俺が自己嫌悪に陥ってる間に、ルフィは泣き止んでいた。
それはいい、いいんだけどねルフィ君……何でそんなガン見してくるんだい?
「そっか……思い出したぞ!」
え、何を? 何でそんなキラキラした眼差しを向けてくるのかな?
「食われかけて! 水に浸かって! 思い出した!」
何やら興奮状態のルフィ。
……水に浸かってって、この状況か?
今俺は、ルフィの下半身を川に浸けた状態で支えている。その方が洗いやすいからだ。本当なら川の浅瀬に入りたかったんだけど、俺もルフィもカナヅチだからね。そんな怖いことできません。
そのおかげで、本当なら俺よりちょっと大きいルフィが俺を見上げる形になってるんだけど……うん、何でガシィッと両手で俺の顔を掴んで覗き込んでるのかな?
………………って、ちょっと待て!
食われかけ+水の中+超至近距離! なんか似た状況を知ってるような……ヤバイ!
「ル、ルフィ? 疲れただろ? 今日はもう帰ってだな」
俺はそれとなく……いや、あからさまに話を逸らそうとした。が。
「おれ、ユアンと前にどっかで会ったことがあるような気がしてたんだ! でも違ったんだ!」
ルフィ話聞いてねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 何この子!
いやうん、知ってた! ルフィは人の話聞かないことが多い子だってのは知ってた! 知ってたけど!
あぁ、そんな嬉しそうな顔をして……小憎たらしい!
「ユアン、お前!」
俺は次にルフィが発するであろう言葉が想像できてしまって、冷や汗が流れた。
「お前、シャンクスに似てんだ! 髪赤いし! ちびシャンクスだ!」
O✩WA✩TA!!
コイツ、俺の3年間をあっさり無に帰しやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「………………」
俺は無言でルフィから離れた。
「ユアン? どうしたんだ?」
ルフィは不思議そうな顔をしてるけど、エースとサボはちょっと引いてる。
そりゃそうだよね。解りやすくorz状態になってるヤツになんて近付きたくないよね、めんどくさそうだもんな!!
そうだよ、俺の髪赤いよ! それは鏡見る前から気付いてたよ! 前世は平凡な黒髪だったからちょっと嬉しかったよ! わーカッコいい、とか思っちゃってたよ、3歳以前の俺は!!
それに、公式のイケメン顔だよ! 幼いけど! 不精ひげも3本傷も無いけど!!
ついでに言うなら、日記によると母さんの生前の経歴はロジャー海賊団→赤髪海賊団だよ!!
ベン・ベックマンとかヤソップとかラッキー・ルゥとかの名前も出てきてたよ!!
でもそれが何か!? 世の中自分に似た人が3人はいるって言うぞ!? 日記でも細かいこと書いてなかったし!!
えぇ、開き直りですけど何か!?
………………って!
「麦わら帽子を被せようとすんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
いつの間にか隣に来ていたルフィが俺に麦わらを被せようとしていた。
急に怒鳴られてビクッと固まるルフィ。でも、おずおずと食い下がってきた。
「で、でも! 似合うと思うぞ!?」
「思うなっ!!」
止めろ、マジでヤメロ!!
「何でそんなに嫌がるんだよ!おれの宝物だぞ!」
流石にムッとしてきたらしく、ルフィも怒りながら言葉を返してきた。
「宝物なら大事にしてろ! 人に渡すな!」
原作では、仲間以外が触ったら怒ってたくせに!
あ、何か俺泣きそう。心の中では既に滝の涙流してるけどね!
だって何だかどんどん外堀埋められてくんだよ!
「……ユアンがこんなに取り乱すとこなんて、初めて見た」
「おれもだ」
だろうね、サボ、エース!
俺の記憶にだって無いよ、こんなの!
……もういいや、もうやめよう。何か疲れちゃったし、虚しいだけだから無駄なあがきはやめよう。
母さんの経歴や日記の記述、俺の見た目からして。
多分俺の父親って、かの『赤髪』のシャンクスだと思います、はい。
そもそも母さん……どうせなら日記に何か一言残しといて欲しかった……それらしいことはいくつか書いてあったのに、はっきりとしたことは書いてなかったから……俺も、考えないようにしてたんだ。
だってこれ以上設定増やして欲しくない!
相手は四皇だよ!? いや、今の時点でどうだかは知んないけどさ。何、この右も左も前も後ろも赤信号のような状況! 一体どんな罰ゲーム!?
いや、増やしてるわけじゃないのか? 産まれる前からある設定なわけだから……ダメだ、頭の中のキャパシティ超えてきた。わけ解らんくなってきてるよ。
仕方がない、こうなったら考え方を変えてみよう。
赤っ鼻顔よりマシだと思おう!
別にイケメンである必要はないけどさ……流石にあの鼻は……うん、嫌すぎる!
うん、そうだそうだ。同じ赤なら鼻より髪の方がマシだ!
……しかも恐ろしいことに、それって決して有り得ない話じゃなかったのかもしれないし。
日記にあった。
(ロジャー海賊団のころ)
『今日は赤鼻が敵船で見付けたっていう宝石をくれた。宝物大好きのくせに珍しい』
とか。
(同じく)
『いらなくなった本を赤鼻にあげた。でも、妙にニヤけてたのは何でだろう?しかも鼻以外も赤くなってた』
とか。
え、日常的に赤鼻って呼んでたの? とか思ったけど、今はそのツッコミはどうでもいいから置いといて……母さん、それって多分、赤っ鼻ってば母さんのこと好きだったんじゃね? 的な箇所が随所に見られた。
うん、本人全く気付いてなかったみたいだけどね! 母さん、すっごいニブかったんだね!?
しかも、ロジャーが処刑された日に会ったとき、一緒に海賊やらないかって誘われたらしい。
即行断ったみたいだけどな! 母さんグッジョブ!
よかったー、クマみたいな頭しながらライオンに乗るヤツや、一輪車に乗りながら刀振り回すようなヤツとお仲間になってなくて!
…でも、同じ日に『赤髪』に誘われて仲間になったらしいけど。え、それはそれでどうなの? ねぇどうなの? と思ったよ、うん。
とにかく、万が一ってのも充分あり得たわけで……赤っ鼻よりはマシだな!
いや、バギーが嫌いなわけじゃないんだよ? 味のあるキャラだよね。ただ、自分が赤っ鼻になってたらと思うと……断固拒否する!
そうだ、そう考えればいいんだ!
そこまで考えて俺は一気に浮上した。
「よし、もう大丈夫!!」
グッと握った拳を天に突き出し宣言した俺に、3つの視線が突き刺さった。
「いきなり沈んだり浮かんだり、忙しいヤツだな」
「ユアンって面白いんだな!」
「……今はそっとしといてやろうぜ」
上からエース・ルフィ・サボのセリフだ。
ちなみに、ルフィとサボは俺があれこれ考えてる間に自己紹介しあったらしい。視界の端でチラッと見てました。原作とは違って、最初からそれなりに友好的だった……まぁ状況が状況だし、サボは元々エースほど警戒心の強いタイプじゃないしね。
にしても……生暖かい視線が地味に堪える。まるでイタイ子を見るよーな目で……。
まぁとにかく、落ち込んでた気分も一緒に上がってきたからヨシとしておこうかな。