暇つぶしにどうぞ。
ごきげんよう。特型駆逐艦11番艦、改良吹雪型1番艦の綾波です。
私がネームシップなこともあって綾波型とも呼ばれています。
私はこの1929鎮守府で初めて司令官が建造した艦娘で、初期艦であり初代秘書艦だった叢雲さんに続いての古参です。そのおかげで出撃する機会が多く、練度は90に到達し、今では新しい仲間への指導をしています。それも補助程度ですが。
普段の私は司令官や秘書艦の方にお茶を出したり、お仕事を手伝ったりしています。そのせいか、私は皆さんから『名誉秘書艦』とも呼ばれています。ちょっと、恥ずかしいですね。
ちなみに、この鎮守府の秘書艦は艦種で持ち回り制です。今日は金剛さんでしたね。
今は午後の演習を行っている最中なので私は自室でのんびりしています。司令官も金剛さんを護衛として演習を見学しているはずなのでお茶を入れる必要がないですからね。
のんびりお茶を楽しんでいると遠くから足音が聞こえてきます。しかも足音は私の部屋に向かっているようです。何かあったのでしょうか?
「失礼します。榛名ですが入ってもよろしいですか?」
「榛名さん? どうぞ」
訪れた艦娘に少し驚いてしまいます。榛名さんは今朝南方に、それも奥の方に出撃されたはず。時間を見ればちょうど帰投する時間ですが、お怪我はなかったのでしょうか。
「すいません、失礼しますね」
入ってきた榛名さんを見る限り小破していますね。司令官は少しの被弾でもあれば入渠を進める人で、榛名さんはこの鎮守府の主戦力と言える艦娘です。その榛名さんが入渠せずにここに来るなんて何があったのでしょうか?
「どうかしましたか? 帰投したばかりですよね」
「はい。綾波さんにどうしてもお聞きしたいことがありまして」
どうやら私の想像以上に真剣なお話になりそうなので榛名さんに座布団を差し出し、お茶を入れます。少し温くなっていますが疲れた体にはちょうどいいでしょう。
「ありがとうございます」と言って座布団に座り、お茶を口に運びます。その仕草がとても大人びていて少し羨ましくなります。
落ち着いた榛名さんが飲み切った湯呑を置いて私に向き合いました。私も湯呑を卓袱台に置きます。
「……今日の出撃で私の練度が99になりました」
その一言でわかりました。おそらくケッコンカッコカリのことでしょう。
私たち艦娘は練度が99になるとそれ以上の成長ができなくなります。しかし、最近大本営から発表されたケッコンカッコカリをすればさらに上の練度を目指すことができます。
「しかし、ケッコンカッコカリするための指輪とそれを得るための任務があるのではないですか?」
「はい。それはこの後司令とお話しします。その前に綾波さんにお聞きしたいことがあるのです」
榛名さんの眼は真剣そのものです。
そしてその眼を見て私は話の内容を理解しました。
「私に遠慮する必要はありませんよ」
「……いいんですか? 榛名が先で?」
「はい。私は司令官のお力になりたいだけですから」
本音を言えば私もケッコンカッコカリしてみたいです。でも、私は駆逐艦です。一応艦娘全体でも数少ない改二艦ですが、連合艦隊の第二艦隊では活躍できても、通常海域では戦艦や空母の皆さんには適いません。
そのことを告げると榛名さんが立ち上がりました。なぜか少し怒っています。
「そんなことないです! 綾波さんは夜戦でいつも助けてくれていますし、その速度で深海棲艦のかく乱をいつも引き受けてくれているじゃないですか!」
「えっと、榛名さん?」
「だから、まるで自分は必要ないみたいな言い方しないでください!」
これは驚きました。榛名さんは金剛型戦艦のなかではおしとやかなイメージでしたが、こんな風に感情的になることもあるのですね。
一方榛名さんは自分の行動を思い返して顔を真っ赤にして座り込んでしまいました。それが先ほどのお茶を飲んでいた仕草と真逆で可愛くて、思わず笑みを浮かべてしまいます。
金剛型戦艦では最後に着任された榛名さんが一番早く練度99まで達成できたのはもしかしてこういう姿に司令官が惚れたからなのかもしれませんね。
「なんか、すいません」
「いいんですよ。私のためを思って怒ってくれたのはよくわかりましたから」
私がそう言うと榛名さんはさらに顔を赤くします。前にこういう状態のことをトマト顔と言うと聞いたことありますが、これはもはや赤顔ですね。
「だから、遠慮なくケッコンカッコカリをしてください。そしてその力で艦隊を守ってください」
「綾波さん……」
「よろしくお願いします」
私は頭を下げる。そこにすべての想いを乗せて。
「わかりました。この榛名に任せてください!」
再び立ち上がった榛名さんの顔には満面の笑顔がありました。それを見て、私は確信します。
榛名さんはこれからも艦隊のリーダーであり続けてくれると。
今後は一週間に一話のペースで投稿していきます。