結局火事は消火活動などされず、自然鎮火が待たれることになった。
そして、サボも捕まってしまい……家に連れ戻されてしまった。
この期に及んでまだサボの父親はサボに、自分達のために生きろ、それがお前の幸せでもあるのだから、とのたまう。
って、そりゃお前らが幸せなだけだろうが!
プチ、と血管が切れる音がした。俺からも……サボからも。
「サボ」
何故か高笑いしているオッサンを尻目に、俺はこっそりとサボに話しかけた。
「……何だ?」
サボ?何で俺を見て若干口元引き攣ってるの?
やだなぁ、俺こんなに満面の笑顔じゃんか✩
って、そんなことより。
「今俺がお前の父さんを再起不能にしたら、怒る?」
にっこり笑顔で聞いてみました。
サボは少し考えたけれど……やがて、諦めたように笑った。
「……怒れないな」
怒らない、ではなく、怒れない……か。その寂しそうな顔は、何故なのか。
親子なのに価値観が相容れないせいか、はたまた、親が暴行を加えられようとしているのに止める気が起こらないせいか。
俺は1つ頷くと、サボのポケットから出た。
勿論、本当に再起不能になんかする気はない。けれど……黙って引き下がる気にもなれない。
「解除」
俺はオッサンの背後まで来て能力解除し、元のサイズに戻った。
「ん?」
聞きなれない声にオッサンが振り向こうとしたその瞬間。
「うっぐ!」
鳩尾に一発拳を叩き込みました。
常識で考えれば、俺は子どもで向こうは大人。そう期待できる一撃じゃない。
でも、油断してる時に急所への不意打ちは、かなり効く。しかも、俺は日々鍛えているのに向こうはでっぷりだ。
意識を奪う、とまではいかなくとも、しばらく動きを止めるには充分だろう。
「な、だ、誰だ……!」
答える義務はございません。
「1/50」
俺はオッサンに向けて能力を発動させた。
結果のみ簡潔に述べよう。
俺は、サボの父親を今出来る極限まで小さくした。未だに解除はしてないから小さいままだろう。いつか、腹の虫が収まったら元のサイズの戻してあげようかとは思ってる。
サボはそのまま再び家を飛び出し(勿論、俺も一緒だ)……決意したらしい。
少し早いけど、出航することを。
それ自体には、俺も賛成だ。
子ども1人が海に出て生きていくのはそりゃ大変だろうけど、このままこの国にいてもサボは自由になんてなれない。サボの両親が諦めでもしない限り、この国にサボの居場所はなくなる。腐っても貴族だからね、始末に悪いことに権力は持ってる。どこにいたって、連れ戻されてしまう可能性が高い。
当面の問題は1つ。そう、天竜人のことだ。
はるかに広がる大海原。その先には、新たな世界と冒険がある。
「行くんだね」
Sに×がついた旗を掲げ、サボは小船の上にいる。
「ああ。いい船出日和だ」
確かに、風は穏やかで波は静か。空は快晴……図ったかのように恵まれた天候だ。
「黙って行くこと、エースやルフィに謝っといてくれ。あと……これエースに渡してくれよ」
手渡されたのは、手紙だった。多分、原作でも出てきたあの手紙だろう。
俺は頷くと、受け取ったソレをポケットにしまう。
「サボ、俺は止めないけど……1つだけ、聞いといてくれる?」
「何だ?」
「ある意味、あの火事の原因にもなった存在……世界政府の視察船のこと」
さぁ、これが今回の俺のもう1つの目的。
「今日、このゴア王国に来る。新聞で読んだんだ、そこに乗ってる人のこと。天竜人がいるんだ」
「天竜人?」
サボが不思議そうにした。
「って、世界貴族のか?」
流石に貴族出身なだけあって、サボは天竜人という存在のことは知っていたらしい。でも、嫌な感情は持って無さそうだ。多分、知らないんだろう。その実態がどういうものか。
「そう、その天竜人。どこかで聞いたような気がすると思ったけどさ、母さんの日記で出てきてたんだ」
これは本当のことである。ついでに、クソミソに貶していた……気持ちはよく解る。
「グランドラインを半分過ぎたところでぶつかるレッドライン。その近くにあるシャボンディ諸島ってトコで見かけたんだって。んでもって……」
俺は、俺の知る限りの天竜人の所業を話した。
奴隷の所持・使用、民間人を射殺、気に入った女を問答無用で連れ去る…………聞いていく内にサボの顔色がどんどん悪くなっていく。
サボが『恥ずかしい』と言ったこの国の貴族。それすらも上回る権力と横暴。
「だから、できるだけその視察船には近付かないで欲しいんだ。もしかしたら、妙な因縁をつけられるかもしれない」
俺の願い……忠告に、サボはしっかりと頷いた。
ホッと胸を撫で下ろす。思っていたよりも俺は緊張していたみたいだ。
「じゃあ、行ってくる……いつか読めよ! おれが書いた本!」
ニッ笑うその顔には、明らかに未来への希望があった。俺もつられて笑う。
「楽しみに待ってるよ。いってらっしゃい」
いつか、この海で会える日を楽しみに待っている。そう告げると、サボは遂に出航していった。
小船が、微かに見えてきた世界政府の視察船とは明らかに違う方向へと進んでいくのが見えて、俺は再び安堵の溜息を吐いたのだった。
「そうか……」
コトの経緯を聞いたエースの第一声はソレだった。
あの後俺は小船が見えなくなるとすぐにダダンの家に向かった。まぁ、直後に秘密基地に戻ったけど。
その時ちょっと驚いたのは、ダダンが怪我をしてなかったことだ。
あれ、原作と違くない? って思ったけど……理由は簡単だった。
エースとルフィは、原作よりも随分と早く縛られていた縄から脱出できたらしい。ナイフありがとうって言われた。
よかった、役に立って……というより、エースが妙な事しなくて! 渡したはいいけど、ちょっと不安だったんだよね。無茶しやしないかって。
でも、ちゃんと自重してくれてたらしい。
んで、原作よりも早く逃げられた2人はブルージャムと鉢合わせることもなく、ダダンたちが心配して様子を見に来たころに合流できた、と。
…………アレ?でもそうなると、エースの初☆覇王色の覇気使用イベントがお流れに?
まぁいいか。あるもんはあるんだし。今出さなくても海に出ればいつかは出てくるだろう。
「サボ行っちまったのか~」
残念そうに、けれど羨ましそうにルフィが呟いた。
エースは、サボからの手紙を読んでいる。
「まぁ、男の船出だしね。止める理由はないよ」
ちょっとドラゴンの真似してみました。
そうだな、と笑うルフィと話しながら、俺はこっそりエースの様子を窺っていた。
今の流れでは、サボは天竜人に攻撃されていない。つまり、死亡フラグが立っていない。
だから、その手紙を読んでも原作のように号泣はしてないけど……。
誰よりも自由に、『くい』のないように生きる。
多分その思いは、胸に深く刻み込まれているのだろう。