 

 ロビンもエースと同じく、髪を染めてても俺が誰だか解ったらしい。つーかコレ、やっぱ気付かなかったルフィがどうかしてるんだよ……って、今はそんなのはどうでもいい。

 俺は表情を微笑みから無邪気な笑顔に変えて、少し髪を摘んだ。

 

 「賞金首だからね~、変装ぐらいするよ。どう? 似合う?」

 

 俺のこういった言動は、敵対してる相手に向けるモノというよりも、久しぶりに会った知人に向けるモノに近く感じるだろう。はっきり言って不自然というか、暢気すぎる。

 

 「ふふ、そうね。あなたと『麦わら』は兄弟だと聞いていたけれど……そうしてると、確かに似てるわ」

 

 その口振りじゃ、まるで普段のルフィと俺は似てないみたいじゃん……否定は出来ないね、うん。

 ロビンが俺の振った雑談に乗ったのは、本気で世間話をしたいからじゃないだろう。そんなわけが無い。恐らくは真意を見極めようとしてるんじゃないかと考えてるし、それは間違ってないだろう。

 けれど悲しいかな、腹の探り合いは嫌いじゃないのに、残念ながら今は時間が無い。では何故雑談を振ったかといえば、あれはもう単なる癖のようなモンだ。あえて少しズレたこと言って相手のペースを乱そうってね。

 でも警戒してるロビンにはあまり効き目が無いみたいだし、もういいや。じっくり時間を掛けられるんならまた別だけど、今回はさっさと本題に入ってしまおう。

 

 「ところで、ちょっと話があるんだけど……いい?」

 

 言って俺は、店の外に親指を向けた。それはつまり、2人きりで話したいって意思表示である。

 ロビンは余裕のありそうな微笑みを維持したまま首を傾げる。

 

 「私に? あなたたちが用があるのは、クロコダイルじゃないのかしら?」

 

 「勿論、クロコダイルには大きな用がある。でも俺は、あんたにもちょっと話があるんだ。ミス・オールサンデーにじゃなくて……ニコ・ロビン。あんたに」

 

 今度はコードネームではなく本名で呼び掛けると、ロビンの表情がピクリと動いた。

 

 「……私を知っているようね」

 

 「うん、知ってる」

 

 ロビンと俺の間にある距離は、そう離れていない。けれどその距離をさらに詰める。

 

 「前に会った時点で、あんたが誰なのかは気付いてた。手配書で見たことがあったから。で、ここに来るまでの間に詳しく調べたんだ……『悪魔の子』ニコ・ロビン。超人系悪魔の実、ハナハナの実の能力者。20年前に8歳で指名手配された。西の海・オハラの出身で手配額は7900万ベリー」

 

 目の前で立ち止まって『どう?』と小首を傾げると、早々に動揺から復活したらしいロビンはまた微笑んだ。

 

 「正解よ。それで? あなたはそんな私にどんな話があるのかしら?」

 

 「あんたにしか出来ない事について」

 

 俺はニッコリと笑ってみせて、囁くように小さく続けた。

 

 「ちょっと、俺の『お願い』聞いてくれないか?」

 

 何、そんな難しいことじゃないからさ。

 

 

 

 

 レインベースの町を走り、ビビを探す。俺にとってそれはそう難しいことじゃない。不穏な気配が集ってる場所に行けばいいだけなんだから。

 走りながらさっきのことを思い出す。お膳立ては出来たし、取りあえず当面は何とかなるだろう。

 さて、問題のビビももうすぐ………………お?

 

 「見っけ!」

 

 「グハッ!」

 

 ビビいたよ! バロックワークスの下っ端たちに囲まれてたけど、両手で孔雀スラッシャーをぶん回しながら抵抗してた!

 俺はそんなビビの背後で刀を振り上げてたヤツに飛び蹴りかましながらの登場です。ちなみに、蹴ったヤツはぶっ飛んで動かなくなった。

 

 「ユアン君!?」

 

 これはビビにも予想外だったみたいで、俺の登場に驚いてた。

 

 「やっほー、久しぶり……俺、来なくても良かった?」

 

 周囲を見渡してみると、そこかしこに人相の悪い輩が倒れている。ビビがやったんだろう。やっぱり、ビビの戦闘能力は非戦闘員としては相当に高いようだ。

 

 「ううん」

 

 俺の問いに、ビビは首を横に振った。

 

 「助かったわ。数が多くて……」

 

 確かに。かなりの数が倒れてるのに、まだ数十人はいそうだし……ん?

 

 「ユアン? 手配書の?」

 

 「だが髪の色が違うぞ?」

 

 「いや、しかしそれぐらいは簡単に誤魔化せる。それよりも確かに……」

 

 「ああ、確かに」

 

 何だろう、バロックワークスの皆さんがざわついてる。『確かに』何だよ。

 

 《確かにチビだ》

 

 ……………………………………………………あはは、こいつら何言ってんだろうね。

 見事にハモりやがってやがるよ。

 

 「ユ、ユアン君? 落ち着いて……」

 

 やだなァ、ビビ。何でそんなに慌ててるんだ?

 

 「ところでさ、こいつら全員俺が殺っちゃってもいい?」

 

 一応確認を取ると、ビビはコクコクと頷いた。じゃあ殺るか。

 流石に説教してる時間は無いから、肉体言語で話をするとしよう。

 

 「お前ら……覚悟しろよ?」

 

 《ヒィッ!》

 

 やだなぁ、そんなに怯えないでよ。ただちょ~っと拳を鳴らしながら微笑みかけただけじゃないか。

 

 ~~~~~<残酷な光景が続いています。暫くお待ちください>~~~~~

 

 「よし、すっきりした!」

 

 腹が立った時は暴れるのもいいもんだ。多少は気分も晴れる。

 極めて失礼だったバロックワークスの連中は纏めて始末しといた。今この場の状態を簡潔に言い表すなら……何だろ、死屍累々?

 

 「私がこいつら相手にどれだけ苦労してたと……」

 

 ビビが何やら溜息を吐いてるけど、そんなことは気にしない。

 

 「細かいことはどうでもいいだろ?」

 

 呼びかけるとビビは顔を上げた。

 

 「ええ、そうね。ところでユアン君、どうしてここに?」

 

 「ビビに万一のことがあったら何もかもパァだからね。気配を追って来た」

 

 本当は別の理由もあるのだが、それは口にしない。

 ん?

 

 「ところで、ビビは服を着た鳥に心当たりがある?」

 

 俺は上空を指差して質問してみた。その指し示す先には、今さっき見付けた文字通りの『服を着た鳥』が飛んでいる。まだ多少距離はあるけど間違いない。

 その指摘でそちらに視線を向けたビビの表情がパッと明るくなった。

 

 「ペル!」

 

 やっぱりあれがペルか。予測はしてたけど……羨ましい。飛行能力持ちの動物系。

 ビビが呼びかけながら手を振っているからかペルはすぐさま俺達に気付き、まっすぐここまで飛んで来た。

 

 「ビビ様! ご無事でしたか!」

 

 降りてきてすぐ、真っ直ぐビビに駆け寄るペル。まぁ当然の反応か。王女が2年も行方不明になってたんだもんな。

 でもここまで華麗にスルーされるのも寂しいぞ?

 

 「私は大丈夫よ! それよりペル、どうしてここに?」

 

 「カルーが持ち帰ったビビ様の手紙を読み、国王様がクロコダイルと戦うことを決めたのです。それで私が先行して視察に来ました」

 

 ふむ。話を聞く限り、アルバーナ宮殿では概ね原作通りの展開だったようだ。

 

 「あー、ちょっといいかな?」

 

 いつまでも無視されてるのもアレだし、俺は自分から話に割って入った。そもそも俺が今ここにいる目的の大半は、このペルとの接触なんだし。

 

 「君は……?」

 

 当然ながら、俺とペルに間に面識は無い。故にペルは少し困惑していたようだが、それを察したらしいビビが説明してくれた。

 

 「彼はモンキー・D・ユアン君。海賊なんだけど、私をここまで連れて来てくれた人たちの1人よ」

 

 わざわざフルネームでどうもありがとう。

 

 「なるほど……件の、『心強い仲間』ですか?」

 

 確認のようなペルの問いかけにビビが頷くと、ペルは改めてこちらに向き直った。

 

 「ユアン、ということは、君があの手紙の主か?」

 

 あの手紙、というのはおそらくアレだろう。ビビと一緒に俺も出した手紙。

 

 「まぁね。悪いけど、あまり時間が無い。多少の無礼は見逃してもらえると助かる……早速だけど、俺の頼みは聞き入れてもらえた?」

 

 聞くとペルは布袋を取り出した。

 

 「あの手紙だけでは判断が付きかねたが、ビビ様からも念を押されていたからな……君が要求してきたものはこの中に入っている」

 

 よっしゃ! やった!

 礼を言って布袋を受け取ると、中を確認する。

 俺がアラバスタサイドに要求したものは、大きく分けて2つある。

 まずは子電伝虫1組。これに関しては、特に問題無く貸してもらえるだろうと予測してた。元々そう珍しいものでも無いし、貸したところで何も問題は無いはずだから。

 俺はその子電伝虫を1つ掴むと、布で包んで大福の首に括りつけた。

 そう、大福実はずっと一緒にいたんだよ! 俺の服のポケットの中に!

 

 「じゃあ、大福。チョッパーを探し出してそれを渡してきてくれ。それと、伝言も頼む」

 

 託すべき伝言は、既に教えてある。そしてチョッパーに伝われば、サンジにも伝わるだろう。

 こういう時、チョッパー&大福って便利だ。何しろ人間には言葉が解らないんだから、情報を聞き出そうとしたって無理。その上ミニ化させた大福はトラ猫にしか見えないから、事実関係を知らなければ誰も警戒しない。今回の場合では、町中のバロックワークスたちとかね。俺がさっき大分ぶっ飛ばしたけど、多分まだたくさんいるだろう。

 

 「がう!」

 

 大福は張り切ったように返事をするとピョンと腕の中から飛び降り、地面の匂いを嗅ぎながら走り去って行った。

 犬ほどではないとはいえ、猫の嗅覚だって人間とは比較にならないほど優れている。ナノハナのように別の匂いで充満してるわけでもなし、合流は難しくないだろう。チョッパーたちだってそう遠くには行ってないはずだしね。

 そしてもう1つの子電伝虫も取り出し、これは懐に入れておく。さて、子電伝虫に関してはこれでいい。

 それよりも重要なのは……。

 

 「本当に貸してくれるなんてな」

 

 袋の中のソレを見ながらしみじみと呟くと、聞くべき事を聞くためにペルを見た。

 

 「貸してくれるのはありがたいけど、これ、ちゃんと使える?」

 

 「ああ。既に準備は出来ている」

 

 至れり尽くせりだ。本当にありがたい。

 

 「それはどうもありがとう……これで思う存分クロコダイルを苛められる。」

 

 『クロコダイルを苛め隊』の隊長として! 隊員は現在俺1人だが!

 ニヤリと笑うと、ビビの視線が何故か泳いでいた。おいこら。

 

 「何でそんな顔をするんだ」

 

 「え!?」

 

 話を振られるとは思ってなかったんだろう、ビビは動揺していた。

 

 「え~と……そ、それより、それは何?」

 

 あからさまに話を逸らした! ……ま、いいけど。

 これ?これは……。

 

 「まだ秘密。敵を欺くにはまず味方から、ってね。そう長くは掛からないと思うから、ちょっとだけ忘れててよ」

 

 言うと俺は、ビビに見えないように自分の体で隠しながらソレを袋から取り出してポケットに移した。

 それでもビビは、どこか腑に落ちないようだった。

 

 「ユアン君には考えがあるみたいだから、それはそれでいいけど……でも、どうしてペルがそれを持っていたの?」

 

 どうしてって、そりゃあ。

 

 「俺が手紙で指定したからね。もしも貸してもらえるようならば、今日ここにそれを持って来てって」

 

 肩を竦めながら答えると、ビビは考えながら口を開いた。

 

 「それって、ユアン君には解ってたってこと? 私たちが今日この町に来ることになるって」

 

 解ってたといえば解ってたけど(原作知識で)、でもそれ以前に。

 

 「解ってたと言うよりも、予測してたって言うべきかな。言っただろ? 俺はルフィとは長い付き合いだって」

 

 言って思わず苦笑する。

 

 「あいつの考えてることはそれなりに読める。反乱軍の説得が成功するにせよしないにせよ、ルフィならその次にはクロコダイルの所に行きたがるだろうって具合にね。反乱軍の本拠地がナノハナからカトレアに移ってたから少しばかり事情が違ってきたけど、結局はその通りになっただろ? だからあの手紙を出した時、あの地点からこのレインベースに来るまでに掛かるだろう日数を計算して手紙で頼んだんだ。予測が外れる可能性だって勿論あったけど、その時はその時さ」

 

 「……だからユバを出た時、ルフィさんの言動にすぐに対応出来てたのね」

 

 ビビは何だか納得したような疲れたような、微妙な顔をしている。

 

 「じゃあ話はこれぐらいにして、レインディナーズに行こっか。

 

 いざ、クロコダイルを苛めに!

 ……あ、でも何とか言い包めてペルにはここに残ってもらおう、うん。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。