モーガンの部屋に行くのは、驚くほど簡単だった。
何しろ、ルフィが大騒動を起こしてくれてるんだ。当然海兵たちはそっちに掛かりきりになっていて、中はお留守。
途中1・2回ぐらいニアミスはしたけど、出くわすよりも俺が気配を読んで隠れる方が早かった。さっさと隠れてことなきを得た。
モーガンの部屋は無駄に豪華だったよ。これが町民からの『貢ぎ』で整えられたものだと思うと、反吐がでそうだ。
でも、今そんなことを考えてもどうにもならない。どうせモーガンは失脚するんだから、俺は俺の目的を果たそう。
ずっと考えてたことがある。
シャボンディ諸島でくまに飛ばされる時のことだ。
俺としては、何とかルフィに付いて行きたいと思ってる。
そうすればまず間違いなくインペルダウンに行ける。ひょっとしたら上手くいけばそこでエースを助けられるかもしれない。そうでなくとも、マリンフォードまでは行けるはずだ。
俺はまだまだ実力は足りないけれど、他の誰にもない原作知識というアドバンテージがある。フラグをへし折ることは決して不可能じゃないはずだ。
そう、そこに行けさえすれば。
問題は、ルフィと逸れてしまった場合だ。くまに別々に飛ばされる可能性は低くない。
そうなったら、俺は自力でマリンフォードまで行かなきゃいけないんだ。エースならアラバスタで俺にもビブルカードをくれるかもしんないけど、アレが教えてくれるのはあくまでもエースの位置だ。
1人でインペルダウンに行っても内部に侵入するのはかなり難しいし、護送中の船にうっかり近付いてもどうにもならない。
もしルフィと逸れたら、真っ直ぐマリンフォードへ向かう。俺はそう決めている。
その場合必要となるのは2つ。
1つ目は足だ。『麦わらの一味完全崩壊』の日から頂上戦争まで凡そ1週間。その期間で目的地まで辿り着けるだけの足が欲しい。
これに関してはまだ何とも言えない。飛ばされた場所がどこかによるからだ。ひょっとしたら船や月歩で充分な近場かもしれないし、かなり無茶しなければいけないほど遠くかもしれない。まぁ、とりあえずウェイバーを死ぬ気で乗りこなせるようにしたいとは思う。
それでもダメそうな距離なら、それはその時に考えるしかないだろう。
そしてもう1つが……今探しているモノだ。
海軍本部、マリンフォードも当然グランドライン内の島、地図や海図などあったところで当てになどならない。必要なのは……。
「ここは腐っても、支部とは言え海軍の基地」
俺はモーガンの机の引き出しをひっくり返しながら物色していた。見るからに荒らされているけれど、俺の知ったこっちゃない。とにかく、部屋をひっくり返してでも探すしかない。
ここで見つからなければ、この後で手に入れられそうな所は無いだろう。
海軍基地であり、警備も手薄で、俺自身に家捜しをするだけの時間的余裕がある。こんな好条件は他にない。
頂上戦争時、グランドラインや4つの海から大量の兵が召集されていた。しかし、あれだけの兵をわざわざ本部が世界を回って連れてきたとは思えない。時間と労力のムダだ。それなら……あれらの殆どは、召集を受けて自力であそこまで行ったはずだ。
そうでなくとも、本部と支部の間で交通に不備があるのは喜ばしいことじゃないだろう。
それならば……!
「見っけ……!」
モーガンの机の引き出しの1つ、その奥にソレを見付けた。
まさか、本当に見つかるなんてな……。
あんまりにもあっさり見つかったもんだから、都合のよさに思わず笑みがこみ上げてくる。
正直言えば、確率は五分五分だと思ってた。無かったら他の機会に無茶な強行手段に出なければいけなくなる。それでもダメなら、或いは根本から考えを改める必要があった。
コレを使うのは、あくまでもルフィと逸れた場合。俺としてはそうなりたくないから、出来れば使わずに済んで欲しい品だ。
けれどそれでも、あると無いとじゃ気分が全然違う。そうなってしまった時、『まだ方法はある』と思えれば、精神的にかなり救われる。言うなれば、これは保険だ。
「1/10」
俺はソレを小さくすると、そっとポケットに仕舞った。
割れないように気をつけないとね。針の周りはガラス張りみたいだし。
何度も言うけど、他に行けそうな場所でコレを手に入れるのは難しいだろう。失くしたり壊したりしたくない。
コレを……マリンフォードへの
「さて、それじゃあ……」
ぐるりと部屋を見渡すと、中々いい値が付きそうな調度品の数々……。
「略奪するとしますか」
俺はペロリと舌なめずりしたのだった。
「いやー、大量大量」
俺はホクホクしながらシェルズタウンの道を歩いていた。
あれから色々とモーガン親子の私物を頂いちゃいました。
あ、現金には手を付けなかったよ?何しろ、アレの殆どが町の人たちの『貢ぎ』だと思うと、どうも……ね?
結果的に、何だか一般市民から略奪してしまった気になっちゃいそうで……。
でも思った以上の収穫だったなー。欲しかったモノは手に入ったし、海楼石の手錠も見付けたし。しかも鍵もセットで。
まぁ、流石に数は少なかったけど。2個しか無かった。けど、無いよりはいい。ちょっと実験もしてみたいし。
とか、そんなことを考えながら歩いてたら、ものすごい人だかりに出くわした。
あ、着いた着いた。リカちゃんちだ。
色々奪って外に出た時には、もう磔場にルフィたちの気配は無くなってたからね。ここにいるだろうと思って探してたんだよ。
ひょっこりと中を覗いてみると……。
「グランドラインに向かおう!」
丁度、ルフィがドンと宣言したところだった……って、オイ!
「あだぁっ!!」
俺は即座に蹴り飛ばしました。何をって? ルフィだよ!
「誰だ!? ……って、ユア……ン……?」
「やぁ、ルフィ、久し振り。ところでさっき、何か聞こえた気がしたんだけど?」
俺はニッコリと優しい笑顔でルフィに問いかけた……ヤだなぁ、何でそんなに引き攣った顔してるんだ?
俺は持っていた荷物を机に置くと転がったルフィに歩み寄り、その胸倉を掴んだ。
「ねぇ、俺の耳可笑しくなったのかなぁ? 何か、グランドラインがどーたらこーたらって聞こえた気がしたんだけど? え? 何、本気? お前俺の言ったこともう忘れたの? その耳は何のためにあるんだ? 飾り? それとも腐ってんの? それともお前の脳に問題があるのか? 何か悪性の腫瘍でもできてるとか? ごめんな、気付かなくて。でもそれならそうと言ってくれたら良かったのに。俺、脳外科手術なんてしたことないけど頑張るからさ。スコーンと頭カチ割って隅々まで検査してやるよ? え、何、嫌なの? でもお前、俺の言ったこと忘れてんだろ? え、覚えてる? じゃあ言ってみなよ、ホラ言ってみな。俺は出航直後にお前に何て言ったっけ?」
「とりあえず音楽家と航海士と船医とコックを探すぞ!?」
音楽家への熱意どんだけなんだ? ……まぁ、いいか。
ハァ、と俺は溜息を吐いて掴んでいた胸倉を離した。あぁ、、解ってたのにやっぱ腹立った。ルフィのヤツ、どんだけ無謀なんだよ。
「つっても、どの道ワンピースを探すならそこに行くっきゃねーんだろ?」
振り返るとゾロがいた。
「あ、よろしく、ゾロ……俺だって、グランドラインに行く気ぐらいあるよ。ただ、時期尚早だって言ってんの」
まぁ、放っといてもすぐに行きゃしないだろうけど、念のためにね。
「……ユアンさん、ルフィさん。行っちゃうんですね」
見ると、コビーも同じテーブルに着いている。
「あぁ。コビー、立派な海兵になれよ!」
ルフィは立ち上がりながらコビーを激励した。
「あの……!」
コビーは意を決したように頭を上げた。
「敵同士になっちゃいますけど! ぼくらは友だちですよね!?」
俺たちをジッと見詰めるコビー……俺も、か?
でも……うん。
「まぁ、そうだね」
「ずっと友だちだ!」
返事を聞いた時のコビーのそのホッとしたような笑顔にちょっとくすぐったい気分になる。
あー、俺、友だちって初めてかもしんない。
サボとルフィは最初は友だちだったけど、今じゃ兄弟だし。
エースは最初から兄ちゃんだったし、ダダンたちもマキノさんも友だちじゃないし。
……W7で祖父ちゃんからは何としても逃げようと思ってたけど、コビー……友だちと会えるんなら、それも我慢しようかな。