さて、VSクリーク海賊団の結果を簡潔に述べよう。
勝敗は勿論、バラティエ+ルフィの勝ち。クリーク海賊団は小船でこの場を離脱することとなった。
被害状況としては、ルフィとサンジが負傷してゼフの義足が折られた。レストランもヒレを失って……と、そうなると原作と変化が無いようだけど、実際にはちょっと違っていた。
違いっていうのは、ルフィの負傷具合。原作では槍をくらったりしていたけど、それが無かった。どうやらここでも
だからルフィの怪我は、剣山マントを殴ったことによる拳の怪我と……何だっけ、あの爆発する槍。それによる被害。軽傷、とは言えないけど、それほど大きな怪我もしていないみたいだね。
重傷だったのはサンジの方で、こちらは原作同様ゼフを人質に取られている間にパールにメッタメタにされてしまったらしい。だから、ルフィより先にサンジの手当てをした。
……うん、早い話、ルフィの怪我以外はあんまり変わらなかったみたいだな! 結局毒ガスも使われたらしいし!
サンジの怪我は打撲系ばっかだったから、湿布を貼ったり包帯で固定したりした。でもまだ正式な仲間入りをしてないから、極めて事務的だったよ。向こうも疲れているみたいであんまり話しかけてこなかったし、途中で寝ちゃったし。
自己紹介はまた今度にしよう。
ルフィの治療は、メリー号にて行った。というのも、ナミの事情を説明しなきゃならないからだ。
そういうわけで現在、麦わらの一味(+ヨサクとジョニー)はメリー号に集まっている。
俺はルフィの治療をしながら話を進めた。ナミの口から話すのは辛いだろうからね……。
そのナミは、イスに腰掛けて俯いている。1度は船を奪いかけた直後だから少し気まずいみたいだし、話の流れも気がかりなんだろう。
「まぁ、そういうわけだよ」
話の内容はまず、ナミの事情を要点を纏めて報告……ナミの育った村がアーロンという海賊の一味の支配下に置かれていること、近隣の海軍は買収されていて役に立たないこと、育った村をアーロンから1億ベリーで買い取ることで助けようとしていること、そのために海賊専門泥棒になったこと、最近そのアーロンが再び暴れだしたという話をヨサクとジョニーから聞いて焦ってしまったこと……。ほぼ包み隠さずだね。
で、そしてそこから予測される事態と、その対応。
ひとまず1億ベリーを揃えること、でもそれも反故にされる可能性があること、その場合は戦うこと……。
ただ、祖父ちゃんというコネの件と、『危なくなったら逃げる』というナミとの約束については言わなかった。それに関しては、ルフィたちがそれを知ったら間違いなく怒るから、と事前にナミとも口裏合わせを済ませてある。
「だから、次の目的地はナミの故郷であるココヤシ村、そしてアーロン一味の拠点であるアーロンパーク。それらがあるコノミ諸島にしたいんだけど……いいか? 船長」
俺はルフィの右手に包帯を巻きながら訊ねた。
「いやだ!」
……返ってきたのは、何ともキッパリとした断言だった。
その返答に、ナミの肩が揺れる。
「あー、一応聞いとくけど……何が嫌なんだ?」
長い付き合いである。ルフィが何に不満を持ってるのかは、何となく解る。決して、コノミ諸島に行くのが嫌なわけじゃないんだろう。
「何でそんなまどろっこしいことしなきゃなんねェんだよ! 金を払えばアーロンはいなくなるのか?
最初からぶっ飛ばせばいいじゃねェか!」
「うおぉい!?」
その発言に、ウソップがツッコんだ。ウソップは何と言うか……ムンクの『叫び』状態だ。
「おまっ、相手は魚人だぞ!? 東の海最高額の化け物だぞ!? 金で穏便にコトが済むならいいじゃねェか!」
「済まないだろうけどね」
慌てているウソップに、俺は冷静に返した。
「アーロンは取引を反故にする可能性があるって言ったけど、俺の予想では『ある』どころか『高い』と思うから」
あんまりにもサラッとした宣告に、ウソップは逆に脱力している。反論する気も失せてしまったみたいだ。何だか、落とした肩に哀愁が漂っているように見える。
「ルフィ、ナミの気持ちも汲んでやってよ。この8年、ナミはアーロンを捕まえようとした海軍の船だとかが沈められてきたのを何回も見てるんだ……心配してくれてるんだよ。出来ることなら波風立てずにいたいって。取引がダメになったら戦うってのも、本当なら止めて欲しいと思ってるんだ……そうだろ?」
俺が話を振ると、ナミが頷いた。
「ええ……アーロンは、化け物よ。この東の海でアーロンに敵うヤツなんていない。ずっと、それが私たちの常識だった」
「知るか、そんなこと」
ルフィの機嫌がまた悪くなる。
「要は、アーロンをぶっ飛ばせばいいんだろ? 何でおれたちを頼らねェんだよ、仲間だろ!?」
「ルフィ……確かにお前の言うことは間違ってはいない」
このままじゃ話が進まない……っていうか、またナミが頑なになるかもしれない。
「お前の発言はいつだってシンプルで、時々不意に核心を突く。今回もそうだ。正直言えば俺もそうしたい。でも、誰でもそう簡単に思考を切り替えられるわけじゃないんだ。そんなナミが、条件付きとはいえ戦うことを承知してくれた……それはもう、頼ってくれたのと似たようなもんだよ。今はそれでよしとしとこう?」
ルフィの手の治療が終わった。
「今回のケースで言えば、多分ほぼ間違いなく戦うことになる。ぶっ飛ばすのはその時でいい。だからその考えはその時まで取っておけばいいさ」
「…………」
ルフィは不満顔だったけど、一応引いてくれた。
まぁこの場合は、『後で戦うことになる』と保障しているようなもんだしね……。複雑な説得なんかよりも、行動で示す方が早い。
「で、話が逸れたけど……次はナミの故郷に向かう、って点はOKか?」
うん、初めに俺が取ろうとした確認はこのことだったはずなのにね。
「ああ! アーロンってヤツ、ぶっ飛ばしてやる!」
船長の承諾は簡単に得られた。
「ウソップ……は、まだ項垂れてるな。ゾロは?」
ベッドに寝かせているゾロは今まで無言だった。話は聞いてくれてたみたいだけど。
「構わねェ。そのアーロン一味ってのには、剣士はいるのか?」
うん……どんだけ貪欲なんだ、コイツは。
「タコの魚人で、六刀流の剣士ってのがいるらしいよ」
アーロン一味の幹部については、ナミと話を詰めていたときに聞き出しておいた。俺の返答に、ゾロは極めて好戦的な笑みを浮かべているけど……お前、怪我人だよね?
重傷なんだよね? ちょっとは自重しようとか思わないのか?
六刀流を使うタコの魚人……勿論ハチのことだけど、まさか後々また出てくるなんて思って無かったよな……しかも、レイリーと友人関係って。何気にスゲェよ。
「トップのアーロンとその剣士と……あとはエイの魚人の空手家と、キスの魚人。その他下っ端が大勢にグランドラインから連れてきた海獣。それがアーロン一味らしい。」
「ムチャクチャですよ!」
端っこで話を聞いていたヨサク……いやジョニーが口を挟んできた。
「たった4人で、それだけの戦力に挑もうだなんて!」
4人……まぁ、ナミは戦力に含まれていないんだろうな。
「何言ってんだ、6人いるぞ!」
ルフィが不思議そうに胸を張ってるけど……あのなぁ。
「ナミは戦力に含んでないんだよ。しかもお前、6人ってそれ、あのコックも入れてるだろ? 確かに、強いみたいだから仲間になってくれたら戦力アップするだろけど、本人は入るって言ってくれたのか?」
「まだだ! あ、でも早くしねぇと! ナミの村に行くんだもんな! ゥゲ!」
俺はすぐさま飛び出しそうだったルフィの襟首を掴み、引き止めた。
「落ち着けって。アイツ、今は寝てるぞ。酷い怪我だったしね。あいつだけじゃない、ゾロだってお前だって、怪我してるだろ? ちょっとは休め……まぁ、お前の怪我は肉でも食べれば治りそうな予感もするけど、他2名はそんなデタラメな身体してないんだよ……多分」
してない……よね?
サンジはまだしも、ゾロの怪我はマジで酷いし。本当なら、アーロン一味との戦いにだって参戦しない方がいいんだろうな。
「ウソップ?」
まだどこか遠い目をしているウソップに呼びかけてみたけど……何だか、焦点が合ってないような。そんなに怖いのか、アーロン一味。
「何なら、お前はその時船番でもしてるか? 勇敢なる海の戦士」
そう言うと、ウソップはハッとした。
「だ、誰が船番なんかするか! おれは逃げねェぞ、勇敢なる海の戦士なんだからな!」
……勇敢なる海の戦士って、損な性分なんだな。いや、その心意気はすごいと思うけど。
明らかな強がりに、ヨサクとジョニーの激しい同情の視線がウソップへと集中した。
「甘い!」
今度こそヨサクが声を上げた。
「兄貴たち、アーロンってのがどんなヤツだか解ってんですか!? ヤツは」
「かつてグランドラインで活動していた、魚人海賊団から分裂した一派」
俺はヨサクの言葉を遮って続けた。
「海賊団の2代目船長『海侠』のジンベエの七武海加盟を受け入れられず決別、独立。その後東の海へとやってきた。目的は『支配』……大丈夫、ちゃんと知ってるよ。調べたからね」
実際には原作知識だけど、そんなことは言わない。
俺のアーロン情報は自分たちのソレを凌いでいる、と知った2人は口を噤んだ。
……ってそういえば。
「お前らはどうするんだ?」
よくよく考えれば、この2人が俺たちにくっついて来る必要って、無いよね? 原作では道案内役になってたけど、この流れではナミがいるし目的地もハッキリ解ってるし。アーロン一味との戦いでは、言っちゃ何だけど、戦力外だし。
「まさかお前らもゾロに続いて、賞金稼ぎからの海賊堕ちする気?」
言われて漸く思い至ったらしい。2人は顔を見合わせた。
「そういえば……」
「そうだな……」
元々、バラティエまでの道案内としてこの船に同乗してた2人だ。その後もさり気なく居座って食事を集られてたけど、このままずるずると乗ってるわけにもいかないだろう。自分たちの船が無くなってるわけでもないんだから、別れようと思えばいつでも別れられるんだ。
結局、翌日にまた改めてサンジを誘い、その後コノミ諸島へと向かおう、という結論に落ち着いた。
ちなみにヨサクとジョニーは、ここまで話を聞いたからには結末まで見届けたい、と言い出し、コノミ諸島まで一緒に同行することになったのだった。