麦わらの副船長   作:深山 雅

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第16話 嗾ける

 翌日。

 俺とエースは、やっぱり付いて来ようとしたルフィを撒きつつグレイターミナルに来た。

 んでもって俺は……昨夜のことを2人に話した。勿論、俺の内心は言ってないけど、ルフィと交わした会話や約束なんかはそっくりそのまま、だ。

 

 「んなっ……!」

 

 あんぐりと口を開けて固まるエース。一方でサボは目を丸くして驚いてる。

 

 「ユアンがそんなポカするなんて……」

 

 うん、だって本当はわざとだからね。

 

 「大丈夫だよ、誰にも言わないって約束したし」

 

 俺がそう言うと、ハニワ状態で固まってたエースが復活した。

 

 「そんなの解るもんか! アイツ、その内絶対喋るぞ!」

 

 「でも、言わないと思うけど……」

 

 結局のところ、これって水掛け論だよね。俺がルフィは言わないって思うのは原作知識からだけど、それは言えないから傍から見れば根拠の無い勘でしかない。一方でエースが喋るはずだって言うのも、本人の警戒心・猜疑心からくる感情論でしかない。お互いが譲らない以上、言い合ったって決着はつかない。

 むしろ、俺がルフィを庇う発言をすればするほどエースはムキになるだろう。何せ……昨日のあのツンデレっぷり……ぷぷ。

 けどまぁ、俺の狙いはそこだ。エースって、カッとなると後先考えないタイプっていうか、1つのことに狙いを定めたら一直線っていうか。

 今言ってもしょうがないけど、エースのそれは何とかならないかなぁ? そしたら、白ひげに止められたのにチェリーパイ野郎……失礼、ティーチを追いかけたりだとか、赤犬に挑発されて向かっていくとかそういうのも無くなるよね? そんだけで死亡フラグが何本も折れてくような…………でも、それでこそエースっていうか……性格まで改変しようとしたらそれはもう別人になっちゃうしね。

 とはいえ、今回は俺自身それを利用しようとしてるんだからとやかく言うことは出来ないな。

 

 「いざとなったら言うに決まってる!」

 

 ホラ、やっぱり。俺もムキになっておく。

 

 「いざってどんな時!? 海賊や山賊に拷問されるとか!? 脅されるとか、そういうの!?」

 

 まぁそうは言っても、ダダンたちがルフィに何かすることは無いだろうね。そんなことしようもんなら、後で祖父ちゃんという嵐がやってくるだろうから……。

 

 「そんな状況、そうそうあるもんか! 少なくとも自分から話す理由なんて無いはずだもん! 誰かが故意に聞き出そうとしたっていうんなら別だろうけど、わざわざ聞き出そうとするヤツもいないし! 大丈夫だって!」

 

 そう、ルフィは嘘が吐けないタイプだろうから、相手が搦め手を使って聞きだそうとすれば、本人にそのつもりは無くても漏れる心配はある。けど、聞きだそうとするということはつまり、なんらかの事前情報が必要になる。現状俺の能力を知ってるのはエースとサボだけで、他は誰も何も知らない。つまり、ダダンたちにしろ祖父ちゃんにしろ、聞き出そうと考えることはあり得ないんだ。

 そう、何も無ければ、ルフィが俺の秘密をわざわざ他人に話そうとすることは恐らく無い。それぐらいはエースだって解ってるはずだ。『何も無ければ』……。

 そして今俺の目の前にいるのは……カッとなってるエースだ。

 

 「じゃあ、ソイツがもし喋ったら、お前どうする気だよ!」

 

 「その時は……」

 

 こういうセリフが出てくるってことは……俺の考え通りに動きそうだな。

 俺はまるで拗ねたような、不貞腐れたような顔でエースを睨んだ。

 

 「その時は、俺もルフィを撒くのに全力で協力するよ。信用できないヤツと一緒になんていられないし。……人食い狼の谷に落とそうがどうしようが、ご自由にどうぞ。何なら俺がやってもいい」

 

 「ああ! その言葉忘れるなよ!!」

 

 エースがますますムキになったのが解った。

 とはいえ、おそらくルフィは言わないだろう。

 原作では拷問されても海賊貯金のことを言わなかった。あれ以上に悪いことなんてそうそう起こるわけない。

 万一言ったとしたら、それはそれで……仕方が無い。嘘が吐けないのは性格上仕方が無いにしても、約束を守れないんだったらエースの出生を知られるわけにはいかないんだし。死なせる気は無いけど、距離を置かざるを得ない。

 

 「おい、ユアン……エースのヤツ、何か碌でもないこと考えてるっぽいぞ?」

 

 今まで俺たちのやり取りを黙って見てたサボが、妙なやる気に燃えているエースに若干不安そうにしている。

 

 「放っといたら、それこそそのルフィってヤツを襲撃しかねないぞ? いいのか?」

 

 ……だろうね。そうするように仕向けたんだから。

 

 

 

 

 俺はルフィに、エースともう1人サボは能力のことを知っている、と言った。誰にも言わないと約束したとはいえ、相手もそのことを知ってる人間ならば聞かれれば話す可能性は高い。普通なら。恐らくはエースもそう考えてると思う。

 しかしルフィは、素直な子だ。そして素直というのは、裏を返せば融通が利かないとも言える。つまり、言葉を額面通りに捉えるってことだ。『誰にも』と言ったなら、本当に『誰にも』話さない。

 ムキになってるエースは間違いなくルフィから俺の能力のことを聞き出しに行くだろうが、ルフィは話さないだろう。

 ルフィが話さなくても、多分エースはすぐには信じない。その内苛立ってくれば、強硬手段に出る可能性もある。

 しかしそれでも喋らなかったら……信用を得られるだろう。

 

 

 

 

 俺も嫌なことを考える。

 フゥ、と自嘲気味の笑みがこぼれた。サボはそれに気付いたらしくて訝しんでいたけど、俺ははぐらかしておいた。

 言えるわけがない。

 エースを唆してルフィを襲わせようとしてるからだ、なんて。

 

 

 

 

 エースが多少無茶しても、海賊の拷問よりはずっとマシなはずだ。

 俺は自分にそう言い訳していた。

 けど、それでも一応、いざって時のために見張っておこうかな……。

 

 

 

 

 このとき俺の脳裏には、策士策に溺れるという言葉が何となく過ぎっていたのだった。


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