麦わらの副船長   作:深山 雅

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第8話 サボとの出会い

 舗装なんてまるでされていない山の中を、エースに手を引かれながらトコトコ歩くこと数時間。

 俺はようやく『不確かな物の終着駅』に辿り着いた。

 

 「ユアンは初めてだからな。今日は楽な道通ってきたんだけど……」

 

 そうか……アレは楽な道だったのか……。

 ゼェハァと肩で息をしながらへたり込みそうになってる俺をチラッと見遣って溜息を吐くエース。

 俺……情けないな……。何が『コルボ山の猛獣程度は倒せるように』、だ。

 そもそもまるで体力がない。いや、頭では解ってる。俺はまだ4歳の幼児で、大切なのはこれからだって。それでも……焦りが生まれるのは、未来を知るからか。

 

 

 

 

 『不確かな物の終着駅』に来たからには、当然顔を合わせることになる人物がいる。

 そう、今まさに目の前にいるこの人、サボだ。

 

 「コイツがお前の言ってたユアンか?」

 

 上から下までじっくり観察される俺。正直言って居心地はよくないけど、その視線には悪感情は無いみたいでホッとした。

 

 「ああ、おれの弟分だ!」

 

 エースは何の衒いもなく笑顔でそう言い切った。

 けど弟分かぁ。まぁ事実だし、嬉しいんだけど。何か……照れるね、うん。前世では兄弟いなかったんだよ。

 サボもニカッと笑った。あ、この頃から歯は欠けてたんだ。

 

 「おれはサボだ、よろしくな。エースに聞いてるよ。お前、怒ると怖いんだって?」

 

 「……ユアンです、こんにちわ。俺もサボの話は聞いてます……でも、怒るとって……?」

 

 どう? 俺この1年でかなり発音良くなっただろ?

 いやいやそんなのはどうでもいい。それより怒るとって何さ。

 ジト、とエースを見ると苦笑いされた。

 

 「去年のアレはすごかったからな。ひょっとして自覚してなかったのか?」

 

 去年の怒った時って、アレか。悪魔の実を食べてしまった時か。

 ……そんなに怖かったのだろうか。自分じゃ解らないモンなんだな。

 

 

 

 

 サボは結構気さくで、敬語なんて使わなくていいって言ってくれた。

 初対面の(見た目)年上が相手だからちょっと丁寧な対応をしてたけど、俺自身本来そう礼儀正しい性格でもないからちょっとホッとした。

 で、だ。

 今俺は能力をお披露目してます。

 

 「1/10!」

 

 今俺が出来る最小サイズ、1/10にまで小さくしました。

 何をって? エースとサボをだよ。

 

 「どうだ、サボ! スゲーだろ!?」

 

 我がことのように自慢するエース。

 エースがこんなに興奮してるのは、自分が小さくなったことに対してじゃない。

 

 「ホントにスゲーな! こんなでっかい肉初めて見た!」

 

 そう、今小さくなった2人の目の前には、弁当にと思って持ってきていた骨付き肉がある。

 

 

 

 

 俺は対象を小さくさせることは出来ても、大きくすることは出来ない。食いしん坊のエースにはそれが不満だったらしい。大きくすることが出来れば、腹一杯食えるのに、って残念がってた。

 でも、それ、俺の能力なんだけどね!? 何でそれでエースが落ち込むのさ、落ち込みたいのは俺の方だよ。

 どう応用すれば戦いで役に立つのさ……と思ってたけど、ある日ふと気付いた。

 戦い云々はともかく、食べ物ではなく食べる人間の方を小さくさせればよくね? って。

 現状で例えてみよう。

 身長140cm程度の8歳を1/10まで小さくしたら、全長は凡そ14cm。

 そして俺たちが持ってきたのはせいぜい30cm程度の骨付き肉。

 通常ならなんてことのないサイズだけど、14cmの小人から見れば自分よりも大きな肉の塊。さぞかし食べ甲斐もあることだろう。

 実際、それは当たった。食いしん坊エースも大満足である。

 俺はそこまで食い意地が張ってるわけじゃないつもりけど、ダダン一家から分けてもらえる程度の食料じゃ流石にひもじかったし、これは結構重宝してる。

 それに……考えてもみて欲しい。

 自分の身体よりも大きな骨付き肉だよ! ロマンの塊じゃないか! 見てよ、エースとサボも(本人たちにとっては)巨大骨付き肉に喰らい付いてるよ!

 あ、ちなみに俺は普通に食べてる。いや、腹減ってないわけじゃないんだけどね。ここまで来るのに疲れちゃってさ……あんまり食欲湧かなかった。

 ……コホン、話が逸れた。

 まぁとにかく、何が言いたいのかっていえば、俺の能力は戦闘よりもむしろ日常生活で応用できそうなんだよってことだ。

 

 

 

 

 能力はともかく、と俺は肉を食いながらぼんやりと考えていた。

 とにかく、体力を付けなきゃいけない。年の差4歳の上に毎日ここに通ってるエースと比べるのが間違ってるんだろうけど、一方は何てことのない平気そうな顔をしているのにもう一方は限界だなんて、情けなさ過ぎる。こんなことじゃいけない。

 目的はもうハッキリしたんだ。これからはもう、『祖父ちゃんのシゴキに耐えられるように強く生きよう』なんて受動的な姿勢じゃダメなんだ。『目的を叶えるために強くなろう』って、自分から努力しないといけないんだ。そうじゃなきゃ、末来なんて変えられるわけがない。例え努力したとしても変えられる保障は無いんだから、常に最善を尽くさなければならない。

 とにかく、俺は…………強くなる!!絶対に!




 サボと出会いました。ユアンとサボは、長年エースから互いの話を聞いていたのでわりとすんなり馴染みます。
 次回からユアンは己を鍛えに入ります。そして、ルフィと出会う前にワンエピソード入ります。

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