麦わらの副船長   作:深山 雅

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第53話 宝を奪った者

 ガイモンの案内で宝箱が有ったという大岩の所までやってきた。

 ちなみにガイモンはまだ歩けないから、俺が抱えてきた。勿論、そのままだと面倒だから、少し小さくして運びやすくしてだ。

 

 「ここか」

 

 けど高いな~、この大岩。見上げてると首が痛くなりそうだ。

 

 「おれも実際に来るのは久し振りだ」

 

 ガイモンは感慨深そうである。

 

 「でもそんなに拘ってんなら、今まで何で人に頼まなかったんだ?」

 

 ルフィの言い分も尤もだ。でもなぁ。

 

 「誰も信用できなかった……それだけだ」

 

 「まぁ、持ち逃げされる可能性もあるしね」

 

 箱詰めだったガイモンじゃあ、逃げられたりすれば追いかけるのは難しいだろう。

 

 「あぁ……あれはおれの宝だ! 20年守ってきたんだ!」

 

 「うん、そりゃおっさんのだ!」

 

 「俺らが産まれるよりも前から守ってきた熱意を語られちゃあなぁ」

 

 ルフィと俺が頷きあい……次の瞬間、同時にナミの方を見た。

 

 「あ」

 

 「海賊専門泥棒がいた」

 

 けれど流石にそこまでKYじゃないナミは、目に見えて怒った。

 

 「バカ言うな! 私だってそれぐらい解ってるわよ!」

 

 ツッコミの切れが半端ない……また鉄拳が飛んできた。

 

 「箱から出られた……宝も拝める……今日は良い日だ!」

 

 そのガイモンの言葉を皮切りに、まずルフィが腕を伸ばした。

 

 「んじゃ、行くか。ゴムゴムのロケット!」

 

 ビョン、とゴムの反動で一気に飛び登るルフィ。

 

 「俺も行ってみるよ……ナミ、ガイモンお願い」

 

 俺はナミにガイモンを手渡そうとしたけど……拒否られた。

 

 「イヤよ、おっさんを抱えるなんて」

 

 ………………ガイモン、哀れ。

 まぁ……考えてみればそうかもしれない。いくらサイズが小さくても、年頃の女の子がおっさんを抱えるのには抵抗があるだろう。

 仕方が無い。

 

 「んじゃ、ガイモン。悪いけど、地面に座っててくれな」

 

 俺はハンカチを敷いて、その上にガイモンをそっと降ろした。

 

 「月歩」

 

 そうして俺も、ルフィの後を追って大岩を登った。

 

 

 

 

 「ルフィ」

 

 俺が登ってみると、ルフィは丁度4個目の宝箱を開けて確認している所だった。

 

 「ユアン……これ、空だ」

 

 手に持っていた宝箱の蓋を開けながら見せてくるルフィ。

 知っていた。知っていながら俺がここまで上がって来たのは、確認したかったからだ。でも……。

 

 「うん……無いな」

 

 全ての箱をざっと観察しながら、俺は呟いた。

 偶に聞く話では、宝箱の中身だけでなく宝箱そのものにも価値があったりすることがあるらしい。装飾が施されていたり、芸術的・歴史的な価値がありそうだったり……でも、この宝箱にそんなことは無い。何の変哲も無い、ただの鍵付き木箱だ。

 20年間、ガイモンはこれらを守り続けてきた……ってことは、ここの宝が無くなったのはそれより前ってことだ。丁度大海賊時代が始まった頃だし、ひょっとしたらタッチの差だったのかもしれない。いくら本人も薄々予想してたとはいえ、これはキツイだろうな。

 

 

 

 

 ガイモンが不憫だ。バギーも不憫だとは思ったけど、全然感じ方が違う。本当に哀れだ。

 俺が溜息を吐いている間に、ルフィは最後の5個目の宝箱を開けようとしていた。でも、それも空のはずだ。

 

 「ん? これ何か入ってるぞ!」

 

 そう、何か入って………………入って?

 え?

 

 「入ってる!?」

 

 何でだ、全部空なんじゃなかったのか!?

 ルフィは最後の木箱を持ち上げて振っていた。

 

 「ああ。これだけ鍵掛かってて開かないから、振ってみたんだけどよ……音がするんだ!」

 

 はぁ!? マジで!?

 でも、ルフィがウソを吐く理由も無いし……。

 俺も試しに振らせてもらったら、カサカサという音がした。

 この音は……紙か? 貴金属ではないみたいだ。

 

 「ユアン、どいてろ。鍵開かないから壊すぞ」

 

 俺は信じられない気持ちで頷くと、その箱を下ろした。

 

 「ゴムゴムの……銃!」

 

 ルフィの一発によって、宝箱の蓋部分が吹っ飛んだ。

 中を覗きこんでみると、そこにあったのは……。

 

 「何だ、この封筒」

 

 封筒が1通。それだけだった。ルフィがそれを取り出し、中身を確認しようとした……最初は。

 

 「ん」

 

 封筒の中にあった手紙を、あっさり俺に差し出す。お前、本当にその活字嫌い直せよ。

 ハァ、仕方が無い。

 

 「え~っと……『お宝は頂いた。でも、もし今後ここの宝を求めて来る人がいた時のために、新たな冒険を残しておく。昔貰った地図、莫大な財宝と、夢のまた夢の冒険がそこに眠っているらしい。初めてのお宝発見の記念!』」

 

 え~~~~~っと……つまり、この宝を見付けた人の茶目っ気ってことか? それにしても、『莫大な財宝が眠ってる』なんて、大きく出たなぁ。でも、何だろう? 何だかこの手紙、懐かしい気がするような……。

 俺の朗読に反応して、ルフィはもう1度封筒の中を覗きこんだ。

 

 「これか! ……ユアン、これどこだ?」

 

 一瞥し、すぐさま俺に地図を差し出すルフィ。お前、地図くらいちょっとは読めるようになれよ。

 ハァ、仕方が無い。

 

 「え~っと、これ……は………………」

 

 俺は固まった。何でかって?

 この地図に書かれた場所に果てしなく見覚えがあるからだよ!!

 もの凄く適当に書かれた、走り書きのような地図だ。多分、本職の測量士が書いたんじゃないんだろう。

 でも、この特徴的なフォルムは、まさか……待て! じゃあさっきあの手紙を読んで懐かしくなった理由は! そうだ、そういえば確かに……。

 

 「マジか……?」

 

 この島は特に問題ない、平和な島だと思ったのに。

 ガイモンがこの島に来たのは20年前で、これが置かれたのはそれ以前……確かに時期的には一致する、可笑しくない。可笑しくはないけど……何なんだ、この巡り合わせは! ヤバイ、眩暈がしてきた。

 

 「ユアン?」

 

 ルフィに覗き込まれているのに気付いて、俺はハッとした。しまった、マイワールドに入り込んでた!

 

 「あ、いや……よく解らないな。この東の海ではないみたいだけど」

 

 咄嗟に誤魔化した。だって……本当のことは言えない。少なくとも今はまだ。

 

 「それより、ガイモンに報告しよう」

 

 些か強引な切り上げだと自分でも解るけど、ルフィは特に突っ込まなかった。

 

 「そっか。解んねぇんなら仕方無ぇな」

 

 

 

 

 ガイモンに宝箱が空だったこと、代わりに1つの地図があったことを伝えると、号泣された。

 

 「地図がある宝には、よくあることだ……既に誰かに奪われた後だ、なんてことは!」

 

 察してはいても、悔しいんだろう。ガイモンの涙は止まらない。

 うん……俺、直視出来ない。

 滅茶苦茶気まずい俺に比べ、ルフィは晴れやかな笑顔を浮かべた。

 

 「でも、この地図があった! 『夢のまた夢の冒険』の地図だ! たわしのおっさん、こんなバカ見ちまったら、もう吹っ切れたろ? もう1回おれたちと一緒に海賊やろう!」

 

 「麦わら、お前……おれを誘ってくれるのか?」

 

 ガイモンは、今度は感激の涙を流したのだった。

 

 

 

 

 けれど結局、ガイモンはその勧誘を断った。

 

 「おれは森の番人を続けてぇんだ。この島には珍しい動物がたくさん住んでて、密猟者もよく来る……20年も一緒にいたんだ、情も湧いてくる。あいつらを見捨てるわけにはいかねぇ!」

 

 その表情は晴れやかだ。無理をしている様子はない。

 

 「おっさんもその仲間だもんな!」

 

 ルフィの発言は、つまり……『ガイモン珍獣説』を堂々と唱えているわけで。

 

 「ぶっ殺すぞ!」

 

 当然、ガイモンの怒りを買った。

 

 「そうだぞルフィ。ガイモンは今やもう人間だ」

 

 「そう、おれは漸く人間になれて……って、産まれたときから人間だ!」

 

 おぉ、またもノリツッコミ! やるな!

 

 「足の方は? 大丈夫か?」

 

 少なくとも、ついさっきまでは立ち上がることも出来なかったんだ。もうちょっとぐらいリハビリに付き合うべきだろうかとも思ったけど、ガイモンは何でもなさそうに首を振った。

 

 「ああ、さっきよりは大分よくなったしな。多分そうかからずに歩けるようにもなる」

 

 実際ガイモンはもう、軽くなら足を動かせるようになっている。

 それに、あんまり不便は無さそうだ。少し大型の珍獣が背に乗せてくれているし。何だ、懐かれてるんだな。そうともなれば、愛着も湧いてくるのも自然なことだろう。

 その後俺たちは、ガイモンの厚意で餞別としてこの島の果物を大量にもらった。

 ちなみに、船に戻るとゾロはまだ寝ていたけれど、弁当はきっちり完食してあった。

 

 「ガイモン……これを受け取ってくれるか?」

 

 1度船に戻った俺は、買い込んでいた酒の内かなりの量をガイモンに進呈した。

 

 「ユアンが人に酒をあげた!」

 

 嵐が来る、とルフィは驚愕しているけど……どういう意味だ。

 俺はジトッとルフィを睨んだ。

 

 「だってお前、おれが飲もうとすると怒るだろ!」

 

 「それはお前が酒乱だからだ」

 

 ルフィは酒に強くない。しかも、酔うと暴れる。それによってダダンの家は1度倒壊した。でも当の本人は翌日にはケロッとしてて、その上記憶が飛んでやがった。

 俺は二日酔いは酷いけど、飲んでる間はそこまで酔わないのに。この差は何だ。

 まぁ、何にせよ。

 

 「お詫びなんだよ……奪ってしまったからね。それとも酒、嫌いだった?」

 

 まだ予測の段階だけど、多分間違いないだろう。後半はガイモンに尋ねると、ガイモンは首を横に振った。

 

 「いや、酒は好きだ。ずっと飲めてなかったから嬉しいが……奪ったって、さっきの弁当のことか? 別に気にしなくていいぜ?」

 

 本当は違うけど、俺は曖昧に微笑んで酒をガイモンに押し付けた。こんな時、元日本人で良かったと思う。誤魔化しの微笑は得意だ。

 

 「ワンピースはお前らが見付けて、世界を買っちまえ!」

 

 ガイモンがたくさんの珍獣と共に手を振って見送ってくれている中、俺たちはこの島を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、その後。

 俺は弁当箱を洗うと言ってナミの船の船室に引っ込んだ。まぁその前に、ルフィが釣りをしたいっていうから小麦粉でエサも作ったけど。

 そして1人っきりになり……俺は持ち込んだ日記のページを捲った。

 弁当箱を洗うってのもウソじゃない、けど1番の目的はこっちだ。

 探しているのは……。

 

 「あった」

 

 

 『今日は宝探しの日!この前見つけた地図は本物だった。見習いじゃない海賊になって初めての本物!でも、この後あの宝を探しに来た人のために、昔船長に書いてもらった地図を置いといた。初めて記念!』

 

 

 確認完了。

 ロジャー処刑が22年前。そしてこの記述は、その少し後のこと。

 手紙を読んで懐かしくなるはずだよ……これ、母さんの筆跡じゃん! 何ですぐ気付かなかった、俺!

 しかもこの地図……確かに『莫大な財宝と夢のまた夢の冒険』が記されてるよ。

 だってこれ、アッパーヤードじゃん! ジャヤの半分じゃん!!

 しかもご丁寧に、大鐘楼やシャンドラの遺跡の位置まで書いてあるよ! かなり雑だけど! そりゃそうだよね、『船長』ってロジャーのことだよね!? 綺麗な地図を書くイメージ無い!

 

 『突き上げる海流(ノックアップストリーム)に乗るべし!』

 

 って注意書きまであった……どうしてこうなった。

 さっきも思ったけど、もう1度。

 どんな巡り合わせだ!

 

 

 

 

 取り敢えずガイモン、ごめんなさい。

 どうやらあなたが想い続けていた宝を奪ったのは、俺の母さんたちだったみたいです。


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