麦わらの副船長   作:深山 雅

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第30話 エースの船出

 エースは17歳になった。そう、旅立ちの時だ。

 

 

 

 

 出発の前夜、俺はルフィが眠ってからエースにちょっと話をした。

 

 「これ、何だ?」

 

 エースは俺が渡した包みを不思議そうに見る。

 

 「餞別だよ。俺からの」

 

 テンガロンハットはルフィからだからね。俺は俺で別に用意してみた。

 ちなみに中身は……。

 

 「ジャケットか?」

 

 そう、黒のジャケットである。大きめのサイズで選んだから、後々も使えるはずだ。だから。

 

 「出来れば、『いつも』身に付けて欲しいんだ」

 

 「……何で『いつも』を強調するんだ?」

 

 訝しげなエース。だって……ねぇ……。

 

 「ほんの数年見ない間に尊敬する兄ちゃんが変態化するのは忍びないからね」

 

 言うと、エースは目に見えて不機嫌になった。

 

 「何だよ、それ。おれのことか? どういう意味だよ」

 

 言った通りの意味です。

 だって……日常的に半裸って、変態以外の何者でもないと思うんだ。前世で初めてエースを見た(読んだ)ときは、どこの露出狂だ! とか思っちゃったよ。

 

 男の上半身なんてさほど気にすることないだろ、と思うかもしれないけど……考えてみて欲しい。半裸の男が町を普通に歩く姿を……うん、前世の俺なら絶対不審者として警察に通報する!!

 シャツの前ボタン開襟程度ならまだともかく……流石に、半裸は…………。『変態』を褒め言葉として受け取るフランキーですら、上にはシャツ下には海パンって一応は上下共身に付けてるってのに、エース…………半裸って。どんだけ自分の身体に自信を持ってたらあんなことが出来るんだろう……半裸って……。

 いや、別に変態的嗜好で半裸になってたわけじゃないのは解ってる。背中の『誇り』を見せてただけだってのは。

 でも、それならそれで……何で『誇り』を入れる部位に背中をチョイスしたんだ? 腕でも何でも、他にいくらでもあっただろ? そんなに白ひげと同じにしたかったのか? でも白ひげ、普段は上着てたよね……何でエースは常に半裸……。

 ダメだ、頭痛くなってきた。そもそも、なんだってこんなに半裸半裸って連呼しなきゃいけなくなったんだ!?

 米神を押さえてブンブンと頭を振った俺にエースが嘆息した。

 そうだ、それよりも頼みたいことがあったんだ。

 

 「それはそれとしてさ、ちょっとこれも持ってってくれない?」

 

 次いで俺が渡したのは、小さな封筒が2つ。中身はそれぞれ……。

 

 「何だこりゃ? 爪か?」

 

 そう、俺とルフィの爪である。

 

 「エースは、ビブルカードって知ってる?」

 

 聞くと、エースはキョトンとした顔になった。やっぱりまだ知らないか。

 ビブルカード。原作ではエースがルフィに渡し、後に重要なアイテムになったアレである。

 しかし、今のエースはまだ出航前。知らなくて当然だ。

 でも俺は、原作知識として知っている。もし知らなかったとしても、日記に書いてあった。流石母さん、元・グランドラインの海賊。

 

 「グランドラインの後半、新世界と呼ばれる海にある技術なんだって。別名『命の紙』。爪を混ぜ込んで作る紙で、その爪の持ち主の現在地や生命力を教えてくれるんだって」

 

 かなりおおざっぱな説明だけど、間違ってはいないはずだ。

 

 「もしエースがそれを作る人に出会えたら、俺たちの分も作っといて欲しいんだ」

 

 「別にいいけど……作ったところで渡せねぇぞ?」

 

 うん、普通ならそう考えるだろう。

 何しろ3年のスパンが開くんだ。渡す機会が無いなら頼む意味がない。

 でもまぁ、原作を知ってる俺としては……アラバスタで会えるって解ってるからね……口には出せないけど。でも、言い訳は用意してあるよ?

 

 「いいよ、別に。会えたら渡してくれればいいし、会えなかったら会えなかったでエースが持っててくれれば。その時は俺たちが自分で作りに行くから、エースのソレは俺たちの生存確認にでも使ってよ」

 

 正直、ビブルカードを手に入れたからって、それで何かを企んでるわけでもない。俺としては、あれば便利、ぐらいの認識だったりする。

 せいぜい、どこぞの迷子剣士に渡しておこうと思うぐらいだ……尤も、目の前を走ってる人間を追いかけることもままならないようなヤツにそんなの渡しても、意味は無いかもしれないけど。

 エースは納得はしてくれたらしく、封筒を荷物の中に仕舞った。

 

 「にしてもお前、自分のはともかく、ルフィの爪なんていつ手に入れたんだ?」

 

 ふと疑問に思ったらしく、エースは俺に訊ねてきた。俺は肩を竦めて答える。

 

 「さっき。寝ているルフィからこれで削り取ってきた」

 

 言って俺が見せたのは、小さなナイフである。

 チラ、とエースはぐーすか寝こけてるルフィに視線をやり……その指先に絆創膏が巻かれてるのを見つけたらしく、口元を引き攣らせた……うん。

 

 「ちょっと手元が滑っちゃってね。大丈夫、手当てはしといた」

 

 まぁ、大した傷じゃなかったし。

 

 「……この場合、何の躊躇もなく寝ている兄貴の爪を削げるお前と、指を切られたってのにそれでも起きねぇルフィ、どっちが大物なんだろうな」

 

 どことな~く遠い目をするエース……大げさな。いいじゃん、別に爪を剥ぎ取ったわけじゃないんだから。ちょっと削っただけだし。ってかさ。

 

 「どっちが大物って、ルフィに決まってんじゃん。ルフィは海賊王になる男だよ!」

 

 これは俺の本心だ。まぁ、紆余曲折はあるだろうけど。

 って、エース? 何でそんなに微妙な顔なの?

 

 「の割にはお前、ルフィの扱いが適当だよな……」

 

 うん、自覚はしてる。でもね。

 

 「親しみを持ってる証だ!」

 

 俺がグッと親指を突き出してイイ笑顔でそう宣言すると、エースは疲れたような諦めたような長い溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 翌日。ルフィ、俺、ダダン一家、マキノさん、フーシャ村村長(名前忘れた)という面々に見送られ、エースは旅立って行った。

 ちなみに、見送りにはダダン一家は来ててもダダン本人は来てなかった。本人は家で不貞腐れてたからね。

 

 「チッ。ガープにどやされるのはアタシなんだよ!」

 

 そんな憎まれ口叩いても、目に涙を溜めた状態では本気で捉えることはできない。これは……あと一押ししたら、ダムが決壊しそうだね。

 

 「大丈夫だよ、エースをここに押し付けたのがまさにその祖父ちゃんなんだから。結局は祖父ちゃんの自業自得だよ」

 

 ダダンの自棄酒に付き合いながら、俺はそう言った。

 ちなみに俺も飲んでます。酒。

 警告します。未成年の飲酒はいけません。

 俺まだ13歳なんだけどね!? 説得力ないね!? いや~、あの盃交わした日に初めて口にしたんだけど、結構好みで……前世は高校生で終わったから飲酒なんてしたことなくてさ、初めて知ったよ。自分が酒好きだってこと。

 だから、時々分けてもらって飲むようになったんだ。ちなみに、エースも一緒に飲んでた。ルフィはジュースの方がいいみたいだけど。

 エースよりも俺のほうが酒に強いということに気付いてちょっと嬉しかったのはここだけの話だ。…………尤も、翌日の二日酔いも俺の方が酷いんだけどね……うん、明日も俺は頭痛くなるだろうなぁ。

 

 「お頭、エースからの伝言だ」

 

 何となく目の据わってきたダダンに声を掛けたヤツがいた。

 

 「なんだい、アイツは最後まで人をバカにする気かい?」

 

 んなワケないじゃん。ほら、メッセンジャーも苦笑してるよ?

 

 「『世話になった、ありがとな』、だそうですぜ」

 

 来ました、一押し。それを聞いて、ダダンのダムは決壊した。

 

 「うっぜーよ、あんのクソガキャーーー!!」

 

 ブワッと溢れ出す涙。ダダンのその様子にルフィが腹を抱えて笑い出した。

 結局その後はそのまま宴会になった。エースのお別れ会みたいなモンだ。本人がもう行っちゃったのに、それも可笑しな話なんだけどね。結局は、寂しいのは俺たちの方ってことか。

 

 

 

 

 

 後の『火拳』のエースの冒険が、今日始まったのだ。 


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