振り返った私の視界に映ったのは別の指令書を持った司令官。たまに任務を終えると次の任務が継続して発令されることがあるのですが、まさか改二専用任務に続きがあるとは思いませんでした。
「ああ、綾波が考えていることはだいたいわかるが、それとは別件だ」
「そうなのですか?」
「むしろそれ以上に厄介だな」
任務以上に厄介となると大規模作戦でしょうか? しかしつい先日礼号作戦が終わったばかりなのでそれはないでしょう。となると一体?
「申し訳ありません。見当がつきません」
「そうだろうな。私もこれには大変驚いた」
そう言って司令官が指令書を差し出してきます。それを受け取って内容を確認します。
……これは、確かに厄介です。
「『中部海域においてさらなる奥地に深海棲艦の群れを発見。それに伴い、現状の艦隊をさらに奥地に派遣することが決定。第1929鎮守府は直ちに中部海域現最深部にまで艦隊を派遣されたし』ですか」
現在私たちの鎮守府は鎮守府正面・南西諸島・北方・西方・そして南方の五つの海域の解放に成功し、さらに最深部である特別海域にまで到達が可能です。先ほど五十鈴さんたちと共に出撃した鎮守府近海航路も鎮守府正面海域の最深部に値する場所です。
実を言えば中部海域にも参加できるだけの実力はすでにこの鎮守府にはありました。しかし司令官の意向でまだ育成段階の艦娘がいるうちは訓練に資源を使うこととなり、中部海域には出撃しないでいました。
「それにしても、こんな指令もあるのですね」
その言葉の真意ですが、どの海域に出撃するかは鎮守府に配属された司令官に任せているため、大本営のほうからこのように出撃命令が下されることはありません。そのため「なぜ今更?」という気持ちのほうが強いのです。
「それなのだが、先の大規模作戦を我が鎮守府は甲作戦で成功している。その戦果からこのような指令が下ったらしい」
「しかし、甲作戦ならその前の大規模作戦でも攻略を成しているのでは?」
私は司令室に飾られた二つの甲勲章に視線を向けます。あの作戦は最後夜戦ばかりでしたのでそうとう苦労しましたね。
「確かにそうだが、今回は全ての海域において甲作戦で達成している。それが最大の理由だろう」
そういえばそうでした。戦果を称賛されるのはうれしいことですが、新たな海域への出撃となればかなりの準備が必要ですね。
「それで司令官。編成はどうされるのですか?」
「それなのだが、中部海域に出撃をしていないため情報が無い。そこで綾波。君に指令を与える」
大本営からの任務ではなく司令官直々の指令は久しぶりです。自然と緊張してしまいます。
「君とあと二隻。計三隻で第1937鎮守府に輸送任務を命ずる」
輸送任務。となると私は護衛ということですね。
「目的はこちらの資材と交換で中部海域の情報を持ち帰ってくること。何か質問は?」
「他二隻の艦種は?」
「燃料・弾薬・鋼材・ボーキサイトすべてを運ぶことになるのでドラム缶を搭載できる艦種に限定する」
「運搬する資材量は?」
「全て1000だ」
1000となるとかなりの量です。想定していた編成は私ともう一隻の駆逐艦、そして軽巡洋艦だったのですが、これは航空巡洋艦のだれかにお願いしたほうがいいかもしれません。
「相手側の鎮守府の情報を」
「春雨は連れていくな」
「…………はい?」
「春雨をこよなく愛する司令官なので春雨の同行だけは禁ずる」
大丈夫なのでしょうか、その鎮守府の司令官さん。
「君が悩むのもわかるがあれは優秀な司令官だ。甲作戦が発動されたこれまでの大規模作戦において全ての海域を甲作戦で達成している」
「なんでそんなに優秀な人なのに春雨さんをこよなく愛するのですか?」
そこまで戦果がある人ならむしろ戦艦や空母の方のことを常に考え、そのままケッコンまでいきそうなのですが。
「まあ、そういう人間もいると思ってくれ」
「はぁ。わかりました」
どうやら私の人間に対する理解はまだまだ浅いようです。
自室に戻った私は航路を見ながら編成を考えていました。
第1937鎮守府は私たちの鎮守府からだと南西方面にあります。距離は片道一日程度。
この海域なら訓練艦でも突破は可能ですがドラム缶搭載装備になるためこちらの攻撃手段が減ります。となれば当然高い練度の艦娘での出撃となります。
他にも輸送任務を経験された方がいたほうがいいですね。
「よし。この編成で向かうことにしましょう」
編成を考えた私はその二人に会いに行くことにします。まずは同じ駆逐艦さんからです。
「……というわけで、お願いできないでしょうか?」
机を間にして正面に座る艦娘さんの反応を伺います。
「はい! お任せください!」
「助かります」
「むしろこちらが綾波さんにはいつもお世話になってるから、これくらいお安い御用ですよ」
編成の一人は五月雨さんです。輸送任務を経験されていますし、練度も60台後半。この作戦を遂行するに適任と私は判断しました。
任務の説明と出撃日時、さらに当日の装備など今の段階で決まっていることを告げるときちんとメモを取ってくれる五月雨さん。こういう人たちばかりだともう少し楽に鎮守府を運営できるのですが。
最後に五月雨さんが復唱して漏れがないことを確認して五月雨さんたちの部屋から出ます。さて、次の方を探しに……
「ねぇ綾波さん? 夕立は?」
隣の部屋が急に空いたと思ったら夕立さんが頭だけ出してきました。ちょっとびっくりしてしまいました。
「申し訳ありませんが、夕立さんはこの任務には出撃できないですね」
「そっか~」
「でも、別の指令があるみたいなので準備だけはよろしくお願いします」
「!? 任せるっぽーい」
次の鎮守府近海航路出撃は明後日ですからすぐに伝わるでしょうから今話しても大丈夫でしょう。あまりのうれしさから両手を上げて喜ぶ夕立さん。その衝撃で扉が全開になってしまい、少し大きな音がします。
すると夕立さんが部屋へと吸い込まれました。そのすぐ後に時雨さんが出てきて「うるさくしてごめんよ」と言って扉を閉めます。時雨さん、いつもお疲れ様です。
「へぇ~、私が出撃ですか」
場所は変わって重巡洋艦の方がお住いの寮で私は熊野さんと話をしています。
「何か気になることがありますか?」
「そうですわね……見知らぬ海域の情報となればかなり重要な任務だと思います。練度の高い鈴谷か利根型のお二人のほうがよろしいのでは?」
なるほど。確かにこの任務は普通の輸送作戦と異なってこれからの成功を担う情報を持ち帰るというかなり重要な任務になります。そういう意味では熊野さんの言うことも正論です。
「ですが、それでも私は熊野さんにお願いしたいのです」
「その理由は?」
「今後の大規模作戦に備えてです」
私の言葉に不思議そうな、困惑したような表情を見せる熊野さんに私の考えを伝えます。
「現在航空巡洋艦は最上型の皆さんと利根型のお二人の六人しかいません。そうなったとき、練度が未熟な三隈さんや最上さんでは厳しくなります」
「そうですわね」
「そのお二人とは訓練としてお付き合いできますが、すでに練度が50を超えている熊野さんが訓練艦に加わることはありません」
「それも間違いではありません」
「なので今のうちに少しでも連携を取れるようにしておきたいのです」
かなり重要な任務なのは間違いないですが、正直失敗する確率は皆無です。
輸送作戦を経験している五月雨さん、自分でも駆逐艦としては異様な戦闘能力を持つ私、そしてこの中では練度が最も低いとはいえ索敵・制空戦・砲雷戦と幅広い攻撃手段を持つ熊野さん。
これだけの要素がそろっているのならさすがに失敗は無いでしょう。そのことを告げると「綾波さんの熱意に負けましたわ」と言って承諾してもらいました。
ちなみに五月雨さんとの連携は問題ありません。一緒に出撃する機会はあまり無かったのですが、改二になって髪がかなり長くなってしまった当初、海洋移動から洗い方まで全て教えてくれたのが五月雨さんでした。そのため今の私の戦い方の基本形でもある五月雨さんの戦闘方法は熟知しています。
その後「主砲の練習に行ってまいります」と言ってすぐさま準備に取り組んでくれるところが熊野さんの素晴らしいところです。本人に伝えたら「当然です」と返されるのでしょうね。
「では、私ももう少し安全な航路を考えてみますか」
その日は夜遅くまで航路とにらめっこしていました。無事成功させましょう!
話の内容からわかる通り、しばらく中部海域の話になります。実際に自分で海域攻略していた時の様子を書くことになりますので、参考までにどうぞ。
ではまた来週です。