ヤツらが何かを企んでいるのか、と俺たちは取り敢えず、ジャンゴの去って行った方へと向かった。
辿り着いたのは例の海岸……そう、クロとジャンゴの密会現場だ。
ちなみにクロ、結構ヒドイ状態だね。メガネはひび割れてるし、頭に包帯巻いてるし、顔は青黒く腫れ上がってるし。
え~っと……何ででしょーね?
「あんた、一体どうしたんだ?」
ジャンゴの開口一番はそんな労りの言葉だった。それに対しクロは、口元を引き攣らせている。
「無礼な小僧がいたんだ。いつか思い知らせてやる」
え? 無礼な小僧? それって誰のこと?
……はい俺ですね、解ってます。でも、思い知らせてやる、はこっちのセリフだ。
「それで……計画に支障は出てないだろうな?」
「ああ。いつでもイケるぜ。お嬢様暗殺計画」
どうでもいいけどさ、いくら人通りが少なさそうとはいえこんな開けっぴろげに密会するなんて……警戒心ってモンが無いのか?
「はんはふふぇいふぁふ!?」
ルフィの発言を訳すると、『暗殺計画!?』だろう。
はい、今俺はルフィを取り押さえてます。口も塞いでます。でないと飛び出して行ってしまいそうだし……。
俺たちは現在、原作通りに崖の上から見物中だ。うん、誘導したからね。けど、ゾロにナミに俺、そして何故かお子様3人組まで付いてきている……いや、君たちは帰った方がいいと思うんだけど?
しっかし、ベラベラと勝手に暴露してくれてるよ。
3年前の身代わり……ってか、よく騙されたな、海軍。手配書にしっかり写真も添付してあるのに、何でそんな替え玉が本物だと思い込んだんだ? 捕まえたと思い込まされたモーガン以外は、催眠術なんて掛けられてなかったんだろ? 支部で待機していた海兵たちは無能だったのか?
そして今回のお嬢様暗殺計画だが……3年間も怪しまれること無く執事として生きていけるだけのスキルと、村1つを丸ごと騙せるだけの演技力があれば、別にそんな財産狙わなくても何か一山当てられたんじゃね? とか思うんだけど。折角、キャプテン・クロとしての自分は世間的には殺したんだし、やりようはいくらでもあっただろうに。
催眠術で遺書を書かせ、海賊が村を襲ったことによる事故死に見せかける、ねぇ。
クロよ、お前に言ってやりたい。世の中、策士策に溺れるという言葉があるんだ。それを知っておかないと、苦労するよ。色んな意味で。実際俺も、よく溺れて頭を抱えるハメになる。
「おれは政府に追われること無く大金を手にしたい……平和主義なんだ」
お前、1回平和主義って言葉を辞書で引いてくればいいよ。カヤの両親が死んだのは事故って言ってるけど……果たして、本当かどうか。
「どちらにせよ、おれたちの海賊船が沖に停泊してもう1週間になる。さっさとしてくれ。いい加減あいつらのしびれも切れるころだ」
「ねぇ」
話を粗方聞き終え、ナミが小さな声で聞いてきた。
「何? 今俺ルフィを抑えるのに忙しいんだけど」
ルフィときたら、すぐにでも飛び出さんばかりに暴れやがるから。
「あんたたち、強いんでしょ? 今ここであいつらを倒しちゃえばいいじゃない」
「ダメだ」
俺は首を振った。
「聞いただろ、あいつらには率いる海賊団があるんだ。頭を失えば、残るのは統率もない荒くれ者の集団だけ。そいつらが勝手に村を襲わないとも限らない。潰すなら全てを完膚なきまでに、だよ」
なまじトップがしっかり部下を掌握しているだけに、それが無くなると行動の予測が付けられなくなってしまう。
明日の朝に計画の決行。それがヤツらの打ち合わせの最終的な結論だ。
俺たちが聞いていたことにも気付かずにクロたちが別々にこの場を離れたころ、俺はルフィを解放した。
「ぶはっ! 何で止めるんだよ! あいつらぶっ飛ばす!」
「ぶっ飛ばすのは止めないってかむしろ大賛成だけど、話聞いてたか? あいつらだけぶっ飛ばしてもダメなんだって」
そんな傍らで、ウソップとお子様3人組はガクブル状態だ。
「あ、あの羊、ホントに悪いヤツだったんだ!」
「大変だ! 村が襲われる!」
「どうしよう、みんなに知らせなきゃ!」
「カヤが……殺されちまう!」
うん、みんな顔色が真っ青だ。
「なら、さっさと教えて避難させればいい。コレを見せれば、村の人も信用してくれると思うよ?」
言って俺が差し出したのは、クロの手配書。
「それとも戦う? だったら俺たちも加勢するけど……なぁ?」
3人に同意を求めると、真っ先に頷いたのはルフィだった。
「おう! あいつぶっ飛ばす!」
「悪くねぇな……ここの所寝てばっかで身体がなまってたんだ」
ゾロ……何故そこでニヤニヤするんだ?
「お宝は私のものよ!」
ナミは何だか動機が違う気がするけど……とにかく、やる気ではあるんだな。
ウソップは、しばらく逡巡した後、ボソリと呟いた。
「ここは、今まで海賊に狙われたことも無かったような平凡な村だったんだ。それが狙われてただなんて知ったら、みんな怖がる」
バッと顔を上げ、高らかに宣言した。
「おれは勇敢なる海の戦士、キャプテン・ウソップだ! この村はおれが守る!」
どん、と胸を張るウソップ。カッコいいじゃんか、オイ! ……足が震えてるけど。
「そして! お前たちがどうしてもって言うなら、おれの部下としてこの戦いに参加させてやってもいいぞ!」
「そこは素直になれよ。手を貸してくれって」
「お願いします」
切り替え早いな!
けどまぁ、それだけ虚勢を張れれば大丈夫だろう。
ウソップはそのままお子様3人組に向き直った。
「キャプテン、おれたちもやります!」
「おれたちだって村をやカヤさんを守りたいんだ!」
「逃げるなんてウソップ海賊団の名折れです!」
うん……心意気は立派なんだけどね……いかんせん、実力ってヤツが……。君たちまだ9歳なんだよ? 9歳だなんて……あれ? 俺もう六式の修行始めてたよね? エースも9歳のころにはコルボ山の猛獣倒してたし……ルフィだって、似たようなものだったし……あれぇ? 9歳児ってナンダッケ?
いや、落ち着け俺。俺たちの置かれていた環境が異常だったんだ、うん。普通の9歳児はあんな殺伐としていない。それもこれも、無茶苦茶なことばかりする祖父ちゃんのせいだ!
俺が遠い目になって葛藤してる間にウソップはちょっと考えてたみたいだけど、やがて大きく息を吸い込んだ。
「ウソップ海賊団!」
「「「はい!」」」
「カヤを守れ!」
あ、ここで出てくるのか、そのセリフ。
「この件で1番危険なのはカヤだ! お前たちに、1番重要な任務を与える! お前たちは明日の朝、カヤの屋敷付近に待機して、カヤに万一のことが起こらないように見張るんだ!」
1番重要な任務、ね……上手い言い回しだな。そのように言われたら、断れないだろう。
「「「はい!」」」
案の定、3人は敬礼と共にその意見を受け入れたのだった。