「ったく、あのクソジジイめ……。」
体中あちこちに青痣や擦り傷を作ったエースがブツブツと愚痴っている。
結果的に身代わりにしてしまった俺としては、その有様が非常に心苦しい。
なので、黙って濡れタオルで患部を冷やしてあげている。
ちなみに諸悪の根源はというと、既に帰還しているので今ここにはいない。
「だいじょうぶか、エース?」
声、というか口調が多少舌足らずなのはご愛嬌だ。内心ではこんな風でも、一応俺は現在3歳だからね。どうしても発音が甘くなる。
エースはというと、二カッと笑いながらグーサインを出してきた。
「おう! おれは強いからな!」
……差し出している右腕がすごく腫れていてしかも痛そうにプルプル震えているのは、きっとツッコんじゃいけないんだろう。兄貴分の沽券のために。
うん、エース本当にありがとう。今日の君の尊い犠牲は忘れない。
「おいオミーら、大丈夫か?」
そんな団欒中の一室にひょっこりと顔を出したのはドグラだった。
「うん、だいじょうぶ。ね、エース?」
エースは軽くシカトしてるけど、俺はにっこり微笑んでおいた。愛想って大事だよね! だから。
「ホラ、ユアン。お頭からプレゼントだとよ」
この言葉に咄嗟に反応出来なかったのは、決して無視したからじゃない。心底驚いたからだ。まだ3回目だけど、ダダンからの誕生日プレゼントなんて初めてだったからさ。
「いらニーのか?」
「え、あ、いや、ありがとう……?」
最後が疑問形になってしまったが、まぁ仕方が無い。ヤバイ、ちょっと感動。
差し出されたのは、皿に盛られたカットフルーツだった。
ドグラは、俺が受け取るとそのまま引っ込んでいった。
「エースもたべる?」
この頃から既に並外れた食欲を発揮しているエースに聞いてみたが、珍しく首を横に振った。
「いや、いい。人の誕生日プレゼントまで取ろうとは思えねェ」
うぅ、なんて優しい笑顔……癒される……。
「ふぅん。じゃあ、いただきます」
ご丁寧に爪楊枝まで刺してあったので、そのまま頂けそうだ。
それにしても、これ何だろうな……固さはリンゴみたいだけど、果肉は赤いし。
けど、そう。ここで食べるのを止めておけばよかったんだよ……。
俺はパクリと一口食べて……。
「うっ……おえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
吐いた。あまりの不味さに。
「ユ、ユアン!?」
ぎょっとした様子で俺の背中を擦ってくれるエース。そして恐る恐る皿に残ったフルーツを舐めて……。
「ぐえっ!!」
悶絶した。
ちょっと待て。
①変な見た目の果物。少しリンゴっぽい。
②味は激マズ。
③今日俺は祖父ちゃんに何を貰ったっけ?
これらから導き出される答えは………………。
「ダダンーーーーーーーーー!!!!」
エースが怒り心頭な様子でダダンたちのいる部屋に殴り込みに行った。その手には鉄パイプが。マズイ、エースがブチ切れてる!?
流石のエースも現在は7歳、曲がりなりにも山賊一家であるダダンたちに本気で手を出したらどうなるかわからない。
俺はエースを追って、よろけながらも隣の部屋に向かった。エースは丁度、ダダンに鉄パイプを構えながら威嚇していたところだった。
「テメェら!! ユアンに何食わせやがった!!」
あぁ、何て鬼気迫った表情。コレもう覇王色の覇気出したりしてない!?
でも、本当にその通りだよ。もし身体が自由に動くなら俺は迷わずエースの加勢に行く。……未だに、あまりの不味さに舌が痺れて頭がガンガンして足元がよろけてたりしてなければ! 俺だって怒ってるしな!
「何だい、その言い草は!人が折角やったってのに!」
「うんダダン、それでききたいんだけど」
俺は出来るだけ自分を落ち着かせながら、ニッコリとダダンに声をかげた。
うん、人間って本気で怒ったときは顔に笑みが浮かぶモンなんだな✩
やだなぁダダン、どうしてエースの威嚇より俺の笑顔に引いてんの?
「あのくだもの、どこにあったなに?」
訊ねると。
「そ、そこに置いてあった箱に入ってたモンさ。リンゴっぽい形をしてたね」
うん、予想通りの答えが返ってきた!
「あのね、ダダン……おれ、いろいろ言いたいんだけど」
「な、何だい?」
「あのはこはね、きょうじいちゃんにもらったものなの。つまりはもともとおれのもので、それをおれにわたしてもプレゼントにはならないとおもうんだよね。まさかのつかいまわし? なにおんきせがましくプレゼントとかいっちゃってんの? おれのささやかなかんどうをかえしてよね。3まんベリーでいいよ。え? はらえないって? そのていども? なにこのかいしょうなし。あぁ、でもそれにかんしてはまぁいいよ。ゆるしてあげても。かんがえてみれば、ほうりだしてたおれもふちゅういだったから、このさいそれはいいや。でもさ、なんであんないかにもあやしげなくだものをほいほいひとにたべさせようとするわけ? なに、ころしたいの? おれをころしたいの? しんでほしいの? だったらあんなまわりくどいことせずにいまこのばでやれば? ほら、これで。なに、できないの? だったらなんであんなことしたのさ、なにバカなの? それともアレはみためほどあやしいものじゃないってかくしょうでもあったの? じゃあためしにたべてみてよ、まだたくさんのこってるから。あじみだよあじみ。それともなに、ダダンはおれにあじみを、いやどくみをさせたの? プレゼントだなんていって? それってすっごくセコイよね。うわ、なっさけない」
何故かポカンとしているエースの手から鉄パイプを引ったくりダダンの前に差し出したが、ダダンは受け取ろうとしない。
「ユアン、落ち着け……既にダダンの心は痛手を負っている」
アレ? 何で俺は、さっきまであんなにブチ切れてたエースに宥められてるんだろう。
後で聞いたところによると。
『顔はすっげぇ穏やかな笑顔で淡々と途切れることなく毒を吐かれるのは、なまじ怒鳴り散らされるよりよっぽど堪える。いっそ相手が哀れになってくる』
らしい。
これが俺の3歳の誕生日最大の事件。
結局俺は、悪魔の実を食べるという運命から逃れられなかったのだ。
ユアンはわりと腹黒いキャラです。笑顔でぐさぐさと心に突き刺さる毒を吐くタイプですね。
こんなマシンガントークをする3歳児が現実にいたら、怖いを通り越して気味が悪いと思う。ユアンのセリフが平仮名とカタカナだけなので読みにくいと思いますが、ご容赦下さい。
食べてしまったのがどんな実なのかについては次回で。