朝、駅でレオやエリカ、美月と合流した達也たちは、登校途中で背後から声をかけられた。それもずいぶんと親しみを込めたものだ。
「た・つ・や・く~ん!」
達也たちに笑顔で、それも手を振りながら
「お兄様?確かお知り合いになってまだ数日でしたね?本当に、ただお知り合いになっただけですか?」
怪しむ深雪に、後ろめたいところの無い達也だが、若干引いていた。
「ザン、何とか言ってくれ。お前もあの時にいただろう…。何をやっているんだ?」
最初はレオの前を歩いていたザンだったが、真由美と位置を相対にしてレオを挟むように動いていた。
「ん?気にしないで。あの人が居なくなるまで、俺に話しかけるなよ」
どうやら真由美の存在にいち早く気が付いて、見つからないようにレオを壁にしているようだ。そんなことをしていると、真由美が追いついた。
「おはよう、達也くん、深雪さん、皆さんもおはようございます」
皆が挨拶したところで、真由美が深雪に生徒会について話がしたいという。
「ゆっくりお話がしたいので、説明も兼ねてお昼に一緒にと思ったんだけれども、どうかしら。どうせなら達也くんもどう?」
「それならば、是非おねがいします!」
昨日は達也と昼食が取れなかった深雪は、すぐに提案に飛びついた。その答えは達也の退路が無くなったことを意味している。
「みなさんは、どう?」
エリカ達は首を横にふっていた。さすがに生徒会室までは行きたくないようだ。
「…そういえば、ザンくんはどうしたの?今日は一緒じゃないのかしら?」
「ああ、ザンならそこにいますよ。レオの後ろです」
「…おはようございます。七草生徒会長」
観念して出てきたザンを、ジト目で見る真由美。
「…最初から居たのに、隠れていたのね。そんなに私に会いたくなかったの?」
「いえいえ!そんなことはありません!いやぁ、朝から会長に会えて、うれしいなぁ!」
美少女生徒会長にそう言われて応じないわけにはいかなかった。周りの目が痛い。主に男子生徒たちの目が。
「じゃあ、ザンくんもお昼に生徒会室に来てね」
そう誘うと、走っていってしまった。残された達也とザンは嫌な予感しかしなかった。エリカは諦めが肝心と笑いながら達也たちの肩を叩いていた。
-○●○-
昼休み。深雪はうれしそうに生徒会室へ向かっていた。
「どうなさったの、お兄様?生徒会長からお昼のお誘いなんて、楽しみですね」
「…そうだな」
うって変わって顔色が悪い達也とザン。憂鬱と顔に書いてある。
「達也はいいじゃないか。深雪の兄貴だし。昨日の帰りに大活躍だったじゃないか。俺なんか、なーんにも関係ないじゃん。目立たないように手を出さなかったのに…」
「だから、口だけだったのか?」
「そうだよ。じゃなかったら、あの森崎って奴のCADを
「生徒会長や風紀委員長が居たことに気づいていたのか?」
「いや、口論が始まったころ、走って校舎の方に行く生徒が見えたからね。最悪の事態を想定していただけさ」
「抜け目の無いやつだな」
そんな話をしていたら、生徒会室の前に着いた。
「1-A 司波深雪と、1-E 司波達也。同じく桐生斬です」
「どうぞ。遠慮せず、入ってください」
中には4名の女子生徒が待っていた。促されて達也たちは席に着く。真由美はそれぞれの役員たちと風紀委員長を紹介した。なお、その時に会計の市原鈴音を『リンちゃん』、書記の中条あずさを『あーちゃん』と紹介した。なお、今この場にはいない、『はんぞ~くん』という副会長がいるそうだ。
「私のことをリンちゃんと呼ぶのは会長だけです」
「私にも立場がありますから、下級生の前であーちゃんはやめてください!」
「よろしくお願いします。リンちゃん先輩、あーちゃん先輩」
笑みながら挨拶するザンを、複雑な表情で鈴音とあずさは見ていた。そして二人同時に真由美を睨んだが、真由美はそしらぬ顔をしていた。ザンは一つ気になった。
「…そういえば、風紀委員長にはあだ名は無いんですか?」
「ああ、私と真由美は昔からの仲でね。そういったものは無いな。…そうだ、君なら私にどういうあだ名をつけるかな?」
ザンは考えた。これはセンスが問われるものだ。摩利は男装の麗人といった美少女というより美人であり、風紀委員長を務めるリーダーシップをも持っている。これを総合的に判断すると、答えが導き出された。
「…そうですね。『姐さん』か『姐御』?」
「ぷっ」
真由美はザンの発言に吹きだしていた。鈴音は普段通りのクールビューティー然としていたが、肩が震えている。あずさは顔を背けて、やはり肩が震えていた。
「…姐さんとか姐御とは、呼ぶなよ!まったく、よりにもよって何故それらが導き出されるんだ。…そうだな、では真由美はどうなるんだ?」
ザンは何故皆が笑っているのかが理解できなかった。イメージで言っていたのだが流石に失礼だったか。それでは、もう少しイメージを良くしてみよう。いっそのことファンタジーにいってみるか。どうせなら格式高く『姫』も付けてみよう。これなら怒られまい。
「じゃあ、『妖精姫』ってのはどうでしょう。妖精の様でいて、さらに高貴なイメージで」
「ブフー!!」
真由美を残し、生徒会役員と風紀委員長は吹きだしてしまった。そして真由美は何故か怒っているようだ。
「それも、無し!あだ名はもういいわ。…お料理が来たようだから、お昼にしましょう」
自動配膳機から出された料理をそれぞれに渡される。摩利とザンは弁当持参だ。
「ザンくんも、弁当派なんだ?」
「はい。一人暮らしですから、色々と切り詰めないと」
「ほう、一人暮らしか。どれ、一つ味見をさせてくれないか?」
意地の悪い笑みを浮かべる摩利だったが、以外なところから待ったがかかる。
「止めたほうがいいですよ」
「どういう意味だい?」
深雪は表情をなくし、答えない。目に焦点が合っていない深雪を摩利が不思議に思っていると、真由美が摩利に乗る。
「じゃあ、私はこの小分けされたナポリタンを少しもらうわね」
「では、このから揚げを一つもらおう」
二人は一口食べて絶句した。その光景を見ていたあずさはおろおろしており、深雪はさもありなんという顔をしていた。
「おいしい!よくケチャップが染み込んでいる。それに硬くなっていないし、パサついてもいない!」
「こちらは皮はパリパリで、中はジューシーだ。生姜がアクセントかな。この食感がたまらない!」
「どちらも下処理が決めてですよ。ナポリタンは味が染み込みやすいように、前日に茹でておいて冷蔵庫で冷やしておくんです。から揚げはアクセントにおかきを砕いてまぶしてみました。…そうだ、渡辺委員長、物々交換といきましょう。何かください」
相手が喜んでいることに気を良くしたザンは、摩利におかずの交換をお願いした。
「だめだ!」
「え?」
「だめだ!」
「ザンさんは女子のプライドクラッシャーなんですから、少しは自重してください」
「…俺、おかず減っただけじゃない?」
深雪の身も蓋もない言葉に、ザンは嘆息した。その後、深雪たちも弁当を持ってくる話となり、その際達也と深雪はまるで恋人同士のような会話をしていた。後に達也は冗談とフォローしていたが、何故か深雪まで冗談と明かされたときに驚いていた。
昼食が終わり、本題に入ることになった。真由美が深雪に生徒会に勧誘したところ、深雪は達也こそが相応しいと主張した。そのことには、流石の達也も動揺していたが、それは出来ないと鈴音から断りがあった。規則で一科生からでしか選ばれないからだ。落ち込む深雪であったが、摩利の発言から流れが変わる。
「風紀委員の生徒会選任枠がまだ決まっていない」
「そっちはまだ選別中よ。まだ一週間も経っていないもの」
「生徒会は一科生からという規則があるが、風紀委員は無いよな?」
摩利の笑みに我が意を得たりと頷く真由美。
「摩利、ナイスよ!そうよ、風紀委員なら問題ないわ!生徒会は司波達也くんを風紀委員に指名します!」
「お兄様!」
二科生が魔法を使う一科生を止め得るのかなど、疑問をぶつけて何かと回避を図りたい達也ではあったが、深雪の満面の笑みに退路が無いことを悟った。
「よかったな、達也!」
ザンも自分のことのように喜んでいた。しかし、疑問が残っていた。
「そういえば、何故俺まで呼ばれたんですか?達也はいいとして、俺は関係なかったんじゃないですか?」
「ああ、君は部活連枠だ。十文字が君を推挙していたんだ」
十文字克人、部活連会頭。その人物がザンを推挙していると摩利は言う。しかしザンに十文字と面識は無かった。
「君は先日、引ったくりを捕まえたね、それも相手は魔法師だ」
「別に怪我をさせてはいなかった筈です。クレームでもきたのですか?」
あの時、周りからは引ったくり犯の頭を地面に叩きつけているように見えたであろうが、実際は地面にぶつかる直前に止めていた。犯人が気絶していただけである。
「いや、そうじゃない。この間、被害者と警官が学校に来てね、御礼と感謝状を渡したいとおっしゃっていたらしいんだよ。特徴と市内カメラの録画記録から君だと分かってね。そうそう、教師たちは驚いていたよ。二科生が魔法師を捕まえたのだから。あと、その現場を見ていた生徒がいて、それが十文字だったということだ。十文字は珍しく興奮して、君を風紀委員にと言っていたんだ。まぁ、そういうことだから、よろしく」
「すごいじゃないですか、ザンさん。引ったくり犯をつかまるなんて。どうして教えてくれなかったんですか?」
「別に言いふらすことでも無いし、いいだろう?俺は平穏無事な学生生活が送れれば、それで良いの。目立ちたくなかったのに~。まさか見ている人が、会頭だなんて…」
同士を得た達也は、ザンの肩に手を置き頷いていた。
「もう、こんな時間だわ。詳しくは放課後に話しましょう。深雪さん、達也くん、ザンくん、放課後にまた来てくださいね」
特に引ったくり犯を捕まえたことに後悔は無いが、目立ってしまった結果十文字会頭に目を付けられたことを悔やんでいた。午後は憂鬱になりそうだ。