あの、『エースがルフィを襲撃したら狼が現れちゃった事件』から、早3ヶ月。
え? 展開速いって? だって、これといった問題の無い3ヶ月だったんだよ。
予想通り、エースとルフィの関係は急速に親密になった。何しろ、元々波長の近い2人だし。わだかまりさえ無くなれば後は早かった。
エースがルフィに対して襲ったことを謝った時も、ルフィはあっさり許した。
本当なら俺も謝るべきなのかもだけど、言わなかった。これ以上事態をややこしくしたくなかったからね。
グレイターミナルにまで行くのに、ルフィは体力不足だった。だから、毎日俺と一緒に基礎トレーニングしてる。ランニングとか腕立てとか、その他諸々。
頑張ってるよ、ルフィ。どうやら、俺にも敵わなかったのが相当悔しかったらしい。
でもさ……いくら俺の方が1歳年下とはいえ、2年早く修行を始めてるんだから……これで負けてたら、俺、自分に自信が無くなっちゃうって。
それはそれとして、俺とルフィの関係は……何か懐かれた。ってか、めっちゃフレンドリー?
やっぱ、憧れの人に似てると思うと親近感が湧くらしい。でも、似てるってことについては『気のせいだ』って言っておいた。ルフィは『気のせいか』って納得してくれた……よかった、素直な子で!
自分で現実を直視したからって、何もそれを人にまで言う必要は無いしね?
で、そんなこんなで3ヶ月経った現在。
サボが俺たちの家に来てます。俺たちっていうか、ダダンの家ね。
理由は簡単、原作通りのことが起こったからだ。
エースがブルージャム一味から金を盗み、それがバレた。
原作と違うのは、ルフィが捕まったりしなかったってことだね。当然、一緒に連れて隠れました。うん……既に狼に食われかけるって経験してるのに今度は海賊の拷問なんて受けたら、どんだけツイてない子なんだって話だよ。
話を戻して……とにかく、俺たちはそこそこ有名だ。エースとサボとユアン……悪童3人組ってね。この中にルフィは入ってない。まだ周りに認知されてないからだけど……多分、そう掛からずに加わるだろう。
何にせよ、お陰でサボはゴミ山で寝起き出来ない身の上になったわけで。
ダダンの家が託児施設に見えてきた今日この頃だよ。
サボとダダンの間でショートコントは起こったけど……うん、問題ナシ!
では何が起こってこんな話をしてるのかっていうと……コトはあるありふれた平凡な朝にやってきた。
エースとルフィが肉の取り合いをしてる傍ら、俺はダダンたちにもらった新聞を読んでた。これは最近の毎朝の習慣だ。情報は大事だよね!
サボも俺と一緒に読んでたりする。
で、だ。
「………………コレ何?」
俺の目の前にあるのは、新聞の間から落ちた1枚の紙切れ。
「何って、手配書だろうが。お前の母親の」
うん、ダダン、それは見れば解る。解るけど……。
「母さん、死んでるじゃん……6年も前に。それで、何で今日の新聞に手配書が入ってるわけ?」
そう、問題はそこだ。
死んでる人間が悪事なんて働けるわけがない。つまり、手配される理由が無い。元々賞金首だったとするなら、再び手配書が発行されるのは賞金額が上がった時だろうけど……それもあり得ないだろう?
それに、と俺はもう1度手配書を見た。
添付された写真は、俺の記憶にある母さんの姿よりも若い……というか、幼い。12~13歳ぐらいかな。多分まだロジャー海賊団だったころの写真なんだと思う。
そして、そこに書かれた賞金額は……。
『治癒姫』 ルミナ 懸賞金6億8000万ベリー
高すぎだろ!?
原作ではエース5億5000万、ルフィ4億(魚人島編まで)。それより高いって。
それに、ルミナって、名前だけか? 『モンキー・D』は付けないのか? 海軍の英雄と言われている祖父ちゃんを慮ってるとか? ……けど、それなら原作でルフィがフルネームで手配されてたことの説明がつかなくなる。
いや、写真や名前や手配額はこの際無視できる。1番可笑しいのは……。
「『ALIVE』……生け捕りに限る?」
通常手配書に書かれるのは『DEAD OR ALIVE』、『生死を問わず』のはずだ。
なのに母さんの手配書に書かれているのは『ALIVE』の文字。
え、どういうこと?
「驚いたか?」
ダダンが溜息と共に聞いてきたから、俺はコクコクと頷いた。
「お前だけじゃないさ。初めてこの手配書が世に出回った時は、世界中が驚いたもんだ。何せ、『ALIVE』だなんて、それまで見たことがなかったからね」
あ、やっぱり? 俺だってこんな手配書、見たことも聞いたことも無かった。
「理由は知らないけど、海軍は何が何でもコイツを生け捕りたいみたいだね。6年ほど前にぷっつりと消息が途絶えた後も、こうして度々手配書が発行される。賞金額を釣り上げながらだ」
6年前……俺が産まれた頃だ。時期的には重なる。でも、度々って……。
「祖父ちゃんは、母さんが死んだことも知ってるはずなのに……報告してないのかな?」
さあね、とダダンは肩を竦めた。
「ガープの考えてることなんて、アタシに解るわけないだろ」
そりゃそうだ。
しかし何故、こんなにも生け捕りに拘るのか……。
ふと、以前……悪魔の実を食べた後にジジイが言っていたことを思い出した。
『お主の母親は一端の海賊として懸賞金も掛けられておったし、伝説のクルーとして知名度も高かった。まぁ、本人の能力にも原因の一端はあったようじゃがな』
母さんの能力。日記で読む限りでは、母さんが持っていた特殊といえる能力は2つ。
1つは悪魔の実の能力。母さんは『超人系 チユチユの実』の回復人間だったらしい。それを知った時は『治癒姫』っていう二つ名にも納得した。
ただ、母さんが治せるのは怪我だけだったらしい。病気も治せてたら船長……ロジャーの病気も何とかできたんじゃ、って悔しがってた。
もう1つは、見聞色の覇気。空島のアイサのように、生まれつき使えたらしい。
……だからこそ、日記には覇気習得の方法が書いてなかったのかも、とも思う。初めから使えたのなら修行する必要ないもんね。武装色はどうしてたのか解んないけど。
うん……やっぱり、そんな躍起になって生け捕りたいと思うような能力とも思えないよなぁ。いや、治癒能力は垂涎ものとは言えるんだろうけどさ、ここまでとは……。
祖父ちゃんに聞けば解るかな? いや、知ってても教えてくれない可能性が高いか。
くそ、何でこんなにワケ解んないことばっかなんだよ、俺の周りは。
「あれ? おれこの人知ってるぞ?」
手配書を見て考え込んでいたら、いつの間にかエースが俺の後ろに立っていた。そのさらに後ろでは、ルフィが涙目になってる。
あ、肉争奪戦はやっぱりエースが勝ったんだ……って、何?
「知ってるって!?」
この人、って明らかにこの手配書の人、つまり俺の母さんだよね!?
「あ、ああ」
エースは俺の驚いた様子に面食らったようだった。
「もう、随分前のことになるけどな。ここまで来たんだよ。この人がお前の母親だったのか……そういや、腹がでかかったな。」
俺はエースからダダンに視線を移した。ダダンもエースの言葉に頷いている。
「6年前になるか。お前が産まれる前のことだろうね。エースの様子を見に来たって言ってたよ。なにしろ海賊王の元クルーだ、どこで聞いたかは知らないが可笑しな話じゃないと思った。……その数ヵ月後にガープがお前をここに連れてきて、初めてあの女がガープの娘だったと知ったのさ。」
え、てことは……。
「アレって、エースのことだったんだ」
「アレ?」
「日記に書かれてた子のことだよ」
日記の存在はエースは勿論、今はサボやルフィだって知ってる。ダダンたちにしろ、コレに関しては知られたって構わない。本来、ただの日記がそこまで危険なアイテムになんてなりようがないから、多分スルーしてくれるだろう。
「最後の方のページにあったんだ。『今日とっても可愛い子に会った』って」
「んなっ……かっ、可愛くなんてねーし!!」
顔を真っ赤にさせながらムキになるエース……うん、可愛い。
でも、そうか……エースと母さんに面識があったとは。
「けど、そのときエースは4歳だったんだろ? よく覚えてたな」
ふと疑問に思って訊ねてみたら、視線を逸らされた。
「………………初めてだったから……」
暫く待つと、ポツリとした呟きが返ってきた。
「初めて……優しくしてくれた人だったから……」
あぁ……なるほど。
ダダンたちは、解りやすい優しさなんてくれない。それは俺自身ここで育ったんだからよく知ってる。
祖父ちゃんは……うん、あれ、本人は可愛がってるつもりなんだろうけどねぇ。やられてる方からしたら……虐待? 拷問? って感じなんだよね。
まぁ、とにかく。
俺はまた手配書を見た。
明らかにこの手配書は異常だ。何もしていないのに上がる賞金額、『ALIVE』の文。それでも、必要最低限の情報しか教えてくれない手配書1枚では、謎は解けない。
俺には直接の関わりはないのかもしれないけど……それでもやっぱり気になるものは気になるんだ。
いつか、この謎が解ける日はやってくるんだろうか。