予想通りというか、思いっきり吐き出したエースは普段通りになった……俺たちの前では。
うん、帰ったときに出迎えてくれたルフィに出くわした途端、また不機嫌になっちゃったんだよ。
無視だよ、無視。完璧にシカト。俺? 俺はただいまぐらいは言った。
さて。俺の計画を実行するなら、まずルフィにちょっと仕込んでおかないといけない。そして、それはエースがいないときでないといけない。
なので、俺はエースに提案した。
『俺がルフィを見張っておくから、夕飯は家の裏ででも小さくなって食べなよ』
ってね。
勿論、既に昼ご飯の時点で不満が溜まってたエースは、すぐに了承した。
お陰で今、俺はルフィと部屋で2人きりです。
今日はどこに行ってたのか、明日はどうするつもりなのかとか聞いてきたけど、必要最低限だけ答えてあとははぐらかすという会話を続ける。
ルフィが俺やエースと友達になりたがってるというのは間違いない。だからこそ俺は現在、ただの同居人という距離以上には踏み込ませていない。まぁつまり……胸を張って友達と言えるほど親しくしてないってことだ。
ルフィも何となく近付ききれないことに気付いてるのか、ひっきりなしに話しかけてくる。その必死さがよく解る……だって、話題が尽きてきたらしくてさっきから何度か同じ話が出てきてるからね。でも、1度聞いた質問には答えないようにしてる。うぅ、良心が痛い……。
そうしていくらかルフィを焦らした所で、俺は少し席を立った。トイレか、とか聞かれたけど、それにもまともに答えずはぐらかす。
1人になるのが嫌なルフィだ、エースはいなくて俺も出て行って戻ってこないとなれば、当然探しに来るだろうと踏んで。
読みは当たった。俺は近くの誰も使ってない部屋にいてコッソリ様子を見てたんだけど、暫くするとルフィが出てきたんだ。
……よし、やるか。演技スタートだ。
「1/50!」
俺は能力制御訓練の声を出した。ちなみに、小さくしたのはリンゴだ……リンゴ……ああくそ、こんな時に嫌な思い出が……いや、今考えることじゃない。
俺の声に気付いたらしく、ルフィがこっちに来る足音が聞こえた……来てくれなきゃ困る。そのためにわざわざ聞かせたんだから。
キィ、と僅かに扉が開く音が聞こえたとき、俺はまた能力を使った。
「解除!」
瞬間、1/50サイズにまでなってたリンゴは、すぐに元にサイズに戻った。
「リンゴが出てきた!?」
多分、小さくなってたリンゴは手に隠れて見えてなかったんだろう。そんなルフィにしてみれば、何も無い所からリンゴが出てきたように見えたんだろうね。
「見たのか!?」
俺は、たった今気付いたかのような驚いた表情を作ってルフィを見た。ルフィの目はキラキラしてる。
「なぁ、それ何だ!? すげぇな、お前がやったのか!?」
うん、本当に好奇心の強い子だね。
よし、食い付きは上々……。
「……ミニミニの実の能力だ」
俺は出来るだけそっけなく、苦虫を噛み潰したような表情で教えた。ルフィは俺の答えに驚いてる。
「お前も悪魔の実を食ったのか!?」
「うん、まぁ……」
歯切れの悪い答えを返す。
「俺はミニミニの実を食べて、縮小人間になった」
「しゅくしょう?」
「ものを小さく出来るってこと……1/2。」
すぐに小さくなるリンゴ……あ、今は1/2ぐらいまでなら殆どタイムラグが無くなってるんだよね。
「ちゃんとコントロールができるように、時々訓練してるんだ。解除」
また元に戻ったリンゴに、ルフィはすげーすげーとはしゃいでいる。
「……ルフィ」
「? 何だ?」
俺の真剣な声音に気付いたのか、ルフィはリンゴから目を離してこっちを見た。
「このことは誰にも言わないで欲しいんだ」
懇願するように、ってのはこういう風でいいのかな? 俺は泣きそうな表情を作った。
「どうしてだ?」
ルフィは首を捻る。それはそうだろう、あっさりゴム人間であることを明かしたルフィにしてみれば、悪魔の実のことは隠すようなことじゃないはずだ。
「もし祖父ちゃんに知られたら、面倒なことになりそうだから」
「あ! おれ、悪魔の実食ったって言ったら祖父ちゃんにここ連れて来られたんだ!!」
だろうね。原作でも祖父ちゃんはルフィがゴム人間になったことにいい感情を持ってなかった。っていうか、それを覚えてたから俺は隠してるんだし。
まぁここに連れて来られたのは、海賊になりたいって言い出したからってのが大きいんだろうけど……祖父ちゃん……本当にルフィを海兵にする気あんの? 俺やエースはまだ世間から隠すって意味もあったろうけど、何でルフィを山賊に預けたんだ? あ、ひょっとしてドラゴンが台頭してきたとか? にしたって、何でこれでルフィが海兵を目指すと考えたんだろう?
……うん、これは今度聞いてみよう……『わしの孫じゃし』の一言で終わりそうな気もするけど。今はそれよりルフィだ。
「うん……だから俺は、ダダンたちにも言ってない。知ってるのはエースとあともう1人の友だちだけだ。ルフィ、俺の能力のことは誰にも言わないで欲しいんだ! 頼む!」
まるで縋るような調子で頼み込む俺……本当、よくやるよ。
「あぁ、言わねぇ!」
迷うことなく承諾してくれるルフィ。
ツキリと内心……良心が痛んだけど、今更止める気はない。
「本当に? 誰にも? 絶対に?」
出来る限り念押しをしておく。
「言わねぇよ!」
一切の迷い無しだ。信じらんねぇのか、と言わんばかりにちょっとムッとしてる。
……もう一押し、しとこうか。
「本当に、本当に頼むよ。もし喋ったりしたら……絶対に許さないからな!」
『許さない』、それは1番嫌なことだろう。だってルフィは、1人になりたくないんだから。エースが気を許してないことも、俺が必要最低限しか関わってないことも何となく解ってるはずだ。その上許さない……つまり、それこそ完全に信用を失ってしまえば、もう友達になる機会なんて無くなるわけで……。
「ああ、約束だ! 誰にも言わねぇ!」
案の定、ルフィは即答した。約束した以上、並大抵のことでルフィがそれを破ることは無いだろう。
俺が欲しかったのはこの言質だ。『絶対に俺の能力を誰にも言わない』という約束。これで仕込みは完了。
意志の強そうな目を向けてくるルフィが内心眩しい。俺は今、自分が腹の内で考えていることが怖いっていうのに。