「ゴムゴムの~銃!」
まっすぐにルフィの腕が俺に伸びてくる。しかし、正面からの直線的な攻撃を避けるのは簡単だ。
「剃!」
俺は余裕を持って避けたけど、それはルフィの予想の範囲だろう。
何しろ、2人きりで3年、エースやサボもいた頃から数えると10年もの間共に競い合ってきたんだ。互いの手の内は解っている。
ルフィは銃で伸ばした腕でそのまま先にある木の枝を掴み、ビョンと飛んだ。そして、その腕を支点として回転しながら足を伸ばす。
「ゴムゴムの鞭!」
……まぁ有体に言えば、ものすごくリーチの長い回し蹴りだね。
剃で高速移動中の俺の位置を、ルフィは正確には掴んでいない。だからこういう広範囲攻撃できる技を選んだんだろう。だが。
「月歩!」
その技の難点は、一直線上にあるモノにしかヒットしないということだ。なので、月歩で上空に逃げれば平気……けれどルフィのことだ。むしろそれを狙ってるんだろう。
「ゴムゴムの槍ィ!」
けど……甘い。
「剃刀!」
「いっ!?」
空中を駆けて一瞬で間合いを詰め、俺はルフィの前に現れる。
ゴム人間のルフィにただの蹴りは効かないけれど、その反動で身体が吹き飛ぶ。
「同じ手が2度も通用するかっての。一本だ。俺の勝ち」
そう、実は昨日もルフィは同じ戦法を使った。俺はまんまと嵌って昨日は負けちゃったんだけどね……ちゃんと対策は立てるって。
「くっそ~~~~~~! 負け越した~!!」
やっぱり殆どダメージはないらしいルフィ。でもとても悔しそうだ。それも当然だろう。
何しろ、これでルフィ対俺は324対325なんだから。
昔から恒例だった1日50戦(エースが行ってしまったことでまた減った)は、現在では1日1戦になっている。
というもの、ルフィも俺もそれぞれの修行の成果が出て来たからだ。
ルフィはゴムの制御が出来るようになったし、俺は六式を使えるようになった。それなら、1日に何戦もして時間を取られるよりも各々の修行に集中して自身の技に磨きを掛け、1日に1回手合わせをして互いの成果を見た方がいいんじゃないか、ということになったんだ……というより、俺が提案した。何しろ、1戦決着つけるのにも結構時間が掛かるようになっちゃったからね。
かつては2年のアドバンテージで体力差が大きかったためか俺の連戦連勝だったけど、このスタイルになったころからは一進一退だ。
あのルフィに引けを取っていないと嬉しく思う気持ちもあれば、以前は常勝してた相手に負けるようになって悔しいという思いもあるから、内心は複雑なんだけどね。
とはいえ、俺は六式を使えるようになったって言ったけど、正直言って防御・回避の技……鉄塊と紙絵にはちょっと不安がある。というのも、俺が試しに受けられる最大の技が、ルフィの『ゴムゴムのバズーカ』だからだ。鉄塊でそれを受けた時はギリギリ耐えられたけど、この時期のルフィのバズーカより威力のある技を持ってるヤツなんていくらでもいるだろう。紙絵もだ。これもルフィの銃で試したんだけどさ……避けられはした、したんだけど……どうも紙絵というより剃で避けちゃったような気がするんだよ。
けど俺は苦手なそれらを訓練するよりも、得意な剃や月歩を鍛えることにした。もっと言うなら、速度を極めようとしている。スピード重視の戦法ってことだね。
ちなみに、指銃と嵐脚だと、後者の方が得意だ……頑張ったからね! だってルフィに指銃効かないんだもん!
そうだ、悪魔の実の能力と見聞色の覇気の成果も報告しておこう。
能力の制御の方は順調だ。既に限界の1/100サイズにまで小さく出来るようになった。今はどこまでタイムラグを無くせるかどうかってのが課題。
見聞色の覇気は……うん、本当に、信じる者は救われるね!
エースとルフィに殴られ続けること凡そ7年(ここ3年はルフィだけだけど)。何発何十発何百発何千発と拳を受け続けた甲斐があった! 最近ようやく気配が読めるようになったんだよ!
相手が既に放った攻撃なら大体わかるし、調子が良ければたまに一手先が読めたりもする。範囲は広くないけど、目で見なくても周囲に誰かいるのか解ったりもする。とはいえ、心の声が聞こえるほどじゃないし、行動の先読みもそれほどはできない。あくまで、気配が大体解る、ぐらいだ。多分やり方が悪かったんだろうけど……まぁ、独学なんだから仕方が無いと今は納得するしかない。
俺が少し見聞色を使えるようになったことで、ようやくルフィは覇気の存在を信じてくれた。でも、自分もと取り組み始めたけど……多分無理だろう。
何しろ、このやり方ではルフィには決定的に足りないものがある。危機感だ。打撃が効かないもんだから、いくら殴られても痛くない。よって、必死で避けようという気力が湧かないのだ。とはいえ、斬撃を浴びせかけるわけにもいかない。嵐脚を使えば可能だろうけど、打撃と違って直撃したらかなり危ないことになるからね。
そして、結局武装色は身に付けられなかった。
ついでに言うなら、俺は少し前にふと気付いた。俺は……というか、兄弟全員だけど……自給自足が基本の野生児だ。
つまり、自然と一体になってたわけで……ひょっとしたら、生命帰還使えるようになれたんじゃね? と。
もっと早くに気付いてれば頑張ったんだけど、出航まで1年切ってたからその時は諦めた。時間が無い。でもいつかは体得したいと思ったね。
「お前、そんなのいつの間に使えるようになったんだ?」
ルフィが少し膨れながら聞いてきた。
「元々使えた。剃刀は剃と月歩の複合技だから。今までは使ってなかっただけ」
昨日使わなかったのは、単にタイミングが合わなかったからだ。
「おれも出来るかな、それ」
「人の話聞いてた? 剃と月歩だって言ったでしょ? 月歩使えないルフィには出来ないよ。」
無邪気な質問に呆れながら返すと、ルフィは唇を尖らせた。
この会話でももう気付いてもらえると思う。
そう、ルフィは既に剃は使えるんだよ! ルフィが強化された!
まぁ、原作でもCP9が使ってたのを見様見真似で覚えたヤツだ。出来ても不思議じゃない……というか、俺に対抗意識を燃やしてるのか、やたらと積極的だった。
俺としても、自分の現時点での最終目標を考えれば、ルフィが強くなるのを歓迎こそすれ、邪魔をする理由など全く無い。
とはいえ、俺だってみすみすルフィに抜かれるのは悔しい。なので頑張ってスピードを強化した。少なくとも、ルフィがギア
俺たちももうすぐ海に出る。
3年前に出発したエースだけど、もう白ひげ海賊団2番隊隊長になってる。手配書で見たよ…………半裸になってた。
エース……俺、泣いていい?
それ以前には、七武海に勧誘されたけど断ったってのも新聞で見た。
ふと思ったんだけど……もしエースがその話を受けてたらどうなってたんだろ?
だってもう、七武海って全部席埋まってるよね? 誰かが蹴落とされたりとかするのかな?
その場合は誰なんだろう……元の懸賞金が1番低いのはハンコックだけど(ミホークの懸賞金は解んないけど)、原作で頂上戦争後に消されたのはゲッコー・モリアだし。
そういえば、そもそもハンコックは初頭手配で8000万ベリーを懸けられて七武海に勧誘されたんだったっけ……ってことは、ハンコックの実際の実力はそれ以上の可能性が高いか。攻撃対象にはなってなかったとはいえ、パシフィスタを何体も行動不能に追いやってたし。
8100万ベリーだったクロコダイルも、バロックワークスのこととかがバレてれば懸賞金は倍以上になってたはずだってどっかで見たし。
まぁ、どっちにしろエースは断ったんだから、今更考えてもどうしようもないか。
閑話休題。
とにかく、俺は色々準備してる。水とか食料とか、小さくすれば結構持ってけるから。ルフィ? 全っ然考えてなかったみたい。なのでちょっと説教しました。そしたら率先して手伝ってくれるようになったよ! ……にしても、何でちょっとビクついてたんだろう?
あぁ、海に出てそうかからずに大渦にのまれる運命だろうから、ちゃんとビニール袋に入れてるよ。ルフィと共にタルで漂流する運命か……ハァ……でも、そうでないとコビーたちと出会えないしねぇ。
それに必要なのは、地図にコンパス、望遠鏡。必需品ではないけど、本も用意した。日記も忘れない。後は細々とした日用品やその他諸々。
さて、後は時が来るのを待つばかりだ。
修行の成果はこのようにしました。原作開始時のユアンの力は悪魔の実(ミニミニの実)の能力、六式(紙絵と鉄塊に不安あり)、不完全な見聞色の覇気です。
ユアンが六式の特訓をしてたのを見てたため、ルフィも刺激を受けました。でも、まだ修行中な上にギアも思いついてないので、剃を身に付けるのにもかなり苦労したと思います。また、ユアンはあえてギアの理論をルフィに伝えてません。身体に掛かる負担を思ってのことです。
次回、ルフィと共に旅立ちます。そして、幼少期編も終わりです。