四葉の龍騎士   作:ヌルゲーマー

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やっと入学編に入りました。


入学編
第01話


国立魔法大学付属第一高校。最も優秀な魔法師を輩出するエリート校。そこは徹底した才能主義。残酷なまでの実力主義。それが魔法の世界。この学校に入学を許されたこと自体エリートということであり、入学の時点から既に優等生と劣等生は存在する。

 

「納得いきません!!」

 

入学式の朝、校門で男女は言い争っていた。

 

「何故、お兄様が補欠なのですか!?入試だってトップ成績だったじゃありませんか!」

 

「まだ言うのか、深雪」

 

「そもそも、何で深雪が達也の成績を知っているんだ?」

 

言い争いというより、少女が詰め寄っていているようだ。しかし周りからの注目を集めてしまっていた。無理も無い、綺麗なストレートの黒髪をもつ絶世の美少女と詰め寄られている長身の好青年。その隣で好青年より若干背の低い、ボサボサ頭の少年がからかっていた。

 

「ここは魔法科高校。ペーパーテストより実技が優先されるのは当然だ。俺の実技能力では、二科生とはいえよく受かったと思っている」

 

「お兄様!勉学も体術もお兄様に勝てるものなどありませんのに!」

 

ヒートアップしてきた深雪を、からかっていたザンが諌める。注目を浴びすぎだ。

 

「まぁまぁ、深雪。達也だって納得しているんだからさ。そのくらいで…」

 

「ザンさんもです!あなたまで一緒に補欠とはどういうことですか!それになんですか、その頭!ファッションのつもりですか!!もっときちんとしてください!あなたほどの対魔法師のエキスパートはおりませんでしょうに!」

 

―言えない。実技試験日に四葉の仕事をしていて試験を受けられなかったなんて、言えない。それにしても、本当に良く受かったものだ。今年は競争倍率低かったのかな?―

 

「深雪!」

 

達也の声色で、深雪がハッと気づく。

 

「言っても仕方の無いことだと、気づいているのだろう。それにザンのことをこのような場で言うものではない」

 

「も…申し訳ございません」

 

深雪の頭に手を添え、達也は優しく深雪を諭す。

 

「深雪。お前が俺の代わりに怒ってくれるから、俺は救われているんだ」

 

「そうだぞ、深雪。達也の言うとおりだ」

 

妙にノリの良いザンを訝るが、まずは深雪の機嫌を良くする事が肝心だ。

 

「お前が俺のことを考えてくれているように、俺もお前のことを思っているよ」

 

「ああ、その通りだ」

 

深雪はザンを見た。若干怪しんでいるようだ。

 

「…本当ですか?ザンさんも想ってくれているのですか?」

 

「ああ、当然だろう」

 

即答したザンだったが、同じ音なのに何故か意味が違うような気がした。その証拠に深雪が顔を赤くして悶えている。達也はザンの天然ぶりに嘆息しながら続ける。

 

「深雪、俺たちは可愛い妹の晴れ姿を楽しみにしてるんだ。そんな俺たちの為に、その姿を見せてくれないか?」

 

「分かりました。行って参ります、お兄様、ザンさん。ちゃんと見ていてくださいね」

 

上機嫌になって、深雪は会場へと向かった。

 

「達也、これからどうする?まだ式までは時間があるぞ」

 

「どこかベンチにでも座って、時間をつぶそう」

 

そういいながら、敷地内に入っていった二人。一通り回るとベンチで休むことにした。達也は端末を見て、ザンは寝ていた。そんな時、悪意が聞こえてくる。

 

「あの子たち、ウィードじゃない?」

 

「補欠が頑張っちゃって」

 

「所詮スペアなのにな」

 

魔法教育に、平等は存在しない。左胸に八枚花弁のエンブレムを持つ一科生、花冠(ブルーム)。エンブレムを持たない二科生雑草(ウィード)。魔法教育には事故が付き物のため、事故がトラウマとなり魔法が使えなくなる者も出てくる。二科生はその穴埋め要員でしかないのだ。

 

―さてさて、深雪ほどのエリートがこの中でどれほどいることやら、仮初のエリートさんたち―

 

ザンが値踏みをしている隣にいる達也の端末が、式開始まで三十分であることを告げる。

 

「さて、いくか。お姫様の晴れ舞台を見に、さ」

 

苦笑して達也が立ち上がったとき、一人の女生徒から声をかけられる。

 

「新入生ですね?そろそろ会場に向かったほうが良いですよ」

 

女性とのブレザーには、八枚花弁のエンブレム。一科生の先輩か。達也はその先輩がCADを持ち歩いていることに気づいた。CADを携帯できるのは、生徒会役員と特定の委員会のみのはず。

 

「あ、名乗っていませんでしたね、ごめんなさい。私は第一高校の生徒会長の七草(さえぐさ)真由美(まゆみ)です。よろしくね」

 

茶目っ気のある笑顔で挨拶をする真由美。『七草』。数字付き(ナンバーズ)。十師族か。

 

「自分は司波達也です」

 

「おなじく、桐生斬です」

 

「あなたたちが、あの司波くんと桐生くん?」

 

―新入生総代、主席入学の司波深雪の兄なのに、魔法がまともに使えない『あの』か―

 

「あの入学試験、七教科平均、九十六点!特に受験者平均が六十点台だった魔法論理と魔法工学で満点の司波くん!前代未聞の高得点で、先生方は大騒ぎよ!あと、桐生くんの場合は実技試験の方で大騒ぎだったわ」

 

ザンは悩んでいた。確かに何故俺は受かったのだろう。特にペーパーテストが高得点であったはずはない。極東の魔王と言われた人物の顔が浮かんだが、まさかと否定した。そんなザンが悩みの中、達也は自分の胸元を指差した。

 

「ペーパーテストの成績です。実技はからっきしなのでこの通り」

 

「ううん、少なくとも、私にはそんな高得点は取れない。すごいわ」

 

達也が苦手そうにしていたので、ザンは助け舟を出すことにした。

 

「達也、そろそろ行かないと、席なくなっちゃうぞ」

 

「ああ、そうだな。七草生徒会長、失礼します」

 

正直助かった気持ちの達也だった。

 

「そういえば、実技試験で何かあったのか?先生が大騒ぎになるとは。まさか、あの魔法を使ったのか?」

 

「いや、そうじゃないんだ。まぁ、いいじゃないか。急ごうぜ、達也」

 

訝る達也の背中を押しながら会場に向かった。知られるわけにはいかない。特にあの氷の女王には。

 

 

-○●○-

 

 

会場に入ったら、分かりやすく分かれていた。前が一科生、後ろが二科生か。差別意識はどちらにあるのか。達也は余計な問題は起こしたくないと、後ろの席に向かい、ザンも続く。隣通し空きがあったところに座った。

 

「あの…隣は空いていますか?」

 

達也に声をかけてきた、眼鏡の女生徒。今時眼鏡をかけるのも珍しい。

 

「ああ、どうぞ」

 

「良かったー!一緒に座れるね」

 

後ろの赤毛の女生徒が眼鏡の女生徒に抱きつく。だいぶ活発の子のようだ。さすがに眼鏡は慌てていたが、自分の気持ちを落ち着けると達也たちに向き直る。

 

「私は、柴田(しばた)美月(みつき)といいます。よろしくお願いします」

 

「司波達也です。こちらこそ…」

 

「俺は、桐生斬。よろしく~」

 

「私は千葉(ちば)エリカ。よろしくね、司波くん、桐生くん。それにしても、シバにシバタにチバって、語呂合わせみたいで面白いね。…ってどうしたの?桐生くん」

 

「いや、名門高校で入学式前に早くもハブられるというイジメにあっているって、ツブヤイッターに投稿しようと思って…」

 

「や、やめてよ!別にのけ者にしようとしたわけじゃないんだから!…ひょっとして、ワザとやっていない?」

 

「もちろん!」

 

サムズアップし満面の笑みのザン。さすがのエリカも呆れているようだ。

 

「あなたにはなんか勝てそうな気がしないわ。司波君は、桐生君と付き合いは長いの?」

 

「中学が同じなんだ。三年の時にザンが転校してきてな。それからの付き合いだ。ザンの相手は程々にしないと、疲れるぞ」

 

「…うん、実感している」

 

「静粛に!」

 

そんなことをしていたら、式がはじまった。

 

新入生代表の答辞は、実にスリルあふれる内容だった。『皆等しく』『魔法以外でも』などきわどいフレーズがあり、達也ですらハラハラしているようだった。しかし、新入生・上級生にかかわらず深雪の堂々とした態度と並外れた美貌に魅了され、気が付いていないようだった。ザンは一人声を殺して笑っていた。

 

-○●○-

 

 

入学式も終わり、皆IDカードを受け取っていく。

 

「達也何組?俺、E組だった」

 

「E組だ」

 

「私も、E組です」

 

「やった、あたしもEだ。ねね、これからホームルーム見に行かない?」

 

エリカの提案を達也はやんわりことわった。

 

「すまない、妹と待ち合わせをしているんだ」

 

「もしかして、新入生総代の司波深雪さんですか?」

 

「ああ、そうだ」

 

「ひょっとして…双子?」

 

「よく聞かれるが、俺が4月生まれで妹が3月生まれなんだ。だから学年が同じなんだ」

 

ふーん、とエリカが珍しいこともあるものだと納得していると、達也の後ろで冷気が漂っていた。きっと達也の気のせいではないだろう。隣でザンが楽しそうにニヤニヤしている。

 

「お兄様!ザンさん、お待たせいたしました」

 

にこやかに深雪が達也の下に走って来た。その後ろには真由美含め何人かが達也の方に、正確には深雪の下に歩いてきていた。

 

「深…」

 

「お兄様、そちらの方たちは?」

 

「ああ、同じクラスになった、柴田美月さんと千葉エリカさんだ」

 

達也の答えに深雪はにっこり微笑んでいる。微笑んではいるが、何故か深雪は冷気を纏っている。

 

「さっそく、クラスメイトとデートですか?」

 

達也は、答辞後深雪が色々な人に絡まれてストレスが溜まっていると判断した。

 

「そんなわけ無いだろう、深雪。それに、そういう言い方は二人に失礼だろう?」

 

「申し訳ありません、柴田さん、千葉さん。司波深雪です。お兄様同様、よろしくお願いいたします」

 

「こちらこそ、よろしく!あたしはエリカでいいわ。深雪って呼んでもいい?」

 

「ええ、お兄様と区別がつないですもの」

 

「あは!深雪って実は結構気さく?」

 

達也は真由美の存在を確認すると、深雪に生徒会メンバーに用があるのではと確認したが、答えたのは真由美だった。

 

「大丈夫です、今日は挨拶だけですから。先にご予定があるんですもの。また日を改めます」

 

すぐ後ろに居た生徒会メンバーの男子生徒が予定が狂ってしまうのではと懸念していたが、真由美は気にせず帰ってしまった。男子生徒は達也を一瞬睨むと踵を返したが、その目の前にはザンがいた。

 

「うおっ!」

 

突然自分の目の前に現れた男子生徒は、ニコニコ笑っていた。

 

「経った今、凄く睨まれたので理由を伺えればと思いまして。あ、申し送れました。1年E組 桐生斬です、初めまして。初めてお会いする先輩に睨まれるような覚えがありませんが、何か私たちはご迷惑をおかけしましたか?」

 

「特に無い!失礼する!」

 

「そうですか」

 

肩を怒らせて男子生徒は歩いて行ってしまった。その後姿を、ザンは面白いものを見つけたような顔をしていた。それを見た達也は嘆息した。

 

「あまり目立つようなことはしないほうがいいぞ、ザン。生徒会を敵に回すつもりか?」

 

「いや、そんなつもりは無かったんだけどね。如何にも『魔法師はいつも冷静を心がけなければならない』とか堅苦しいことを言いそうな感じだったのに、行動が伴っていなかったからどういう人物か気になってね」

 

「そんな理由でつっかかるな。柴田さんや千葉さんにも迷惑がかかるだろう?」

 

「ああ!それは悪いことをした。お二人にはご迷惑をおかけして申し訳ない」

 

深々と頭を下げるザン。美月は慌てて両手を振る。

 

「いいですよ、気にしていませんから」

 

「あたしも、あの人、というか取り巻き全員の目が気に入らなかったから、スッとしたよ」

 

「そう言ってもらえると助かるよ。これからもよろしく、柴田さん、千葉さん」

 

「こちらこそ、桐生くん」

 

校門を出たところで、ザンは達也たちに別れを告げた。

 

「家に寄らないか?コーヒーぐらい出すぞ?」

 

「今日はちょうど特売やっているから、スーパー寄ってから帰るよ。じゃあな、また明日」

 

 

-○●○-

 

 

特売の卵は売り切れていたが、それ以外の目ぼしい物が買えたことに気を良くしていた。スーパーを出て自宅方向に歩き出したときに前方より悲鳴が聞こえる。

 

「引ったくりよ!」

 

どうやら女性はかばんを引ったくられたようで、倒れていた。近くの女性が前方を指す。その先には魔法を使用しているのだろう、高速で逃げる男の影があった。頭をガシガシ掻いたザンはため息を付いた後走り出した。被害女性の脇に買い物袋を置くと、もう一段階速く走る。大体二百メートルを越えたあたりで犯人を追い抜くと、振り返って顔面を掴みそのまま地面に叩きつけた。

 

警官と被害女性が一緒にザンのところに歩いてくる。女性はザンの買い物袋を持ってきてくれていた。

 

「ありがとう、買い物袋を持ってきてもらって申し訳ない」

 

「いえ、こちらこそありがとうございます。なんとお礼を言えば良いのか」

 

「いやいや、気にしないでください。お怪我はありませんでしたか?」

 

「はい、こちらの警察の方にもお話しましたが、怪我はしていませんので」

 

「そうですか、良かった。では、失礼します」

 

「待ってください、調書を書きたいので、お話伺いたいのですが」

 

警官の言葉に対して、ザンは右手を上げて謝る意思を示して、走って逃げてしまった。その速度に二人とも目を見張っていた。

 

「第一高校の生徒のようだったけど、どうしようかなぁ?」

 

女性はお礼が完全には言えておらず、警官は解決した者の名前が確認できず困っていた。道路を挟んだ向かい側の歩道では、第一高校の制服を着た大きな生徒がその光景を見ていた。


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