さて、サンジとゾロの戦果を簡潔に述べよう……簡潔にしかしようがないんだよ。
取り敢えず、真っ先に終わったのはサンジだった。
ルフィが海に落ちてないから周囲に気を配る必要も無く、その上本人も言っていたように『怒りでヒートアップしてる』のか、もう……メッタ蹴り。
最終的には。
「羊肉ショット!!」
「グハァッ!!」
クロオビは手も足も出せずに吹っ飛ばされて動かなくなった。
うん、どの辺に『種族の差』があったんだ!? あいつ、フルボッコにされただけじゃん! まるで意味が解らんぞ!?
それに比べれば、まだハチの方が『種族の差』……というか、特性を見せてくれた。
タコの柔らかい体と多い手を活かした六刀流。しかしそれも、2・3度切り結んだ後にはゾロに見切られてしまったけど。
ハチの6本の刀はゾロの鬼斬りによって砕かれ、それでもハチは己の拳を以って立ち向かおうとしたけれど。
「竜……巻き!!」
斬撃と回転によって巻き起こった旋風によってハチは吹っ飛ばされた。
うん……アーロン一味の幹部って、いいトコ無しだな!
「で? 身体は大丈夫か?」
俺は戦いを終わらせたゾロに近寄って尋ねた。
「……問題無ェな。傷は開いてねェ」
それは何より。
「でも後で、本職の医者に診てもらいなよ? ココヤシ村には医者だっているはずだし」
流石に異論は無いらしく、ゾロは珍しくも大人しく頷いてくれた。
さて、問題のルフィだけど……。
「見ろ! おれもキバ!」
…………遊んでやがった。いや、本人は遊んでるつもりは無いんだろうけどね。
「頭痛と眩暈がするのは気のせいかな?」
「奇遇だな、おれもだ」
「気のせいじゃねェだろ」
よかったー、俺だけじゃなかった!
ノルマを達成して俺と同じく観戦体勢に入っていたサンジとゾロも頷いてくれたよ!
でもさ、自分は歯が折れてもすぐに生えてくる、とか得意になってるけど、それってあくまでもサメの特性であって魚人の特性じゃないよね? 種族の問題じゃない気がするんだけどな……。
「……あいつ、何やってんだ?」
って。
「お帰り、ウソップ……どうだった?」
いつの間にかウソップが戻ってきていた。首尾を聞いてみると、どんと胸を張る。
「聞けィ、おれ様の武勇伝を! おれは」
「勝ったんだな?」
「おれの活躍」
「勝ったんだな?」
「……ハイ」
うん、その様子からしてそうだろうと思ってたよ。
「うん、ウソップの武勇伝に関しては、果てしなく興味無いけど後で一応聞き流すから、その時に聞かせてよ。……後はルフィだけか」
「……って、結局聞く気無いのかよ!?」
「無いわけじゃないよ……多分。アルコールに着火させる作戦、上手くいったか?」
俺がこう尋ねるのは、別に原作知識からじゃない。
「何でおれの策を知ってるんだ?」
「船の酒瓶が1本無くなってたからね……結構いいヤツだったのに」
言うとウソップは、ちょっとバツが悪そうな顔をした。
「1番度数の高いヤツを頂戴しといたんだよ」
うん、解ってる。解ってるから、一言も責めたりなんてしてないだろ? ……ん?
「ナミも来たのか」
ふと気付くと、村人の中にナミがいた。麦わら帽子を被って、心配そうにルフィVSアーロンを見ている。
これは……あまり心配をかけない方がいいだろうな。
「ルフィ! 後はお前だけだぞ! 早くしろ!」
その言葉に、ルフィもアーロンも周囲を見渡した……って、気付いてなかったのかよ!
「テメェら……よくもおれの同胞たちを……!!」
アーロンの怒りはさらに強くなっている。でもさ、この状況で『魚人こそ至高の種族』だとか言っても、空しいだけなんじゃないかな?
そしてその一方で。
「うし! じゃあ後は、お前をぶっ飛ばして終わりだな!」
ししし、と笑うルフィはどこまでもマイペースだった。
ブチ、とアーロンが再び切れた。
「お前が、おれを……どうするだとォ!」
怒りのままにルフィに噛み付こうとするアーロン。しかし、ルフィは全て避ける。
「バカで愚かな下等種族に、何が出来る!」
……うん。
「特にルフィは、その
「お前容赦無ェな!」
ウソップのツッコミが華麗に決まった。
「何も出来無ェから、助けてもらうんだ!」
ルフィは落ちていた刀を拾い振り回す……が、当然そんな俄か剣法が通じるわけがない。
「おれは、剣術なんて使えねェ! 航海術だって持ってないし、料理も出来無ェ! ウソも吐けねェし、金勘定も出来無ェ!! おれは、助けてもらわなきゃ生きていけねェ自信がある!」
「「オイ!」」
俺とウソップのツッコミが重なった。
え、俺の価値ソコか!? 金勘定って……そりゃ、財布の管理はしてるけど! ルフィの俺への認識って、出納係!? 他に何か言い様は無いのか!?
……後でルフィとはじっくり話し合おうそうしよう。
ルフィの堂々とした宣言を、アーロンは鼻で笑った。
「情けねェ男だな。自分の不甲斐なさを全面肯定か……そんなテメェが船長の器か!? テメェに何が出来るってんだ! 言ってみろ!」
そんなこと……決まっているな。
「お前に勝てる!」
どん、とルフィは不敵な笑みを浮かべた。しかしそれを聞き、完全に切れるアーロン。
「下等種族がァ!!」
船長対決は、佳境に入っていく。
==========
戦いは進み、ルフィと巨大ノコギリ・キリバチを手にしたアーロンはアーロンパークの建物を上へ上へと登っていた。
そして行き着いたのは、大量の海図で埋め尽くされた部屋……アーロンによってナミに与えられた測量室だ。
アーロンはナミの才能は買っていて、それに対する評価は正当なものだった。しかし、海図など読めなければ興味も無いルフィにとっては、大量の海図もただの紙の山でしかない。
それよりももっと重要なのは、この部屋に残っていたナミの痕跡だった。
「このペン……血がしみ込んでいる」
どれほどの苦汁を舐めてきたのか。それを思えば、アーロンの語る理想など聞く価値も無い。
「テメェにこれほど効率よく、あの女を使えるか!?」
「……使う?」
アーロンは、ナミを仲間だと言う。しかし、仲間とは助け合うものではあっても、決して『使う』ものではない。
「!?」
ルフィが机を思い切り外に蹴り出したことで、アーロンが瞠目する。
机だけではない。イスもタンスも本棚も……海図も。
「こんな部屋があるからいけねェんだ……いたくもねェあいつの居場所なんて、おれが全部ぶっ壊してやる!」
やっと、ナミを助ける方法が解った。
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2人がいるはずの測量室から、大量の物が散乱してくる。
それを見て、ナミは泣いていた……やっぱりルフィは、アレだね。直感で核心を突くよ。
ん?
「何だありゃあ?」
「足だろ。ルフィの」
ゴン、というもの凄い音と共にアーロンパークの天井を突き破って見える1本の足。
……ハァ。もっと別の手もあるだろうに、大技使って……。
「退避した方がいい。この建物、倒壊する……ってか、ルフィが倒壊させる」
俺の発言に、周囲はざわめいた。まさか、という思いなんだろう。
「倒壊って……でも、まだルフィが中に!」
ナミが顔色を変えた。けれど。
「問題ない。あいつなら大丈夫だ。ってか、自分でやろうとしてるんだから、それぐらい考えてるはずだ。……信じてやってよ、仲間なんだから」
壁の中にいた俺たちも、外で様子を窺っていた村人たちも、建物から離れだす。
と同時に、アーロンパークを貫く衝撃が走り、次の瞬間にはその建物が軋み、轟音と共に倒壊した。
「ほ、本当に倒壊しやがった……」
ウソップがまだどこか呆然としてるけど……決着は、着いた。
砂煙も収まってきた頃、建物の残骸の丁度中心の辺りから、ルフィが身を起こして叫ぶ。
「ナミ! お前はおれの仲間だ!」
「…………うん!!」
涙を流しながらナミが答えると同時に、村人たちから歓声が上がった。
「勝ったんだ!」
「アーロンパークが落ちたァ!!」
「解放されるんだァ!!」
さて、改めて見てみると……。
圧勝だった俺(?)やサンジは勿論、初めから策を用意していたウソップも無傷。
ゾロの怪我も見たところは悪化していない。
ルフィは流石に無傷とはいかなかったみたいだけど、目を覆うほどの怪我をしているわけでもない……多分、肉でも食べれば治る程度だ。
麦わらの一味の完全勝利、と言っていいだろう。