「ユアン、コビー任せた」
船長であるアルビダの相手はルフィ。まぁ、それは当然の話だろう。特に文句もないから、俺は受け止めていた金棒を押し戻してからコビーを抱えて下がった。まぁ、ルフィVSアルビダで巻き添えが出るほど周囲に影響を与えるとは思わないけど、念のためだ。任されちゃったしね。
「お前らかい、紛れ込んだ賞金稼ぎってのは!」
あの、オバサン? 俺たちそんなの一っ言も言ってないよ。
「おれはルフィ! 海賊だ!」
どーんと胸を張って宣言するルフィ。
「俺はユアン。……以下省略」
「略すんですか!?」
うんコビー、お前本当にツッコミ気質なんだね。
「海賊ぅ!?」
アルビダは素っ頓狂な声を出した。
「なんだい、アタシの首を取って名を上げようってのかい!?」
……ハァ?
「「いや、別に」」
ルフィと俺のセリフがハモった。だって……ねぇ?
「おれたち、漂流して流れ着いただけだしな」
「それに、アンタの首を取ったところでさして名が上がるとも思えないし」
だって、500万ベリーだぞ? ……いや、平均懸賞金額が300万ベリーの東の海ではそれなりなんだろうけどさ。まぁ、でも。
「アンタの首には興味ないけど……アンタの持ってる宝には興味があるな。俺たちにくれない?」
小首を傾げて『お願い』してみたけど、どうやら聞いてくれる気は無さそうだ。元々敵意を向けられていたけど、その気配が強くなった。アルビダだけじゃない、他の海賊ども全員がだ。
それは堂々と略奪宣言をされたからか、それとも……あからさまに『お前らごとき小物に興味ねーよ』と言われたせいか。いや、多分両方だろう。
「コビー!!」
アルビダに叫ばれ、俺に抱えられたままのコビーがものすごくビクついた。あぁ、恐怖はしっかり心に刻み込まれてるんだね?
「ソイツを始末しな! お前だって護身用に持たせたナイフがあるだろう!? その距離なら、たとえお前ごときでも外しゃしない!!」
確かに俺たちは密着していて0距離だから、外しはしないだろう。
「えっ……? え、ぼく……?」
さて……どう出るかな、この子は。まぁ、やったらやったで鉄塊でガードするだけなんだけど。
「で………………出来ませんっ!」
搾り出すように叫ぶコビー。
「ぼくはっ……ぼくは……か、海兵になるんですっ!! ひ、人を刺すなんて、そんなのっ!!」
言い切ったー! コビー……この子……!
「カッコいいなぁ~、オイ!」
俺はバンバンとコビーの背を叩いた。むせて咳き込むコビー。
まぁ俺ってば海賊だから、別に海兵志望者が刺したって特に問題ないと思うけどさ。
んで、一方でアルビダの顔がもの凄いことになってるよ。
「なぁ、コビー。このいかついオバサンがアルビダでいいんだろ?」
……このルフィの問いは挑発でもなんでもなく、100%素だろう。無邪気なヤツだよ。聞かれたコビーは色んな意味で蒼白になってるのに。
『いかついオバサン』発言に海賊団の面々も顎が落ちそうになってる。
「プッ……アッハハハハハハハ!!」
ヤバイ、面白っ! 思わず吹き出しちゃったよ!
「ル、ルフィさんっ!? こ、この方は……た、確かにアルビダ様でっ! せ、世界で1番………………いかついクソババアです!!」
おお、『いかついオバサン』より何気にグレードアップしてる!? うん、コビーの顔面はさらに真っ青になってるけどね。でもその勇気は本物だ!
ブチッとアルビダが切れた。
「コビーーーーーーーー!!!」
怒号と共に、コビーと俺に金棒を振り下ろすアルビダ……さっき俺がソレ片手で防いだの、忘れたのかな?
鉄塊発動するか? と思ってたら、ルフィが動いたのが見えて中断した。
金棒の軌道と俺たちの間に身体を滑り込ませ、その身で金棒を受け止めるルフィ。
「お前の相手はおれだぞ!」
麦わら帽子の下でニィッと笑ったのが解る。あぁ、コイツやる気だなぁ。
アルビダ一同は再び金棒が受け止められたのに驚いている。
……ん?
「何か用?」
ルフィとアルビダが対峙する中で、俺とコビーにじりじり近寄る男どもが数人。まぁ、『何か用?』だなんて、聞くまでもないか。
その後のことは、別に詳しく描写する必要はないだろう。
アルビダが原作通りルフィの『ゴムゴムの銃』一発で負けたり、俺たちに飛び掛ってきた数人は俺の『嵐足・線』で一掃されたり。
……ヤバイ、相手が弱すぎて物足りないのは物足りないけど、無双って楽しいかもしれない。気分爽快だ。
とはいえ、アルビダが負ければその配下がまだ戦意を維持するわけもなく。
「で? くれるよね、宝?」
もう1回ニッコリと『お願い』したら、今度は快く頷いてくれた。
「「この船いらねぇ……」」
それがアルビダの海賊船を見た俺たちの第一声だった。またハモったよ。
いや解ってたけど、この船無いわ……少なくとも俺らの感性では乗る気になれん。
なので、現金とお宝と小船だけ貰っといた。
勿論、気絶しているアルビダの指にゴテゴテと付いていた指輪も全部回収しといたよ。コレだけでも結構な額になりそうだ。
ガメツイ、と言わんばかりの視線に晒されたけど。でもしょうがないじゃん。俺は貧乏航海は嫌だ! 何度だって言うよ、貧乏航海は嫌だ!
けどまぁ……次に行くはずのシェルズタウンでは宝を換金してる時間は無いだろうな……って、待てよ?
①シェルズタウン→色々やりたいことがあるから時間無さそう
②オレンジの町→住民全員避難中なので論外
③珍獣島→そもそもガイモンしか人間いねぇ
④シロップ村→長閑すぎて換金所があるかが怪しい
⑤バラティエ→レストランで宝をどうしろと?
⑥ココヤシ村→アーロンに長年搾取されてきたのに宝を買い取る余裕があるのか?
………………うわ、ひょっとしたらローグタウンに着くまで宝を換金できないかも。
まぁ仕方が無い。多少は現金もあるし、何とかなるだろう。貧乏航海にまではならないはずだ。ローグタウンでグランドラインに備えて色々準備すりゃいい。
あ、ちゃんとコビーも引き取ったよ? 忘れてたりしてないからね?
特に何の問題も無く、俺たちは再び海に出た。
にしても、海賊としての初戦闘としてはイマイチだったな……弱すぎだ。正直拍子抜けだけど……まぁ、そう遠くないうちに敵方も強くなってくからなぁ。
「けど、お2人が悪魔の実の能力者だったなんて……」
技でアルビダをぶっ飛ばしたルフィだけでなく、奪ったブツを小さくして船に積み込んだ俺も能力を知られた。まぁ、もう海に出てるから別に隠す必要も無い。
「まぁね。あ、そうだコレ」
言って俺が懐から取り出したのは、小さくして持ってきた舟……コビーが2年かけて作った舟だ。
「記念に持っておきなよ。アルビダの下で過ごした2年間は思い出したくもない出来事かもしれないけどさ、その間も心の底から挫けることはなく努力を続けたってことは誇っても良いと思うよ?」
まぁ、勇気は出せなかったかもしれないけど、諦めはしなかったわけだからね。
それに口では言わないけれど、その勇気が無かったころの自分を決して忘れないで欲しいんだよ。
かの徳川家康は、負け戦の時に恐怖で脱糞した姿を絵師に書かせ、その絵を常に持ち歩いて自身を戒めたという。弱い自分を受け入れるのは、必ず成長への肥やしになる。
原作読んでたとき頑張って成長したコビーには驚いたけど、そういうのって結構好きだ。
コビーは俺の差し出したミニ舟を受け取ってくれた。
「ありがとうございます。ところで、お2人はご兄弟なんですか?」
ん? あー、そういえば俺『兄ちゃん』って言ったっけ。それに俺たち、姓も同じだもんな。
「おう! おれがユアンの兄ちゃんだからなっ!!」
ルフィ、めっちゃ嬉しそう……うん、未だに兄貴風吹かせたい年頃ってヤツなんだね。
「うん、そうだね。1歳違いなんだよ。ルフィは17、俺は16」
微笑ましいというか……苦笑が浮かんでくるなぁ。
さて、と。
「ところでルフィ、次はどこへ行くんだ?」
海賊船の行き先は船長が決める……けど、今は特に目的が無いから……。
「仲間探すぞ! 強ェヤツ! あと音楽家!」
やっぱそうなるよな。音楽家への拘りはひとまず置いといて欲しいけど。
今回はちょっとシチュエーションが変わった影響か、アルビダたちからゾロの情報を得ることが出来なくなったからなぁ……まぁいい、今は俺が航海士代理みたいなモンなんだ。ルフィの目的地が明確でないなら、俺が目的地を決めても問題はないだろう。シェルズタウンに向かおう。
「この近くにシェルズタウンって町がある。強いヤツがいるかどうかは解らないけど、海軍の支部があるみたいだから取りあえずコビーをそこに送ろう」
ルフィにもコビーにも否やは無かったらしく俺の意見はあっさり通り、シェルズタウンへと船を進めることになったのだった。
シェルズタウン……俺はそこに、ゾロとの出会いの他にもう1つ、ある目的があるんだよね。