買い物は、結構な量に上った。いくら小さくしたとはいえ、買い込んだ量が大量だからね。
でも、これで多分大丈夫だろう。鍵付き冷蔵庫もあるし、食料が底を尽くなんていう悲惨な事態にはならないはずだ。
あ、そうそう。ちゃんと酒や牛乳も買ったよ?
「何でおれが持つ分が1番多いんだよ」
隣を歩くウソップが不満声を上げた。
「お前らの方が力はあるだろ?」
ウソップとサンジ、俺。3人が持つ荷物の比率は6:2:2ぐらいである。
「そりゃあだって、めんどく……コホン。お前を鍛えるためだ」
「今お前、『めんどくさい』って言いかけただろォが!」
チッ、バレたか。
そうして歩いていると道中、ゾロとナミに出くわした。3方向からそれぞれ歩いてきたのに同時に顔を合わせるって、スゲェな。
「で、ルフィは?」
「処刑台を見るって言ってたわよね?」
「処刑台のある広場って、ここだろ?」
そう、何の因果かここは広場である。
処刑台もしっかりと見える。
そうか……あそこでロジャーは死んだのか……ってことはこの広場、22年前には色んな大物が集結してたんだよな。七武海の一部の若かりし頃、母さんやドラゴン……赤っ鼻はどうでもいいや。うん、感慨深い。
俺だって出来ればその余韻というか、感傷に浸ってみたいのに……どっかのバカのせいで、出来ない。
「処刑台の上で罪人が拘束されているように見えるのは、俺の目の錯覚か?」
俺の指し示した指の先に目をやり、全員が仰天した。
「「「「な!! 何であいつが処刑台に!?」」」」
そう、原作通り、ルフィがバギー一味によって捕まっていたのだ。
「これよりハデ死刑を公開執行する!!」
ルフィと同じく処刑台の上にいるバギーが、高らかに宣言した。同時に、広場を占拠するバギー一味が沸き立つ。
ルフィとバギーが何かを話してるみたいだけど、ここからではその詳細は聞こえない。
「あいつ……バギー!」
バギーとの面識があるナミが声を溢し、ゾロが苦々しげな顔をした。
「おい、何だよあいつは!?」
状況が全く掴めないらしいサンジが慌てたように聞いてきた。
「懸賞金1500万ベリー、『赤鼻』のバギー。オレンジの町ってとこでルフィがぶっ飛ばした海賊だよ」
ごく簡潔に纏めて説明した……ら。
「いや、『道化』のバギーだろ!?」
ウソップにツッコまれた。あれぇ、そうだっけ?
「海賊、モンキー・D・ルフィは『つけ上がっちまっておれを怒らせた罪』により死刑だ! 光栄だろう、海賊王と同じ死に場所だ! ここでテメェに、現実の無情さをハデに教えてやる! かつておれも、この広場でそれを思い知ったんだ!!」
って、ロジャーの死がそんなに堪えてたのか? 確かに、原作0巻では号泣してたけど。
「おい、そんなことより、さっさと救助に行くぞ!」
ウソップや俺のコントを見かねたらしく、ゾロが刀に手を掛けながら飛び出す体勢になった。
たしかに、ルフィのあの拘束は、自力じゃ解けないだろう。救助は必要だ。
よし。
「ナミとウソップは1度船に戻ってくれ」
「ま、待てよ! ルフィはどうすんだよ!」
ウソップは大慌てだ。
「ゾロと……サンジも行くつもりだろ? 俺たちに任せて。ルフィを救出した後、逃げられなかったら意味が無い。これだけの騒動になってるんだ、きっと海軍も動いてる……船が無くなってたらどうしようもない」
その発言に、ナミがハッとした。
「そうだわ! もうすぐこの島に嵐が来るのよ!」
「何だって!?」
「気温と気圧が下がり続けてるし、東の空に大きな積雲も見つけたわ! 嵐の前兆よ、船が流されちゃったら話にならないわ!」
あ、そういえば嵐も来るんだったな……うわ、髪染め落ちるだろうな。もう換金は終わらせてるからいいけど。
「それだけじゃない……広場のバギー一味の中に、リッチーの姿が見えない」
言うとナミ以外……ゾロも含めて首を捻った。リッチーの意味が解らないんだろう。
「バギー一味の副船長、『猛獣使い』のモージのライオンだよ……って、よく見たらモージもいないな。とにかく、副船長ともあろうヤツがこんな局面にいないのは、何か他に目的があるからのはずだ。そして、最も可能性が高いのは、足である船を壊してしまうこと」
俺はウソップの肩を叩いた。
「船はナミに任せて、ウソップはソイツをやってくれ……何、俺だって回し蹴り1発で倒せたヤツだ、何とかなる」
グ、と親指を突き出してみたけど、ウソップの足は震えている。
「お前の回し蹴りを常人と一緒に考えるな!」
……あれぇ?
「ウソップ……ビビってるのか?」
「!? ビ、ビビってるわけがあるかァ! おれは勇敢なる海の戦士だぞ!!」
うん、本当に損な性質だな!
「まぁ、魚人よりは手強くないさ……多分。んじゃ、健闘を祈る!」
サンジと俺が持っていた荷物もウソップに押し付け、俺たちは二手に別れた。
さて、ルフィを助けるとは言っても、だ。
「おれは! 海賊王になる男だ!!」
もうそこまで行ってんのか!?
これは急いだ方がいいな。
「「その死刑待て!!」」
ゾロとサンジは素直に正面突破しようとしてるけど、それじゃあ邪魔してくれって言ってるようなもんだ。
なので俺は、こっそり側面から回り込みます。
ええ、さりげなくあの2人を囮にしましたが、何か?
迂回して回りこむと、特に誰かに邪魔されることも無く処刑台まで辿り着けた。急がば回れってのはこのことか!
いや、そんなこと考えるのは後でいい。とにかく、処刑台を壊さないと。
原作通りに行けば、何もしなくても雷で助かる可能性が高い。でもそれも絶対じゃない。
しかし、俺が構えた直後に、ルフィは笑った。
「ユアン! ゾロ! ナミ! ウソップ! サンジ! 悪ィ。おれ、死んだ」
…………って、何をあっさり! あ、俺が真下にいるの、見えてないのか?
「アホかァ!!」
「「バカなこと言ってんじゃねェ!!」
俺が怒号と共に処刑台の足を嵐脚で破壊したことと、ゾロとサンジが叫んだことと、そして……雷鳴が轟いたことは、全てがほぼ同時だった。
雷はバギーが持っていた刀を直撃したらしく、ヤツは綺麗に黒コゲになっていた。ルフィは超至近距離にいたはずなのにピンピンしてる……便利だな、ゴムは。
「なはは、やっぱ生きてた! もうけっ!」
「どアホ!」
能天気に笑うルフィを、取り敢えず殴っといた。
「ユアン!? いたのか!? 髪も元に戻ったな!」
ルフィの言う通り、落雷と同時に降り出した雨のせいで俺の髪は元の色を晒している。
そんな俺たちの近くでゾロとサンジが神の有無について話してる……神はいるぞ? ただし、絶対に敬えないけど。
「テメェ、何しやがる!」
バギーの復活早っ!? タフだな!
「さっき処刑台が傾いたのも、テメェの仕業だな!」
しかも、結構勘がいいな!
「揃いも揃って、おれの望みをハデにブチ壊しやがって……この広場は何かありやがるのか!?」
え~と……何が言いたいんだ?
俺の疑問顔に気付いたのか、バギーは口を噤んだ。……聞かないでおいてあげよう。何だかもの凄い哀愁が漂っている。
「広場を包囲! 海賊たちを捕えろ!」
ゲ、バギーに付き合ってる暇は無いんだった! 海兵来るのが早いな、流石スモーカーの采配。それにしても、予想以上だ……よし。
「バギー、今は海軍から逃げることを最優先にして、取り敢えず水に流さないか? この場はルフィは諦めるってことで」
「…………チッ!」
バギーは面白くなさそうだったけど、やっぱり海軍から逃げるのには賛成らしく、舌打ちをしながらも否定はしなかった。
「じゃあ俺たちはあっちに逃げるから、お前らはあっち方面の逃げてくれ」
言って俺が示したバギーの進路は、海軍が押し寄せてくる方角。
「テメェ、おれをハデ囮にする気か!!」
ち、バレたか。だって想像以上に海軍の動きがいいんだよ。
俺としては、バギーがインペルダウン送りになるのが今でも全然構わないし。むしろ、インペルダウン自体には行ってもらわないと困るし。
手っ取り早くコイツを丸め込む方法……オレンジの町では母さんを引き合いに出したけど、流石に今となってはそんなことをする気は無い。むしろ、出来ることならあの過去を抹消したい。
でもそれ以外に、一言でコトを済ませる方法なんて……実はある。本当のことを言えば、オレンジの町でも脳裏を過ぎりはした。でも、色んな意味で嫌すぎてボツにしたんだよ。
正直に言えば今でも嫌だ、ものすっごく嫌だけど……母さんを利用するよりはマシか。
よし、腹を括ろう。
「そうか、嫌か……残念だな」
何を戸惑ってんだ、俺! 決めただろ、コイツらを囮にしてさっさと逃げるって! 心を鎮めて、さぁ言え、言うんだ!
「お前にあげたい宝の地図があったんだけどな」
「テメェその言葉忘れんなよォ!!」
反応早ッ!? あっと言う間に行っちゃったよ!
けど……言っちまった……あのセリフ言っちゃったよ……。
「何を暗黒背負ってんだ! さっさと行くぞ!」
ゾロに引っ張られ、俺も逃げるために足を動かす。
「お前たちには解らない……俺があのセリフを言うためにどれだけの精神的苦痛を味わったかなんて」
今すぐにでも頭を抱えて orz 状態になりたい気分だぞ!
「じゃあ言うなよ……まァ、おかげで時間は稼げそうだがな」
バギーを筆頭に海軍の方へと向かっていく一団……ご愁傷様。でも大丈夫、捕まっても突風が吹いて逃げられるから! ……多分。
さぁ、あんなヤツらのことは置いといて……言っちゃったよ、俺。
俺が、バギーに、あのセリフ……うわぁぁぁぁ。
「そこまでかよ。」
走りながら本当に頭を抱えてしまった俺に、サンジがちょっと引いてた。失礼な。
「そりゃそうだろ……あのセリフが誰のものだと思う!?」
「誰のだ?」
「いや、現状は誰のものでもないんだけど」
「「「何だそれは!?」」」
うぉ、ユニゾンツッコミかまされた!? しかもルフィにまで!
だって、そうとしか言い様が無い。アレは原作の頂上戦争の時のセリフだし。つまり、まだ言われたわけではないんだ。それでも俺は、知っている。
アレは、『赤髪』のセリフとほぼ同じだって。
今までずっと避けてきたのに……顔はもうどうしようもないけど、それ以外は似たくないっていうか、被りたくないっていうか。
だから俺は、剣には近寄らなかった。興味はちょっとあったけど、どうしても嫌だった。
小さい頃から注意して、利き腕だって矯正したんだ…………アレ? ちょっと待てよ?
ヤツは10年前に左腕を失っていて、それ以後はずっと右腕で生きてきてたんだよな? ………………意味無ェェェェェェェェェェェェェェ!!
俺、わざわざ利き腕矯正する必要無かったかもしんない! 今初めて気付いた! ヤバイ、これはかなり凹む!!
いや、まぁとにかく、それぐらい避けたいことだったんだ。でも、また母さんを利用するぐらいなら……。
俺が内心で葛藤している間に、追ってくる海兵はどんどん増えてきていた。
「待てェ!」
待てと言われて待つ海賊はいない。
あぁそうだ、今はボーっとしてられないんだ。
バギーたちの足止めが効いてる間に、出来るだけ距離を稼いでおかないと……。
色々と落ち込むのはまた今度だ。今は考えないといけないことが他にあるんだから。