麦わらの副船長   作:深山 雅

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第48話 過去編① ~在りし日のロジャー海賊団~

 『治癒姫』 ルミナ。

 彼女はバギーにとって、色んな意味で忘れられない人物である。

 

 

 

 

 そもそも、彼女は海賊船への入り込み方からして人とズレていた。

 ロジャー海賊団の面々も、まさか、海軍との交戦中にいつの間にか幼い少女が単身乗り込んでくるなどとは想像もしていなかった。

 しかもその少女が自ら海軍……というより、ガープ中将に対する人質になると宣言するなどとは。

 知らぬ間に娘が宿敵の船に乗っていると知ったガープが躊躇している間にその海域を抜け彼らは事なきを得たものの、落ち着いてからよく考えると、その少女を扱いかねた。

 海賊船にわずか10歳の少女。似合わなさすぎる。

 しかし本人に聞けば、海賊になりたいのだと言う。この船に乗り込んだのもそのためだ、と。

 初めは、そんな意見はナンセンスだと皆考えた。

 そもそも幼すぎるし、しかも女の子だ。危険である。

 けれど、年齢に関しては既に見習いとしてオーロ・ジャクソン号に乗っていた同年代のシャンクスとバギーを引き合いに出されれば、あまり強いことは言えない。

 女の子であるということも、大きな問題にはならなかった。ガープに扱かれていたらしく、それなりの腕前を持っていたのだ。

 その上彼女は、チユチユの実を食べた治癒人間だった。怪我がつきものの海賊船において、その力のなんとありがたいことか。

 中にはガープの娘ということで、スパイなのではないかと危ぶむ者もいたのだが、最終的に船長・ロジャーが彼女の心意気を認めたことが決め手となり、ルミナはロジャー海賊団見習いとなったのだった。

 

 

 

 

 とはいえ、ルミナとて自分が決して歓迎されていないことぐらいは解っていた。

 だからこそ、彼女は頑張った。まずは自分が本気であることを行動で示そうと、自分に出来る限りの精一杯のことをした。

 朝は誰よりも早く起きて洗濯、朝食を作るコックの手伝い。

 昼は掃除に鍛練……覇気を副船長・レイリーに、医術を船医・クロッカスに教わっていた。治癒人間ということで、折角なら色々覚えて医者を目指してみるか、ということになったのだ。

 夜には夕食作りの手伝いから繕い物まで、それはそれは朝から晩までクルクルと忙しなくよく働いていた。

 雑用は見習いの仕事と言っても過言ではないので、ルミナが入る以前はシャンクスとバギーが洗濯だの掃除だのをしていたのだが、彼女が来てからというものすっかり暇になったほどだ。

 どんなに忙しくても疲れていても誰よりも働いて、いつも笑顔を絶やさない少女に一味が絆されるのには、あまり時間は掛からなかった。

 類は友を呼ぶというか、ロジャー海賊団の者たちは基本的に人のいい者たちである。

 ルミナの本気を認め、努力を評価し、疑いを打ち消してしまえば、後は一転して好意的になった。

 ムサい男どもの中で、可愛い女の子が笑顔を振り撒いているのだ。癒されないわけがない。

 

 勿論ながら戦闘中の甘えや妥協は許さなかったが、日常生活においてはまるで、娘を見ているような心持ちであった。

 しかも実父・ガープには『孤島のジャングルに置き去りにされた』だの『風船に括りつけられて空に飛ばされた』だの『千尋の谷に文字通り突き落とされた』などの仕打ちを受けたという苦労話を聞けば、哀れにも思えて、更に甘くなる。

 父親にとって娘は『お姫さま』だというが、ロジャー海賊団にとってのルミナもそうである。

 どこからかそれが漏れたらしく、それ故にいつの間にか付いた二つ名が『治癒姫』。

 『治癒』の力を持つ、海賊団の『姫(=娘)』。元はといえば、謂れはそれであった。

 

 

 

 

 そしてあれは……正確にはいつのことだっただろうか。

 後に世界で『エッド・ウォーの海戦』と呼ばれることとなる戦いの、少し後のことだ。

 ロジャー海賊団の面々は、冬島に上陸していた。しかも、季節は冬。

 冬の冬島といえば、それはもう一面銀世界の極寒の世界である。

 しかし治安は悪くなく、海賊団の者たちは意気揚々と上陸し、思い思いに陸の楽しみを満喫していた。

 しかしその夜、宴会でもするかと船に戻り、一同ははたと気付いた。

 

 『ルミナはどこだ?』

 

 と。

 

 

 

 

 その後は、かなりの騒動になった。

 普段ならば、それほど問題になるようなことじゃなかっただろう。

 治安の悪い島でもないし、海軍が駐留しているわけでもないし、他の海賊がいるという情報も無ければ賞金稼ぎの噂も無い。

 そんな平和な島でルミナが多少羽を伸ばしたとて、何の問題も無い。彼女の実力ならば、町の不良に絡まれたとしても何とでも対応できる。

 ここが、冬の冬島でさえなければ。

 

 「まさか、山に入り込んでるんじゃないか?」

 

 真っ先に言い出したのはシャンクスだったが、誰もそれを否定できなかった。

 冬の冬島の雪山に迷い込む……ルミナならやりかねない、と心の奥で皆が思った。あの娘は普段はしっかりしてるくせに、時々妙な所で抜けていて、信じられないようなことを仕出かすのだ。

 考えていると段々そうなんじゃないかという思いが強くなり、探しに行こう、という話になった頃、彼女はヒョッコリと帰ってきた。

 

 「心配かけてごめんなさい!」

 

 深深と頭を下げて謝るその元気な様子に、一同は安堵の溜息を吐いた。怒りよりも安堵が表に出る辺りに、彼らがルミナを甘やかしているのが現れている。

 聞けば、彼女はやはり雪山に迷い込んでしまっていたらしい。

 そんな中で、怪我をして動けなくなっていた地元の兄妹を見付け、彼らの怪我を治して麓まで送ってもらったのだという。

 ……ある意味、あまりに予想通りの事態に、一同は今度は呆れの溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 少し遅くなって始まった宴の中、ルミナは蕩けそうな笑顔を浮かべながら出会った2人のことを話していた。ちなみに聞き手は、見習い仲間の赤コンビである。

 

 「それでね、本っ当に可愛かったのよ!」

 

 ルミナを助けてくれた兄妹は、兄がユアン、妹がユリアという名前で、5歳と4歳だったらしい。

 

 「ちっちゃくって、ころころしてて、ぷにぷにで柔らかくて……」

 

 ムギュ~っと毛布を抱きしめながら悶える姿は、酷く微笑ましい。

 ルミナはかなりの子ども好きである。それはもう、赤ん坊も幼児も可愛くて仕方が無いらしい。そして、件の2人はルミナのどストライクに嵌っていたようだ。

 ルミナ自身もまだ子どもであるが、自身より幼い者へ向ける愛情は、ある意味女の子ならではである。

 

 「そんなに子どもが好きなら、これやろうか?」

 

 そんなルミナにシャンクスが差し出したのは、手鏡だった。

 

 「? 何で?」

 

 キョトンとした顔でルミナが問うた。

 

 「ちっちゃくてころころしたのが好きなんだろ? これでいつでも見られるぞ」

 

 その言葉の意味を悟り、ルミナの口元が引き攣った。

 

 「それってつまり……あたしがちっちゃくてころころしてるって言いたいの?」

 

 「違うのか?」

 

 その返しに、ルミナの頭の中で開戦のゴングが鳴った。

 

 「シャン!!」

 

 持っていたジュース入りのジョッキを投げつけた。シャンクスは余裕でかわし、距離を取る。

 でなければ、鉄拳が飛んでくる可能性があるからだ。平手ではない、硬く握った拳が。

 幼い少女と侮ってはならない。かつてガープ中将に扱かれ、その後は海賊として戦線に立つ彼女は、並の少女ではありえない。はっきり言って、単純な腕力ならその辺の大の男も軽く凌ぐ。ヒットしようものなら、意識が飛ぶ。本人が嫌がるので誰も口には出さないが、ある意味流石は『拳骨』のガープの娘、と思われている。

 バギーにしてみれば、その小柄で細身の身体のどこにそんなパワーが? と、世界の海の七不思議を見ている気分だったりする。

 ……まぁ、パワーだけでなく、総合的な戦闘力でもバギーはルミナに全く敵わなかったりするのだが。軽くブッ飛ばされてしまうのだが。

 

 「そりゃ、あたしはちっちゃいわよ! ちびっこいわよ! でも、ころころなんてしてないもん! そこまで子どもじゃない! それに身長だってきっとこれから伸びるよ! 毎日牛乳飲んでるもん!」

 

 紅潮させた顔で反論するが、シャンクスは面白そうに笑った。

 

 「い~や、伸びねぇな! ガキはちっこいままだ!」

 

 「ガキじゃない! あんたとだって、1歳しか違わないじゃないの!」

 

 始まった、とバギーは軽く頭を抱えた。

 よせばいいのに、シャンクスときたら暇さえあればルミナをからかう。しかも、本人が気にしている身長のことを引き合いに出して。

 こうなると、長いのだ。延々と言い合い続け、最終的には……。

 

 「煩いぞ、静かにしないか!」

 

 オーロ・ジャクソン号をフィールドに鬼ごっこを始め、レイリーに叱られるのである。

 

 「頭を冷やせ、バカやろう!」

 

 この鬼ごっこは毎回、シャンクスを殴ってルミナを小脇に抱えながらレイリーが治めているのだ。実にご苦労なことである……が、ルミナは殴らない辺り、彼も『娘』に甘い。

 

 「ガキじゃないってんなら、これ飲めるのか?」

 

 殴られた頭を摩りながらシャンクスがルミナに渡したのは、酒の入ったジョッキだった。瞬間ルミナは、グッと言葉に詰る。

 

 「の、飲めるもん!」

 

 ジョッキを引っ手繰って口を付けるが、その勢いは弱い。ジョッキに入ってるのは度数の低い果実酒なのだが、ルミナにはキツイのだ。

 予想通りというか、1口舐めただけで顔を顰めた。既に涙目である。

 しょんぼりと肩を落とすルミナを励ますように、レイリーが彼女の頭を軽く叩いた。

 

 「まぁそう気にするな。シャンクスだって、何も本気でお前をガキ扱いしてるわけじゃない」

 

 しかし、ルミナはムスッとしたままだ。

 

 「違う。シャンはあたしをバカにして遊んでるんだ」

 

 ……否定は出来ない部分がある、とレイリーとバギーは顔を見合わせた。ルミナをからかうシャンクスは実に楽しそうである。現に。

 

 「ガキ」

 

 「ほらぁっ!!」

 

 また余計なことを言ってるし。

 ルミナは1度頭を振ると、思考を切り替えたらしい。

 

 「いいよ、もう……子どもなのは本当だし。でもあたしだってこれから大人になるんだもんね。そうだ! 大きくなってあたしに子どもが出来たら、あの子たちの名前を貰おう! 命の恩人だし! 男の子ならユアン、女の子ならユリア!」

 

 いいこと思いついた、と言わんばかりのルミナは目に見えて一気に機嫌を回復させた。

 

 「随分と気が早いな」

 

 レイリーが苦笑している。

 

 「ルミナ……子ども欲しいのか?」

 

 そわそわとした様子で尋ねたのはバギーだった。それに対して、ルミナははにかみながら答える。

 

 「そりゃ、いつかはねー。他人の子でもあんなに可愛いんだよ、自分の子だったらもう反則だよね」

 

 子どもを産み育てるには、可愛いだけじゃだめだろうとレイリーは思ったが、口には出さなかった。何しろルミナも認めたように、彼女自身まだ子どもなのだ。そんな難しいことは考えていないだろう。なので彼も難しいことは考えず、心のままの言葉を発した。

 

 「もしそうなったら、一目見たいものだな」

 

 レイリーは酒を含みながら呟いた。ルミナは娘のようなものだ。娘の子どもならば、それは孫のようにも思えてくる。

 ルミナもその発言を聞いて、無邪気に笑った。

 

 「はい! そしたら見てくださいね!」

 

 和やかな、ほのぼのとした空気が漂った……が。

 

 「海賊娘に嫁の貰い手があるのか?」

 

 シャンクスがまたいつものからかう様な口調で聞いた。

 

 「まさか、子どもさえいれば旦那はいらん、とかか?」

 

 いつもならば応戦するルミナだが、今回はムゥと考え込んでしまった。

 

 「よく解んない……」

 

 それはそうだろう。ルミナの子ども欲しい発言は、恋に恋する乙女のようなもので、深いところまで考えてのものではない。男女のあれこれなど想像の埒外だろうし、そもそもこの少女は、まだ子どもの作り方すら知るまい。

 

 しかし、とレイリーは想像してみる。

 

 『子供が出来たの! でも結婚はしてないからあたし1人で育てるわ!』

 

 或いは。

 

 『あんな男はどうでもいいの! この子さえいれば!』

 

 もしも遠い未来で、この娘同然に思っている少女にそんな宣言をされでもしたら。

 

 「…………………」

 

 「ど、どうしたんだ、レイリーさん!?」

 

 レイリーの手の中で木で出来たジョッキがバキッと握り潰されたのを見、シャンクスは気持ち引いた。そんな見習い少年に、副船長は凄みのある笑顔を見せる。

 

 「いや、シャンクス。何でも無い」

 

 (絶対ェ嘘だァァァァァァァ!)

 

 シャンクスは肝が冷えた。ルミナのことは笑ってからかえる彼も、流石にレイリーの鬼気と渡り合えるほどでは無い。

 レイリーはというと、取りあえず脳内で大事な娘(ルミナ)に無責任な行いをした男(顔は無い)を八つ裂きにしておいた。

 

 そんな師匠の内心に全く気付いていないルミナは、考えに没頭していたせいか無意識的に口に運んだ酒に、また顔を顰めた。

 

 「お……おれが貰ってやろうか!?」

 

 顔を真っ赤にさせながらバギーがそう言うと、ルミナは目を見開いて……にっこりと笑った。

 

 「本当? ありがとう!」

 

 その返答にバギーは舞い上がった……すぐに引き摺り下ろされたが。

 

 「ごめんね、あたしにはやっぱりキツイみたい」

 

 そう言って渡されたのは、ルミナの持っていた酒入りジョッキ。

 どうやら、さっきのバギーの発言はルミナの脳内で、その酒を飲めないなら自分が引き受けてやる、という意味で変換されたらしい。

 何とも間の悪い、不憫な少年である。

 バギーはちょっと涙が出そうになった。何でそんなに鈍いんだ、とルミナを責めたい気持ちが湧き上がりそうになった……が、その後ろで声を押し殺しながら笑い転げるシャンクスを見ると、怒りも何もかもがそちらに向かう。

 にこにこ、と全く邪気のない笑顔を向けられると、今更ルミナに訂正を入れるのも憚られ。

 

 「………………」

 

 バギーは無言でジョッキを傾けるしかなかった。

 

 「ま、まぁ、50年後に期待するんだな」

 

 息も絶え絶えになりながら、シャンクスはルミナの肩を叩いた。

 

 「? 何で50年?」

 

 首を傾げるルミナ。

 

 「え、だってお前が『大人』になるまでにそれぐらいは掛かるだろ?」

 

 ピシリ、と空気が凍った。

 あ、これはヤバイ、と傍で見ていたバギーとレイリーは思った。これはルミナがかなり本気で怒った、と。

 

 「へぇ~、50年……」

 

 ルミナはにっこり微笑むと、ガシッとシャンクスの胸倉を掴んだ。

 

 「50年? 本気で言ってるの、それ? あたしおばあちゃんになっちゃうよ? もうそれガキってレベルじゃないよね? 赤ん坊だって50年あればおばあちゃんだよ。そんなにあたしをガキ扱いするの? バカにするの? じゃああたしだってバカにしてやる。その自慢の赤髪を毟ってやる。全部毟ってツルッぱげにして、それでハゲってバカにしてやる」

 

 「いっ!? おい、待て、本気で引っ張るな!」

 

 「本気? 本気に決まってるじゃない、毟るって言ってるじゃ」

 

 「ルミナ、やめなさい」

 

 レイリーが咄嗟に止めた。

 ルミナはシャンクスを睨み、レイリーを見、またシャンクスを睨んで手を離した。

 いつもながら、この手腕にバギーは脱帽する。

 本気で怒ったルミナを止められるのは、覇気の師匠であるレイリーと医学の師匠であるクロッカスのみである。それ以外の者が下手に手を出そうものなら、手痛い流れ弾を食らうことになる。

 ……以前、ロジャーもルミナに怒られた時があったが……世界にその名を轟かせる大海賊が、わずか11歳の少女に正座させられるというもの凄くシュールな光景が展開された。ちなみに、この時はレイリーはルミナを止めなかった。破天荒な船長に苦労させられている副船長の意趣返しが垣間見えた瞬間だった。

 尤もバギーにしてみれば、あの背筋が凍るような微笑みを向けられながら抵抗できるシャンクスにも感心する……が。

 

 「そもそも、おれの髪は別に自慢じゃねぇよ。バギーの鼻じゃあるまいし」

 

 そのシャンクスが襟元を直しながら言った一言が、全て台無しにするが。

 

 「誰の鼻が自慢だテメェ!」

 

 バギーは食って掛かろうとした……が。

 

 「え!? その赤鼻、自慢じゃないの!?」

 

 心底驚いた顔をしたルミナを見て、言葉に詰る。

 バギーは心底後悔した。

 ルミナがこの船に乗ったころ、つい意地を張って『この鼻が自慢で悪いか!』などと言った過去の自分を絞め殺してやりたい気分だった。

 そしてルミナは、良くも悪くも素直な娘だった。バギーの意地を真に受け、その鼻を称えて『赤鼻』と呼ぶくらいには。

 バギーにしてみれば、ルミナのそれが本気なのが問題だった。それこそ、シャンクスがルミナに『チビ』だの『ガキ』だの言うように揶揄しているというのなら、心置きなく怒り狂えた。しかしルミナは真実バギーが己の鼻を誇っていると思い、それを尊重して称えているのだ。

 本当は嫌なんだ、と言えば、『チビ』と言われて怒るルミナは、もうバギーを『赤鼻』とは呼ばないだろうし、今までのことも謝ってくれるだろう。

 しかし、言えない。

 

 「おうよ! この鼻はおれのハデな誇りだ!」

 

 もしも『嘘つき』と軽蔑されたら、と思うと、言えない。

 そうなんだと笑うルミナには、何でそんなに素直なんだと泣きたくなるが、その後ろで声を殺しながら爆笑しているシャンクスには、殺意を覚える。当然、シャンクスの方はバギーのそれが虚勢だと解っているのだから。

 レイリーの生暖かい視線に、バギーは何とも言えず惨めな気分になるのだった。

 

 

 

 

 ルミナの『男の子ならユアン、女の子ならユリア』発言は、その後も度々聞かれた。

 

 

 

 

 バギーが最後にルミナに会ったのは、もう22年も前。ロジャー公開処刑の日のローグタウンだ。

 

 「おれとハデに海賊やらねぇか?」

 

 と誘った。バギーとしては、一世一代の告白のつもりだった。

 しかし。

 

 「ありがとう。でも、ごめんね。あたしもう、シャンと一緒に行くって言っちゃったの」

 

 現実は無情だった。

 ルミナの様子では、バギーよりもシャンクスを選んだ、というわけではなかっただろう。単に、バギーよりシャンクスの方が先に誘った、それに応えた、というだけのことだったのだろう。でもそれが、余計に悲しかった。

 ルミナの鈍さを知りながら好いた惚れたとはっきり言わなかったバギーもバギーだが、全く気付かれないぐらいならキッパリ振られた方がまだマシのように思えたのだ。

 

 「これからは敵同士になっちゃうけど、でも、ずっと友だちだよね?」

 

 しかも、ダメ押しまでされるし。

 けれどバギーは、見栄っ張りだった。

 

 「おうよ! 海で会ったら容赦しねぇぞ!」

 

 惚れた女に、器の小さな男と思われたくない、と考える程度には。

 この後も実際に別れるまで多少の騒動はあったのだが……最終的には、互いに笑顔で別れたのだ。

 そして、叩きつけるように降る雨に隠れて見えなかっただろうが、バギーはこっそりと大泣きしたのだった。

 

 

 

 

 そんなルミナが何故かぷっつりと消息を絶ってから、早15年以上。しかもここ最近では新たなチユチユの能力者が現れたとかで、彼女の死亡が推定された。

 実は未練たらたらだったバギーは、その事実に相当なショックを受けたものである。

 

 そして現在。

 あの『男の子ならユアン、女の子ならユリア』発言は、殆ど忘れていたといってもよかった。

 目の前のフードを被った人物。彼が、『ユアン』という名前の『ガープの孫』と知るまでは。




 この小説でのロジャー海賊団見習い3人組はこんな感じです。シャンクスとルミナの掛け合いは、原作1話のシャンクスとルフィの掛け合い近いです。そしてシャンクス、初めて書きました。
 にしても、ベタな3人ですねー。でもまぁ、まだサブティーンの頃の話ですし、三角関係(?)も出てませんからね。ルミナはフリではなく、ガチで気付いてません。そっち方面を全く理解してません。結局、バギーの気持ちには生涯気付いていませんでした。

 この過去編で何が言いたかったかというと、それは、ユアンのキレ方と低身長が母からの遺伝だということです……ウソです、それは蛇足です。
 それよりも、ルミナがバギーを何故『赤鼻』と呼んでいたか……ウソです、どうでもいいです。
 実際には、『男の子ならユアン、女の子ならユリア』発言が人に知られている、ということです。まぁ、これは次回で纏めますが。

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