麦わらの副船長   作:深山 雅

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第51話 野生の常識

 1000ベリーの使用料でナミにコンロを貸してもらい、俺は航海に出てから初めての調理を行った。

 とはいえ本職のコックではないから、簡単なものしか出来ないんだけどね。

 取り敢えず、肉は焼いた。あと、野菜炒めとパン。

 

 「待てって言ってるでしょ!?」

 

 丁度、出来たなと思った頃、外からナミの叫びが聞こえてきた。

 様子を見に行ってみると、ルフィとゾロが乗った小船が遠くに見える島へと向かっていた。

 なるほど、珍獣島か。案外早かったな。

 

 「あ、あんた! あんたの所の船長、止めなさいよ! あそこは無人島だって言ってんのに!」

 

 いや、そう言われても。

 

 「無駄だよ。ルフィは『冒険しないと死んでしまう病』なんだ」

 

 ウソップの真似をした口から出まかせの病気だけど、そう外れてもいないと思う。

 そう、それはまるで泳ぎ続けていないと死んでしまうマグロのように。

 それに俺としても、珍獣は見てみたい。今回は海軍も海賊もいないし、のんびり出来るだろう。

 俺にルフィを止める気が全く無いのを見て取ったのか、ナミは大きな溜息と共に船の進路を珍獣島に向けたのだった。

 

 

 

 

 

 「島に着いたぞ!」

 

 オールを手で漕いで船を進めたルフィと、帆で風を受けて進んだナミが珍獣島に辿り着いたのは、ほぼ同時だった。

 ちなみに俺は、船が進んでる間に作った料理を弁当箱に詰めていた。

 アレだよ、肉がたっぷりの海賊弁当。でも野菜も入ってるよ!

 

 「ルフィ、ほら」

 

 手渡して真っ先に聞かれたのが。

 

 「肉は入ってるのか?」 

 

 ……お前本当に予想を裏切らないな! 俺は1つ溜息を吐いた。

 

 「たっぷりね。バギーの海賊船から奪ったヤツだけ。」

 

 言うと、それはそれは嬉しそうに笑うルフィ。

 いや、正直に言えば、この程度のものぐらい食いたきゃ自分で作れ、とも思うんだけどね。

 でも……食魔人だ、肉魔人だ、バカだ何だと思ってるし口にも出してるけど、こうも喜ばれるもんだからついつい作ってしまう。しょうがないから、サンジ加入までは作ろう。

 ちなみに、船で寝ているゾロの分は枕元にメモと共に置いてきた。

 ナミの分は船を降りる前に既に渡してある。ついでに言うなら、ナミの分は肉より野菜の比率の方が大きい。後、オマケにみかんも付けといた。シェルズタウンでビタミン源として買っておいたヤツだ。

 にしても……。

 

 「長閑な無人島だな……」

 

 静かだし、木々の生い茂り具合も丁度よさげだ。

 もしも、小さい頃に放り込まれた無人島がこんな平和そうなところだったら……やめよう、空しくなるだけだ。

 

 「コケコッコー!」

 

 って、早速出たー! ニワトリキツネだ!

 あれ、美味いのかな……鶏の味すんのかな……1匹ぐらい捌いてみようか……?

 

 「コケー!!」

 

 あ、逃げた! チッ、殺気でも察したか。

 

 「見ろ見ろ、変わったウサギがいたぞ!」

 

 ルフィが掲げて見せたのは、ウサギヘビ……ヘビウサギ? どっちでもいいや、ウサギヘビにしとこう。

 

 「ウサギ肉は柔らかいから、フィレステーキに最適……」

 

 ただし、1羽から取れるフィレは少ないから、数羽分が必要である。

 

 「何怖いこと言ってんのよ! それにあれは、どっちかって言えばヘビでしょ!?」

 

 「ヘビなら蒲焼に……」

 

 「だから、食用から離れなさい! 怯えてるじゃない!」

 

 本当に、ウサギヘビは怯えていた。震えていた。言葉を理解してるのか? 賢いな。

 でもウサギヘビよ、よく見ろ。今お前を掴んでいるゴムを。その視線に食欲が混じっているぞ。

 いや、落ち着け俺。この島の珍獣を食ったりしたらガイモンが悲しむ。

 

 「……ゴメン、俺たち、そういう暮らしをしてきてたもんだから」

 

 「どんな暮らし」

 

 ツッコまれました。どんなって、狩猟採集が基本の野生の暮らしです。

 獲ったら食う。これが常識だった。俺だって、ルフィほど食欲旺盛ではないけど、常人よりはそっち寄りだろう。

 ちなみに、獲った獲物の調理は基本的に俺だった。だってエースもルフィも丸焼きしかしないんだもん。俺だってそう凝ったことは出来ないけど、何とかそれから脱却したかったんだよ。

 

 「えー、ユアン料理してくんねぇのか!?」

 

 ルフィは不満そうだ。

 

 「シャー!?」

 

 おぉ、ウサギヘビよ、漸くそいつの危険性に気付いたか。

 

 「弁当あるだろ? 後でまた何か作るから」

 

 そう言うと、渋々だけどルフィはウサギヘビを放した。一目散に逃げるウサギヘビ。

 

 「ガルルルルルル」

 

 背後から聞こえた唸り声。振り向くとそこにいたのは……。

 

 「ライオンだ!」

 

 鬣を持ったブタがいた。けど……フム。

 

 「ブタなら、叉焼食いたいな。ライオンなら猫科……猫の調理は」

 

 「やめなさいって言ってるでしょ!」

 

 ナミの鉄拳が飛んできた。

 でもその気持ちも解る。今日の俺は何か可笑しい。無人島に降り立ったせいか? 俺ってばすっかり染まっちゃって……

 

 《それ以上踏み込むな!》

 

 俺がちょっと内省している間にルフィが森に入ろうとしていたが、変な声に拠って止められた。

 

 「な、何!? あんた誰!?」

 

 急に聞こえてきた声にナミが誰何した。

 

 《え? おれ? おれは……この森の番人だ!》

 

 しどろもどろだな、ガイモン。

 

 「森の番人?」

 

 《そうだ! 命が惜しければすぐにこの島から出て行け! お前たちは、アレだろ? え~と、海賊?》

 

 ……セリフの前半の威厳が後半で台無しになってる。

 

 「そうだ!」

 

 どん、と胸を張るルフィ。

 

 「何で森の番人がそんなこと聞くのよ」

 

 「森を守るモノなら、海の者が来たところでどうでもいいんじゃないか?」

 

 《……やはり海賊か》

 

 コイツ無視しやがった! 何だろう、モージを思い出す。

 

 《いいか、もし森に一歩でも足を踏み入れてみろ! その瞬間、お前たちは森の裁きを受けその身を滅ぼすことになるのか?》

 

 「「知るか」」

 

 しまった、ついツッコミがルフィと被ってしまった。

 

 「変なヤツだなー、コイツ」

 

 全力で同意する。

 

 《何だと、この麦わら!》

 

 ガイモンのコントに付き合うのもアレだよな……。俺は意識を集中した。

 

 「どっかその辺にいるんじゃないか?」

 

 「どこにいるのよ、出て来い!」

 

 普通にキョロキョロしているルフィと比べ、ナミはちょっとビビってるみたいだ。汗を掻いている。

 

 「ルフィ」

 

 俺は森に足を踏み込もうとしたルフィの服を掴んで止めた。

 

 「背後、凡そ20m先」

 

 それだけ言うと、ルフィは察してくれたらしい。1つ頷き。

 

 「ゴムゴムの……銃!」

 

 教えた所に、拳を放った。

 

 《でぇっ!?》

 

 哀れ、ヒットしたな。

 原作では銃に撃たれたのはルフィだったけど、ここではガイモンの方だね。

 ん?

 

 「何、ナミ?」

 

 何かものすっごい変な目で見られてるんだけど?

 

 「何であの自称森の番人の居場所が解ったの?」

 

 あ、そうか。最近ルフィが当たり前のように受け入れてくれてるもんだから、忘れてた。これが普通のことじゃないって。そういえば、ルフィ以外の人間の前で使ったのは初めてと言ってもいいかもしれない。コビーは混乱していただろうし。

 うわー、あんなに頑張ったのにそれを忘れかけてるって……。

 

 「見聞色の覇気モドキ」

 

 完全でないのは解ってるから、そう言うのが妥当だろう。

 

 「だから……何よ、ソレ?」

 

 うん、まぁそうなるよね。俺も初めて覇気の設定知った時は混乱した。でもな……話すと長いし。すぐには信じてもらえないだろうし。

 

 「後で話すよ。今はそれより森の番人だ」

 

 ナミは釈然としないようだったけど、それはそれで森の番人の方も気になってるんだろう。渋々だけれどこの場は流してくれた。

 

 

 

 

 少し歩くと、少し開けた場所でもじゃもじゃな箱男が伸びていた。

 

 「何だ、コレ? たわしか?」

 

 ルフィがつんつんと小突くと、箱男……ガイモンが意識を取り戻した。

 

 「はっ!? お、お前は何だ!?」

 

 ルフィの姿を見止めて驚愕の声をあげた……けど。

 

 「「「お前が何だ」」」

 

 ツッコんだ。全員で。図らずもハモりました。

 

 

 

 

 その後、海が見える森の外れに移動し、俺たちは自己紹介をしあった。

 

 「ゴムゴムの実か……悪魔の実なんて、噂でしか聞いたことなかったぜ」

 

 ルフィの腕が伸びたことから、ゴム人間ということはすぐに納得してくれた。

 

 「お前はハコハコの実でも食べたんじゃないのか?」

 

 真実は知ってるけど、ちょっとからかってみた……だが、返ってきた反応は予想以上だった。

 

 「そう、そうしておれは箱人間に……って、んなわけあるか!」

 

 ノリツッコミだ! ガイモン、20年も1人っきりだったわりにスキル高ぇ!

 

 「じゃあ、箱入り息子なのか?」

 

 ……俺のボケは確信犯だけど、ルフィのボケは素である。

 

 「そう、小さなころから大事に育てられて……って、アホか!」

 

 またノッてツッコんだ! ガイモンすげぇ!

 

 「嵌っちまったんだよ、抜けねぇんだよ! 20年もこのままだ! お前らにこの辛さが解るか!?」

 

 解りません。

 

 「何だ、お前バカみてぇ」

 

 ルフィは容赦ない。

 

 「テメェ、ブッ殺すぞ!?」

 

 ガイモン……哀れなり。はぁ、とガイモンは溜息を吐いた。

 

 「そう、20年……20年もおれはこのままだ。長かったぜ……ご覧の通り、髪も髭もボサボサ。眉毛まで繋がっちまった」

 

 ……アレ? そういえばガイモンって、元々眉毛繋がってなかったっけ? はっきり覚えてないけど。

 

 「人間とまともに会話するのも20年ぶりだ」

 

 それであのツッコミスキル!? すげぇ!!

 

 「ユアン、あのオッサンの箱押さえててくれ」

 

 「? 了解」

 

 何する気だ、ルフィは。

 

 「いてててててててて!!」

 

 ルフィは、ガイモンの頭を引っ掴んで思いっきり引っ張った……オイ。

 

 「やめろ、首が抜ける! 無茶すんじゃねぇ! 長年の運動不足も祟って、今じゃこの箱はおれにミラクルフィットしてやがんだ! 抜けねぇし、無理に引っ張れば身体の方がイカレちまう!」

 

 いや、そもそも引っ張らなくてもさ。

 

 「ルフィ、そんなことしなくてもさ……俺の能力使えば良くね?」

 

 「あ」

 

 ポンと、今気付いたと言わんばかりにルフィは手を打った。

 そう、ガイモンを小さくすればすぐにでも出してやれる。

 

 「? 何のことだ?」

 

 ガイモンは訳が解らないらしい。当か。

 

 「俺はミニミニの実を食べた縮小人間なんだよ。……まぁ、実際に見た方が解りやすいと思うけど」

 

 何せ、ルフィのゴムゴムやバギーのバラバラと違って、見ただけじゃ解らないもんな。フォクシーのノロノロとか、ハンコックのメロメロとかもこんな感じだけど。

 

 「1/2」

 

 ミラクルフィットしてるってことは、ピッタリそのサイズと重なってるってわけだから、半分にでもすれば隙間は充分だろう。

 

 「うぉっ!?」

 

 半分サイズになったガイモンを箱から離し。

 

 「解除」

 

 元の大きさに戻した。

 

 「で………………出られたーーーーーーー!!」

 

 ガイモン、箱男脱却。

 何だか、ガイモンのガイモンたる所以を奪ってしまった気がしないでもないけど……まぁ、本人は喜んでるみたいだし、いっか。 


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