四葉の龍騎士   作:ヌルゲーマー

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第13話

画面にはニュースが映し出されていた。ありきたりの内容ではなく、所属不明の潜水艦隊が現れ、国防軍の軍艦が撃沈されたというものであった。なおも侵攻を続けているというのだから、たまらない。不安になる深雪は誰に言うわけではなくつぶやいた。

 

「戦争が、始まるのですか…?」

 

―既に真っ最中というところだけどな―

 

ザンは心の中で突っ込みを入れていた。あえて不安を煽る必要もあるまい。そう考えていたときに達也の端末が鳴った。どうやら国防軍風間かららしい。一旦切ると深夜に内容を報告する。

 

「奥様。風間大尉より、基地シェルター内に避難してはどうかとの申し出をいただきました」

 

深夜が達也の言葉に対して目をつむり考えていると、今度はザンの端末が鳴る。

 

「はい、ザンです。…それなら直接かければいいじゃない?…え?はいはい、わかりました。少々お待ちください」

 

ザンは端末を深夜に手渡しながら、電話の相手を告げる。

 

「深夜様、真夜様からお電話です」

 

その事に、深雪は少なからず動揺していた。母親である深夜と叔母の真夜は、深雪から見ても仲が良くなかった。普段は話すことは無い。

 

「もしもし、真夜?」

 

「久しぶりね、姉さん。直接話すのは、何年ぶりかしら」

 

―…この間の事は無かった事にしたいのね。また弄ってやろう―

 

「あら、世間話をするためにかけてきたの?」

 

「フフ…。そんなに邪険にしないでくださいな。私は貴女方を心配して連絡したのですから…」

 

それから何かを真剣に聞いていた深夜は端末をザンに返すと、穂波達に真夜が国防軍に話を通したことを伝える。

 

「せっかく骨を折ってもらったんだもの。ここは素直に、真夜の好意に甘えましょう」

 

深夜が達也に、風間の提案を受け入れることを伝えさせ、移動の足をお願いすることとなった。

 

 

-○●○-

 

 

迎えに来た桧垣の車で、基地にあるシェルターへの連絡通路まで移動した深夜達。中には家族連れなどもいた。なかなか来ない案内を待っていると、外で銃声と思しき音がする。

 

「達也君、状況はわかる?」

 

穂波の問いに、達也は横に首を振る。

 

「どうやらこの部屋の壁には、魔法を阻害する効果があるようです」

 

「そうね。それにこの部屋だけじゃなく、建物全体が魔法的な探査を阻害する術式に覆われているみたい」

 

「そこの君達。君たちは魔法師かね?」

 

二人の会話に割って入ってきた中年男性。高級そうなスーツを着ているところを見ると、どこかのお偉いさんか。

 

「え、ええ。そうですが?」

 

「それなら、君達。外の様子を見てきたまえ」

 

達也は、隣で激高する穂波を抑えながら、冷静に答える。

 

「私達が貴方の指示に従う理由がありません」

 

内容と、その冷静な声が男性の癇に障ったのだろう。声を荒げてきた。

 

「そもそも魔法師は、人間に奉仕するために『作られたもの』だ!それなら人間に奉仕するのは当然の義務だろうが!」

 

「…おっさん」

 

冷たい声に男性は振り向く。目の前の子供が発した声だろうか。冷たい汗が身体を覆う。

 

「あまり勉強の出来ない俺が、魔法師の存在ってやつを教えてやる。魔法師は『人類社会の公益と秩序に奉仕する』存在だ。けっして『見も知らぬ一個人へ奉仕をする』為の存在ではない。それにこの国では、魔法師の出自の八割以上が血統交配と潜在能力開発型だったはず。あんたの言う『作られたもの』って言うのは、そう多くは無いよ。最後に一つ。今の自分の行動が家族にどう見えるか考えてみな。父親として、人間として」

 

そう言われて家族を見る男には、冷たい家族の視線が突き刺さっていた。達也が首を振りため息をついていると、今度は深夜が達也に外を見てくるように言い出した。

 

「…しかし今の自分の技能では、離れた場所から深雪を護る事は…」

 

「『深雪』?身分をわきまえなさい、達也」

 

「…達也君、ここは私とザン君が引き受けますから」

 

達也は穂波とザンに後を託して外に出て行った。

 

「穂波さん、ザン。後は頼む」

 

 

-○●○-

 

 

達也が外に出て少したったころ、通路の扉が荒々しく開き、何人かの軍人が入ってきた。

 

「あ、金城さんがいる」

 

昨日深雪達が会った、金城の姿もあった。

 

「失礼します!空挺第二中隊の金城一等兵であります。皆さんを地下シェルターにご案内します。ついてきてください」

 

「すみません。連れが一人、外の様子を見に行っておりまして」

 

穂波が達也を待ちたい旨を伝えるが、金城の顔は険しい。

 

「しかし、ここに居続けるのは危険です」

 

「それでしたら、あの方々を先にお連れくださいな」

 

深夜が目を向けたのは、達也達に外を見てくるよう言っていたあの中年男性とその家族だ。

 

()()()()()を、見捨てていくわけには参りませんので」

 

一般家庭での話では美談だが、深夜が言うと訳が違う。穂波と深雪もお互いに疑問を向ける。

 

「その通りだ!早く案内したまえ!」

 

渡りに船といわんばかりに、男性が金城に詰め寄る。その隙に穂波が深夜に疑問を打ち明ける。

 

「奥様。達也君なら合流することは難しくないと思いますが」

 

その質問に、笑みをもって答えた。

 

「あれは建前よ。この人たちを信じてはいけないという、私の()()

 

かつて『忘却の川の支配者(レテ・ミストレス)』の異名で畏怖されてほどの強い精神干渉魔法の使い手である深夜は、その魔法特性からか非常に高い直感的洞察力を持っている。その深夜の発言である。金城達は怪しい、と。

 

「申し訳ありませんが、一緒に来ていただきます」

 

口調は丁寧だが声には脅しの色を持っていた。この時金城達が来てから沈黙を守っていたザンの口から音が発する。

 

「あのさぁ、そこのお姉さん方が言ったでしょ。連れが外にいて私達は待っているから、まずそこの方々から連れて行けって。もし、あなた達が帰ってこれず私達が死ぬことになろうとも、責めはしないって。それとも私達が一緒に行かなければならない理由があるのか?」

 

へらっと人を食ったように笑うザンだったが、一寸の油断も無い。目は金城に向け、腰に差してあるサバイバルナイフを握る。二人の睨み合いが始まると、また扉が荒々しく開く。その音に反応し、軍人達は扉に向けて銃口を向ける。扉の奥から問いただす男の声が聞こえる。

 

「ディック!その人達に何をするつもりだ!?」

 

その桧垣の問いに、金城達は銃弾を持って応えた。

 

「やはり、裏切ったのか…!」

 

連絡通路は悲鳴で埋め尽くされた。穂波は深夜と深雪に動かないように指示をすると、CADを操作し障壁魔法を展開する。しかし、軍人の一人が指輪をはめた手を穂波にむけて広げる。

 

「キャスト・ジャミング!?」

 

障壁魔法は脆くも崩れ去り、深夜突然が苦しみだす。深夜にはキャスト・ジャミングによって強い負担がかかっているようだ。ザンは転がっていた薬莢を一つ摘むと、キャスト・ジャミングを放つ軍人に投げつける。その薬莢は軍人の指輪ごと指を吹き飛ばした。

キャスト・ジャミングが弱ることを待っていた深雪が魔法を放つ。精神凍結魔法、コキュートス。一人の軍人の精神(こころ)が凍りつく。溶けることの無い凍結は、死と同意義だ。自分の行ったことに悔いを見せる深雪だったが、仲間を殺された軍人達は黙っていなかった。

 

「深雪さん、逃げて!!」

 

ハッと深雪は我に返ると、銃口を向ける軍人達。その瞬間、目の前にはザンの背中が見えた。

 

「ザンさん、駄目!!」

 

深雪の叫びに振り返らず、前を睨む。銃口はザンと、ザンの後ろにいる深雪達に向けられていた。マズルフラッシュ、そして弾丸が飛んでくる。その光景はまるでスローモーションの様にザンには見えた。死神の鎌は、今にも全員の首をはねようとしている。

 

―オレニハ、マタスクエナイトイウノカ!オレハ、マタマモレナイノカ!オレハ…。オレハ!俺は!―

 

「ガァアアアアアアアアア!」

 

ザンが突然苦しみだした。その時、ひとつの事象が発生した。それは奇跡か、悪魔の所業か。魔法演算領域が、()()()()()()()()の為に塗り替えられていく。朦朧とする意識の中、その不完全な魔法をザンは展開した。深夜、穂波、深雪を覆う形で。

銃弾が()()に当たる音。しかし深夜達に外傷は無く、倒れているのはザンだけだった。

 

「イヤーー!!」

 

深雪が顔を両手で覆い、悲痛の声を上げた。

 

 

 

 


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