いやー、参った参った。
どうも、お見苦しい所をお見せしました。
あんまりにも気分が悪かったもんで、不機嫌のピークで理性が飛びまして……ついついコビーを誘拐しちゃったよ。
でも、うん。まさかルフィに宥められる日が来るなんて……あまりのショックに酔いも吹っ飛んだ!
けどコレは明らかに俺の短所だよな……いつかは治そう。
「で? ここはどこ?」
ニッコリ笑顔でコビーに聞くと、ものすっごく驚いた顔をされた……何故?
「ユアン。お前ぇ、さっきまでとのギャップが激しすぎるぞ?」
タルから身体を引き抜きながらルフィに言われた。成る程と納得できてしまう自分が悲しい。
……うん、ちょっと本気で反省してるから言わないでくれない?
それでもコビーの答えによると、ここは『金棒』のアルビダの休息地とのこと。よっしゃ、原作通りに流れ着いたな……って、コビーがいる時点で解ってたけどね。コビーはついでとばかりに自己紹介もしてくれた。礼儀正しい子だ、流石海兵志望。
だがしかし。
「どうでもいいけどな、そんなの」
ルフィは素で薄情だったけど。
「よし、無くなってるものはないな」
んで、コビーほっぽってタルの中身を確認してる俺も大概だけどね。
小さくしてたのを、確認しやすいように元の大きさに戻しながら取り出していく。
水・食料・望遠鏡・コンパス・地図・簡易医療セット・本(日記含む)・着替え、他日用品多数。
「……って、このタルのどこにそんなスペースがっ!?」
驚愕のコビー……うん。
「ナイスツッコミ!」
俺はコビーにグーサインを出した……ら、何だか嬉しそうだった。
きっと、褒められることってないんだろうな……この程度のことでも嬉しいんだろうな……哀れ……。
「いえそんな……って、答えになってませんよ!?」
あ、ツッコミを重ねてきた。やるな。
「そんなことよりさー、お前舟持ってねぇか? おれたちの大渦に呑まれちまってよー」
ルフィが話を逸らしてくれた。本人にその気は無いんだろうけど。
大渦!? とさらに驚愕しているコビー。今日は大変だね、心臓大丈夫?
「でもさ、ルフィ」
俺は取り出した荷物を再び纏め直しながら声を掛けた。
「ここは海賊の休息地なんだろ? 船なら確実に一隻はあるんじゃね?」
そう、アルビダの船が……って、正直あんなファンシーな船、いらないけどね。一応提案はしておいた。
って、何か乗り気だなルフィ。
「おう、いいな。じゃあいっちょ奪ってくっか!」
ぐるんぐるんと腕を回すルフィ……うん、単純。
「ダダダダダダダダダダダダダメですよっ!!」
コビー、ダって何回言った? うん、取りあえず君が滅茶苦茶焦ってるのは解ったよ。必死だねぇ。
「な、何考えてるんですか!? 相手はあの『金棒』のアルビダ様ですよっ! 500万ベリーの賞金首の海賊!! ムリムリムリ、ぜ~ったい! ムリですっ!!」
500万ベリーって……ゴメン俺の、いや俺たちの感覚すればしょぼ過ぎて何て言ったらいいのか解んない。しかも『金棒』って……ルフィへの相性最悪だし。
「だ~いじょうぶだって! おれたち強ぇしなっ!」
あ、俺も行くのね? うん、解ってたけど。俺は肩を竦めた。まぁいいや、どうせ俺の目的は……。
「それに言ったよね? 俺たちも海賊だって……今日からだけど」
そう、実はあの船出はほんの半日前の話なんだよ! 海は怖いね!
けど俺たちはもう海賊。海賊が海賊から奪って何が悪い!!
えぇ、略奪する気ですが何か?
そう、俺はアルビダの海賊団から宝をせしめるつもりだ。宝といえるほどブツがあるかは不明だけど、無一文よりはマシだろう……俺たち今無一文だもんね!? 海賊貯金? んなもん準備で全部消えた!
原作でもアルビダをぶっ飛ばしてたし、多少シチュエーションが変わったって問題は……。
「ちょっと待ってください!」
と思ってたら、必死のコビーに止められた。
ぼくの作った舟を使ってくださいと言われ、コビーに連れられて森の中を歩く俺たち……ちなみに、タルは俺が持ってる。ルフィは普通にスルーしやがった。
で、見えてきたのはまるで棺桶のようなボロボロの舟……うん、絶望的なカナヅチの身としては絶対乗りたくない!
これは勿論、コビーがここから逃げ出すために2年掛けて作った舟だ。そして始まるコビーの身の上話。
いや、もう、ツッコミ所満載なんだけど!?
「どうやったら、釣りに行こうと思って間違えて海賊船に乗れるんだよ……海賊旗見なかったわけ?」
「お前、バッカだな~!」
ルフィにバカって言われてるよ、オイ! うわぁ、哀れ。
しかも、根性無さそうだから嫌いって言われてorz状態になってるし……でも、それは同感。人間根性は大事なんだよ?
根性を絶やさなければ大抵のことは出来る! 俺だって、こんな序盤に不完全ながらも見聞色の覇気を掴みかけてるし!
しかもねコビー君? 自分にもタルで漂流できるだけの度胸があれば、って……それ、ただの結果論だって! 別に漂流したくてしたんじゃないよ! お前だって同じ状況に陥れば出来るさ。
「お2人は、海賊なんですよね? ……なぜ海に出たんですか?」
コビーの素朴な疑問を投げかけられ、待ってましたと言わんばかりの笑顔でルフィが答える。
「おれは海賊王になるんだ!」
コビー、顎が外れそうな顔で驚愕……面白い顔だねぇ。
「海賊王!? それはこの世の全てを手に入れた者のことですよ!? 『
「大丈夫だよ」
コビーってば、興奮しすぎじゃないか? 血管切れちゃったら寝覚めが悪いし、宥めとこう。
「だって、ルフィは海賊王になる男だからね!」
「なんという根拠の無い発言をっ!?」
失礼な、根拠はあるぞ?
強いしー、覇王色持ちだしー、万物の声を気けるっぽいしー、周囲を巻き込むカリスマ性は頭抜けてるしー……って、今言っても誰も信じてくんないか。
って、宥めようとしたのに逆に興奮されてる……面白っ! しかも今気付いたけど、コビーって何気にツッコミ上手い!?
「ムリですよ、ぜ~ったいムリですっ! この大海賊時代に海賊の頂点に立つなんて! できるわけないですよ! ……いたっ!!」
ルフィがコビーの頭を殴ったのと、俺がコビーに踵落としを食らわせたのはほぼ同時だった。妙な所で息が合ってるね、俺たち。
「ど、どうして殴って蹴るんですか!?」
「「何となく!」」
こんな所もハモりました。え、何で俺もやったのかって?
いや、兄貴(=ルフィ)の夢を全否定されるのがこんなにムカつくものだったとは……ちょっとユースタス・キャプテン・キッドの気持ちが解るかも。
って、コビー? ここは怒るトコじゃないかい? 何をヘラヘラ笑ってるのさ。
「慣れてますから……」
……ダメだこの子。俺は自分の口から溜息が零れるのが解った。
「で? 慣れてるからって受け入れるんだ? 手ぇ出した当人が言うのも何だけどさぁ、いつか死ぬよ?」
明らかに『呆れてます』と言わんばかりの口調に流石にムッときたんだろう。コビーは口を尖らせた。
「それを言ったら、お2人だってそうじゃないですか。海賊王だなんて……それこそ死にますよ!?」
「おれは、死んでもいいけどなぁ」
ルフィが麦わら帽子を手に取って呟いた。
「おれが自分で決めたことだからな、そのために戦って死ぬならそれはそれでいい」
清々しいほどキッパリとした宣言だけど……俺はまた溜息が出て来た。
「俺はヤだからね? 死ぬ気無いからね? 悔いは残したくないから。だから当然、兄ちゃんを死なせる気もありません。そのために今まで修行してきたんだから」
兄ちゃんというのは勿論、エースも含めてのことだ。むしろ、そっちの方が本命……だって、死亡フラグが乱立してんだもん。
俺もルフィに負けじとキッパリ宣言したら、ルフィに笑われた。俺、別に面白いことなんて言ってないのに。
「死ぬ気になったら……」
コビーがボソッと呟いた。って、泣いてるよこの子。
「ぼくでも、海兵になれるでしょうか?」
なれると思うぞ? でも、祖父ちゃんには俺たちのことはちょっとオフレコにしといて欲しいなー、なんて。
「このまま雑用として海賊に使われるぐらいなら、勇気を持って逃げて……海兵になって、悪者を捕まえられるようになれるでしょうか?」
いや、それはお前次第だからね? 俺たちに言われてもどうともならんのだが……って、コビーの瞳に力が宿った!?
「やってやる……! そうしていつかアルビダもこの手で捕まえて!」
あれ、一気に目覚めた? うん、コビーって何気に頑張ってたよなぁ。多分頂上戦争時の実力があればアルビダぐらいは何とかなったんじゃないか?
でも残念。あんまりよろしくなさそうな気配がたくさんこっちに集まってる。ってか、この距離だとさっきの言葉も聞かれてるだろうなぁ。
あ、1人抜きん出てきた。うん、不完全ではあるけど便利だね、見聞色って。
「コビー! 今テメェ何を言ったぁ!!」
地面にぶつかれば地響きがしそうな勢いで金棒を振り下ろすいかついオバサン……基、アルビダが登場した。
実物初めて見たけど……すげぇ、いかつい! よくこれで自分を美しいって思えるね!?
金棒は舟に直撃コースだったけど、コレがコビーの2年の努力の結晶であることは事実だ。どんなにボロボロな小舟でも、それは変わらない。なので、流石に大破は忍びない。だからちょっと金棒を止めてみた。
何てことはない、右腕にだけ鉄塊を掛けて受け止めたんだ。
ガァン、とまさに金属同士がぶつかり合ったような音が響き止められた金棒に、アルビダ以下全員が驚愕している。当然って顔をしているルフィ以外は、コビーも含めて全員がだ。うわ、ちょっと気分いいかも!
「ルフィ」
まぁ、流石に敵の頭に勝手に手を出すのはアレだし。一応船長の意向を確認しとかなきゃな。
「コイツら、どうする?」
聞くと、ルフィは一瞬キョトンとしたけど、すぐにワクワクしているような楽しそうな顔をした。
「勿論、ぶっ飛ばす!」
殆ど予想通りの答えが返ってきて、俺自身も笑みが浮かんでくるのが解った。
「了解、キャプテン」
さて。海賊としての初戦闘、始めるとしますか。