麦わらの副船長   作:深山 雅

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第47話 VSバギー

 ゾロの傷には、特に問題は無かった。さっさと片を付けていたし、相手の攻撃を食らったりもしてないから、当然と言えば当然かもしれない。

 いや、普通は絶対安静にしてなきゃいけないような傷なんだろうけど……まぁ、ゾロだしね。

 となると後は……大人しく観戦でもしてようかな。

 

 ルフィVSバギー。船長対決だ。野次馬で悪いか。

 海図を寄越せ、と言ってもバギーが素直に渡してくれるわけもなく、ルフィのいつもの海賊王宣言も全否定し。

 怒るのはバギーの勝手なんだろうけど……それはそれとしてさ、アイツ、本気で世界の宝を手に出来るって思ってんのかな? グランドラインのレベルはよく知ってるだろうに。

 自分の実力をキッチリ見つめ直そうよ、うん。

 俺が1人心内でツッコんでいる間に、2人は戦闘開始していた。

 

 「テメェのその麦わらを見てると、あのクソ生意気な赤髪の男を思い出すぜ……」

 

 「クソ生意気な赤髪?」

 

 ………………オイこらルフィ。何で俺を見る。

 いや、そりゃ自分でも決して謙虚な人間だとは思ってないけど! お前、俺をクソ生意気だと思ってたのか!?

 

 「どわっ!?」

 

 ほ~ら、余所見なんてしてるから。

 ナイフを何本も持って分離したバギーの右手がルフィに襲い掛かり、ルフィは咄嗟にかわした。

 

 「いや、麦わら……!? シャンクスのことか!?」

 

 体勢を立て直したルフィはさっきのバギーのセリフにもう1つあったキーワードに気付いたらしく、バギーに向き直った。

 

 「知ってんのか、お前……今どこにいる?」

 

 ルフィとしては気になるところだろう、なにせ憧れの人物なんだ。

 

 「どこに? さぁな、知ってるといや知ってるし、知らんといえば全く知らん」

 

 謎かけのような、ふざけたような発言だ。しかし掛け値なしに事実だろう。

 何せ相手は四皇だ、少なくとも新世界にいるのは解りきっている。有名な海賊というのは目立つから、その気になれば詳しい所在地も知れるはずだ。そういう意味では、『知ってる』と言える。

 でも、特に情報を得ようとしていなければ、そんなことは『知らない』。

 だからバギーは、特に間違ったことは言ってないんだ。けど。

 

 「何言ってんだ、お前。バカか?」

 

 ルフィのツッコミは容赦なかった。

 うん、普段ボケの人間ほどツッコむ時はキツイな。

 

 「誰がバカだ!! ……知っていたとしても、それをテメェに教えてやる義理は無ェ」

 

 ジャキ、と両手に大量のナイフを構えるバギー。

 

 「じゃあ、腕づくで聞いてやる!」

 

 ……いやだからね、ルフィ兄ちゃん?

 別にソイツから聞き出そうとしなくたって、その気になって調べれば多分すぐ解ると思うんだけど? ……聞いてないか。

 

 ルフィがゴムであることに気付いているのかいないのかは解らないけど、ナイフという刃物を武器に使うバギーの選択は正しい。銃弾や砲撃すら防げるゴム人間も、斬撃は防げない。

 その後しばし続いたルフィとバギーの攻防は……まぁ、ほぼ原作通りだ。

 最終的にルフィはゴムゴムの銃ピストルからのゴムゴムの鎌を仕掛けたけど、バギーは分解することでそれをかわした。

 違ったのは、その後のルフィの動きだ。かわされたまま飛んでいって建物に激突することは無く、すぐに向き直る。

 まぁ、同じことやったからね……俺との試合で。ゴムの反動で飛んでいって木に激突したルフィに、そのまま間髪を入れず追撃して指銃を打ち込んでさ。以来、飛んだ後も相手から意識を逸らさないようになった。学習したよなぁ、ルフィ。

 

 「バラバラ砲っ!」

 

 バギーはナイフを持った手をルフィに向かって飛ばす。ルフィは受け止めたけれど……。

 

 「切り離し!」

 

 手首から先が更に切り離され、ルフィの頬と帽子の端を斬り付けた。

 あー、あの傷も後で消毒・縫合した方がいいかな。全く、手間を増やしてくれる。

 

 「この野郎!」

 

 ルフィは怒り心頭だ。解る、解るよ。『宝』を傷つけられる気持ち。

 以前俺もブチ切れた……ふ、あの頃は若かったな。

 

 「よくもこの帽子に傷を付けたな! これはおれの『宝』だ! 絶対に許さねぇぞ!!」

 

 許さない、はいいけどさ……我を失っちゃいけないぞ? バギーの腕はまだ戻ってないんだ。

 

 「そんなに大事な帽子なら……ちゃんと守りやがれ!!」

 

 バギーの腕がルフィの背後から襲い掛かった……帽子を狙って。

 

 「!? 剃!」

 

 だが、ルフィはそれを唯一体得している六式、剃で避けた。おぉ、原作改変!

 

 「何!?」

 

 消えたように見える高速移動にルフィを見失い、動揺するバギー。とはいえ、ギア2セカンドを使用していない現時点でのルフィの剃は、そこまで精度が高くない。連続で使用は出来ないから、消えたと言っても一瞬のことだ、すぐにどこかしらに現れる。

 

 「これはシャンクスとの誓いの帽子だ!」

 

 ルフィが姿を見せたのは、案外俺の近くだった。

 ルフィの言葉に、バギーが顔を顰めた。

 

 「何だとぉ? ってこたぁ、それはシャンクスの帽子か!? 道理で見覚えがあると思ったぜ! ……おれとあいつは昔、同じ海賊団で見習いをしていた。つまり、かつての同志ってわけだ」

 

 …………よく考えたらそれ、そんなにあっさり言っていいことなのか? お前自分の経歴隠してるんだろ? お前と違って、向こうは元ロジャー海賊団クルーってことも知られてるだろうに。

 俺がどーでもいいようなこと考えてる間に、ルフィが切れていた。

 

 「シャンクスは偉大な男だ! お前と同志だと!」

 

 偉大な男……うん、まぁ……そうでなきゃ、頂上戦争を収めるなんて芸当は出来ないだろうし。でもなぁ……俺としては、正直内心複雑なんだけどね……。

 どちらにせよ、ルフィの怒りは本物だ。

 

 「一緒にするな!!」

 

 また剃を使ったんだろう、バギーが分解して避ける間もなく懐に飛び込み、強烈な蹴りをお見舞いしていた。

 

 「…………!!」

 

 声も出ないのだろう、1人変顔で悶絶するバギー。

 

 「お前とシャンクスが同志だなんて、2度と言うな!」

 

 どん、と宣言するルフィ。けど、バギーも負けてなかった……口だけは。

 

 「テメェとあいつがどういう関係かは知らんがな、おれが何をどう言おうがそれはおれの勝手だ!」

 

 まぁ、間違った主張ではいない。むしろ正論と言える。

 ユラリと立ち上がると、バギーは過去を思い出しているのか、まさしく憤怒の表情を浮かべた。

 

 「おれはこの世で、あいつほど怒りを覚えたやつはいねぇ……あいつはおれからあらゆるものを奪いやがったんだ!」

 

 あらゆるものを奪って、って……元々、お前のものでもなかったと思うんだけどな。原作に出て来たあの地図は、まだ実物を見付けていなかったからバッタ物だったのかもしれないんだし。

 そして、聞いてもいないのに語られるバギーの過去……アレ? 1億ベリーの悪魔の実を売るつもりでいたのに間違って食ってしまって怒り心頭、って……どっかで聞いたことがあるような………………俺だ!!

 ヤバイ、ちょっと凹む!

 でも、ちょっと原作とは違う場面もあったらしい。

 悪魔の実を食べてカナヅチになったバギーが海に落ちたために、助けようと後先考えず海に飛び込んだ人がいたらしい……ちなみに、その人の名前はルミナ。つまり、俺の母さんである。

 ………………って、オイ! 母さんもカナヅチだろ!?

 

 

 

 

 (ありし日のオーロ・ジャクソン号での1コマ)

 『オイ、バギー!?』

 

 《何だ、体が動かねぇ。カナヅチになっちまったのか!?》

 

 『どうしたんだ、泳ぎは得意なはずだろ?』

 

 『どうしたの、何騒いでるの?』 (←偶々通りかかった)

 

 『ルミナか。バギーが海に落ちて上がってこないんだ』

 

 『!? 赤鼻は悪魔の実食べたじゃない! 泳げないのよ!』

 

 『あ、そうか! ……って、待て!!』

 

 『何で止めるの、助けなきゃ!』 (←海に飛び込もうとしている)

 

 『いや、待てって! お前もカナヅチだろうが!!』

 

 『………………あ』 (←既に船から落下中)

 

 『バカ野郎ォォォォ!!』

 

 最終的に、2人揃ってシャンクスに助けられたらしい。

 

 

 

 

 母さん…………おバカというか、ド天然というか……コメントのしようがないよ。

 けど、これで謎が解けた。何で日記にバギーが悪魔の実を食ったその当日の記述がないんだろうって思ってたんだ……溺れてダウンしてたんだな。

 俺がコッソリ頭を抱えていると、ルフィが感心していた。

 

 「へー、シャンクスが助けてくれたのか」

 

 「おれが言いてェのはそこじゃねェよ!!」

 

 うん、俺もそこよりもツッコミたい部分が山ほどある。

 けど、ルフィにも引っ掛かる部分があったらしく、首を捻っている。

 

 「でも、ルミナ? って、どっかで聞いたことがあるような……あ!」

 

 あ、って何だよ。あ、って。何か嫌な予感がするぞ? 何でそんなにスッキリした顔でポンと手を打ってるのかな?

 

 「それって、おばちゃんの名前だ!」

 

 ルフィーーーーーー!? 何でそういうこと言うかな、この子は!!

 ってかお前覚えてたのか、母さんの名前!

 

 「おばちゃん、だとぉ?」

 

 げ、バギーが食い付いた!?

 

 「あぁ! 祖父ちゃんの娘で、おれの叔母ちゃんだ!」

 

 何でそんなに堂々と宣言するんだお前は! しかもそんな晴れやかな笑顔で! 思い出せたのがそんなに嬉しいか!

 

 「…………テメェ、名はなんていいやがる。」

 

 バギー、そんな神妙な顔して……似合わないぞ!

 でもこれはヤバイ……話の方向が妙なところに向かってるっぽい。

 俺はそろそろと、出来るだけ周囲の目に留まらないようにコッソリと移動を始めた。

 ……ナミの所にでも避難しよう。観戦なんてしてるんじゃなかった。

 あぁ、自分のこの好奇心と野次馬根性が憎らしい!

 

 「おれはモンキー・D・ルフィ! 海賊王になる男だ!」

 

 どん、と胸を張りやがって!

 ルフィ、頼むからもう余計なこと言うなよ? 特に、俺を巻き込むようなことはしないでくれ!

 

 「『モンキー・D』だぁ!? テメェまさか、『拳骨』のガープの孫か!?」

 

 やっぱり知ってたね、バギー! そりゃそうだね、ロジャー海賊団にいて宿敵・ガープ中将を知らないわけないよね!?

 

 「そうだ! おれだけじゃないぞ。」

 

 マジでヤバイ! もうそ~っと移動してる余裕は無い、全力でこの場を離れて………………!

 あれぇ? 何で俺のコートの端が何かに掴まれてるんだろーなー?

 束の間現実逃避をしたけれど、それが天に通じるはずもなく。

 

 「うぉおぅ!?」

 

 俺はゴムに掴まれたまま、その反動でルフィに引き寄せられてしまった……本当に、観戦なんてしてるんじゃなかった!!

 

 「ユアン、話聞いてただろ? コイツおばちゃんのこと知ってるみたいだぞわっ!?」

 

 俺は思いっきりルフィの脳天に踵落しを叩き込んだ。かなり本気でやったからか、ルフィは地面にめり込んだ。

 こンのクソゴムがっ! 結局俺を巻き込みやがって!!

 

 「ユアン……だと……?」

 

 あれ、バギーが固まってる?

 フード……は、落ちてないな。うん、まだ顔は見られてないはずだ。

 何でそんな、まるで石膏像のように硬直してるんだよ?

 

 「テメェ、まさか……ルミナの息子か!?」

 

 ………………WHY?

 え、何で!? どうしてバレたんだ!?





 次回は大半が、バギーの回想による過去編になります。


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