麦わらの副船長   作:深山 雅

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第42話 航海士代理兼音楽家代理兼コック代理兼船医代理+ルフィのお守り

 海では互いに助け合うものである。

 なので、遭難者を見つけたのなら救済するべきだ。

 

 「助けてくれー!」

 

 小船の進路上で溺れる3人の男。

 うん、助けよう。

 

 「ゾロ、このまま真っ直ぐ漕いでてくれ」

 

 俺は立ち上がってスペースを空けた。

 

 「おいおい、あんなやつらに関わってる場合か?」

 

 ゾロはオールを漕ぐ手を止めずに呆れた声を出した。

 

 「どの道、見事に進路上にいるしね。でも確かに時間と手間が勿体ないから、止める必要はないよ」

 

 俺は大きく息を吸い込み、男たちに向かって叫んだ。

 

 「轢かれたくなければ、自分で乗り込め!」

 

 「「「えーーーー!?」」」

 

 え、助け合い? 何言ってんの、俺ちゃんとスペース空けたじゃん。助けようとしてるよ? 実際に手を出すのが面倒なだけで。

 

 「己の運命は! 己で切り開け!!」

 

 ドン、と胸を張って宣言してみました。

 

 「お前、何カッコつけてんだよ」

 

 ゾロがツッコんできたけど……それでも船の速度を落とそうとはしないお前も鬼畜だよね。

 

 「「「うおぉっ!!」」」

 

 根性で船に乗り込む3人組。

 うん、人間は生命の危機を感じたときに死ぬ気で頑張れば大抵のことはできるんだ! ……多分。

 

 「テメェら、殺す気か!?」

 

 憤慨してるけど、まぁそれだけ喚けるんなら問題ないだろう。

 3人は暫く呼吸を整えてたけど、少しして息が落ち着いてきた頃、卑しい笑みを浮かべた。

 

 「殺されたくなけりゃ船を止めろ。おれたちは『道化』のバギー一味のモンだ!」

 

 あ、バギーの二つ名『道化』で合ってた。

 

 「止めるのか、ユアン」

 

 ん?

 

 「俺の判断でいいのか?」

 

 ゾロなら問答無用でコイツらノシそうなのに。

 

 「いいもなにも」

 

 ゾロは小さく溜息を吐いた。

 

 「船長のルフィがいない以上、この船の進退はお前に決定権があるだろうが? 副船長」

 

 あぁ、なるほど……って、律儀だなーコイツ。

 俺は、クスリと小さく笑った。

 

 「止める必要は無い。お前はこのまま真っ直ぐ漕いでくれ。コイツらは俺が片付けとく」

 

 自分たちを思いっきり無視しながら話を進める俺たちに、3人組が明らかに気分を害している。

 実害は出てないし……この程度のヤツらなら、ちょっとお灸を据えればいいかな?

 

 「いきがるなよ、このチビ!」

 

 ………………訂正。フルボッコ決定☆

 判決がはっきりと定まってちょっとスッキリした俺には、爽やかな笑顔が浮かんできたのだった。

 

 

 

 

 

 「どうせ俺は小さいよ、16歳の平均身長に足りてないよ」

 

 「へぇ、申し訳ありませんでした!」

 

 「でも俺だって成長期なんだよ、きっとこれからボーンと伸びるんだよ」

 

 「仰るとおりで!」

 

 「毎日牛乳飲んでるもんね。いつかきっと3m越えてやるもんね」

 

 「いえ、それは無理なんじゃ……済みません、きっと大丈夫です!」

 

 俺が船のふちに腰掛けながら、眼前で土下座する3人の男の内失礼なことを言いやがった1人の後頭部を踏み付けた。

 3m越えを望んで何が悪い! この世界には3mのヤツなんてゴロゴロしてるだろ!?

 全く、顔の原型解らなくなるぐらいにメタメタにしてやったってのにまだ足りないのか、アァ!?

 いや待て、落ち着け俺。ガラが悪くなってる。

 落ち着いて、風が肌を撫でていく爽快感を感じ取って……感じ取って?

 待て、風向き可笑しくないか? 何で180°反対向きに吹いてるんだ?

 ちょっとコンパスを確認してみたら、確かに進路が変わってしまっていた。

 ……あれぇ、そういえば俺さっきなんて言ったっけ?

 『このまま真っ直ぐ漕いでくれ』って言ったよね? …………ゾロに。

 しまった……!!

 

 「ゾロ、お前どの方角に進んでる……?」

 

 口元が引き攣るのが止められない。

 ゆっくりとそっちを向いた俺に、ゾロは不思議そうな顔をした。

 

 「何言ってやがる。ちゃんと真っ直ぐ進んでるだろうが」

 

 「いや、旋回してるから! 180°反対向いちゃってるから! ちゃんとコンパス見てた!?」

 

 「コンパスだぁ?」

 

 いや、だから何でそんな不思議そうな顔してるんだよ!

 

 「んなモン見なくても、ちゃんとあの雲に向かって真っ直ぐ漕いでたぞ」

 

 ……ダメだ、このファンタジスタ!! そういや原作でもそんなこと言ってる場面あったね!

 

 「ドアホ!!」

 

 俺はちょっと本気で指銃を放った。

 

 「うぉっ!?何しやがる!」

 

 咄嗟に避けたゾロの反射神経は流石だな!

 

 「雲は流れるし形も変わるだろうが、ンなモン道標にするな!」

 

 全く……完全にルフィを見失った。俺の見聞色の有効範囲からも出ちゃってるな、これは。

 

 オレンジの町に向かえばいいって解ってはいるけど、何か凄く疲れる。

 

 

 

 

 オールの漕ぎ手を拾った(?)男3人に押し付け、ゾロと俺はのんびりしている。

 ちょっと疲れた。休みたかったんだよ。

 落ち着いてみると、俺にも非はあった。この迷子剣士に任せたのがそもそも間違いだったんだ。うん、反省。あんなヤツらに半切れしてる場合じゃなかった。

 

 「まぁ、ルフィのことだし……海に落ちてさえいなけりゃ何とかしてるはずだ」

 

 今まで、あんな鳥よりよっぽど大変な獣に襲われたことも何度もあったし。こう言っちゃ何だけど、ある意味慣れてるんだよ。

 基本、狩猟採集で生計立ててきた野生児を舐めんなよ?

 俺がそう言うと、ゾロも頷いた。

 

 「同感だな。陸地を見つけりゃ自分で降りてるだろ」

 

 会ったばかりなのに、ゾロの予想は的確だ。何だかんだ言っても、周囲をよく見てるよね。

 

 「それで……お前らは何で泳いでたんだ?」

 

 オールを漕ぐ3人に聞いてみた。まぁ、知ってるけど。

 

 「泳いでたんじゃねぇ、溺れてたんだ! ……です」

 

 いや、何もそこまで怯えなくても。

 俺、別にそこまでのことしてないよ? ただちょっと米神を蹴り抜いて三半規管を狂わせて平衡感覚を奪い、まともに立てなくなったところを20~30発ずつ殴ったり蹴ったりしただけだよ? それだって本気は出してないよ?

 そして男たちが語ったのは、酷い女の話……そう、ナミのことだ。

 でも、ナミのそのやり口って、泥棒というより詐欺師に近くね? 遭難者を装って、宝をエサに相手をおびき出し、その隙に船を奪うって……。まぁ、スコールに見舞われたのは偶然だろうけど。

 いや、もしかしたらあえてそのタイミングを狙ってたのかも。どっちにしろ計算高いこって。

 

 「航海士に欲しいなぁ……」

 

 あれ、俺ってば思ったよりもしみじみした声が出てきたよ。

 

 「何だ、随分切実そうだな」

 

 ゾロが聞いてきた……ってか、お前また飲んでるのか?

 ふ、と皮肉げに俺の口元が歪んだ。

 

 「何なら、ゾロも1回やってみればいいよ。航海士代理兼音楽家代理兼コック代理兼船医代理+ルフィのお守りを!」

 

 「無理だな」

 

 うぉっ、ゾロが即答した! そして諦めた!

 でもそうなんだよ、俺それぐらいやってるんだよ! 航海士代理として進路を取って、音楽家代理としてハーモニカ吹いて、コック代理として食材管理して(調理はできないけど。これは主にルフィのつまみ食いを阻止するってことだ)、ルフィが退屈したら相手して……まぁ、怪我や病気は今のところ無いから、船医代理としての出番はないのがせめてもの救い(?)かもしれないけど。

 うん、俺頑張ってる。

 俺たちがそんな話をしてる間に、3人組は揉めていた。バギーに怒られるー、とか言って。

 

 「『道化』のバギーって、バラバラの実を食った赤っ鼻海賊のこと?」

 

 俺が話を振ると、3人組は驚いていた。

 

 「どこでそんな話を!?」

 

 主に、原作と母さんの日記で……とは言わない。

 

 「ま、色々ね」

 

 俺は曖昧に笑った。誤魔化しスキル発動である。

 

 「どこで聞いたか知りやせんが、船長の鼻のことは言わない方が身のためですぜ! 以前、船長の鼻をバカにしたガキがいたんですが、船長はその町を丸ごと消し飛ばしちまったんだ!」

 

 あー、そういえばあったね、そんな話。

 ……何で母さんは日常的に赤鼻って呼んでたんだろう? それとも、それは日記の中だけだったとか?

 

 「バラバラの実ってのは?」

 

 ゾロが酒をラッパ飲みしながら聞いてきた……おい、お前ちょっと控えろよ。

 俺はゾロが手に持っていたボトルをひったくった。

 

 「悪魔の実の1つだ。ルフィの食ったゴムゴムの実や、俺の食ったミニミニの実と同じ、ね。ルフィがゴム人間、俺が縮小人間になったから、バラバラの実なら……切っても切れないバラバラ人間だよ」

 

 俺が奪った酒を奪い返そうとゾロが手を伸ばしてきたけど、遠ざけて手の届かない所に置いた。ゾロは小さく舌打ちしたけど、気にしない。

 それより、バギーの悪魔の実の能力についてちゃんと聞いててくれたのかね?東の海でゾロが負った大怪我は、バギーの不意打ちとミホークの太刀ぐらいだと思うんだよ……ミホークはともかく、バギーのは充分回避可能だろう。油断さえしてなきゃ。しなくて済む怪我ならして欲しくない。

 

 「けどまぁ、凄い組み合わせだな」

 

 酒は諦めてくれたのか、ゾロはゴロンと寝転んだ。何が凄いんだ?

 俺の疑問が顔に出たのか、ゾロが続ける。

 

 「悪魔の実なんざ、ただの噂だと思ってたんだが……それを食ったヤツが2人で海賊団を結成するとはな」

 

 あぁ、そういうことか。確かに、原作ではボロボロ出てきてた能力者も、4つの海には殆どいないしね。

 俺は肩を竦めた。

 

 「そうは言っても、俺がルフィに誘われて? 海賊になるって決めたときには、もう俺ら2人とも能力者だったからね」

 

 けどまぁ、言われてみればそうかもしんないよね。

 

 「何で誘われたってのが疑問形なんだよ。」

 

 ヒマだからだろうか、ゾロは珍しく話に食いついてきた。

 

 「俺、実はジャンケンの景品なんだ」

 

 「あぁ?」

 

 「俺は、海には出たかったけど海賊とか賞金稼ぎとかそういう細かいことは決めてなくて、船長になる気も無かった。反対にルフィたちは海賊船の船長になるって決めてて……まぁ、子どもの意地の張り合いの結果、かな? 兄貴たちが、誰が末っ子を引き入れるか、って話になっちゃったんだ。でも話し合いでは決着つかなくて、ジャンケンで真剣勝負を始めてさ。結果、ルフィが勝ったんだ。ちなみに当時、ルフィ7歳で俺6歳」

 

 おおまかではあるけど、大体間違ってはいないはずだ。

 俺のその時の内心は言わない……ってか、言えるはず無い。

 あれ、何かゾロが変な顔してる。

 

 「兄貴たち? 末っ子?」

 

 あ~、言ってなかったっけ。

 

 「ゴメン、言い忘れてた。ルフィと俺は兄弟なんだ。4人兄弟の3番目と4番目。歳は1歳差で、現在は17と16」

 

 うわ、驚いてる驚いてる。ゾロのこんな顔滅多に拝めないかも!

 

 「……全然似てねぇな。外見も中身も」

 

 「自覚はしてるよ」

 

 実際、似てなくても不思議はない。実の兄弟ではないから。

 ……でも、血は全く繋がってないエースとルフィは似てるよね。逆に、正式には従兄弟関係で一応血は繋がってるルフィと俺は似てない。幼少期から共に育ったエースと俺も似てなくて……あれ? ひょっとして俺が変なのかな? いや、そうでもないか。サボと俺は結構感性近かったし。……ま、いっか。兄弟4人で色んなタイプがいるってことで。 


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