四葉の龍騎士   作:ヌルゲーマー

14 / 33
第14話

金城達の武器は突然バラバラになり、そのタイミングで桧垣達が突入、確保した。

 

「何故軍を裏切った。日本は俺達の祖国じゃないか!」

 

「その日本が俺達をどう扱った!こうして日本の為にに戦っても、結局俺達はレフト・ブラッド、余所者だ」

 

「それでも…、軍は俺達を戦友として遇してくれたじゃないか!」

 

「それは、お前が魔法師だからだ!」

 

金城の答えに、桧垣は悲しみをこらえて叫んだ。

 

「お前が、それを言うのか。余所者扱いを憤るお前が、()()()()()()()()()()()()()()というのか!!」

 

金城はうな垂れて、何も言えなくなってしまった。

 

「深雪!」

 

その脇を通り過ぎ、達也は深雪の元に走った。深雪にたどり着くと深雪に抱きつく。

 

「良かった。本当に良かった!」

 

「お、おおお兄様!!な、何を…」

 

「達也…!」

 

深夜の剣幕に接し、その時初めて自分の失態に気が付いた達也は、慌てて深雪から離れる。

 

「失礼いたしました。しかし、良くご無事で」

 

「ザンさんが私達を助けてくれたんです」

 

深雪は、倒れているザンを見て悲しそうにつぶやく。達也はCADをザンに向けるが、何も変わりは無い。

 

―どういうことだ?解析が出来ない!―

 

「…あー、達也?何かやろうとしたのか?」

 

倒れていたザンが、上半身を起こす。首をこきっと音を鳴らしながら頭をガシガシかく。

 

「ザンさん!?大丈夫なんですか!?」

 

「あー、うん。大丈夫大丈夫。初めて使った魔法に集中しすぎて防御が疎かになっただけだよ。この通りピンピンしている。

 

ザンは軽くジャンプして、健在をアピールした。その時ひしゃげた弾丸がポロポロと落ちる。深夜達が説明を迫ろうとした時、風間が割って入った。

 

「すまない。叛逆者を出してしまったのは、完全にこちらの落ち度だ。国防軍として、できる限りの便宜を図らせてもらう」

 

頭を下げる風間に対して、達也は頭を上げるように言う。

 

「まず、正確な情報を教えてください。敵は現在、何処まで来ていますか」

 

「所属は確認できていないが、大亜連合と見てまず間違いないだろう。敵部隊が既に上陸しているという情報も入っている。ゲリラとも内通をしていたようだが、こちらは鎮圧が完了している。軍内部の反逆者も、もうすぐ鎮圧されるだろう」

 

「それでは、母達を安全な所に避難させてください。それと、アーマースーツと歩兵装備を一式貸してください。消耗品はお返しできませんが」

 

険しい顔となった風間が理由を問う。

 

「彼らは、深雪を手に掛けました。その報いを受けさせなければなりません。これは、個人的な報復です」

 

「…わかった。君を我々の戦列に加えよう」

 

達也が風間と共に準備に出て行った。我に返った深雪はそれを追いかけるように外に出て行ってしまった。一寸静かになった空間にコール音が鳴り響く。ザンの端末だ。

 

「はい、こちらK(ケイ)Z(ズィー)

 

「他にも人が居るのね。状況を教えて頂戴」

 

「現在軍シェルター近くに待機。造反者がおりましたが、撃退されました。今、達也が敵上陸部隊との交戦のため、準備に取り掛かっているところです」

 

「造反者?姉さんたちは無事なの?」

 

「ええ、ご無事です」

 

「…そう。敵は大亜連合よ。上陸部隊に大亜連合のエースと思しき者がいたという情報もあったわ。あと軍艦も向かっている。そこで、命令よ、ザン」

 

真夜とザンは、かつて一つ決めていた。それはザンの全能力を使う行動について、命令をもって行うこと。但し一回限り。これはこの世界に来たザンが四葉家への恩返しのための取り決めだ。

 

「いいのか?」

 

「いいのよ。姉と姪と甥。その命と天秤にかけるほうがおかしいわ。命令よ、ザン。あなたの力をもって敵を掃討しなさい」

 

ザンは右拳を胸に当て宣言する。

 

「Yes! My Master!」

 

電話を切ると、ザンの全身から金色の湯気のようなものが立ち上がる。深夜に振り返ると、ザンは二カッと笑った。

 

「行って参ります、深夜様。後は安全な所に避難をお願いいたします。穂波さん、後はよろしく」

 

ザンは外に出て行こうとする。扉で深雪と鉢合わせると、深雪は悲しそうな複雑な表情をしていた。ザンは深雪の肩に手を置き微笑んだ。

 

「大丈夫だ、深雪。達也は俺が護るから、安心しろ。じゃな」

 

そうしてザンは戦場へ向かった。

 

 

-○●○-

 

 

達也は風間が率いる部隊と共に、敵兵と戦闘を開始していた。しかし、戦闘と呼べるのだろうか。達也がCADを扱うと敵が()()()。血が流れたり叫び声が聞こえたりせず消えるのだ。現実感の無い戦闘に、恐怖を感じない敵は殺到してくる。しかし達也には都合が良かった。逃げられては困る。きちんと深雪に手を出した代償を払ってもらわなくてはならない。

 

「大尉!10時の方向から敵兵確認!」

 

部下の報告に顔をゆがめる風間。想定より多い兵力を、敵は投入しているようだ。

 

「そちらは俺にやらせてもらいますよ」

 

声をかけて来たのは、ザンだった。

 

「桐生君、何故君まで来た?」

 

「すみませんね、これは上からの命令なんで。いいでしょ?敵対行動を取るわけではないんですから。民間兵の援軍ってことで。そうだ、長物ありますか?必要になるかもしれません。達也は、そのままあっちな。俺はこっちやるから」

 

「おい!…仕方ない、非常事態だ。特別に許可する。しかし、降伏した相手に対する虐殺行為などは認められないからな」

 

達也はそのまま進んでしまい、ザンも別方向に歩いていってしまった。二人を追いかけないわけにはいかない。

 

「真田は特尉を援護しろ。俺は桐生君についていく」

 

部隊を二つに割り進軍を継続した。

 

 

-○●○-

 

 

司令室の一角に、深夜達は避難していた。より強固な場所として案内されたのだ。そこで達也の魔法、そして人工魔法演算領域のことを深夜から伝えられ深雪は知る。愕然となっていた深雪は、我に返ると深夜が戦況が映っているモニターを凝視していることに気が付いた。それは戦場にでたザンの姿だった。

まるでそのあたりに散歩でも行くような軽装だった。Tシャツにジーンズにスニーカーと、どう見ても戦場で戦う者の姿ではない。しかし、深夜が凝視視していたのは別の理由だ。彼は金色の湯気のようなものに全身を覆われており、右手に持つサバイバルナイフも同様に覆われていたが、金色の刃は刃渡り1メートルを越えている。

深夜は知っていた。かつて真夜を救った男は、剣を同じように金色の湯気で覆っていた。その男はその現象を『オーラ・ブレード』と呼んだ。なんでも才能ある剣士が壮絶な修行を元に会得できる可能性が出てくる技術で、所謂奥義にあたる。剣の強度と鋭さが増し、男は車をバターのように切り裂いて真夜を救った。しかし、これはどうだ。まるで当たり前のように全身をオーラで覆い、ナイフの切っ先を伸ばしている。深夜の目から見ても戦闘技術においてレベルが違う。

 

「『救世の英雄』か」

 

深雪と穂波は顔を見合わせたが、深夜の発言の意味は分からなかった。

 

 

-○●○-

 

 

前方の敵兵から、魔法が、銃弾が雨あられと飛んでくる。ザンに直撃しているはずだが、気にすることなく、まるで無人の荒野を歩いているかのようだ。右手のナイフを一閃すると、敵はパタパタと倒れていく。一人が後方に逃げ出したが、すぐに頭を砕かれ絶命する。その兵士の前には巨漢が立っていた。

 

「あれは、まさか甘 興覇か!? いかん桐生君、下がれ!態勢を整えてから相手をするんだ!」

 

風間の声から焦りの色が見える。甘 興覇。大亜連合のエースと期待された魔法師。大陸古式魔法の使い手であり、自らの身体に対現代魔法と肉体強化を付与し戦う、対魔法師戦闘のスペシャリスト。『殲滅龍』とも呼ばれている男だ。

甘とザンは互いに確認していた。甘が弾かれたようにザンへ走り出す。ザンも同様に甘へ向け走り出した。二人が交差すると、何かが光った。ザンはそのまま何事も無いように前に歩き出した。甘はすでに事切れていたのだ。

 

「…あの瞬間に、袈裟、逆袈裟、横なぎの三連撃を放っていたというのか」

 

絶大な信頼を寄せていた甘が倒されたことにより、敵は壊走を始めた。

 

「鴨撃ちだな、こりゃ」

 

ザンは暗い笑みを浮かべると、ナイフを覆っていたオーラを短くし、歩きながらナイフを敵兵に向ける。ナイフより、まるでマシンガンのようにオーラの弾丸が発射される。オーラの弾丸は敵兵の足をことごとく吹き飛ばしていった。動けなくなった兵達に止めを刺しながら歩いていくザン。こちらの決着はついた。

 

 

-○●○-

 

 

「現在上陸部隊第一は交戦状態です。一部、兵が消えるなどの報告もありました。第二は…ぜ、全滅しました。」

 

「ぜ、全滅だと!?第二には甘がいたはずだ!甘はどうした!?」

 

「甘 中尉は戦死されました!それが引き金となり、壊走、全滅との事です!」

 

「甘が、死んだ、だと?ばかな!?あの甘を打ち破れる魔法師がいるとでもいうのか?…おのれ!本艦隊は攻撃艦隊の後ろを通り東側に出る!少し遅れるが我らの火力を側面から浴びせる!急げ!…この借りは、万倍にして返してやる!」

 

-○●○-

 

ザンと風間が達也達に追いつくと、達也は真田にとめられていた。

 

「降伏した兵を殺戮しようとしていたため、止めていました」

 

「残念だったな、達也。まぁ、しゃあなしだ」

 

軽い調子のザンをジト目で達也は睨んでいた。そんなやり取りをしていたとき、伝令がくる。その顔は強張っていた。

 

「敵艦隊別働隊と思われる艦影が粟国島北方より接近中! 高速巡洋艦二隻、駆逐艦四隻! 至急海岸付近より退避せよとのことです!」

 

その伝令を受け、通信機で何かを話していた風間は苦渋の決断をした。

 

「予想時間二十分後に、当地点は敵艦砲の有効射程圏内に入る! 総員、捕虜を連行し、内陸部へ退避せよ!」

 

「消しちゃえば、早いのに…。分かってますよ、風間大尉、冗談ですよ。できやしない事ぐらいわかってます」

 

「敵巡洋艦の正確な位置は分かりますか?」

 

「それは分かるが……真田!」

 

「海上レーダーとリンクしました。特尉のバイザーに転送しますか?」

 

達也は真田の質問をさえぎり、射程伸張術式組込型のデバイスを要求した。そして風間に対し有線通信のラインを出し、内緒話を始める。話し終わった風間は、自分と真田を残し部隊を撤退させた。

 

「後は任せて、ザンも撤退しろ」

 

「だが断る!」

 

ドヤ顔をするザンを睨む達也。掌をひらひらさせてザンは説明した。

 

「これからやろうとしていることは、大体わかっているんだ。それに達也を護るって深雪に約束してきてしまったからな。約束は守らないとな」

 

話したことは覆らないことを、達也はザンの目を見て悟った。達也はため息をついて同意した。

 

 

-○●○-

 

 

「敵艦有効射程距離内到達予測時間、残り十分。敵艦はほぼ真西の方角三十キロを航行中…届くのかい?」

 

「試してみるしかありません」

 

達也はそう答えると武装デバイスを構え、魔法を発動した。銃口の先に筒状の術式が展開し、本来ならそこまでで魔法は終了するはずなのだが、達也はさらに物体加速仮想領域の先にもう一つの仮想領域を展開させた。

 

「…ダメですね。二十キロしか届きませんでした。敵艦が二十キロメートル以内に入るのを待つしかありません」

 

淡々と説明する達也に、真田が焦りの声を上げた。

 

「しかし、それではこちらも敵の射程内に入ってしまう!」

 

「分かっています。お二人は基地に戻ってください。ここは自分とザンで十分です。…どうせ戻らないのだろう、ザン?」

 

ザンはサムズアップで答えていた。風間は、風間と真田で代行できないか確認したが、達也は首を振り否定した。

 

「では、我々もここに残るとしよう」

 

「…自分が失敗すれば、お二人も巻き添えですが」

 

「百パーセント成功する作戦などありえんし、戦死の可能性が全くない戦場もあり得ない。勝敗が兵家の常ならば、生死は兵士の常だ」

 

風間の言葉は達也が説得を断念するには十分だった。ザンは風間に対してもサムズアップをしていた。

 

沖合いに水の柱が上がる。達也はデバイスを構えると、四発の弾丸を試しに撃ち、その度に銃口を微調整して弾道を情報として追う。敵艦も砲撃を開始していた。達也が魔法を完成する迄の間、達也は魔法に集中しているため、他が防がなくてはならない。

ザンは右手を前に突き出すと、シェルター前の一件と同様の魔法を展開する。たった一つの、護る為の魔法。自分には持ち得なかった力。全てを防ぐ無敵の盾。

 

「魔法名はこの場で即決した。来たれ、我が守護の魔法。『アイギス』!」

 

巨大な盾が達也、風間、真田を護るように展開される。豪雨のような砲撃の嵐を全て防ぎきる。護られている風間達は、この盾を超えるものが無いと考えていた。絶対守護の盾。

 

そして、遂に達也の魔法が完成する。達也は銃弾が敵艦隊のすぐ上空に到達したのを確認すると、右手を前に突き出し、その掌を力強く開いた。

銃弾が、エネルギーに分解される。質量分解魔法『マテリアル・バースト』。この魔法が実戦で初めて使用された瞬間だった。閃光が生じ、爆音が鳴り響く。残ったのは不気味なまでの静寂だった。

 

 

-○●○-

 

 

「やっぱり、魔法ってのはあのぐらいの威力がないとな」

 

達也とザンが拳を突き合わせ勝利を喜んでいると、風間に通信が入った。

 

「どうしました?吉報ではなさそうですが」

 

「ああ、最悪だ。東方から敵艦が接近していることが分かった。高速巡洋艦二隻だが、もう十キロ圏内に入ろうとしているところだ。…特尉、先ほどの魔法をもう一度使えるか?」

 

「可能ですが、敵艦が近すぎます。津波による二次災害の影響が大きいと考えます」

 

「あとは、我々で対処する。特尉達は避難していてくれ」

 

「それは無理でしょう」

 

風間の指示をザンは拒否した。

 

「これからくるのは、数が少ないにしても砲弾の嵐だ。深雪達が生き残れる保障もない。そこで、私が対処しましょう。大尉、この近くで高台がありますか?」

 

「この近くなら、あそこだ」

 

「あと、戦闘前に話しました、長物ってありますか?」

 

「これでよいですか。無銘ですが切れ味は保障しますよ」

 

真田より日本刀を受け取ると、風間が指差す高台に向けて走り出すザン。風間、真田、達也も付いてくる。

 

「…できれば見られたくないんですけど。そこでお待ちいただけますか?」

 

「出来るわけ無いだろう。さきほど特尉にも言ったぞ」

 

「そうでしたね、分かりました。後悔しないでくださいよ」

 

高台に到着したザン達。ザンは東の海を見渡す。

 

「えっと、敵艦は…」

 

「正確な座標はいま確認しています」

 

ザンは一旦目を閉じ、再び開くと瞳が金色になっていた。

 

「大丈夫。()()()()()

 

そう言うとザンの体全体からオーラが立ち上がる。今までのように薄く纏うわけではなく、文字通り噴き出していた。髪は青く肌は褐色となる。風間達はザンの力から自分達が吹き飛ばされないように堪えるので精一杯だった。ザンは右足を一歩引き、左肘を上げ先ほどの日本刀を肩で担ぐように構える。

 

「魔龍を屠りし我が一撃、防げるものなら防いでみな」

 

高速で振り抜かれた刀から金色の三日月型の斬撃が海を割りながら亜音速で敵艦に向けて飛ぶ。正に一閃。敵艦は真っ二つになり、次の瞬間には轟音が生じ爆炎が発生していた。ザンの持っていた日本刀は役目を終えたのかボロボロと崩れていった。

 

「目標、撃沈確認!」

 

真田の報告が戦闘が終わったことを物語っていた。達也達は呆然とザンの後姿を見ていた。




誤字修正

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。