二つ名に関してですが、どんな二つ名が付こうとストーリー上では特に問題が無く、また当時、良い二つ名が思い付かなかったこともあり、読者の方々から募集させて頂き、さらにアンケートを取って決定いたしました。
にじふぁん時代に様々な案を下さった方々、アンケートに協力して下さった方々。今となってはもう拙作を読んではいない方も多々いらっしゃるとは思いますが、この場を借りて再びお礼申し上げます。
本当にありがとうございました。
「値上がりしたか……」
何が値上がりしたか? 新聞だよ、新聞!
まぁ、だからってニュース・クーに文句を言ってもどうにもならない。それ自体は仕方が無いこととして諦めてる。
じゃあ何故こんなに憂鬱なのかっていうと……原作通りなら、この値上がりした新聞に挟まってるはずなんだよね、ルフィの初手配書。そして多分、俺のも。
正直、複雑な気分だ。
海賊としては嬉しいことだけど……顔はどういう風になってるんだろう? って感じで。
「何? あんた読まないなら、先に見せてよ」
この船でちゃんと新聞に目を通しているのは、俺とナミだけだったりする。
ついでに言うなら買うのは俺だから、先に読むのも俺。
けど今日の俺は新聞を持ったままちょっと逡巡してたからか、持ってた新聞をナミに横から引っ手繰られた。
まぁ、別にいいんだけど。
そうそう、最近のナミはよく、腕が見える服を着ている。新しい刺青はやっぱり、みかんと風車だった。
そしてそんな俺たちのそばではウソップがタバスコ星の開発に勤しんでいる。
タバスコって、何てエグイ手を考えてるんだ……。
ウソップ……恐ろしい子!
だが。
「触るなァ!!」
サンジの怒号と共に吹っ飛んできたルフィがウソップに直撃し、タバスコはウソップの目に……あーあ。
ルフィは、ナミが船に移植したみかんの木から実を採ろうとしてサンジに成敗されたらしい。
ナミの気持ちは解る。あれはただのみかんの木じゃなくて、ベルメールさんのみかんの木だもんな。それはいい、いいけど……何でその警備係がお前なんだ、サンジ?
あいつもう、完全に恋の奴隷だな。
それにしても。
「食べ損なったってのに……随分とご機嫌だな」
そう、目から火を噴いているウソップは完全にスルーして、ルフィはしししと笑っている。
「おう! もうじきグランドラインに入れるからな! ……あ!!」
「どうした? 急に叫びだして。」
ルフィは、がーんという擬音が付きそうな顔をしている。
「まだ船医見付けてねェ!」
……あ、そーいえば俺、シェルズタウンで言ったっけ? 『最低でも航海士と船医とコックを見付けろ』って。覚えてたのか、アレ。
「まぁ、いいんじゃないか? 実は、心当たりがあるんだ」
俺が肩を竦めながら言うと、ルフィは目を丸くした。
「心当たり?」
「あぁ」
頷き、続ける。
「どうせなら、腕のいい医者の方がいいだろ? 実は母さんの日記に書いてあったんだけど、グランドラインに入って少し航海した所に、ドラム王国っていう医療大国があるんだって。どうせなら、そこで勧誘しようよ」
「あ、そーいや海賊船の船医だったんだよな?」
「…………まぁね。で、それでどうだ?」
話はさっさと進めよう。うっかり『叔母ちゃんは何て海賊団にいたんだ?』とか聞かれたりしたらと思うと、ゾッとする。
俺の問いに、ルフィは特に考えることもなく頷いた。
「ん。おれは別に心当たりも無ェしな」
よし、話は纏まった。
「何、ルフィは日記を読んでないの?」
ビーチチェアに寝そべって新聞を開きながら、ナミが聞いてきた。
「おう! 触るなって言われてるからな!」
とても簡潔なルフィの言葉を受けて、ナミが『詳しく話せ』的な視線を向けてくる。
「ルフィは昔、日記に水をかけて数ページおしゃかにしちゃったことがあるんだ。それ以来触らせてない」
俺の説明に、ナミは納得したらしい。なるほど、といわんばかりの表情だ。
「ふぅん。ま、私には関係無いけど……にしても世の中物騒ね。ヴィラでまたクーデターだって」
クーデター、か。
「革命軍が関わってたりするか?」
「そこまでは書いてないけど……有り得ないことじゃないわね」
俺とナミの会話では、こういう時事の話題も多い……ってか、こういう話に付き合ってくれる人が他にいないだけなんだけどな! みんな、もう少し世情に興味持てよ!
俺が内心でそんなことを考えていた時、ピラッと1枚の紙が新聞の間から落ちてきた。
「「「あ」」」
「お」
「あーあ」
昼寝しているゾロ以外の全員が、それを見て一瞬固まり。
「「「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」
そのゾロと、俺以外のメンバーの絶叫が海に響いた。
「なっはっは!! おれたち、お尋ね者になったぞ!」
ルフィが掲げ持つ、自分の手配書。
嬉しそうだな……そりゃそうか。賞金首として手配されるってことは、ある意味では一端の海賊と認められたっていうようなもんだもんな。
「見ろ、おれの後頭部が写ってるぞ!」
確かに、満面の笑顔なルフィの後ろに写り込んでるけど……本当に後頭部だけで顔は全く見えないのに、何でウソップまで喜んでるんだろう?
「自慢になるかよ、そんなもん」
サンジの言葉は正しいと思うけど、言ってる本人はイジけてるみたいだから、本心では羨ましいんだろうな。
唯一、このことに危機感を持ってるのはナミだった。
「あんたたち、事の重大さが解ってるの? これは命を狙われるってことよ? 海軍にしろ、賞金稼ぎにしろ……この額じゃあ、きっと強い相手が来るわ」
そう、ルフィの賞金額。原作では3000万ベリーだった。それでも初頭手配額としてはかなり高額な部類だったのに……。
「確かに、高額だな……驚いた」
そう、本当に驚いた。
「額だけか? 手配には驚かなかったってのか?」
ウソップに聞かれたけど……うん。
「ネズミが言ってたらしいじゃん、『凄いことになる』って。それって明らかに、仕返ししてやるってことだろ? だったら指名手配させるってのが1番手っ取り早くて効率的だ」
「そういや、そんなこと……待てよ? あの海兵、ルフィだけじゃなくてお前のことも言ってたんじゃなかったか?」
そうなんだよね。でも、落ちてきたのはルフィの手配書だけ。
「ナミ、中にまだ挟まってたりしない?」
聞くとナミはハッとしてバサバサと新聞を下に向けて振った。すると、さっきと同じように1枚の手配書が落ちてきたから、俺はそれを手に取った。
「やっぱりあった……な……」
ピシリ、と自分の身体も表情も固まったのが解った。
「ん? ……ブッハ!! ハハハハハハハ、何だこの手配書!? 写真入手失敗したからって、これかよ!?」
横から覗き込んだウソップが堪えきれずに爆笑するのも無理は無い。
本来なら写真が貼られるべき場所にあったそれは、俺とは似ても似つかない似顔絵だった。実物と同じ特徴は、やっぱり髪の色ぐらいなもんで、あとはもう……言うなれば、あれだよ。デュバル並みの変顔だよ! いや、別にデュバル顔ってわけじゃないけど、それぐらい変って意味で!
いやでも、それはいい。いいんだよ別に、俺自身にとっては。だって俺にしてみればむしろ、写真よりもこっちの方がずっとマシだし。
じゃあ何で固まってたのかって?
「ユアンもまた随分と高額ね」
そう、ナミの言う通り、俺の賞金額も東の海の基準ではかなり高い。でも、それもこの際どうでもいい。
俺が固まった理由、それは……。
「何だ、お前の二つ名、『紅髪』だってよ! スゲェな!!」
そうルフィ、そこだよ!!
何だよ、『紅髪』って!! 読み方によっては『
ルフィ!! そんなスゲェ、スゲェって連呼しながらキラッキラした眼差しを向けてくるな!!
そう、俺たちの手配書はそれぞれ……
『麦わら』 モンキー・D・ルフィ 懸賞金4500万ベリー
『紅髪』 モンキー・D・ユアン 懸賞金3000万ベリー
となっていた。
うん、落ち着け。1つずつ考えてみよう。
まず賞金額。
ルフィのが原作よりも高いのは、まだ解らなくもない。ルフィは原作よりも若干強化されてるし、ネズミはルフィVSアーロンの一部始終を見ていたらしいから。
そもそも、原作でのルフィの初頭手配額が3000万ってのは、実力と照らし合わせてみれば安いんじゃないかって思ったこともあったし、それはいい。
俺の額にしてみても、不満はない。そもそも海賊が高い額を付けられて喜ばない道理は無いし、それぐらいの力はあると自負している。少なくとも今のところ、ルフィと俺の間に戦闘力の開きは無いし。それに、それでも一応船長であるルフィよりは低い。
これまで東の海で最高額だったアーロンよりも高い上に、原作でのルフィの賞金額と同じってのにはちょっと驚いたけど、まぁいい。
次に、写真。
ルフィのものは原作通り、カメラ目線で満面の笑顔だ。
俺に関しては似てない似顔絵で、それはそれで全然構わない。
よって、この点に関しても問題無い。
けどな……二つ名。こればっかりは……。
ルフィの『麦わら』はいい。これも原作通りだし、ルフィにも合ってる。
でも何で俺が『紅髪』!? いや、確かにこの髪色は特徴といえば特徴だろうけど!
くそ、仕方がない! もう手配書が発行されてしまっている以上、今更変えられない。
けどせめて、『紅髪』と書いて『あかがみ』と読むことだけは阻止しないと……!
でも何て? 『べにがみ』? 『こうはつ』? 語呂悪ッ!
……『あかがみ』と少しでも遠ざけるには、まだ後者の方がマシか。
よし、そうしよう。この先自分で言ってればそれで定着するはずだ。
俺が何とか考えを纏めてる間に、みんなは話を進めていたらしい。
「これは、東の海でのんびりやってる場合じゃないわね……」
ナミの呟きに、ルフィが反応した。
「よしっ!! 張り切ってグランドラインに行くぞ、ヤロウどもーー!!」
「「オーーー!!」」
サンジとウソップがノリノリで賛同する中、いつの間にか起き出していたらしいゾロの声がした。
「おい、前方に島が見えるぞ?」
ゾロの示す先にある島。そこには……あの町がある。
『始まりと終わりの町』、ローグタウンが。
賞金額に関しては、このように。原作よりも少し高めな設定です。