あまりにも大声だったので驚きましたが、お願いの内容を聞いて思考を働かせます。
探照灯と照明弾。
どちらも夜戦専用装備で探照灯は相手を照らすことでこちらの攻撃を当てやすくする一方、照射が相手にとっても目印になってしまいますので自分だけは被弾する確率が高くなります。諸刃の剣みたいな感じですね。
照明弾は光弾を打ち上げるだけなので探照灯のようなリスクはありません。しかし打ち上げる場所を間違えるとせっかく明るくしたのに敵が一隻もいないという事態が発生します。そのため、私たちの鎮守府で照明弾を活用できる艦娘ってそんなにいないんですよね。
それらの特性と先ほどの皐月さんの改二情報を照らし合わせます。それでようやく皐月さんがお願いしてきた意味が分かりました。
でも、その前に一つ確認が必要ですね。
「それは司令官の許可を得ていますか?」
「! もちろんだよ!」
皐月さんが取り出し見せてくれたのは『書可許練訓戦夜』。どうやらすでに司令官と改二になったときの運用を話し合っていたみたいですね。
ああ、司令官がお願いと言っていたのはこれも含まれていたのですね。
「では、これより訓練を始めます」
「よろしくお願いするよ!」
お茶会の後片付けをした後、夜の鎮守府近海に立ちます。皐月さんは実戦を想定して『25㎜三連装機銃 集中配備』に探照灯と照明弾を搭載してもらい、私は探照灯と照明弾だけです。
そして他の睦月型のみなさんは少し離れた海洋に立ってもらっています。仮装敵艦隊として協力してくれています。
「あと、こちらも確認ですね」<もしもし、聞こえますか?>
<こちら睦月だよ。良く聞こえてるよ>
他の皆さんからも返答があったので無線の感度は問題なし。続いて動作確認ですね。
「さて皐月さん、まずは探照灯からです。きちんと構えてください」
「うん!」
両手でしっかりと探照灯を構える皐月さん。片手でも可能なのですが初めは両手で持つことを徹底させています。その理由は敵から攻撃され被弾しても探照灯を手放さないようにするためです。
その後私が指す方角へ探照灯を照射する皐月さん。ここまでは誰でもできるので問題ないです。この後が大変なんですよね。
「では皐月さん。ここからが本番です」<みなさんも準備お願いします>
無線を飛ばして睦月さんたちにも意識を切り替えてもらいます。
私も探照灯を持ち、まずは見本とばかりにあくびをしている望月さんを照らします。照らされた望月さんは口元に運んでいた右手で目をかばっていますね。
「このようにして敵を照らします。では皐月さんも……」
「えっと、綾波さん? なんでそんな的確にできるの? 僕ほとんど見えてないんだけど」
<さすが綾波さん! すごいすごい!>
皐月さんが困惑した表情を見せ。文月さんが感嘆の声を上げます。しまった、またやってしまいました。
「私は夜目が効くので」
これも史実が反映された影響なのでしょう。さすがは綾波の見張り員です。そっと心の中で敬礼します。
とりあえず皐月さんが見えるくらいにまで睦月さんたちに近づいてもらいます。後はひたすら慣れて距離を伸ばしていくだけですね。
残念ながら今日はこれだけで0:00を回ってしまったので鎮守府に帰還しました。皐月さんは明日から演習や任務出撃で旗艦になることが決まってるのであまり遅くまで訓練できないからです。
訓練開始から五日後、皐月さんはヘトヘトになっていましたので今日はお休みです。その代り皐月さんの部屋で勉強会です。
「つまり、照明弾を打ち上げるコツは相手の艦隊を観察することなんだね」
「そうです。照明弾で照らせる範囲には限度がありますから、より多くの敵を照らせるよう打ち上げる場所を瞬時に判断する必要があります」
皐月さんは私が説明することを必死になってノートに書いています。実際、探照灯はある程度慣れれば誰にでも扱えます。今では大型艦専用の巨大な探照灯も配備されているくらいですからね。
一方で照明弾は打ち上げること自体は簡単でも毎回きちんと効果を発揮できるわけではありません。標的は動かない的ではありません。せっかく照らしても、そこから動かれ夜の闇に逃げられてしまえば意味がありません。そのため、照明弾を活用するためには相手の艦隊を観察し、行動を予測して打ち上げなくてはならないのです。これがかなり大変なんですよね。
「これ、僕にできるのかなぁ」
記し終えた皐月さんが机に倒れこみます。朝・昼・夕方は旗艦として戦闘を行い、夜になれば私の訓練をしているので心も疲れているようですね。私はお茶を振る舞うことしかできないので、こればかりは睦月型の皆さんにお任せするしかありません。
起き上がりノートを最初から読み直す皐月さん。私は湯呑をまとめて給湯室に向かおうと一旦部屋を出ようとします。
「そういえば、綾波さんはどうやって照明弾をうまく扱えるようになったの?」
扉を半分空けたところで皐月さんから声を掛けられたので振り返ります。
「どうやってとは?」
「前に夜目が効くって言ってたけど、あれは探照灯の時に照射しやすくなるだけで、相手の行動を予測して打ち上げる照明弾には意味がないじゃん」
言われてはじめて気づきました。確かに夜目が効いても行動の予測には全く意味がありません。湯呑をまとめたお盆を一旦床に置き、照明弾を扱えるようになったころを思い出します。しかし思い出せず、さらに過去、軍艦だったころを思い出してある仮説にたどり着きます。
「私が軍艦だったころ、私は単艦で、しかも夜戦で敵艦隊と戦闘を行うことになってしまいました。その状況でも戦果を上げたことで鬼神なんて呼ばれることになりましたが、おそらくこの経験から敵艦隊の動きを察しながら攻撃を与えることに適応しやすいのだと思います」
あくまでも当時の印象から導いた仮説に過ぎません。それでも私は戦時中で使っていなかった探照灯も照明弾も実戦で活用できるほどうまく扱えるようになりました。
「そっか。それぞれにやり方があるんだね……うん、僕もがんばるよ!」
そう言って再びノートに視線を落とした皐月さん。アドバイスらしいことは何も言ってないのですが士気が蘇ったのならば良しとしましょう。
そして皐月さんが訓練を開始してから二週間後、本日最後の演習で皐月さんの練度が75に到達しました。今から改二になるために明石さんと共に工廠に向かいます。
「じゃ、逝ってくるね!」
「無事生きて帰ってきてよ!」
「がんばってぴょん!」
「……毎回そういうの止めてって言ってるよね? 装備改修と違って改造なら失敗しないから」
いつからか定番となったこのやりとり。最初は明石さんも「心配しないで! 三倍くらいの大きさにして帰してあげるから」など冗談を返していましたが、今となっては可哀想になってきてます。やはり規制すべきですかね?
工廠から出てきた皐月さん。以前見せてもらった新しい制服を見にまとい、さっそく睦月型の皆さんに囲まれています。どうやら装備は工廠に置いてきたようですね。
「ところで司令官。明日以降の編成に皐月さんがいませんが?」
「ああ。しばらくは改二に慣れてもらうために以前のように遠征に精を出してもらうことにする」
そのやさしさ、私が改二になった時にも欲しかったです。いくら大規模作戦中に改二になったからっていきなり実戦は厳しかったんですよ?
「あ、そういうことだったんですか」
「どうかしたか?」
「いえ、こちらのことなので」
その当時のことを思い出して気づきました。いきなり実戦に編成されたせいで何度も探照灯と照明弾を活用していたのでいつの間にか慣れていたのですね。
「さて、また編成を考えなければな」
「申し訳ありませんが、その前に大本営から入電がありました」
司令官と共に振り返ると一枚の紙を持った大淀さんが立っていました。皐月さんが改二になったときに大本営からの入電ですか。
どうやら遠征より先にすることがありそうですね。
さすがに二話書くのは辛いですね。疲れました。
現状は6-4に挑戦して惨敗。あれは無理です。
朝潮型に改二通告出ましたね。満潮かな?と思っています。
ではまた来週です。