何となくほんわかとした雰囲気になっていたのだが。
「失礼」
入って来たのは海兵たち……ったく、人が折角コビーで和んでたってのに、無粋な。
まぁ内容は……アレだ。早い話、海賊は出てけってことだ。
うん、そりゃ海兵からしてみればそう言わざるを得ないよね。
町の人たちは庇ってくれてるけど……しょうがないね、海賊の宿命だ。この道を選んだ時点で覚悟はしてた。
ルフィも同じなんだろう、あっさりとその申し出を受け入れている。
ゾロも特に文句を言うことなく立ち上がった。
展開の早さに付いていけないのか、ちょっと固まっているコビーをスルーして俺たちは出て行こうとしたのだが、海兵の1人がコビーにお前も仲間じゃないのか、と聞いた。
「ぼくは……彼らの……『仲間』じゃありません!」
唇を噛み締めながらも、キッパリと言い切るコビー。だが、海軍側は半信半疑だ。
確かにコビーは『仲間』ではないけど、知らない人からすればあっさり信じられるモンじゃないだろう。口では何とでも言えるからね。
「君たち、本当かね?」
俺たちに聞いてくるけど……まぁ実際、嘘じゃないからね。ただし、『仲間』ではないけれど『友だち』ではあるだけで。
ルフィがアルビダのことを引き合いに出してクサイ芝居をしだしたけど、特に俺が茶々を入れる必要はないから黙って見てた……けど、ゾロとアイコンタクトを取った結果、俺がルフィを止める役目を引き受けることになってしまった。
ゾロの目が言っていた。
『テメェが何とかしろ』
って。
まぁ、しょうがない。俺の仕事はルフィのお守りだもんね。
「いい加減にしろよ。いつまでそんなのに関わる気だ?」
そんなの、なんて本心ではないけれど、眼中にありません的なアピールはマイナスにはならないだろう。
結果、海兵は俺たちが『仲間』ではないことは信じてくれたけど……ルフィは芝居が下手だからね。アレがわざとだってことはバレてるだろう。
俺たちはそのままリカちゃんの家を出た。
またね~、というような笑顔で手を振ったら、リカちゃんは振り返してくれた……嬉しいね、現地の人との触れ合いは。
海兵の群れの中を歩いて港まで向かうわけで、ゾロが捕まえられるならやってみろってメンチ切ってたけど……いやそれ無理でしょ!? お前らついさっき磔場でさんざん一般兵を無双してたんだろ? 実力差は解ってるだろうさ、向こうも……いや、コレはそれを解っててからかってるんだな。顔が悪人面だ……いい性格してるよ。
「ぼくは、海軍将校になる男です!」
コビーの声が微かに聞こえてきた。
原作ではまだ将校にはなってなかったけど……でも、いつかはなれるんじゃないかな、と思ってたりする。
いつか、かつての祖父ちゃんとロジャーのような関係になるんだろうか。そう思うと、小さな笑みが顔に浮かんできた。
港には誰もいない。そりゃそうだ、この町を支配してた男が倒れたってのに暢気に港でお仕事してるような図太いヤツはそうそういないだろう。
俺たちが乗ってきた小船は、元々積んでいたタルの他にも俺が買い出しした品を詰めた木箱がいくつか乗っている。それを見て、ゾロがニヤッと笑った。
「たしか、飲ませてくれるんだったよな?」
早速か。俺は肩を竦めた。
「少しずつだぞ? 量には限りがあるし」
「ユアン、肉! 肉は買っといたか!?」
ルフィ……この肉魔人め。
「干し肉はたくさん買っといた。生肉は無いよ、この船じゃ冷蔵庫も無ければ調理も出来ないから」
……言った瞬間木箱に飛びつこうとしたルフィを、俺は無言で後ろ襟掴んで止めた。抗議の視線を受けたけど、ダメだ。ルフィに好きに食わせたらあっと言う間に無くなってしまう。
俺が小さく溜息を吐いた、その時だった。
「ルフィさん! ユアンさん! 色々、ありがとうございました!!」
走って追いかけてきたらしいコビーが、息を切らせながら俺たちに敬礼してきた。
「海兵が海賊に感謝するとはな」
ゾロの呆れ半分のセリフに、ルフィと俺は吹き出した。
「またな、コビー!」
「いつの日か、名を轟かせなよ! 海軍将校『漫才』のコビーとしてな!」
「どんな二つ名ですか、それは!?」
そのままの意味だ。最後まで切れのいいツッコミをありがとう。
そして、見送りに来てくれたのはコビーだけじゃなかった。
「全員、敬礼!!」
海兵たちは全員揃って整列して敬礼、町の一般市民たちも総出で来たのかってぐらいたくさんやって来た。
全く……賑やかな船出だな。
「そういやユアン、海軍基地で何してたんだ?」
シェルズタウンの人々の声も聞こえなくなるぐらい船を進めた頃、干し肉を齧りながらルフィが聞いてきた。ちなみに、俺とゾロは早速一杯引っ掛けてたりする。
あぁそうだ、忘れるところだった。
「色々と頂いてきたよ。それより、今のうちにちょっと試しとこうか……ルフィ、ちょっとこっちに来て」
特に疑うこともなく俺の真正面に座るルフィ……だが。
「………………何だ、コレ?」
ガシャンと己の手に嵌められた手錠を見て、すごく微妙な顔をした。だが、少し経つと力が完全に抜けてしまったのか、フニャ~っと崩れ落ちてしまう。
「オイ!? お前何やってんだ? 手錠!?」
突然のことに驚いたのか、思わずといった感じで立ち上がるゾロ。
俺はそんなゾロにグーサインを出した。
「大丈夫、鍵は持ってるから!」
「イイ笑顔で何言ってやがる! そういう問題か!?」
おぉ……ゾロのツッコミの切れも中々……いや、それは今どうでもいいか。
「落ち着いてよ、ちょっと実験したいだけだから」
俺はゾロを宥めて座らせた。
「ルフィ、力が抜けるだろ?」
クタ~と大の字になってるルフィに聞くと、小さく頷かれた。
「これは、海楼石で出来た手錠。海楼石ってのは海が固形化したとも言われる鉱物で、悪魔の実の能力者を無力化出来るんだ」
俺の能力は『手で触れたモノを小さく出来る』こと。
試してみたところ、液体を小さくすることは可能だったが、同じ液体でも海水にだけは効かず、小さく出来なかった。なら海楼石はどうかと思ってこの手錠を見付けたときに試してみたけど、これも効かなかった。
そこで気になったのは、海楼石そのものではなく、海楼石の手錠に繋がれている人間のみならばどうか、ということだ。
これが効けば……。
「1/10」
俺は手錠に繋がれたルフィだけに力を使ってみた……けど。
「……変化ナシ、か…………!」
ルフィは小さくならず、これもダメかと落胆しそうになったけど、暫く集中していると少しずつではあるけれど、ルフィが縮んできた。
「なるほど、効きは悪いと……でも、一応効くってことか」
完全にルフィが1/10サイズになるまで、だいたい30秒ぐらいは掛かった。これは……通常状態で限界の1/100サイズまで小さくするよりもよっぽど時間が掛かっている。
「プハァッ! 抜けた~!」
小さくなったことで手錠から解放されたルフィがホッとした顔をしてる。
「急にゴメン、ルフィ。でも、ちょっと実験したかったんだ。お陰で結果が解った、ありがとう。解除」
俺はルフィに謝りながら元のサイズに戻す。ルフィは俺が何を知りたかったのか解らないらしくキョトン顔だけど、あっけらかんとしたものだった。
「ん? まぁいいや、謝ってくれたし。それよりユアン、肉! もっとくれ!」
俺はお詫びの意味も込めて、ルフィに更なる干し肉を進呈したのだった。
けど、これで解った。俺はMr3と同じく、海楼石の手錠を掛けられた者を鍵無しで開放することが出来る、ということが。
例えるならば、エニエスロビーでのロビンやインペルダウン・マリンフォードでのエース。
多分、俺自身に手錠を掛けられて能力を封じられない限り何とかなる。
内心、笑いが止まらないよ。戦闘での使い道が全く解らない能力だと思ってたけど、まさかこんなことが出来るなんてな!
この悪魔の実を食べたこと、初めて心から感謝出来そうだ。
とはいえ、問題もある。時間が掛かりすぎるんだ。その間俺は能力制御に集中しないといけないから無防備になってしまうし……研鑽を積めば何とかなるかな?