修行と称して、俺たちは4人で1日150戦してる。
原作じゃ1日100戦じゃなかったかって? 俺がいる分が増えてるんだよ。
結果から言おう。
エースとサボが戦うと、いい勝負になる。でも少しエースが競り勝つってトコだね。うん、いいライバル関係だ。
俺は今のところ、エースにもサボにも1勝もできてない。かなり悔しいけど……ルフィよりはマシだろう。
ルフィはエースにもサボにも俺にも1回も勝ったことが無い。そう、俺ってばルフィに勝っちゃったんだよ! 相手が7歳の子どもだって事実は取りあえず考えない! だって嬉しかった! 本人はものすっごく悔しがってるけどさ……ルフィって、モノにできてないゴムゴムの技を使おうとして自爆してるんだよね。
まぁとにかく、それなりに充実した日常を送ってたんだけど……。
天竜人によるゴア王国訪問。
そのニュースを新聞で知り、俺はこれから起こるであろうことに思いを馳せた。
これがいつ出てくるかと内心待ち構えながら新聞を読んでいた。
けれど、だからといって流石に何かが出来るような問題でもなく、日常は一見穏やかに過ぎていた。
そして……。
「食い逃げだー!!」
今日も今日とて食い逃げに精を出す俺たち4人。
あれからまた月日が経ち、俺たちはすっかり悪童4人組と認識されていた。ルフィもしっかり染まっちゃってるよ!
食い逃げなんて日常茶飯事。むしろ前より頻度が増えている。
そんないつも通りのある日のこと……ついに来るべき時がやってきた。
「サボ!? サボじゃないか、待ちなさい! お前生きてたのか!」
逃走中の俺たち……いや、サボに声を掛けた1人の男。でっぷりとした中年親父だ。
ギクッと表情を引き攣らせるサボを見て、あぁ、あれがあの憎たらしい貴族親父か、と納得した。
けれどとにかく、その場は他人のフリで逃げ切った。
で、当然こういう状況になるわけだ。
おれたちの間で隠し事があっていいのか、とサボに詰め寄るエースとルフィ。
ゴメンナサイ、俺も皆に色々隠してます、末来を知ってるとかさ……なんてことは心の中に仕舞っておく。
サボは言いにくそうにしてる……当然か、ウソを吐いてました、なんて告白するのには勇気がいるだろう。だから。
「……サボって、貴族の子なんじゃない?」
俺の方から話を切り出してみました。それまで黙ってた俺が口を開いたことで、注目がこっちに集まる。
「どうして……?」
サボの顔がちょっと青くなってる。
原作知識です……とは、当然言えない。なので、それっぽい理由を口にした。
「元々、サボがゴミ山出身の孤児だとは思ってなかった。だって、それにしては教養があったから」
と、苦笑と共にハッタリをかましました。
でも決してウソではない。
現代日本における識字率は100%といわれる。けれどその感覚は、この世界では通用しない。決して低いわけじゃないけど、100%じゃないんだよ。
特にゴミ山……グレイターミナルは、スラムよりも酷い生活環境の場だ。そこに成長してから流れ着いた大人ならともかく、子ども、それも孤児が字を読めるなんて不自然な話だ。そんな中サボは、エースやルフィよりずっとしっかりとした読み書きができていた。
俺? 俺は転生者だからね、知識はあります。この世界の書き言葉はアルファベットが多かったけど、前世で高校生だった俺にはそれも慣れたものだったから。
他にも、航海術とか医術とか、広く浅くだけど色んなことを知ってた。
つまりサボには、冷静に考えれば不審な点がいくつかあったってことだ。
「だから、言ってた経歴は事実と違うんだろうなって思ってた……で、さっきの男は多分、いや間違いなく貴族。アイツの口振りからして、アレはサボの父親……違う?」
「違わ……ない」
サボは力なく項垂れた。
「気付いてたなら、何で言わなかったんだ?」
何で、と言われてもねぇ。
最初から知ってたから特に気にしてなかったし、何より。
「貴族のおぼっちゃんだろうとゴミ山の孤児だろうと、サボはサボだしねぇ」
うん、そうとしか言い様がない。
それにさっきも思ったけど、俺自身隠し事をしてる身だからね。深く詮索出来ない。
「……ゴメン、ウソ吐いてた」
俯いて唇を噛み締めながら謝るサボ。
それを聞いた俺たちの反応は大きく違ったけれど。
俺は当然、それほど気にしてないから変化ナシ。ルフィも、謝ったならいいとあっさり許した。
反対にわだかまりを残したのはエースだった。
「貴族の家に生まれて、何でゴミ山なんかに……」
多分、本当にショックなのはそれじゃないだろう。
警戒心の強い人間ほど、1度信じた人間にはとことん気を許す。だからこそ、その相手に隠し事をされたのが悲しいんだと思う。
もしサボがウソを吐いたのがくだらない理由だったりしたら、しばらく凹み続けるだろう。
でもサボがゴミ山に来たのは、貴族としての人生に耐えられなくなったからだ。
サボが語る高町での生活。
地位や財産にしか興味のない両親、王族の女と結婚できなければクズ扱い。
……他人の俺が言うのもアレだけどさ。嫌な親だよな。
「お前らには悪いけど、おれは両親がいてもずっと1人だった」
そうだよなぁ……傍に孤独ってのは何も、周りに誰もいないって意味じゃないもんなぁ……難しいよ……。
見た目のきらびやかさと裕福さで貴族に憧れるなんて、馬鹿だと思う。本来王族・貴族というのは重い責任を持つ者たちだし、その責任を放棄した馬鹿王や馬鹿貴族の末路は知れたものだろう。たとえそれが何年、何十年、何百年後の話であったとしても。
まぁ、サボの告白でエースが納得したから、ぎこちなさが消えたのはよかったけどね。
結局のところ、サボが求めてるのは自由なんだ。だから海賊に憧れている。自由に世界を見て周りそれを伝える本を書く……それがサボの夢。
その発言に押されたのか、エースとルフィも自身の夢を語った。
エースは、名声を手に入れて世界に自分を認めさせる……うん、その気持ちは解る、解るんだけど…………どうしても、頂上戦争を思い出してしまう。
本当に欲しいのは名声なんかじゃなかったって……そんなの、死ぬ直前に解ったってどうしようもないじゃないか。
けど……そんなメラメラと燃えるような目で言われたら、水を差せない。それに、やっぱり自分で気付いてくれないと意味が無い。
俺は密かに溜息を吐いた。さすがは後のメラメラの実の能力者、熱いねぇ……って、関係ないか。
ルフィの夢は解るだろう。海賊王だ。本当にブレないな。
……ん? あれ、俺見られてる? 俺の夢も言わなきゃいけない?
「俺は、歴史を変えることかな」
「あ! それ、初めて会ったときも言ってたな! どういうことなんだ?」
ルフィが聞いてきた。うん、そういえば言ったね。
「そのまんまだよ。歴史……っていうか、未来かな?新たな未来を作りたいんだよ…………後は、世界を見て回れたらいいかな。色々と面白いものがあちこちにありそうだし。でも別に、海賊団を結成したいとかは思わないかな。海賊は楽しそうかもとは思うけど、船長とかには興味ないし」
夢、というか目標だけど未来……頂上戦争の結末を変えたいと思ってるからね。ウソじゃない。っていうかさ。
「俺はともかく……3人とも船長になりたいってこと? マズくないか?」
原作でも言ってたよね。俺が言うと3人は顔を見合わせた。
「それは確かに……」
「サボ……お前はおれの船の航海士かと」
「え~、みんなおれの船に乗ろうぜー?」
あぁ、難しい顔しちゃって…………って。
「何で俺の方見るんだよ」
そう、3人揃ってガン見してきてます。ちょ、見られすぎて怖いよ?
「ユアン! お前は誰の船に乗る!?」
「おれの船だよな!?」
「おれだろ!?」
………………え? これどんな状況?