麦わらの副船長   作:深山 雅

14 / 133
第13話 警戒

 ダダンにルフィのことを念押しして祖父ちゃんが帰っても続いていたエースとルフィの睨み合いは、エースが野牛を運ぶために家の中に入っていったことで中断された。

 エースがいなくなればルフィの関心が俺に向くのは当然の成り行きだろう。それは解る、解るけど…………何だってそんなにジロジロとガン見してくるのかなルフィ君?

 

 「なぁ、お前どっかで会ったことねぇか?」

 

 ……まずは自己紹介するべきじゃないかい?

 

 「あるかもね。俺も一応産まれはフーシャ村らしいから」

 

 そういう風に言っといた方が俺にとっては都合がいい。

 実際、会ったことはある。ダダン一家に預けられる前に何度か顔を合わせたことはある。

 でも……当時ルフィは1歳、俺に至っては生後数ヶ月。普通は覚えているわけがないだろう。実質的にはこれが初対面と言って差し支えないはずだ。

 てかさ、何言う気だこの子。

 ルフィは難しい顔で首を捻ってる。

 

 「ん~? そんな前じゃないと思うぞ? なんか最近……?」

 

 自分の感じてる違和感の正体が解らないのか、ルフィの歯切れは悪い。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 ルフィ、コイツ……ルフィのくせに……! ワレ頭の変装やウソップ=そげキングも見抜けなかった天然ニブっ子のくせに……! 何でこんな時だけ勘がいいんだ!?

 ヤバイ、コイツこのままだと気付くかもしれない! そしたらルフィのことだ、俺が3年間も考えないようにしてたことをドきっぱり口にしかねない! くそっ、話を逸らすか。

 

 「それより、いい加減名前でも教えてくれない? 祖父ちゃんが言ってたけど、自己紹介は本人がするべきことだぞ?」

 

 ちょっと無理矢理な感じだけど、ルフィはそうだな、と納得してくれた。よかった、単じゅ……いやいや、素直な子で。

 

 「おれはルフィ! 海賊王になる男だ!」

 

 どーん、と胸を張るルフィ。

 てか、もう既にこの頃から口癖なのか? 海賊王になるって。

 でもそうかぁ……うん、それなら俺は……。

 

 「俺はユアン。歴史を変える男になりたいと思ってる」

 

 ちょっと張り合って大きなこと言ってみました。でも嘘じゃないよ?

 比喩じゃなく、本当にね。主に頂上戦争とか。

 

 「ところで、お前、さっきやたら口が伸びてたよな?」

 

 知ってるけど聞いておく。情報を仕入れたっていう事実は必要だ。

 

 「ああ、おれはゴム人間だからな!」

 

 言ってうにょーんと口を左右に引っ張るルフィ……ヤバイ、思いっきり引っ張ってみたい。ぐりぐりねじりたい。

 

 「おいオミーら、さっさと入れ。お頭がルフィに言っときチーことあるってよ」

 

 ドグラが呼びに来たので、俺たちはひとまず家の中に入った。

 ……来てくれてなかったら俺は好奇心に負けてルフィを弄り倒してたかもしれないので、ちょっとホッとした。

 

 

 

 

 

 

 エースの警戒心の強さは、抱える秘密の大きさと比例している。エースが最も気にしてることは、自分の出生が公になることだ。腹立たしいことだけど、現在の世界情勢ではとてもじゃないけど口に出来ない。それもまた現実。

 ダダンたちが事実を知ってる以上、共に暮らすのならルフィにもそれが伝わる可能性が高い。実際、特に自分から聞いたりもしていない俺だって知ってる……いや、俺が知ってるのは原作読んだからだけど、そうでなくても気付いていただろうし、俺が知ってるって話してもエースは驚かなかった。それに、どういう経緯だったのかは知らないけど、原作でのルフィはそのことを知っていた。

 とはいえダダンたちだって、海軍とかに知られれば火の粉が飛んでくる可能性もあるから、何も進んで教えたいわけじゃない。なら、ルフィがエースへの興味を失えば、事実に気付かない可能性も上がる。

 まぁとにかく、エースは恐れているんだ。事実を知ったルフィがそれを口外するんじゃないか、この間のヤツらのようなことを言ってくるんじゃないかって。だから気を許さない、極力関わりたくない。多分そんなところだろう。

 まぁ、俺も解らなくは無い。正直、さっきの会話で俺もルフィへの理不尽な警戒心を持ってしまった。……俺の場合は、ただの現実逃避なんだけどね。秘密とか、そんな大それたもんじゃないし。

 

 

 

 

 

 原作でも肉・肉言いまくってるだけあって、ルフィは野牛の肉を食いたがった。

 でもダダンは完全否定。エースも完全無視だし、俺も聞こえないフリ。

 ゴメンねルフィ、俺も育ち盛りなんだ食べ盛りなんだ人に分けたくないんだ。

 それに、いつもなら俺たちは部屋に持ってってそこで小さくなって食べてるんだけど、今日はルフィが来たことで騒ぎになってて部屋に戻れそうになくて……そのせいなんだろう、食いしん坊エースの機嫌がまた悪くなってるし……ハァ。

 そんな肉を食いながら、ダダンはルフィに雑用や山賊稼業を手伝え的なことを言った。けどこれは、ハッタリだろう。

 なにせ、雑用はともかく山賊稼業の手伝いなんて、俺もエースもしたことない。むしろ足手纏いだ邪魔だって言われる。

 ダダンのこれはまず間違いなく、ルフィに怒鳴って脅してビビらせて祖父ちゃんへの溜飲を下げようって腹なんだと思う。

 ……なんとも情けない考えだけど、責めはしない。だって俺からすれば、ダダンへの同情を禁じえない。でも……ムダだと思うよ?

 

 「わかった」

 

 あっさりきっぱり即答するルフィ。

 本当に、良くも悪くも素直だよ……ダダンは泣いてるけど。

 

 「これだからガープの孫はイヤなんだ! 逞しすぎる!」

 

 ……あれ、ガープの孫って……俺も入ってます? いや、俺逞しさなんてないと思うんだけど……どうでもいいか、誰も気にしてないし……ん?

 

 「………………」

 

 あれ、エース? 何で無言で俺の腕引っ張ってんの?

 見るとエースはとっくに食い終わってた。俺ももうすぐ無くなりそうだし……クイ、と外を顎で指された。

 あ、行くぞってこと? そういや午後からサボと待ち合わせてたけど……口で言おうよ、それくらい。警戒っぷりが徹底されてて逆に感心する。

 けどまぁ、待たせても悪いし、今日のところはさっさと行こうか。

 

 「あ、お前らどこ行くんだ」

 

 ルフィが聞いてきた。……何かちょっと焦ってるっぽい。山賊の中で1人になりたくないんだろうか。

 

 「待ち合わ」

 

 グレイターミナルと言っても解らないだろうと思って待ち合わせって言おうとしたけど、エースに更に強い力で引っ張られて遮られた。余計なことは言うなってか。やれやれ。

 

 

 

 

 「お~い、待てよ~!」

 

 予想通りと言うか何と言うか……ルフィが付いて来ちゃってます。必死です。汗だくです。

 そういえば、俺も初めてグレイターミナルへ行ったときはダウンしかけたっけ…………足取りも軽く山道を行きながら、俺は在りし日に思いを馳せた。うん、俺頑張った。

 そういうことでも考えてないとやってらんない。だってエースの眉間の皺がどんどん増えてくんだもん。醸し出す空気がピリピリしてんだもん。腕つかまれたままだから距離置けないし……ハァ。

 俺、今日、溜息ばっかだよ……。

 後ろでルフィが、ツバのことは怒ってないとか、友達になろうとか言ってる……いい子だよねぇ。しみじみ。

 でも、そのある意味能天気な態度がエースの癪に障ったらしい。

 ルフィも間が悪いよなぁ。先日の喧嘩を引き摺ってる+得体の知れないヤツ(=ルフィ)を警戒中+食事に満足できなかった、って色々重なってエースの不機嫌はピークだし。

 徐にドカッと転がってた木を取ってきたかと思うと、下にいたルフィに向かって転がした。

 

 「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ルフィの悲鳴が響くけど……助ける気は無い。ある意味面白いから。大丈夫、どうせアイツゴムだし! ラブーンに潰されても平気だったんだ、木の1本や2本、どうってことないだろ。

 むしろ、ルフィがゴムだって知らないのにこんな暴挙に出るエースに感心する。

 ……てか、本当に殺す気でやってたりする? え、何それコワイ。

 エースは結果も見ずにまた歩き出す。俺はちょっと見たよ。平べったくなったゴム製の子。……うん、ちょっと面白い。やられてる本人は堪ったもんじゃないだろうけど。

 それでも復活するまでは見ずにまた歩き出す……ってか、見させてくんなかったんだよね、腕掴まれたままだから。

 でもまたしばらくすると後ろからルフィの声がしだして……エースが舌打ちした。

 

 「チッ……走るぞ」

 

 走るぞ、と言いながら、俺が頷いたりするより前に走り出した。当然、俺も引き摺られる……でもそれ嫌だから、俺もすぐに走り出した。

 俺は走りながら原作でこの後起こることを思い返し……ああ、そういえばこの先には橋があったっけ、と納得した。

 納得したけど……流石にそれは、ねぇ?

 橋を渡り、エースは立ち止まった。ルフィを待ち構えてるんだろう。

 

 「エース……橋から落とそうとか考えてる?」

 

 エースは答えない。でも、無言は肯定と見做すよ?

 

 「ルフィを谷に落とすのはやりすぎだと思うよ?」

 

 別に、谷はいいんだよ? 谷に落とすだけなら別にいい……いや、本当は良くないんだけど。

 

 「……さっきは黙って見てたくせに」

 

 ボソッとエースは呟いた。俺はそれに肩を竦める。

 

 「だって、アイツ、ゴムなんだって。潰されるぐらい効かないよ、きっと」

 

 「ゴム?」

 

 エースはやっと俺の方を向いた。実は今まで視線合わせてくれてなかったんだよ。

 

 「うん。ゴム人間だって。多分悪魔の実の能力者なんだよ……俺と同じ」

 

 エースの表情がちょっと歪んだ。

 

 「……いつの間に聞いたんだ、そんなの」

 

 あれ、また不機嫌になった……これは何でだ?

 

 「さっき、自己紹介したとき。……ってか、祖父ちゃんに引っ張られて伸びてたじゃんか」

 

 答えると、ますます不機嫌になる……何で?

 

 「じゃあ、落としたって別にいいだろ」

 

 だから、なんでそんな拗ね顔なの?

 まぁ、さっきも思ったけど、確かに落とすだけならいい。むしろ面白い……アレ? さっきから俺何気に酷くね? ……ま、いっか。事実だし。

 とにかく問題なのは。

 

 「この下、確か凶暴な狼が出るってエースも知ってるよね?」

 

 うん、落下のダメージは無くても獣の牙や爪はどうしようもない。

 エースってばまた舌打ちを……本当にやる気、いや殺る気だったのか? 非道な…………でもそうなると、状況をちょっと楽しんでる俺は外道ってトコか?

 うん、非道と外道を必死に追いかけてる無邪気なルフィに涙が出そうだよ!

 

 「とりあえず、橋さえ落としとけばいいじゃん。そしたらルフィは道を知らないんだからもう追ってこられないよ」

 

 ってか、それで納得して欲しい。確か原作では、1週間行方不明になるんだよな? 流石にそれは可哀想だし。

 エースも渋々ではあったけど、ルフィが来る前に橋を落としてくれた。

 

 「橋がねぇ!」

 

 あ、ルフィ、ナイスタイミング。

 

 「この下、狼が出るから通らない方がいいぞ! ダダンたちのトコにでも戻れ!」

 

 一応忠告もしておく。……でないと無理に渡ろうとしそうだ。だってルフィだし。

 

 「おれ! 山賊嫌いなんだよ!!」

 

 対岸で必死に叫ぶルフィ。うん、それは知ってる。知ってるけど。

 

 「山賊も色々だ! まぁ頑張れ!」

 

 ルフィの憧れる海賊にだって色んなタイプがいるしねぇ。

 ルフィはまだ何か言ってたけど、こっちもいい加減エースの不機嫌が募ってるから、聞かないでおいた。

 とにかく今は、サボも待ってることだしね。とりあえずグレイターミナルに向かおうか。




 エースのルフィへの非道っぷりはスゴイ。そして、ユアンは外道。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。