麦わらの副船長   作:深山 雅

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第37話 ロロノア・ゾロ

 ゾロは何ともまぁ、迫力満点だった。だけど……ちょっと反応が過剰じゃないかい、コビー?

 塀から顔を出して一目見た途端ビックリして落ちて尻餅って……。

 そんなコビーを呆れながら見てたら、ゾロがこっちに話しかけてきた。

 

 「おい、テメェら。この縄ほどいてくんねぇか? 流石に9日もこのままでいるんでな。くたばりそうだ」

 

 むしろ、殺しても死ななさそうなオーラがビンビン出てるんだけど?

 

 「あの縄ほどいたら、簡単に逃がせそうだな」

 

 ルフィが珍しく冷静に呟いたのを聞きとがめたのか、コビーがまた塀によじ登ってきて猛烈な勢いで反論しだした。

 

 「ルフィさん!? まさかやる気ですか!? 危険です!! 殺されますよ!!」

 

 だから、何でそんな根拠のないことを断言するのかな?

 

 「大丈夫でしょ」

 

 俺は軽くコビーをからか……じゃない、宥めてみた。

 

 「だってアイツ、剣士だって聞いたのに剣持ってないから。剣の無い剣士に殺されるほど弱くないよ。ルフィも、俺もね……ご愁傷さま、コビー」

 

 「ぼくは死ぬんですか!?」

 

 うわ……打てば響くようなツッコミ……嬉しい! ルフィはあんまりツッこんでくれないんだよね。

 さて。

 

 「メリットは?」

 

 俺はゾロに聞いてみた。

 

 「お前を解放して、それで俺たちに何か得はあるのか?」

 

 ニヤリ、と挑発的な笑みを浮かべる俺。ゾロは不機嫌になるかとも思ったけど、こちらもニヤリと挑発的な笑みを返してきた。

 

 「礼はしてやる……その辺の賞金首をぶっ殺してくれてやるぜ。おれは嘘は吐かねぇ、約束する」

 

 うん、良いこと言ってるのに、顔がすごい悪人面だ。人相悪いなぁ。

 

 「ユアンさん!? まさかあなたまで!」

 

 コビーは必死だけど……おい、何でそんなに焦るんだよ。

 

 「冷静になれっていっただろ、コビー?」

 

 ゾロには聞こえないだろう声量で俺は囁いた。

 

 「手配はされてないとはいえ、俺たちだって海賊なんだ。賞金首を貰っても何の得にもならない。海軍に突き出したところで何にもならないしね」

 

 というわけで、取引としては始めから不成立なんだよ。まぁ、問題はそれじゃなくて……。

 

 「どう思う、ルフィ? どうやら噂ほどの悪人でもないみたいだ……男気もありそうだし」

 

 挑発されて激昂するような小物じゃない。一方的な要求を突きつけてくるようなヤツでもない。嘘を吐かず、約束を守る気概がある。

 

 「んー……まだ誘わねぇ」

 

 おや、意外にも冷静……まぁ、口でなら何とでも言えるしね。

 まぁどうせルフィの場合、これと決めたら梃子でも動かないんだからその前ぐらいはじっくり考えてもらいたい。

 ん?

 

 「どうした、お嬢ちゃん?」

 

 いや、知ってるけどね。

 

 「しーっ!」

 

 原作を知るならば解るだろう。そう、砂糖おにぎりのリカちゃんだ。

 梯子を塀に立て掛け、こそこそと基地内へと入っていく。

 

 「ちょ、あ、危ない……! ルフィさん、ユアンさん、あの子止めてくださいよ!!」

 

 ……あのなぁ。

 

 「お前が止めろよ、危ないって思うなら」

 

 「アルビダに啖呵を切ったときの勇気はどこに行ったんだ?」

 

 人はそれを他力本願という……あれ? 何故か脳内で蝙蝠と鰻が踊ってる。どうして?

 脳内で1人ボケツッコミをしてる間に、ゾロとリカちゃんの会話は進んでいた。

 食事を持って来たと言うリカちゃんと、出て行けというゾロ……言葉はすごく悪いけど、あのゾロの発言は間違いなくリカちゃんを気遣ってのものだろうね。ここに来たってことがバレたらまずいから。

 あ、でも手遅れかも。

 

 「ロロノア・ゾロォ!!」

 

 出た出た、ヘボメッポ……じゃない、ヘルメット……いや、ヘルメッポ。

 くそぅ、紛らわしい名前しやがって。

 

 「七光りのバカ息子か……」

 

 ハイハイ、ゾロに全面的に同意!

 ヘルメッポは気を悪くしたらしく、親自慢をしながらゾロたちに近付いていった。

 

 「お、お嬢ちゃん、このおにぎりは差し入れかい?」

 

 勝手にリカちゃんのおにぎりを手に取って口に運ぶ。

 一口食って砂糖おにぎりに悶絶するヘルメッポ……まぁ、確かに砂糖のおにぎりなんて、味覚的には受け入れがたいものではあるだろう。それは解る。でも、勝手に取って勝手に食ったお前が文句を言う権利は無いはずだ。ましてや……。

 

 「こんなもん食えるかっ!」

 

 それを踏みにじる権利は、更に無い。

 

 「指銃・撥」

 

 ルッチは豹形態で使っていたけれど、空気を弾いて攻撃するというのに有用性を感じて練習しといたんだよね。まぁ、それでも威力が弱いわ、タメが必要で連発出来ないわで実戦で使えるレベルじゃないんだよ……しょうがないじゃん、俺は動物(ゾオン)系じゃないんだ! けどまぁ、牽制には充分。

 

 「いでぇっ! 何だ!」

 

 弾いた空気の塊は正確にヘルメッポの横っ面にヒットしたらしい。目視できる攻撃じゃないから、俺にもちゃんと当たったかどうかは相手の反応が無いと解らない。

 けど、ギリギリのところでおにぎりは踏み潰されずに済んだみたいだ。

 

 「おい、お前ら! 何かしたのか!?」

 

 こちらを向いて怒鳴るヘルメッポ……意外に鋭いな。

 

 「気のせいじゃない? この距離で俺たちに何が出来る?」

 

 10m以上はあるしね。空気を弾いたんだから、証拠も無い。俺は肩を竦めてしらばっくれた。

 ヘルメッポはまだ納得出来ないらしく苛立っていたけど、証拠が無いことに変わりは無い。追求は諦めたらしい。

 

 「チッ……おい、このガキを放り出せ!」

 

 リカちゃんを指差し近くに居た海兵に命じるが……断れよ、海兵。軍人だから、上司であるモーガン自身の命令を聞くのはまだ解らんでもないけど、ソイツはただのバカだろ?

 お前も親父に言うぞ、って……もうちょっとマシな脅し文句はないわけ?

 って、考えてる間にリカちゃん飛ばされた!

 

 「よ、っと」

 

 月歩で空中キャッチ成功。着地も問題ナシ!

 

 「あ、ありがとうお兄ちゃん……」

 

 !?

 いや、違う。違うぞ! 『お兄ちゃん』って言われて一瞬舞い上がりそうになったりしてないからな! 今までずっと末っ子ポジでそんなの言われたこと無かったから嬉しいといえば嬉しいけど、でもそんな……。

 

 「あの~、ユアンさん? ルフィさんが入ってっちゃいましたよ?」

 

 !? しまった、ちょっと葛藤してる間に……! ってか、ルフィ行動早っ!

 

 「コビー、この子お願い。俺も行くから……そうだ。そのおにぎり、持ってこうか?」

 

 リカちゃん、という名前はまだ聞いてないから、実際に口に出したりはしない。

 

 

 「うん、お願い!」

 

 リカちゃんの表情がパァッと明るくなった。いいなぁ、女の子の笑顔は……華があるよ。

 

 

 

 

 「仲間探しは他を当たれ」

 

 ありゃ、結構見逃したな。そんなに長く時間食ったとは思わなかったんだけど。

 

 「ルフィ、誘ったのか?」

 

 ルフィの隣に降りて聞いてみたら、ルフィはふるふると首を振った。

 

 「まだだ。誘う前に断られた」

 

 それほど気にしていないのか、あっさりした反応である。

 

 「ふーん……嫌われたもんだね。まぁ、誘ってあっさり海賊堕ちするヤツもそうそういないだろうけど」

 

 俺だって、誘ってくれたのがルフィやエースじゃなくてブルージャムとかだったら、海賊じゃなくて賞金稼ぎの道を選んでたと思う。

 

 「おいお前。その手に持ってるの……」

 

 ゾロが俺の持ってるもの……リカちゃんのおにぎりに気付いたらしい。

 

 「これ? 欲しいの?」

 

 差し出すと、砂糖味のおにぎりを想像したのか一瞬渋い顔をしたけど、すぐに大口を開けた。

 

 「食わせろ。全部だ」

 

 うわ~、『あーん』状態だよ……って、ふざけていい場面じゃないか、流石に。でも、ちょっと意地悪してみようかな。

 

 「これ食べるの? 腹減ってるなら、ちょっと待っててくれればさっき買った食料を持ってくるけど? 『どっちが』いい?」

 

 どっちが、の部分をあえて強調した意味は解るだろう。リカちゃん手作りの砂糖おにぎりとごく普通の食料、2つに1つを選べってことだからね。

 勿論、ただ腹が減ってるだけなら砂糖おにぎりよりも普通の食料を求めるだろう。だが、ゾロは不快そうな顔をした。

 

 「食わせろって言ってんだろ」

 

 一切の迷い無しだ。つまり、コイツが優先しているのは己の空腹ではなくリカちゃんの心遣いってわけ。

 

 「了解」

 

 俺はちょっと笑って、おにぎりをゾロの口に放り込んだ。踏み潰されちゃいないから噛んでも砂の音はしないが、やっぱり味が味だ。ゾロは一瞬吐きそうな顔をしたけど、根性で飲み下した。

 

 「……あのガキに伝えといてくれ。『美味かった。ごちそうさまでした』ってな」

 

 「OK。ついでに、コレも」

 

 言って俺はゾロの口に板チョコを1枚突っ込んだ。

 

 「ビターだから大丈夫だと思うよ? チョコの栄養価はバカにできないんだ……雪山で遭難者を見付けたらチョコを渡すってぐらいだし。それと」

 

 チョコを銜えたまま動かないゾロの眼前にミネラルウォーターのボトルを1本差し出す。

 

 「人体において危険なのは、栄養不足よりもむしろ水分不足。ちゃんと補給した方がいいよ。お前、まだここにいなきゃいけないんだろ? 町の噂でちょっと聞いた。1ヶ月の約束、だっけ?」

 

 ジト、と半眼で俺を睨みながらゆっくりチョコを咀嚼し、それを食い切ると面白くなさそうな顔をした。

 

 「テメェ……おれを試しやがったな……」

 

 「さぁ? お前がそう思うならそうだろうし、そうでないと思うならそうじゃないんじゃない?」

 

 実はその通り。無いと思ってたけど、もし普通の食料を選んでたらそのままトンズラするつもりでした。

 

 「酒を買いすぎちゃってね。ルフィはあんまり飲めないし、俺1人じゃちょっとキツイんだ」

 

 いや、実を言えば余裕で飲み干せ足りるんだけど。そこはホラ、方便ってヤツ?

 

 「1ヶ月後……いや、もう9日過ぎてるらしいから、3週間後かな? に、乾杯できたらいいね。」

 

 ニッコリ、と微笑んでみせる。

 

 「………………おれは海賊にはならねぇよ」

 

 おれまぁ。俺は折角笑顔なのに、そんなに睨んじゃって……食えねぇヤツ、と言わんばかりの視線だね。

 

 「俺に言ってもしょうがないよ? 俺はルフィのクルーに過ぎないからね。お前を勧誘するもしないも、最終的にはルフィの判断に一任される」

 

 まぁ結果は見えてるけど、と俺は内心で思う。横目でルフィの様子を窺えば一目瞭然だし。

 それだけ言って水を飲ませると、俺はルフィと共にその場を離れた。

 

 

 

 

 「アイツ、いいヤツだな!」

 

 勧誘するか否かはともかく、とりあえずルフィの中でゾロは既に『いいヤツ』認定されている……まぁ、『いいヤツ』と判断したならば、最終的に辿り着くのは『仲間になれ』だろう。

 ルフィは諦めないからね~、色んな意味で。もうゾロを待ち受ける運命は、決まったようなモンだな、こりゃあ。 


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