麦わらの副船長   作:深山 雅

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第74話 対戦カード

 「と、いうわけで、今この船はナミの故郷に向かってるんだよ」

 

 説明しました。何をって? サンジに現在のこの一味の目的を、だ。

 まぁ当然だよね。前回の相談の時、サンジはまだいなかったんだから。

 話の途中から、サンジは俯きながらブルブルと拳を震わせていた。

 

 「許っさーん!!」

 

 ドカン、とサンジは爆発した。いやマジで。何だか後ろに活火山が見える気がする。

 

 「ナミさんに何てことを!! そのくそ魚人ども、纏めて3枚にオロしてやる!!」

 

 ……うん、まぁ……ラブコックはラブコックってことだね。

 そしてそのサンジの発言に、ルフィが反応した。

 

 「何言ってんだ! アーロンはおれがぶっ飛ばすんだ!」

 

 どん、と胸を張るその傍らでは。

 

 「おぉ、行け! 活躍の場は譲ってやる!」

 

 ちょっと震えながらちゃっかりした発言をする勇敢なる海の戦士がいたりする。

 ちなみに、ゾロはまだ寝ている……麻酔、効きすぎたかな? そりゃあ確かに、規定量ではちゃんと効くか不安だったから3ば……コホン、ちょっと多目に投与しといたけど。

 

 うん、はっきり言おう。

 

 カオスな状況だ。主にルフィとサンジがヒートアップしているせいで。

 ちなみに、話題の中心であるナミは現在、甲板にいる。

 というのも、これから俺たちは対アーロン一味に向けて作戦会議する予定だからだ。流石にその話を傍で聞くのは不安らしい。やっぱり止めて欲しい、と思ってしまいそうなんだとか。

 しかし、何だね? 話が進まんよ、これじゃ。

 ハァ……苛立つ……。

 

 「いい加減に……しろっ!」

 

 アーロンは自分がぶっ飛ばすんだ、と主張しあって掴み合いに発展してきていた2人の頭をぶん殴らせてもらいました。

 

 「何すん……」

 

 ルフィは横槍を入れられて不満なんだろう。抗議の声を上げた。何故か途中で止まったけど。

 いけない、俺まで熱くなってどうする。落ち着くんだ、こういう時は笑顔で対応するんだ、そうすれば相手に真心が伝わるし、その内に俺の心も凪いでくる。

 

 「話が前に進まないだろ?」

 

 スムーズに話し合いを進めるには、冷静さを欠いてはいけない。俺は努めて穏やかな空気を醸して、その場の全員に座るように促した。

 

 「? どうしたんだ、サンジ?」

 

 すぐに席に着いてくれたルフィとウソップに対し、サンジは何故か少し固まっていた。声を掛けたらハッとしたように動き出したけど……どうしたんだろうな?

 

 

 

 

 

 「さて、じゃあ作戦会議を始めよっか」

 

 ……今更だけど、どうして俺が仕切ってるんだろう? ルフィがするべきなんじゃ……無理か。

 

 「今度の相手はアーロン一味。その戦力は、ノコギリザメの魚人であるアーロンを筆頭に、タコの魚人のハチ、エイの魚人のクロオビ、キスの魚人のチュウ。後は海牛のモームと一般クルーだ」

 

 この辺はナミから聞き出しておいたよ。

 

 「そいつらが金を受け取ったら、戦わないんだよな?」

 

 ウソップが恐る恐る聞いてきたけど……うん。

 

 「誰がそんなこと言った?」

 

 ピシッとウソップが凍った。

 

 「俺、『アーロンが金を受け取らなかったら戦う』って言っただけで、『金を受け取ったら戦わない』、なんて言ってないよ? 『穏便に済むならそれでいい』とは言ったけど、それはあくまでもナミの村の話であって、俺たちが止まるっていう意味じゃない。だってそうだろ? アーロンが金を受け取っても、その場しのぎにしかならないんだし」

 

 「そうだぞ!」

 

 ルフィが大きく頷いている。

 

 「村を買ったところで、アーロンはいなくなったりしねェんだ。きっとまた同じことが起こる。だから、ぶっ飛ばす!」

 

 ルフィはこういうのを直感で言い当てるんだから、凄いよね。

 

 「今まで俺がそれを口に出さなかったのは、ナミがいたからだ。言えば反対すると思ったからね……ま、どう転んでもアーロン一味とやりあうのは避けられないってことでヨロシク」

 

 ウソップはガックリと項垂れている……何かゴメン、でも俺って詭弁家なんだ。言葉の裏には気を付けなよ?

 

 「で、本題だけど……海賊同士の戦闘である以上、向こうのトップであるアーロンの相手はこっちの船長であるルフィ。これは言うまでもないかな」

 

 「おう! 任せろ!」

 

 胸を張るルフィの隣で、サンジはちょっと不満そうにタバコをふかしている。けど、反論する気は無いらしい。さっきはナミへの熱意からか興奮していたけれど、落ち着いてくると船長対決は船長対決と受け止める気になったらしい。

 

 「後、タコの魚人のハチは剣士らしいから、ゾロの担当。本人もその気だし、これもいいか?」

 

 3人は頷き、これもあっさり通った。しかし。

 

 「けどアイツ、『鷹の目』にやられた怪我は大丈夫なのかよ?」

 

 サンジはそこが気掛かりらしい。俺は肩を竦めた。

 

 「だから今、強制的に休ませてるんだ。勿論その時までに回復なんてしきらないだろうけど、多少はね。それに剣士と戦う機会を奪ってしまったら、その方がゾロは怒るだろうから。」

 

 「……面倒くせェヤツだな」

 

 とは言いつつも、ミホークとの一戦を見てしまったらしいサンジはある意味納得出来てしまうみたいだ。

 よし、続けよう。

 

 「問題は、クロオビ・チュウ・モーム……一般クルーは、モームと一纏めにしとこうか。頭数を考えたらこうなるけど、誰がどれを担当するかってことなんだけど……俺の意見としては、ウソップにはチュウを担当してもらいたい」

 

 「い!?」

 

 幹部と戦え、と言われたも同然のウソップの口元が引き攣っている。

 

 「理由はある。まず言えるのは、お前に一般クルーたちの相手は無理だってこと」

 

 「けど、おれはシロップ村で足止めが出来ていたぞ?」

 

 「あれは、こちらが罠を張って待ち構えていたから出来たことだ。そもそも狙撃手は、接近戦の1対多数には向かない。その上、魚人は産まれながらに人間の10倍の力を持ってる」

 

 10倍、と具体的な数字を聞いて、ウソップの顔色が悪くなった。

 

 「でもってチュウとクロオビだと、チュウの方が相性は良いと思う。クロオビは空手家らしいからね」

 

 「……そうしておいてやるぜ」

 

 何だろう、ウソップが何か遠くを見るような目をしている。

 

 「あ、そうそう。本物の銃と変わらない威力の水鉄砲を使うらしいから、気を付けなよ?」

 

 「それを早く言えェ!」

 

 ウソップ……お前、好きだな。その『叫び』状態。

 

 「で、サンジはクロオビとモーム+一般クルー、どっちがいい?」

 

 とはいえ、答えは解っているけど……。

 

 「幹部のヤツをやらせろ。何だったら、全部纏めておれが始末してやる!」

 

 ナミに入れあげているサンジが、妥協するはず無いもんな……。

 

 「少しは俺の出番も残しといてよ。じゃあ、これで担当は決まりってことで」

 

 俺は内心、ホッと一息吐いた。

 対戦カードは原作通りに出来た。これでまず間違いなく負ける心配は無いだろう。

 

 それにモームや下っ端を俺が担当すれば、ルフィの海落ちフラグも自然消滅するはずだし……後はゾロの怪我に気を配っておこう。

 とはいえ、俺も油断は禁物だ。自分でも言ったけど、魚人の力は人間の10倍。いくら下っ端とはいえ、そんな魚人をたくさん相手にしなきゃいけないからね。俺はゴムじゃないから、ゴムゴムの風車で一気に殲滅、なんてことは出来ないんだし。

 うっかり取りこぼしたりしないようにしないと……。

 

 

 

 

 コノミ諸島に着くまで、それほどの日数は掛からない。

 ……なお、ゾロの目が覚めたのは、麻酔を打ってから2日経ってからだった。『後で覚えてろよ』などと言われてしまった……よし、すぐに忘れようそうしよう。

 もう1つ特筆すべきことがあるとしたら、サンジが完全にナミの下僕と化したということだろうか。

 ナミ曰く、使い勝手がいいらしい……まぁ、あれだけあからさまにアプローチされてればね……。

 けど、どうでもいいか。サンジ本人が、『恋の奴隷です♡』とか言って喜んでるんだし。それに、サンジを扱き使う過程でナミも以前の調子を取り戻してきたから、一石二鳥だ。

 お陰で、ナミらしくない遠慮しているようなよそよそしい空気も薄れたんだから、サンジには感謝しよう。

 

 

 

 

 それと、モームとの遭遇も無かったっけ。

 考えてみれば当然だろう。メリー号に乗っている俺たちは、食事は船内で食べている。だから、匂いに釣られてやってくる、などということは無い。

 ま、来ても来なくてもどっちでもいいけどな! どの道アーロンパークで潰すんだし!

 

 

 

 

 特に問題が起こることも無く、航海を続けること数日。

 漸く俺たちは、コノミ諸島……ココヤシ村へと辿り着いたのだった。


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