麦わらの副船長   作:深山 雅

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第66話 先回り

 サンジがフルボディをシメた後、誰かがゼフを呼んできたらしい。ちなみに、ルフィも一緒に来た。説教でもされてたのかな?

 そしてゼフはサンジを叱り、フルボディを叩き出そうとした……本当に良い所ナシだな、フルボディ!

 しかもその後には、捕まえた海賊に逃げられたと大声で報告されたし。

 

 クリーク一味が、東の海『最強』の海賊団ねぇ……『最大』の間違いじゃないか?

 にしても、捕まえた時には餓死寸前だった人間をさらに3日間食べさせてなかったってのはどうだろう? 尋問とかする前に本当に餓死したりする可能性もあるんじゃね?

 そんな取りとめもないことを考えていたら、報告に来ていた海兵が撃たれた。

 『海賊』の登場に悲鳴が上がるが、次の瞬間には一部を除いて静まり返る店内。刺激したくないんだろう。ちなみに一部とは、酒を飲むゾロと、そのゾロに酒を注いでもらった俺と、そんな俺たちに文句を言うルフィのことである。ルフィの文句は、自分だけメシが食べられなかった不満だった。

 

 「おい、何でお前らだけ食ってんだよ!」

 

 「自重しなかった自分が悪いんだろ?」

 

 「どうでもいいけどよ、喧嘩なら外でやれ」

 

 そんな感じでやいのやいのやってたら。

 

 「あんたらには緊張感ってもんが無いの!?」

 

 ナミに押し殺した声でツッコまれた。

 その時、ドカッという殴打音がした。見ると、デカいコック……パティがイスに座っていた海賊……多分ギンだろう……を殴りつけた所だった。

 

 「すげーパワー」

 

 イスがへし折れる様を見て、ルフィが感嘆の声を上げた。

 パティがギンをシメている間に、フルボディがこそこそ逃げていっていた……大丈夫なのか、海軍本部。

 パティの独壇場を囃し立てる者はいても止める者は無く、結局ギンはボコボコにされて店から追い出された。

 いつの間にかサンジもいなくなっていたし、騒ぎが収まったってんでルフィも連れて行かれた。

 特に何かすることがあるわけでもなく。

 

 「……飲むか」

 

 「そうだな」

 

 俺とゾロは、飲み比べを再開したのだった。

 

 

 

 

 俺たちが飲んでいるといつの間にかそれにナミも加わっていて、3人で楽しんでいる傍らでウソップはキノコと格闘していた。嫌いらしい。

 でも残すのは許さない。シロップ村から今までの航海の間にキッチリ言い聞かせときました。

 食料がどれほど貴重なものか!

 あの時の絶望は忘れられない……かつて祖父ちゃんに放り込まれたある島には果実などが全く無く、狩りをしようにも獣はやたら凶暴で、3日ほどの間全く食料を手に入れられなかった時のことは! このまま飢えていくのか、と思いかけたころ、運良く獣同士の争いに遭遇し、弱った瞬間に仕留めて食べた。

 …………よく生き延びてこられたよな、俺たち。

 そうこうしていると、ルフィは前掛けを付けてやって来た。ウェイター係にされたらしい……つまり、厨房では匙を投げられたんだろうな。果たしてどれだけの備品を破壊したんだろう。

 

 「お前ら、まだ食ってんのか!? おれを差し置いて!」

 

 ルフィはまた怒った。だから、自業自得だって。

 

 「おれたちの勝手だろ?」

 

 得意げに笑うゾロがよそ見をしてる間にルフィがイタズラをしようとしたので、腕を掴んで止めた。

 

 「何で止めんだよ!」

 

 「落ち着けって。気付かれてるぞ。だろ、ゾロ?」

 

 聞くと小さく舌打ちされた。どうやら、そのままルフィに仕掛け返すつもりだったみたいだ。

 

 「あぁ海よ、今日という日の出会いをありがとう! あぁ、恋よ♡」

 

 不意に踊りながら現れたサンジ。その視線は完全にナミにだけ向けられている。

 流石は天下のラブコック……そのブレの無さには恐れ入る。

 目が♡になっているサンジが理解出来ないのか、ルフィもゾロも呆気に取られている。ウソップは……それでもキノコに取り組んでいる。必死だな、オイ。

 その後も何かとナミを口説こうとしていたけど……尤も、余りに唐突なんでナミ自身呆けていたけど……いつの間にかやって来ていたゼフがそれを聞いていた。

 

 「おい、ボウズ」

 

 サンジに、『いっそ辞めちまえ』と言った後、食い下がるサンジを無視してゼフは俺に声を掛けてきた。

 

 「お前の兄貴だがな、はっきり言って使いものにならねぇ。確かに、1ヶ月も働かせたら店が潰れちまう。1週間で勘弁してやるから、弁償はきっちりしろ」

 

 あぁ、それを言いに来たのかな?

 それにしてもルフィ……完璧に匙を投げられてるよ。

 俺はちょっと苦笑しながら頷いた。

 

 「おいクソジジイ! 聞いてんのか!?」

 

 サンジがゼフの胸倉を掴んだ……が、反対に投げ飛ばされ、俺たちが着いていたテーブルに叩きつけられる。

 その際俺たちは自分の皿やコップを持って保護したが、ヨサクとジョニーの分はダメになった。勿体無い……というか、反応鈍いな、お前ら。

 その後もサンジとゼフの間で暫く言い合いが続いたけれど、本人たちの問題であって俺たちが首を突っ込むことではないのでスルーする。

 

 「よかったな、許しが出て!これで海賊に」

 

 「なるか!!」

 

 ゼフが去った後、ルフィは満面の無邪気な笑顔で提案したけど、サンジはすげなく断った。

 

 「ルフィ、そいつがお前の見つけたコックか?」

 

 「おう! いいコックだぞ!」

 

 「だから、勝手に決めてんじゃねェ!!」

 

 サンジ……諦めた方がいい。ルフィは必殺技『断るのを断る』を発動して絶対に相手を逃さないからね。

 そのサンジはナミを視界に入れるとまた目を♡にした。

 

 「食後にフルーツのマチェドニアと、グラン・マニエをどうぞ、お姫様♡」

 

 ナミに進呈されるフルーツと食後酒……おい、どっから取り出した?

 

 「ありがとう」

 

 さっきは呆然としていたナミも、もう慣れたらしい。あっさりと受け入れていた。まぁ、ナミには得しかないしね……。

 

 「おいユアン……もう勘弁してく」

 

 「ふざけてるのか?」

 

 「食べます」

 

 既に涙目になりながらキノコを少しずつ口に運ぶウソップが何か言った気がするけど、気にしない。

 

 「お茶がうめぇ」

 

 いつの間にかルフィが俺の茶を横取りして啜っていた。まぁ、俺も今は酒を飲んでいるから、いいんだけど。

 俺はいいけど……ね?

 

 「何寛いでんだ、雑用!!」

 

 サンジの踵落としがルフィにクリティカルヒットし、飲んでいた茶を吹き出す。

 そのままルフィはサンジに引っ張られていったのだった。

 

 

 

 

 さて、ルフィの雑用期間も1週間となり、それぐらいならいいか、と俺たちは待つことにした。その間、ずっと外食というのも出費がかさむので、3食の内2食は船で俺が作ってた……本当、早くコックに来て欲しい……。

 そして俺たちがバラティエに到着してから2日後。来るべき時はやって来た。

 ドクロの両脇に砂時計をあしらった海賊旗を掲げる船……クリーク一味のボロボロになったガレオン船がやって来たのだ。

 

 

 

 

 その時俺たちはメリー号にいたんだけど……略奪タイムだ。

 

 「おい、ヤベェぞ! 逃げた方がいいんじゃねぇか!?」

 

 ウソップは慌ててるけど、逃げるという選択肢は無い。

 

 「俺はちょっと行ってくる」

 

 「どこに!? 何しに!?」 

 

 「あのガレオン船に。略奪しに」

 

 軽く言うと、ゾロを除く全員が硬直した。

 

 「何言ってんの、相手はクリーク海賊団なのよ!?」

 

 海賊専門泥棒のナミも、流石に東の海最大のクリーク海賊団に手を出す気は無いらしい。

 

 「大丈夫、大丈夫」

 

 俺のへらへらとした答えに、非難するような視線を向けられる。

 でも実際、大丈夫なんだよね。今あの船に乗ってるヤツって、全員餓死寸前で碌に動けないし。唯一動けるだろうギンは、クリークと一緒にバラティエに向かうだろうし。

 それに、あの船を物色するチャンスは今しかない。クリークがどうこうというわけじゃなくて、ボンヤリしてたらあの船、ミホークに真っ二つにされちゃうからね。戦闘が終わってからゆっくり漁る、なんてことは出来ない。

 

 「んじゃ、ちょっと行ってくる……あぁ、この後バラティエvsクリーク一味の戦いが起こるかもしれないから、船はちょっと離しといてくれな」

 

 今メリー号は、丁度バラティエとボロボロガレオン船の間に停泊している。いや、クリーク海賊団の方が後に来たんだから、俺たちの落ち度じゃないんだけど。

 それ自体には異存は無かったらしくナミが頷いたけど、『行ってくる』って部分にはゾロ以外は了解してくれなかった……むしろウソップには止められた……けど俺はそれは黙殺して、月歩(ゲッポウ)でクリークの船、ドレッドノート・サーベル号にこっそり侵入したのだった。

 

 

 

 

 ボロボロになった船の内部は、まさに死屍累々と言うに相応しい有様だった。

 餓死者や餓死寸前者を実際に見ると多少は哀れにも思うし気も滅入るけど、同情はしない。こいつらは敵なのだし、そう掛からずに生きてる者は食料にありつけるだろうし。

 まともに動ける人間もいないから、物色するのも簡単だった。

 グランドラインでは通用しないレベルとはいえ東の海では大規模な海賊団だったからか、宝は結構あった。グランドラインから落ちたとはいえ、単純にミホークに蹂躙されただけで略奪はされてなかったからか、宝に問題は無かったらしい。

 探せばもっとあるのかもしれないけど、この後の展開を考えるとあんまり時間を掛けるわけにもいかない。加えて、いくら同情はできないとはいえ、餓死寸前者を眼前にして放置するのも多少は心苦しいから、早くこの場を離れたかったというのもある。

 それに……やりたいこともあるしね。

 俺はある程度を掻き集めて……それでも結構な量にはなった……早々にメリー号に戻ったのだった。

 

 

 

 

 けれど、メリー号には誰にもバレないようにこっそり戻った。

 神経を研ぎ澄ませると、既にメリー号の上の気配は3つしかない。ゾロとウソップはバラティエに入ったのだろう。

 取り敢えず、奪ってきた宝を船内に仕舞う。

 さて、ここからが大事なんだよね。

 

 

 

 

 「「うわ!!」」

 

 油断していたヨサクとジョニーがナミに海へと突き落とされる。

 ってか、『着替え』の一言であっさり騙されるなよ……。

 

 「何するんですか、ナミの姉貴!」

 

 海に落ちた2人の声を船室からコッソリ出て聞きながら、俺はちょっと呆れていた。

 

 「何って、仕事(ビジネス)よ。私は仲間だなんて一言も言ってないわ。手を組んでただけ」

 

 背後から様子を観察しているからナミの顔は見えないけど、少なくともその声の調子は随分と軽い。これが演技だとしたら……相当に腹が据わってるっていうか、心力が強いというかね。

 

 「じゃあね! あいつらに言っといて! 『縁があったらまた会いましょ♡』って」

 

 海に落ちている2人に手を振り、このままメリー号でトンズラしようとしたナミの茶目っ気溢れるような笑顔が、振り向いた瞬間にピシリと凍った。

 

 「どうやら、とっても強い縁があったみたいだね?」

 

 その笑顔が凍ったのはまず間違いなく、てっきりまだドレッドノート・サーベル号にいると思っていた俺がメリー号にいて、苦笑しながら自分の背後に立っているのを見たからだろう。

 

 「な、何で……?」

 

 ナミが驚愕して呟いたその時、ドゴン、と空気も震える轟音が響き渡り、ドレッドノート・サーベル号が真っ二つになったのだった。

 激しい揺れに呆然としていたナミがバランスを崩したので、俺はそれを支えた。

 

 「何で、って言われてもね……俺の船長の船に俺が乗ってて、何か問題がある?」

 

 客観的に見れば、無いだろう。けれど、ナミが聞きたいのはそういうことじゃないはずだ。

 

 「宝を奪えば、それを仕舞いに戻ってくるのは当然じゃない?」

 

 苦笑と共にそう言うと、ナミは苦虫を噛み潰したような表情になった。多分、『よりにもよって』、というような心境なんだろう。流石に実力から言って、俺……あとルフィやゾロもだろうけど……を船から落とせるとは思ってないんだろう。となると、逃亡の機会を逃してしまったわけだもんね。

 でも、このタイミングが大事だったんだ。なにしろ、他の全員がゾロの戦いに注目するだろう今こそが、邪魔も入らずに2人きりで話し合えるチャンスだから。

 

 「おーい!!!」

 

 バラティエから、ルフィの声が聞こえてきた。多分ヨサクとジョニーに話を聞いたんだろうけど、まだメリー号が泊まったままだから不思議に思ったんだろう。

 

 「ルフィ!」

 

 俺はナミからちょっと離れて顔を出し、ルフィに手を振った。

 

 「ユアン! お前そこにいたのか! ナミは!?」

 

 距離は多少離れているから、会話は叫ぶようになる。

 

 「いるぞ! 無事だ! 悪いけど、この場は任せてくれないか!? お前、クリークと戦り合うつもりなんだろ!?」

 

 「! おう! 解るか! じゃあナミは任せる! 頼んだぞ!」

 

 「了解!」

 

 俺たちの会話の間も、ナミは俺の隙を探っていた……何だか、隙さえあれば俺も海に落とす気満々って感じですか? それは嫌だな、俺カナヅチだし。でも実際には手を出しては来ない……うん、隙は作ってないからね。

 

 

 

 

 さて、と。

 自分でも言ったし、ルフィにも任されたし。

 何とかして、ナミを説得しないといけないね。一応、ロジックはもう立ててあるんだけど……上手くいけばいいな。


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