麦わらの副船長   作:深山 雅

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第71話 後悔

 母さんから聞いたという伝言を受け取ると、ミホークは用は済んだとばかりにさっさと立ち去って行った。

 まぁ……込み入ったことを聞かれなくて良かった、と思うべきだろうか。でも多分、気付かれてるだろうな……事情も知られてるみたいだし。

 今俺は場所をメリー号の甲板へと移して座り込み、得た情報を整理しようとしている。

 

 

 

 

 何か色々衝撃を受けてるね、俺。うん、自分でこんなこと言い出す時点でかなり混乱してる。

 落ち着いて、順番に噛み砕いていこう。

 

 

 

 

 母さん初め、赤髪海賊団御一行が母さんの妊娠に気付かなかった、というのはまぁいい。どっちでもいいことだ。

 ……いや、せめて本人な上に医者である母さんぐらいはさっさと気付こうよ? とは思うけど。

 予想はしてたよ? 能力者なのに赤っ鼻を助けようとして海に飛び込んだって話を聞いて、母さんは……何と言うか、ルフィと似たタイプの愛すべきおバカな性格だったんだろうな~って。

 うん、それはそれで納得できてしまう。

 

 

 

 

 俺がどんな道でも選べるように、か。

 蓋を開けてみれば、俺は海賊の道を選んでいる。けどそれだったら祖父ちゃんに預ける必要無かったのか、と言われるとそれは違う。

 俺が海賊の道を選んだのは、ルフィやエースに誘われたからだ。もっと言うなら、海に出ることを決めたのは頂上戦争の結末を変えたいと思ったから。そしてそれは、祖父ちゃんが俺をダダン一家に預けたからこそ思い至ったことだ。

 もし母さんが祖父ちゃんを頼らず、そのまま赤髪海賊団にいたら? 俺はエースにもルフィにも出会わなかった……いや、ルフィには出会ったかもしれないけど。

 何にせよ、その時は俺は海賊になろうなんて思わなかったと思う。原作で知る頂上戦争の結末は悲しいものだけど、エースとの関わりが無ければ、わざわざあんな凄まじい戦争に関わってまで変えたいとは思わなかったはず。

 自分で言うのも何だけど、俺は出来ることなら地味に平凡に生きたい。だとしたら、特別な目標の無い俺の夢は一般市民になることだったと思う。その場合は、貼られたレッテルが邪魔になる。

 海賊の子ってだけでもアレなのに、『赤髪』と『治癒姫』だ。一般市民生活なんて夢のまた夢になってただろう。

 その場合は……ひょっとしたら、周囲の環境を恨んでたかもしれない。

 

 

 

 

 ほんの少し歯車が違っただけで、現状は全く別のものになってたんだな……。

 

 

 

 

 けど、それはまだいい。巡り合わせの問題であって今考えてもどうにもならないし、俺に何かが出来たことでもない。

 それよりも……。

 

 

 

 

 祖父ちゃんに関しては、母さんの読みが大当たりだった。ものすごく方向性が間違っていたけど、一応はちゃんと俺のことを保護してくれていた。

 うん、強く生きてきたよ! もし俺1人だったらとてもじゃないけど生き延びられなかっただろけどな! ありがとう、エース、サボ、ルフィ!

 って、今はその感謝は置いといて。

 

 ……母さん、初めから死ぬ覚悟決めてたのか? 体調云々に関わらず?

 『いくら謝っても謝り足りない』……? ひょっとして、アレもそうだったのか? 俺が産まれた時、母さんは何度も何度も誰かに何かを謝っていた。確かめる術は無い。無いけど……辻褄は合う。

 考えてみれば、当然かもしれない。

 最初から、妊娠中毒症だの産褥だのに罹ることを想定していたはずもない。ならば当然、『その後』を考えなければならなかったはずだ。

 原作W7では、祖父ちゃんは1度はルフィを見逃そうとしていた。だから、母さんのことを絶対に捕まえようとしたかは俺にも解らない。

 けど、可能性は高かったと思う。何より、母さん自身に『捕まってもいい』と言う気持ちがあったのなら。

 それに……。

 母さんの言う『取引』のことは俺にも解らない。けど話からすると、例えインペルダウン送りになっても公開処刑されることになっても呑めないような『取引』なんだろう。

 けど……祖父ちゃんに預ければ俺を人質にされることは無いだろうと考えるってことは、インペルダウン送りよりも公開処刑よりも、俺の方が大事っていう風に解釈できる。

 死んでも嫌な『取引』、でも俺が危険に晒されるのはもっと嫌。そういうことなんだろうか。

 そこまで考えてたなら、そりゃあ『体調を考えると命に関わるから諦めろ』なんて宣告されても受け入れるわけないよな。初めから命かけてたんだから。

 ……母さんは自分の命よりも俺の命を選んだ。そんなことは解っていた。

 解っている……つもりだった。

 だからこそ、自分が産まれたことで母さんが死んだことを、嘆いたことは無かった。エースが以前言ったように、『産まれてきてもよかったのか?』と考えたことも無かった。

 けど……俺、本当の意味で解ってたんだろうか?

 

 

 

 

 「ベルメールさんと同じこと言ってたんだな。」

 

 母さんの伝言。それは謝罪だった。

 

 

 

 

 『ゴメンね。母親らしいこと、何もしてあげられなくて。』

 

 

 

 

 泣き笑いですらない、本当に泣きそうな顔をしていたらしい。

 そんなことはない、と言いたい。

 そもそも母親らしいことって、何だ?

 育てることか? 傍にいることか?

 違う、と思う。

 俺は守られてきた。祖父ちゃんにもエースにも。そして、自分自身でやりたいことを選ぶチャンスを与えられた。そしてそれだけの環境を用意してくれたのは、母さんだ。

 自分の命を削って俺のために行動してくれた人が母親らしくないというなら、一体何が母親らしい行いだっていうんだろう。

 他にもやりようはあったのかもしれない。けど、それでも母さんがしたことは母さんが考えた末に出した結論だった。確かに身勝手だっただろうけど、俺だけはそれを責められないし、責めてはいけない……責める気も無いけどね。

 それに比べて……。

 

 「俺……最悪だなぁ……」

 

 思わず頭を抱えてしまう。

 何やっちゃってんだろう、俺は。そこまで想ってくれてた人に対してさぁ……。

 いや、回りくどくぼかす必要は無いな。結局の所、今俺は何に引っ掛かっているのか?

 要は……アレだよ。オレンジの町での1件。

 バギーがどれだけ不憫な目に遭おうが、そんなのはどうでもいい。心底同情はするけど、だからといって手心を加える気は未だに毛頭湧かない。でもあの時俺は、母さんの存在を利用した。

 

 解っているような気になってただけで、実際の所は何も解ってなかったんだな……。

 

 

 

 

 

 「……貴! ユアンの兄貴!」

 

 不意に呼ばれているのに気付いて、俺はハッと顔を上げた。そこにいたのは。

 

 「ヨサクか」

 

 「え!? いえ、あっしはジョニーです!!」

 

 あ、しまった。間違えた。

 思考のどつぼに嵌ってたな……そんな場合じゃないのに。

 

 「それより、さっきクリーク海賊団のヤツらが小船で離れていくのが見えたんですが……船、戻しやしょうか?」

 

 あ、もう終わったのか。今回俺ノータッチだったな……別にいいか。クリークどうでもいいし、宝は手に入ったし。

 

 「そうしよう。怪我人もいるかもしれないしね」

 

 ここは海のど真ん中、医者なんて1人もいないはずだ。多分ここにいる人間で1番怪我の処置に長けているのは俺だろう。

 戦いが原作通りにいったのかそうでないのかは知らないけど、少なくともルフィとサンジは無傷とはいかなかったと思うし、治療しないとね。

 

 

 

 

 後悔するのも、反省するのも、後回しだ。

 今すべきことをしてからでないとね。




 クリーク一味は既に退場済み。出番はほぼ無し。

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