麦わらの副船長   作:深山 雅

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グランドライン突入編
第85話 巨大生物


 「グランドラインの入り口は、山よ」

 

 海図を広げながら解説するナミだけど、既にナミの奴隷と化しているサンジ以外にその話をあっさり信じる者はいなかった。ルフィにしても、『不思議山か』の一言で済ませようとしている時点で理解できていないのは明らかだ。

 ルフィとゾロで入り口云々の話をしてるけど……そうこうしてる間に、外の音が変わってきている。

 

 「ナミ。もうすぐ凪の帯(カームベルト)に入ってしまいそうだぞ」

 

 「えぇっ!?」

 

 ナミは随分と驚いているみたいだ。進路が南に逸れてしまってたことに気付いてなかったんだろう。

 それにしても……もう目前だな、カームベルト。

 

 「どうしてもっと早く言わなかったのよ!」

 

 ナミが話している間、俺は窓から外を見ていた。だからこその発言だろう。

 俺は肩を竦めた。

 

 「口で言うより、実際に見た方が手っ取り早く解ってもらえそうな気がしたもんで、つい」

 

 大型海王類の群れって、かなりのインパクトだからね。カームベルトの恐ろしさを知るにはそれが1番だ。

 ……って、話してる間に本当にカームベルトに入った。

 

 「何を暢気なこと言ってんのよ! 全員、外へ出て! 帆をたたんで船を漕ぐの! 嵐の軌道に戻して!」

 

 「はい、ナミさん♡」

 

 サンジがすぐさま出て行った……本格的に奴隷化が進んでないか?

 けれど、そのサンジ以外はそのナミの剣幕に驚いているらしい。

 

 「おい、何をお前らだけで話を理解してんだ? カームベルトって何だよ?」

 

 外に出ながら、ウソップが聞いてきた。

 

 「おーっ、いい天気だ!」

 

 ルフィがはしゃいでいるけど……そんな余裕は長続きしないぞ?

 

 「カームベルトってのは、グランドラインを挟むように流れている無風の海域のことだ」

 

 「じゃあ、このまま行きゃあグランドラインに入れるんじゃねェか?」

 

 「そんな簡単な話じゃないわよ!」

 

 ゾロの軽い発言に、ナミが目を剥いて怒っている……?周囲に大きな気配が来たな。

 

 「どうやら、お出ましみたいだ」

 

 苦笑と共に言うと、ナミが絶望的な顔で崩れ落ちた。今言うのも何だけど、こうして反応してくれてるってことは結構、覇気のことも信じてくれてるみたいだね。

 

 「? だから、俺たちにも解るように話せって……!!」

 

 ウソップの発言は、突如発生した地震(?)によって遮られた。

 そして次の瞬間には、俺たちは海王類の鼻先に乗って中空にいた……それじゃあ、お望みどおり。

 

 「簡単に説明するよ。カームベルトは、大型海王類の巣なんだ……アレ? ウソップ?」

 

 ウソップは何故か寝ていた。

 

 「説明しろって言ったくせに」

 

 「バカかテメェは! ありゃ気絶してんだ!!」

 

 唇を尖らせて不満を漏らすと、ゾロに拳でツッコまれた。地味に痛い。

 よく見るとウソップは、泡を吹いていた。

 

 「テメェ、ここがどういう所か解ってたんなら、もっと早く言え!」

 

 いやだって、さっきも言ったけど。

 

 「実際に見た方が、解りやすいかなって。……もう、グランドラインに入り口以外から入ろうなんて気にはならないだろ?」

 

 全員が何故か脱力していた。

 

 「解ったら、オールを持つ! 着水したらさっさと漕いで嵐に戻ろう」

 

 オールを1本ずつ男性陣に配り、最後にはウソップを小さくした。

 

 「振り落とされたりしたら大変だから、ウソップは俺が持ってるよ」

 

 何しろ、くしゃみですっ飛ばされるんだもんな。

 

 

 

 

 まさにその通りだった。俺たちはその後、乗っかった海王類のくしゃみによってすっ飛ばされ、空に放り出された。

 その間にデカいカエルが飛び掛ってきたけど、それはルフィがゴムゴムの(ピストル)によって撃退。

 着水と同時にウソップとナミ以外の全員で一心不乱にオールを漕ぎ、無事に嵐の中へと帰還できたのだった。

 

 

 

 

 嵐に戻ると、俺以外の全員が少しダウンした。

 俺が無事なことを考えると、これは肉体的疲労のせいではなくて精神的疲労のせいなんだろう。俺はカームベルトを覚悟してたから、そこまで驚かなかったしね。

 

 「おーい、大丈夫かー?」

 

 「「「……お前、後で覚えてろ」」」

 

 心配して声を掛けたのに、ゾロ・サンジ・ナミに恨みの篭った目で見られた。確かに、俺の言い方も悪かったけど……そこまでか?

 ちなみに、ウソップは絶賛気絶中でルフィは今になって少しワクワクしてきてるらしい。

 

 「すごかったなー、アイツら!!」

 

 何ともキラキラとした眼差しだ。既にあの出来事はルフィの中では『冒険』として処理されているらしい。

 そんな様子に周囲も毒気を抜かれたらしく、気を取り直していた。

 

 「……カームベルトについてちゃんとした知識があったってことは、山を登るってことも知ってたんじゃない?」

 

 ナミに聞かれ、俺は頷いた……この際、はっきり言っておこうかな。

 

 「ゾロとサンジには言ってなかったけど、母が海賊だったんだ。それに、グランドラインでも活動していた……筆まめな人だったみたいでね、その当時の航海が書かれた日記が残ってて、それを読んで知ったんだ」

 

 「そういや、自分も海賊の子だとか言ってたな」

 

 ……シロップ村でクロイジメをした時のことだろうか。ゾロが納得顔で頷いてる。

 

 「で、どうなんだ? 結局登るのか、不思議山。」

 

 ルフィが聞いてきたけど、俺はナミと顔を見合わせた。どっちが説明する、と視線で会話したけど……はっきり言おう、押し付けられた。

 俺は、原作でナミがしたのと同じ説明をした。

 

 「要するに、不思議山なんだな!」

 

 結局ルフィは理解してくれなかったけど。

 

 「おれはジジイに、グランドラインは入る前に半分死ぬと聞いた」

 

 サンジのこの発言……どう取ったらいいんだろう。

 まさか、ラブーンに食われたり潰されたりした人間なんて、含んでないよな? あれはグランドラインに入った後だもんな? ……ラブーン、人間も食べてるよね? 原作では胃酸の海の中に人骨あったし……。

 

 

 

 

 リヴァース・マウンテン、そしてレッドラインが見えてきた頃になって、漸くウソップが目を覚ました。しかしそんなことはどうでもいいから、スルーする。

 海が運河の入り口から山に向かって登っていく光景は、一見の価値があるものだった。こういうのを見るのも、旅の醍醐味だよね。

 

 「舵しっかり取れェ!!」

 

 ルフィの号令で、サンジとウソップが舵を握った。嵐と海流のせいで、舵が随分と重くなっているらしい。

 右に、右に、と舵をきっていたけど……折れました。根元から。ボッキリと。

 それによって船は制御不能となり、運河の入り口の門にぶつかりかける……が。

 

 「ゴムゴムの……風船!」

 

 ルフィが飛び出してクッションになり、事なきを得た。ちなみに、俺も同時に飛び出して月歩にて役目を終えたルフィを回収した。

 メリー号は無事に運河を駆け上り、やがて頂上に。後は降るだけだ。

 

 「見えたぞ、グランドライン!」

 

 

 

 

 

 そう、後は降るだけ……なんだけど。

 

 「みんなに言っておくことがある」

 

 お祝いムードに近い雰囲気でいる面々に、俺はちょっと乾いた笑みを浮かべた。

 

 「どうした?」

 

 はっきり言って俺の態度は、水を差すものだと思う。なのにみんなは嫌な顔1つしない。ありがたいことだよ。

 

 「グランドラインのこと、日記に書いてあったって言っただろ? それにあったんだけど、この先にクジラがいるらしいんだ」

 

 「クジラァ?」

 

 それがどうした、と言わんばかりな視線に晒される……ただ単にクジラって聞いただけじゃそうなるだろうな。

 

 「そう、すごく大きなクジラが1匹、このグランドラインの入り口の双子岬にいるんだって。だから、まぁ……覚悟しといてね?」

 

 正直言って、船首を折られるのは嫌なんだよね。船を傷付けて欲しくない。けどクロッカスさんに会うためには飲まれるのが手っ取り早い……悩みどころだ。どうすればいいんだろう。

 そう、俺はクロッカスさんに会いたいと思う。バギーやミホークには会いたくないと思ってたけど、今となってはそれ以上に色々と気になってることがある。母さんの師匠だったというクロッカスさんなら、大抵のことは知ってるはずだ。

 そう考えると、この顔と名前も役に立つよな……バレたくないと思えばこの上ない障害だけど、こういう場合では証明書の代わりになる。

 俺のそんな内心は誰も知らないが、クジラ発言には微妙な顔をしている。

 

 「クジラって言っても、たった1匹でしょ? 大丈夫よ」

 

 ナミはあっけらかんとしてるが……いつまで持つかな、その余裕。

 こうして話している間にも船は運河を降っている。そんな中、ラブーンの鳴き声はかなり早い内に聞こえてきた。

 ブォォォォォォォォ、と空気が震えるような声がする。ふと思ったんだけど、ビンクスの酒とか歌いながら降りていったら、どんな反応するだろう……まぁ、実際にはやらないけどね。流石に悪趣味すぎる。

 

 「ユアン! これクジラの声か!?」

 

 ルフィは、俺が『すごく大きなクジラ』と言った直後から目を輝かせていた。好奇心が刺激されたんだろう。

 

 「あぁ、多分な」

 

 ウソップがローグタウンで手に入れていたスコープを弄りながら正面を見ている。

 

 「おい、壁があるぞ!」

 

 ……お解りだと思うが、それは勿論壁じゃない。そうかからずに、その正体が見えてきた。

 アイランドクジラ、ラブーンだ。

 

 

 

 

 それにしてもデカい。本当にデカい。例え1/100にまで小さくしても、それなりの大きさになってしまいそうだ。

 

 「すげェー!! でけェー!!」

 

 好奇心で一杯のルフィは見てて微笑ましい……あちら側は全然微笑ましくないけど。

 視線の先では、俺たち以外の4人が固まっていた。

 

 「だから言っただろ? 『覚悟しといてね』って」

 

 「「「「これはデカすぎだーーーーー!!!」」」」

 

 ……その絶叫したい気持ちは、解らなくもない。

 

 「何でお前はそんなに落ち着いていられるんだよ!」

 

 ウソップ……俺も冷静なのは見た目だけで、内心途方に暮れてるんだよ! どうしろってんだよ、このサイズ! クロッカスさんが中にいるから、小さくするわけにもいかないし!

 取り敢えず……。

 

 「舵は諦めて、オールを漕げ! 左に抜けるんだ!」

 

 あの隙間から抜けるように、頑張るしかない! 効かない舵は早々に諦めて、オール1本に絞ろう!

 すごく大きなクジラとはいえたった1匹、と特に気にしていなかった面々が慌しく動き出したことで、船上は俄かに騒がしくなる。

 俺? 俺はというと……。

 

 「離せよ、何で止めるんだ!」

 

 「お前大砲撃つ気だろ!? そんなことしても止まんねェよ、ムダ弾撃つな! それよりここにいて、ぶつかりそうになった時にさっきみたいにクッションになれ!!」

 

 ルフィを文字通りに押さえ付けていました。だって、その方がメリー号破損は防げそうだし。

 

 「このままぶつかれば、まず初めにダメージを受けるのは船首だぞ! お前の特等席が壊されてもいいのか!?」

 

 「良くねェ!!」

 

 「じゃあここにいろ、変に動くな!」

 

 ……こいつ、特等席にどんだけ思い入れがあるんだよ。引き合いに出したら、あっさり受け入れてくれた。ルフィが暴れなくなったから、拘束は解く。

 俺たちがそんなやりとりをしてる間にも、みんな……主にゾロとサンジが必死にオールを漕いでくれてたおかげか、船は多少左寄りになっていた。

 それでも抜けられるほどじゃない。ぶつかる!!

 

 「ゴムゴムの……風船!」

 

 本日2度目のゴムゴムの風船で、ルフィはラブーンとメリー号の間に入った。ルフィがクッションになったことで船首は折れずに済み、また、船の向きも更に左寄りになった。ラッキー。

 

 

 

 

 さて……クロッカスさんには、どういう会い方をしようかな?




 日記にラブーンのことが書かれているのは本当です。むしろ、その詳細まで記してありました。クロッカス本人に色々聞いているので。

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