さて、俺はサンジとゾロを呼びに行ったときに、ヨサクとジョニーも一緒に呼んできた。というのも、見張りを頼みたかったからだ。
もしも原作通りにココヤシ村の人たちが来た場合、アーロンパークの中には入らないように、ってね。
あいつらだって、一応は賞金稼ぎとして生計を立ててきたヤツらだ。流石に一般人を押し留めるぐらいは出来るはず。
その辺は道中で2人に言い含め、俺たちはアーロンパークに辿り着いた。
開戦の狼煙は、ルフィがアーロンパークの壁を吹っ飛ばしたことで上がった。
「アーロンってのは、どいつだ?」
その言葉に反応したのは、長いギザギザ鼻の男……アーロンだ。
「アーロンはおれだが……テメェは何だ?」
まだこちらがしたことと言えば、そこの壁を壊したことぐらいだ。だからアーロンの様子も訝しさが先に立っていて、まだあまり苛立ちは見えない。
「おれはルフィ。海賊だ」
すたすたとアーロンに向かって歩くルフィに、魚人が2人立ち塞がった。
「おい待て」
「まずはおれたちに話を通してからグフゥッ!!」
「ルフィの進路に立つな」
邪魔だったから、2人纏めて蹴り飛ばした。だってあいつら下っ端クルーっぽいから、俺の担当だろうし。
同胞が人間に一撃で昏倒させられたせいかアーロンは驚いているけど、ルフィは気にも留めてない。信頼されてるような、眼中に無いような……気分は複雑だよ。
「……海賊がおれに何の用だ」
同胞に危害を加えた俺を鋭い目で睨みながらも、目前まで迫ったルフィに問いかけるアーロン。
そして、次の瞬間。
「!?」
何の前触れも無く、ルフィはアーロンを殴り飛ばした。アーロンの方も全く身構えてなかったからか、あっさりと吹っ飛ばされて俺たちが入って来たのとは反対の壁に激突する……けど、ダメージは殆ど無いみたいだ。気配で解る。
「ア、アーロンさん!?」
アーロンが吹き飛んだことで、下っ端たちが騒いでいる。
「……テメェは一体……?」
身を起こしたアーロンが、ルフィに視線を向けて聞いた。一方のルフィはというと、激怒、というのに相応しい表情を浮かべている。
10年間、ずっと一緒にいた。けど、基本的におおらかなルフィがここまで怒っているのを見たことは、そう何度も無い。
アーロン……色んな意味で終わってるな。
「うちの航海士を泣かすなよ!!」
……もしも相応の訓練をしていたら、今のルフィはきっと、覇王色の覇気だって放ってたかもしれない。それぐらいの怒気を感じた。
「貴様、アーロンさんに何を……!」
「嵐脚・線!」
《グハッ!!》
頭に血を上らせたらしい下っ端たちに、纏めて一撃を浴びせた。とはいえ人数が多いから、個々へのダメージはそこまで高くはなさそうだ。本当に丈夫だな、魚人。
「テメェら、2人でさっさと行きやがって」
真っ先にこっちの方に来たのは、サンジだった。続いて、ゾロ、ウソップ……ウソップは何だか、足が震えている。
「大丈夫か、ウソップ?」
「!? お、おぅよ! 武者震いってヤツだ! 策は立ててきた! 勝算はある!」
多分、武者震いってのは強がりだろうけど……策があるってのはウソに見えないから、大丈夫だろう。
「航海士? ……ナミのことか?」
アーロンって察しがいいな。
「そうだ!」
ルフィが宣言すると、アーロンは笑い出した。
「シャハハハハ!! お前ら、本気であの女を引き入れようってのか? あいつは金のためならどんなことでもする女だ……テメェらも裏切られるのがオチだぜ!!」
あいつ、ぶっ飛ばしていい? いやダメだ、それは船長の役目だ。
「何せアイツは、金のためなら親の死も忘れられる、冷血な魔女のような女だからなァ!」
…………何だって?
「……忘れられるわけ無ェだろうが」
「? ユアン?」
ルフィに不思議そうな顔で覗き込まれたけど……何だろう?
何だか、ドクドクいってる……俺は……怒ってるのか?
「自分のために命を張ってくれた人のことを、忘れられるわけがない。ナミは何も忘れてなんかいない。ただ、必死で頑張ってきただけのことだ」
そう、そしてナミは頑張ってきた。
「命を張った? ……あァ、そうだな。あの女海兵は、くだらねェ愛に死んだんだからなァ。」
「……くだらない、だと?」
お前にそんなことを言う権利なんてありゃしないだろうが。
『ごめんね。私、母親らしいこと、何もしてあげられなかったね』
ベルメールさんのそれをくだらないだなんて断じる権利は、お前らには絶対に無い!
……解っている。アーロンの発言は、あくまでもベルメールさんに向けられたものだと。そして、確かに腹立たしい侮辱だけど、俺はそれとは無関係だ。どうこう言う筋合いは無い。
けど……勝手なことだと解っていても。
『ゴメンね。母親らしいこと、何もしてあげられなくて』
『ゴメンね……ゴメンなさい……』
どうしても……ダブってしまう。
何の因果関係も無いって、解ってるのに……母さんのことも、侮辱されたように感じてしまう。
「テメェらもあの女海兵と同じ、所詮は下等種族だ! 何が出来る!」
お前、もうその口閉じろよ。あぁ、腹が立つ。
「お前らなんか、アーロンさんが相手にするまでも無ェ! エサにしてやる! 出て来い、巨大なる戦闘員よ!!」
ハチの口ラッパも、五月蝿い。
……あぁ、海中から何か来るな。何かって、モームだろうけど。
「出て来い、モーム!!」
大きな水しぶきを上げて水面から身を出したのは、巨大な牛っぽい生物。間違いない、モームだ。
「やれ、モーム!!」
「ブモォォォォォォ!!」
何か殺気立ってるけど……。
「五月蝿い」
向かってきたモームを、鼻を押さえて止めた。
「な! 人間がモームの巨体を、腕1本で……!!」
えぇまぁ、こう見えても母さん譲りの腕力がありますからね、俺は。祖父ちゃん譲りとも言えるけど。
ハチが驚いてるけど……どうでもいい。
アーロン……あいつ、何なんだ?
かつて人間のせいで尊敬するフィッシャー・タイガーが死んだからって、それが何だ? そんなこと、あいつがこれだけのことをした言い訳になんてなるものか。勝手に支配して、ナミを泣かせて、子どもを守った母親を侮辱して……。
「失せろ。この牛が」
左腕で止めていたモームの喉元を、その左足で蹴り上げてふっ飛ばす。そして。
「嵐脚・乱」
「ブモォ!!」
追い討ちをかけた。よし、モームはぶっ飛んだな。あれならもう、暫くは戻って来られないだろう。
「いい気になるな、下等種族がァ!」
モームが吹っ飛ばされたからだろう。下っ端たちが殺気立つが、丁度良い。
お前らは元々俺の獲物だ。
「グッ!」
「ガァッ!」
次の瞬間、やつらは次々にと倒れていく。
解説しよう……と言っても、大したことはしてないけど。ただ剃でヤツらの隙間を縫うように移動し、指銃で撃ちぬいている。ただそれだけ。
スピードがまるで違うから、ヤツらは自分の身に何が起こっているのか正しく認識出来ていないだろうが。
「ルフィ……あいつ、どうしたんだよ……一体、何してるんだ?」
あぁ、ヤツらだけじゃなかったか。ウソップも目を丸くしてる。
どうやらアイツの目には、俺の姿が消えたかと思ったら次々と魚人たちが体のどこかしらから血を噴いて倒れていってるようにしか見えないらしい。
「あいつ、剃で走り回りながら、指銃でやつらの身体を打ち抜いてるんだ」
その一方で、ルフィは正確に把握できているみたいだけど。
ゾロとサンジは……解ってはいるみたいだけど、正確には捉えられていないみたいだ。というか、驚いてるような顔が見える。何だよ、俺が無双しちゃ可笑しいかよ。確かに今までは割と大人しくしてたけど。
何だよ、これでも俺だって鍛えてるんだぞ? ルフィだって俺の事、自分と同レベルだと認めてくれてたじゃねェか!
あぁ、しかもどうやら俺を正確に捉えているのはルフィだけじゃないらしい。
それはアーロンだ。視界の端で、なんかスゲー驚いてる。
けどなぁ、皆が驚いてる間に俺の戦い……という名の蹂躙は終わりそうだぞ?
「これで最後!」
「グアァッ!!」
最後に残っていた魚人も打ち抜いて、漸く止まる。
「うっげぇ」
止まってから改めて自分を見てみると、真っ赤になってた。
髪色のことだけじゃないぞ。倒した大量の魚人たちの返り血を浴びて、赤く染まっていたんだ。うえぇ、生臭い。やりすぎた。
まぁいいや、ちょっと暴れたら少し気分も落ち着いた。
さて、後は高みの見物としよう。願わくば、アーロンが全力でぶっ飛ばされますように。