―どうしてこうなったんだろう―
朝からいい天気だ。今日は散歩なんか最高だろう。そう思いながらジョギングから帰ってきたザンを、穂波が仁王立ちで待っていた。
「先日は不覚を取りましたが、今日はそうは行きませんよ、ザン君!」
何の事を言っているのだろう。そう思っていたザンを、穂波はキッチンへ引っ張っていった。
「今日こそ、どちらの料理がおいしいか、決着をつけましょう!これから朝食を作り、皆さんに判定してもらいます」
「その前に一つ、いいですか?」
「なんですか?」
「シャワーを浴びてからで良いですか?」
外から帰ってきたばかりのザンは、汗だくだった。気がつかなかった穂波は頬を染め肯定する。
「いいですよ。…でも、勝ち逃げは許しませんからね」
-○●○-
朝食対決の結果は、2対1でザンが勝ってしまった。分かりやすく穂波が凹んでいる。深雪はとりあえずこの場から抜けることにした。
「お母様、少し外を歩いてきます」
「あ、俺も…」
ガシッ。ザンも同様に抜け出そうとしていたが、既に穂波に捕まっていた。
「ふふふ…。ザン君、逃がしませんよ。次は二回戦、お昼で勝負です。深雪さんには達也さんがいるから大丈夫です。仕込みも必要でしょうから、外に行っている暇はありませんよ!」
「穂波さん、目が怖いよ・・・。あ、深雪様。どうぞこちらをお持ちください」
「なんですか?これ」
「外で簡単につまめる様にサンドイッチを作っておきました。バスケットの水筒には飲み物も入れてあります。達也と一緒に召し上がりください」
「ありがとうございます、ザンさん」
いい笑顔で礼を言う深雪。やはり助けてはくれなさそうだ。何時ぞやの意趣返しか。
「いってらっしゃい」
その時、他人事のように我関せずの構えを見せていた深夜は、驚愕の事実に気付いた。そう、昼の料理対決の審査員は自分一人なのだ。その時になって、朝食のときザンに一票入れたことが失策であると後悔した。
数時間後、外から帰ってきた深雪たちから、桧垣ディックと、その友人の金城ディックに会い、そのまま観光をしたことを聞いた。その時に、国防軍に入った理由や、レフト・ブラッドとして敬遠されている現状についても聞いたらしい。話し終えた後、穂波とザンがいまだにエプロン姿であることに、深雪は気がついた。
「ああ、この格好?何でも最終戦は夕飯でするって穂波さんが言い出してな。今仕込みの最中なんだよ。まぁ、部屋でゆっくりしててよ。できたら呼ぶからさ」
そのさらに2時間後、さらに凹んだ穂波がいた。さすがの深夜もフォローしきれず、あさっての方向を見て紅茶を飲んでいる。深雪はばつが悪くなり部屋に戻ってしまった。ザンは達也にアイコンタクトで穂波のフォローをするように促す。達也は頷いて穂波の脇に立った。
「穂波さんの料理、おいしかったです。ただし、ザンの料理は深みがあり、雑味が無く洗練していました。両者にそれほど差は無いと俺は思います」
ただ現実を突きつけられただけだった。涙目で睨む穂波に、さすがの達也も一歩引いた。
「穂波さん、今日作ったもののレシピです。帰ったらいつか作ってみてください」
嘆息したザンは、メモ用紙を穂波に渡した。なにやら独り言をブツブツと言っている穂波だったが、ザンが一言二言話すと急に機嫌を良くした穂波は、大事そうにメモをしまっていた。
-○●○-
「工作員 『朱』より連絡が未だ取れません。また、『黄』も同様に本日から連絡が取れません。ただし、『陸』からは協力者と連携が取れていると報告があります」
「ふむ。工作員が捕まった情報はまだ無いな。二人は捕まったのではなく消されたのだろう。我々はそのまま計画通り作戦を継続する」
「是」
風雲急を告げる。