麦わらの副船長   作:深山 雅

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第59話 作戦会議と大人の事情

 当然ながら、この辺りの地理に最も明るいのはウソップだ。だから、そのウソップの主導で作戦会議を始めたんだが。

 

 「やつらは明日の夜明けと共にこの海岸から攻めてくる。けど、ここから村に入るには一本道の坂を通らなきゃならねェ」

 

 「それはどうかな?」

 

 思い込み、ってのは恐ろしいよね。

 

 「ここで密会してたからって、ここから攻めて来るとは限らない。例えば……俺たちが上陸した海岸とかもそうだし、他にも上陸可能な海岸はあるんじゃないか?」

 

 実際その通りになるわけだしね。怪しまれないような言い回しで原作知識を小出ししていくか。

 

 「それは……確かにそうだな。でも上陸可能なのは、こことその北の海岸の2ヶ所だけだ。しかも、どっちも地形は同じ。一本道の坂で、あとは絶壁」

 

 なんというか……シロップ村が今まで海賊に襲われなかった理由が解る気がする。攻め難く守り易い土地に、長閑で特色の無い村があるんだ。そりゃ、よっぽどの理由が無きゃわざわざ来ないって。

 

 「あいつらは攻め込むタイミングは話してたけど、上陸場所までは言ってなかったよな」

 

 そう、そこのところを言っといてくれたら楽だったのに。

 

 「じゃあ、2手に別れましょ」

 

 提案してきたのはナミだった。

 

 「攻めて来る時間は解ってるんだから、その時が来ても海賊が攻めて来なかった方がもう一方に向かえばいいだけじゃない」

 

 まぁ……どっちを守ればいいのか解らないって状況じゃ、妥当な案だな。

 

 「うん、じゃあ組み分けは……ルフィとゾロと俺が北の海岸、ナミとウソップがこの海岸ってどうだ?」

 

 この布陣だと一気に殲滅できるよ。

 多分、受け入れてはもらえないだろうけど。

 

 「ダメに決まってるでしょ!? 何でそっちに戦力を集中させるのよ!」

 

 予想通り、ナミに怒られた。

 まぁ……バギーをぶっ飛ばしたルフィに『海賊狩り』のゾロ、リッチー&モージを沈めた俺だからなぁ。何か俺だけ大したことしてない気がするけどね!

 

 「大丈夫、そっちには勇敢なる海の戦士がいる!」

 

 「おれ!?」

 

 グッとグーサインを出してイイ笑顔で話を振ると、ウソップがガーンといわんばかりの表情になった。

 

 「お前、ナメんなよ! おれは弱いんだ!」

 

 決して胸を張って宣言することではない。けど、うん。自分が弱いことを認められる人間こそ、強くなれるんだよ。何より頭を使うからね。

 けど今は時間が無い。そんな悠長なことは言ってられないだろう。

 なら何で言ったのかって? ごめんなさい、からかっただけです。

 

 「冗談だよ、冗談……真面目に考えると、取り敢えずルフィとゾロは別々に配置しないといけないな。」

 

 「戦力を分散させるのね。」

 

 ナミは納得顔だけど……それは違う。

 

 「戦力を分散させてるんじゃない。迷子を分散させてるんだ。」

 

 ナミとウソップの顔に? が浮かんでいる。

 

 「後で合流しなきゃいけないんだ。それなら、ど天然と方向音痴を一緒にさせちゃいけない。どんな化学反応が起こるか解らないし、誰かが付いていて連れて来るにしても、この2人を同時に相手取るのは至難の業だ」

 

 これは実際に見てもらえれば解るだろう。

 

 「ルフィ」

 

 俺は気合充分にストレッチしているルフィを呼んだ。

 余談だが、作戦会議はナミとウソップ、俺で進められている。ルフィとゾロはすぐそこにいるけど、口を挟んでこない。……ってか、『ぶっ飛ばす』だの『斬り捨てる』だのしか言わないから、黙殺してたんだ。そしたら黙るようになった。

 

 「ん? 何だ?」

 

 「北はどっちだ?」

 

 「バカにするな! 北って言ったらお前、寒そうな方に決まってるだろ!」

 

 ピシリ、とナミとウソップの表情が凍った。これだけで驚いてちゃいけない。

 

 「ゾロ。海で真っ直ぐ前に進むためには何を見る?」

 

 「あぁ? んなモン、進行方向にある雲でも目指しゃ」

 

 「2人を分散させましょ」

 

 ゾロが言い切る前に、ナミが断言した。うん、この2人を解ってくれて良かったよ。

 

 「となると、後はおれたち3人をどう分けるか、だな」

 

 ウソップも、深くはツッコまないことにしたらしい。

 

 「単純に戦力で分けるなら、ナミ・ウソップ組に俺の2:1だと思うけど」

 

 「となると、後は迷子組との組み合わせか……お前ら、何が出来るんだ?」

 

 ウソップが尋ねた。

 

 「斬る」

 

 「伸びる」

 

 「盗む」

 

 「小さくする」

 

 蹴る、でもいいけど、俺だけに出来ることと言ったらこれだろう。

 

 「伸びるとか小さくするとかって、何だよ……ちなみに、おれは隠れる」

 

 「「「「お前は戦え!」」」」

 

 俺たちは見事なユニゾンツッコミをかました。

 

 「私は、北の海岸に行くわよ! もしそこに海賊が上陸したりしたら、宝が危ないもの!」

 

 ……あれ? 今あそこにある宝って、俺が奪ってきたヤツしかないと思うんだけど? しかも俺、まだナミに奪われてないからあれは俺たちのなんだけど?

 このナミの発言は、無意識下でもう仲間と思ってるからなのか、それともいつか奪うつもりだからなのか……考えてもどうしようもないか。

 とりあえず、スルーして話を進めよう。

 

 「じゃあ、ウソップもそっちってことでいいか?」 

 

 「ああ、構わねぇ」

 

 そっちに海賊現れるのにな。頑張れ、勇敢なる海の戦士。

 

 「ってことは、俺はこっちの海岸か……」

 

 まぁ、俺には見聞色の覇気がある。それで気配を読んだと言えば、夜明け前にここから向こうへ移動して合流しても怪しくないだろう。でもそうなると……。

 

 「じゃあ、ルフィもこっちにしましょ」

 

 ゾロにはまだ覇気のことを話してない。説得して連れて行くにはそんなゾロより、知っていて信頼してくれているルフィの方が都合がいい。そう思って提案しようとしたけど、先にナミに言われてた。

 え? 何で?

 俺が不思議そうな顔をしてるせいか、ナミはビシィッと俺に指を突きつけてきた。

 

 「ユアン! あんた、ちゃんと兄貴の手綱握りなさいよ!」

 

 ………………あ、つまりそういうこと? フリーダムなルフィを御する自信が無いから、1番慣れてそうな俺に押し付けようってこと?

 確かに、ルフィとゾロだと、ゾロの方が楽だろう。ゾロって、方向音痴ってのさえ何とかすれば後は比較的常識人だし。対するルフィは、びっくり箱みたいなもんだ。何をしでかすか解ったもんじゃない。

 まぁ、いいけど。ってか、好都合だし。

 

 「兄貴? お前ら兄弟なのか?」

 

 ウソップ……お前もか。ゾロ・ナミに続き、ウソップまで……ひょっとして俺ら、これから仲間が増えるごとにこのやり取りしなきゃならないのか? まぁ、無理もないといえばないんだけど。実際、義兄弟であって実の兄弟じゃないから、見た目だけじゃ解らないだろう。あぁでも、『モンキー・D』って姓が同じだから、フルネームを名乗れば気付くかもね。現に、コビーはそれでアタリを付けたんだろうし。

 

 「おう! おれはユアンの兄ちゃんだからな!」

 

 ししし、と笑いながらどんと胸を張るルフィ。うわー、嬉しそう。そんなに兄貴ポジが誇らしいか。

 ……別に、ちょっと悔しくなんてないからな? 羨ましくなんてないからな? 俺も弟欲しい、とか思ってないからな? けど、ルフィはお得かも……兄貴も弟もいるんだもんな。エースとサボは同い年だったからどっちが上かなんて明確に決めてはいなくて、上と下、両方いるのってルフィだけなんだよね。

 閑話休題。

 

 まぁ結論としては、この海岸で俺とルフィ、北の海岸でゾロとナミ、ウソップが待ち構えて、来なかった方が後で合流することになった。

 で、俺とルフィに関しては問題ない。来たら単純に殲滅するだけだし。

 反対に策を弄するのが北の海岸組。もし強敵がいたらゾロがその相手をすることになるし、その間の一般クルー……まぁ、早い話が雑魚クルーの相手をしなきゃいけないのはウソップとナミだ。

 1人1人は雑魚くても数は多いだろうから、正面から戦り合うのは厳しいだろう。そこで、アレをすることにしたらしい。

 アレだよ、原作であった、『坂道に油が撒かれていてスッテンコロリン大作戦』。そのままな作戦名でごめんね。

 その準備をするからって、3人はまだ夜明けも遠い内から北の海岸に向かって行った。

 

 

 

 

 

 「そんでな、ヤソップが言ったんだ! 『おれは蟻の眉間にだって弾丸をぶち込める』ってな!」

 

 ルフィと2人、海岸で夜が明けるのを待ってたら、いつの間にかルフィの『赤髪海賊団スゲェ話』を聞かされることになってしまった。

 ウソップと出会って過去の記憶を呼び起こしたせいみたいだ。

 どうにも、ただ待つのはルフィには退屈だったらしい。まぁ、ルフィだもんなぁ。それはしょうがない。

 ……でもこの話、耳タコなんだよね。初めて会った10年前から、何百回聞かされてきたことか・・・。

 

 「そんでな、ベックマンが」

 

 この話をしだすと、そりゃもう長い。エースだって途中で匙を投げたよ。でも今まで、俺がルフィのその話を遮ったことはなかった。というのも……。

 

 「何で祖父ちゃんはムチャクチャ怒るんだろうなー」

 

 そうなんだよね。昔祖父ちゃんにこの話をしたルフィは、ぶっ飛ばされた。きっちりと覇気を纏った拳を以って。そのあまりに激しい怒りに、俺は本気でルフィに同情したよ。だからこそ、今まではちゃんと聞いてきた。

 ちなみにその時俺は、祖父ちゃんの後ろに般若を見た気がした。曰く。

 

 『『赤髪』に毒されおって! くだらん!』

 

 だそうな。

 セリフは原作W7と同じだったけど、その怒り具合が……ね? 半端なかった。

 え、祖父ちゃんって覇王色の覇気持ってたっけ? って思うぐらいに凄まじい威圧感が怒気と共にビシバシ伝わってきた。

 『ルフィを殴るな!』と言って勇敢にも祖父ちゃんに立ち向かったエースは後に、『これまでの人生で2番目に怖かった』と語った。正直、あれより怖いことがあったのか、と俺は心底驚いた……ら、何故か視線を逸らされた。何故だ?

 エースは祖父ちゃんに立ち向かったけど、俺はルフィの介抱にのみ努めた。祖父ちゃんが怖かったから、というよりも、何か色々首を突っ込んじゃいけないような気がしたんだよね。

 

 こう言っちゃ何だけどさ、祖父ちゃんの心情も推して知るべし。

 原作でも、頂上戦争でエースが致命傷を受けた時に……言ってて胸糞悪くなってきた……祖父ちゃんは激昂していた。

 俺が産まれたとき、祖父ちゃんは母さんの身を本当に案じていた。海賊娘であっても、愛娘には違いなかったんだろう。

 方向性を著しく間違っているけれど、祖父ちゃん自身は結構家族思いなんだよ。

 俺としてはもう、何と言っていいやら解らんカオスな状態だった。

 ……まぁそれはそれとして、とにかく今までの俺はルフィの話を黙って聞いてきた。でも正直、精神的にキツイものがある。

 

 「んでさ、シャンクスは命の恩人なんだ! なのに祖父ちゃんは何で嫌うんだろうな!」

 

 何でって、それは多分……大人の事情ってヤツだよ。

 とにかく、ルフィのこの話はここで終わりだ。長かった……。

 でも俺もこの状況に退屈していたから、丁度よかったといえばよかったんだろうか。

 

 「ルフィ」

 

 ルフィの話が終わったのは、夜明けの少し前、という頃合だった。

 

 「北の海岸の方から気配がするんだ。どうやら、上陸地点はあっちだったみたいだね」 

 

 実際には、俺の見聞色の覇気の有効範囲はそこまで広くない。けど、それを他人が確かめる術はなく、ルフィは俺のコレを信用している。だから。

 

 「あっちか!くそー!」

 

 ハズレに当てられた悔しさからか、地団駄を踏んでいる。

 

 「1/10」

 

 俺はそんなルフィを小さくした。

 

 「お前を突っ走らせると迷子になりそうだから、俺が連れて行くよ」

 

 「失敬だぞ、お前!」

 

 「事実だろ。それに、俺の方が移動に掛かる時間が短くて済む」

 

 今のところ、俺の方が速度では勝っているからねぇ。それに関しては異存は無いのか、ルフィは今度は大人しくなった。

 

 「んじゃ、行くぞ」

 

 俺は出来る限りの全速力で北の海岸へと向かったのだった。

 

 さぁ、クロネコ海賊団戦、開幕だ。




 後半、前々から1度はやっておきたかったガープネタ。

 原作でもガープって、シャンクスのこと嫌ってますよね。『ルフィを海賊の道に引き込んだ』って。『ルフィの命の恩人』って部分は無視して。
 その上、この小説の設定で考えると……もう、嫌うとかそういうレベルの話じゃなくなる気がするんですよね。顔を合わせたりしたら、修羅場以上の何かが起こりそうな気がひしひしと……。

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