四葉の龍騎士   作:ヌルゲーマー

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第07話

『全校生徒の皆さん!僕たちは学内の差別撤廃を目指す有志同盟です。僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します!』

 

ある日、ハウリングと共に突然校内放送が始まった。しかも内容が穏やかではない。達也とザンの端末に連絡が入る。

 

「風紀委員長からの呼び出しか…」

 

「いってらっしゃ~い」

 

エリカのうれしそうな送り出しの声に達也とザンは顔を見合わせて苦笑した。

達也たちが放送室前にたどり着くと、既に十文字や摩利を含め集まっていた。摩利の話では犯人はマスターキーを盗み扉を閉め、立て篭もってるとのことだ。

 

「さってと」

 

閉ざされた放送室の扉に向かって殴りかかろうとするザンを、十文字が止める。

 

「まて、桐生。何をするつもりだ」

 

「いや、早く解決しようかと思いまして。扉を破壊しようと考えておりました」

 

「そこまで性急な解決を要する問題では無い。それに俺は彼らの要求する交渉に応じても良いとも考えている。もちろん不法行為は正さねばならない」

 

「はーい」

 

すっかりやる気を無くしたザンの隣で、達也がどこかに電話をかけ始めた。

 

「壬生先輩ですか?放送室にいるんですか…それは…先輩もう少し冷静な状況を…すみません…十文字会頭は…生徒会も…」

 

電話の相手が紗耶香であることもあり、皆驚いていた。一人その後冷気を纏っている。

 

「先輩の自由は保障します。だから扉を開けてもらえませんか。はい、分かりました。では―。すぐに出てくるそうです。委員長、今すぐ中の連中を拘束する準備をすべきと思います」

 

「…君は今、自由を保障する趣旨の発言をしていた気がするのだが?」

 

達也の意図を図れない摩利は、達也に指摘した。

 

「俺が自由を保障したのは、壬生先輩一人だけです」

 

深雪とザンを除き、呆気に取られていた。深雪は可笑しそうに達也に突っ込みを入れる。

 

「悪い人ですね、お兄様」

 

「今更だな」

 

苦笑いで返す達也。しかしその苦笑いも後ほど凍りつく。

 

「でもお兄様?わざわざ壬生先輩のナンバーを端末に保存されていた件、後ほど詳しくお話を聞かせてくださいね?」

 

「言うまでもないだろう?口説こうとした相手の電話番号は、端末に残すって。な?達也?」

 

「な、何を…」

 

「今すぐ聞きましょう!ええ、今すぐ!幸い他の方々もいらっしゃいますし、私たちだけ抜けても問題ないと思いませんか?」

 

「…あー、深雪くん。申し訳ないが、終わってからにしてもらえないかな?壬生が出てきたら、すぐ達也くんを開放するから」

 

「…分かりました。申し訳ありません。不躾な物言いをしてしまいました」

 

皆冷気に恐怖をしていたが、何とか摩利の説得でこの場は収まった。達也はザンを睨もうとしたがその場にはおらず、見渡すと十文字の影に隠れていた。どうやら扉が開く際のごたごたで逃げる算段のようだ。

 

放送室の扉が開くと、生徒会メンバーが突入した。

 

「CADの不正使用で逮捕する!」

 

「委員長、違反生徒四名確保しました!」

 

自分以外のメンバーが逮捕され、騙されたと思った紗耶香は達也に詰め寄った。

 

「どういうことなの、これ!司波くん、私たちを騙したのね!?」

 

それを遮ったのは、十文字だった。

 

「司波はお前を騙してはいない。お前たちの言い分を聞こう。交渉にも応じる。しかし、要求を聞き入れることと、お前たちの執った手段を認めることは、別問題だ」

 

十文字の回答に言葉を無くす紗耶香。しかし、その場の空気を変える人物が現われた。

 

「それはそうなんだけど、彼らを放してあげてはもらえないかしら?」

 

「七草会長?」

 

「だが、真由美!」

 

「ごめんね、摩利。言いたいことは理解しているつもりよ。でも学校は今回の件を、生徒会に委ねるそうです」

 

驚く摩利の隣を抜け、紗耶香の前に真由美が立つ。

 

「壬生さん。私たち生徒会は、あなたたち有志同盟の主張をこれから聞こうと思うんだけど、ついて来る気、ある?」

 

「私たちは逃げる気はありません!」

 

「じゃあ、決まりね。みんな、お先に失礼するわね」

 

壬生を連れて、真由美は出て行ってしまった。

 

「…真由美に、いい所を持っていかれてしまったな」

 

苦笑する摩利だった。それまで静かだった深雪の目が光る。

 

「それでは、私たちも失礼いたしましょうか、お兄様?これから、じっくりお話を聞かせてくださいね?…ザンさん、何処に行くつもりですか?あなたも一緒に来てていただけるのですよね?」

 

「いや、俺はいいんじゃないかな?達也だけで問題ないでしょう?」

 

「来ていただけるのですよね?真実はしっかり確認しなくては」

 

「…はい」

 

おかしい。何故自分が呼ばれなければいけないのか、納得がいかないザンだったが、微笑を浮かべる目に、異様な寒さを覚えた為に、逃げることを諦めざるを得なかった。達也は自業自得だとザンに言い、この後のことを考え、本日一番のため息をついた。

 

 

-○●○-

 

 

昨日の有志同盟による放送室立て篭もりの後、生徒会と壬生たちの交渉により、生徒会と有志同盟との公開討論会が開かれることが決まった。明日開かれることとなり、生徒会からは真由美一人が出ることとなった。

校内では有志同盟の活動が活発化していた。当然かもしれないが、二科生を中心に声をかけ、応援をお願いしてまわっている。有志同盟の手首には、赤白青(トリコロール)のリストバンドがあった。

 

「エガリテ、ね…」

 

ザンも気づいていたが、さすがに逮捕するわけにもいかない。公開討論会で何らかの動きを示すかもしれないと達也に釘を刺されていた為、強引な勧誘が無いか見て回る程度にしていた。

美月が誰かに勧誘されていたらしく、達也と話していた。どうやら剣道部主将の司一らしい。達也もザンも、司が今回の件でなんらか関係しており、今後行動を起こすと考えていた。

 

-○●○-

 

 

「思ったより、集まりましたね」

 

討論会の舞台裏から会場を見渡すと、全校生徒の半数近くがいるのが見えた。

 

「カリキュラムの見直しをしたほうが良いのかもしれませんね」

 

「リンちゃん先輩、それシャレにならないです」

 

生徒会側はまだ軽口を言い合う余裕はある。有志同盟側は紗耶香が出席しておらず、放送室を占拠したメンバーも見当たらない。

 

「実力行使の部隊が、別に控えているのか?」

 

「同感です」

 

ここに居ない以上、そう考えるのが妥当だろう。そしてそれは、これがただの討論会で終わらないことを示している。

 

「何をするつもりなのか…。こちらからは手を出せないからな」

 

「渡辺委員長、始まりますよ」

 

「これより、学内の差別撤廃を目指す有志同盟と、生徒会の公開討論会を開催します。同盟側と生徒会は交互に主張を述べてください」

 

討論会が始まった。当初は『討論会』ではあったが、真由美の回答に押され、結局真由美の独演会となってしまった。

 

「実を言うと、生徒会には一科生と二科生を差別する制度が残っています。それは生徒会長以外の役員を指名に関する制限です。現在の制度では、生徒会役員は一科生から指名することになっています。そしてこの規則は、生徒会長改選時の生徒総会においてのみ改定可能です」

 

一旦言葉を切り、深呼吸すると前を見据える真由美。

 

「私はこの規定を、退任時の生徒総会で撤廃することで、生徒会長としての最後の仕事にするつもりです」

 

会場がざわつく。一科生、二科生ともに、そのようなことが出来るのか疑問のようだ。

 

「人の心は力ずくで変えることは出来ないし、してはいけない以上、それ以外のことで出来る限りの改善策に取り組んでいくつもりです」

 

会場からはわれんばかりの拍手と歓声。同盟側の代表もうな垂れていた。討論会の勝敗が誰の目にも明らかになったとき、それは起こった。

 

 

-○●○-

 

 

屋外での爆発音が鳴り響いた。悲鳴が会場内を埋め尽くす。

 

「きゃあー!」

 

「一体、何が起こったんだ!?」

 

「あれ!実技棟の方から煙が!」

 

爆発音で皆が驚いているさなか、冷静に動き始める人影がある。

 

「同盟メンバーが動き出しました」

 

達也の言に、摩利が指示を飛ばす。

 

「風紀委員!非常事態だ、各自マークしているメンバーを拘束しろ!!」

 

すかさず、風紀委員メンバーが生徒を拘束する。

 

「全員、拘束完了しました」

 

「よし!」

 

その時、真由美が焦りの声を上げる。

 

「いけない!皆、窓からはなれて!外から何かが…」

 

言い終わる前に窓ガラスの割れる音と共に、何かが飛び込んで来た。ガス弾だ。

 

「煙を吸わないように!!」

 

ガスが広がり始めていたが、球体状に収縮され、浮かび上がると割れた窓から外に出て行った。

 

―今のは気体に対する収束系と移動系の魔法。瞬時の発動なのに、煙ごとガス弾を外に隔離するとは、流石だな―

 

達也が心の中で賞賛して服部を見ていると、服部はその目から逃れるように視線を外した。

 

「さっすが、はんぞ…服部副会長!お見事です!」

 

その視線の先には、ザンがサムズアップしていた。その時、荒々しく会場の扉が開く。ガスマスクと武装した新手が入ってきたのだ。

 

「好きにさせるか!」

 

「うらぁ!」

 

「ぐわっ」

 

摩利が魔法を発動させようとしたが、それより先にザンが動いた。入ってきた新手を全員外に蹴り出したのだ。

 

『撃て、撃てぇ!!』

 

銃声が外で鳴り響く。

 

『そんな豆鉄砲、効くかよアホウ。それより銃を持ち出したんだ、戦場に出るということは、死ぬ覚悟は出来ているんだろう?』

 

『な、なぜ銃が効かない!?当たっている筈なのに、何なんだお前は!?…ぎゃああああ!』

 

窓の外からは火柱が見えた。

 

「委員長!ザンの援護をし、その後爆発があった実技棟を見てきます」

 

「私もお供します!」

 

「気をつけろよ、二人とも!」

 

摩利の声を背に外に出た二人は、地獄絵図を見た。人が生きたまま焼かれた後があちらこちらに見える。においも酷いものだ。

 

「うっ」

 

深雪は戻しそうになった。達也が深雪の背をさすっていると、ザンが暗い笑みを浮かべていた。

 

「これはやりすぎだろう」

 

「しらねぇな。テロリスト相手にやりすぎもクソもあるかよ。テロってのは、俺の考えている中では最底辺のことだ。無関係の人たちを、平気で巻き込みやがる。そんな奴等には、死ぬことすら生ぬるい。生き地獄がお似合いなんだよ。そもそも人権を主張するなら、まずお前が相手のを保障しなってね」

 

「その点で、今議論しているヒマは無い。まずは実技棟の方に行くぞ」

 

「あいよ」

 

実技棟へ向かい三人は走る。焼夷弾を使ったようだ。あちこちで火の手が上がっている。

 

「お兄様!あれ!」

 

敵三人がレオを囲んで戦っていた。深雪が自分で対応すると宣言し、魔法を展開する。レオを囲んでいた三人は真上に吹き飛ばされた。レオが手でお礼の合図をした後、達也に状況を聞いた。

 

「何が起きているんだ?」

 

「テロリストが学内に侵入した」

 

「ぶっそうだな、おい」

 

「レオ!」

 

CADを抱えてエリカがレオたちの元にやってきた。

 

「…何だ、もう片付いちゃったのね。それにしても、派手にやったわね。これ達也くんの仕業?それとも深雪?」

 

その問いには、深雪が微笑みながら答えた。

 

「私よ。この程度の相手を、お兄様にさせるわけにはいかないもの」

 

「…ハイハイ」

 

大仰にため息をつくエリカ。視線を達也に移すと、攻撃的な笑みを浮かべた。

 

「それで、こいつらは打っ飛ばしていいのね?」

 

「生徒でなければ、手加減無用だ」

 

「エリカ、他の侵入者は?」

 

「反対側は、先生たちがもう制圧しているわ」

 

―実技棟には型遅れのCADぐらいしかない。他に破壊されて、学校運営に支障をきたすところがあるはずだ―

 

「実験棟と図書館か。実験棟には重要な装置や資料がある。そして、図書館は、魔法科高校でしか閲覧の出来ない文献が保管されている。さて、二手に分かれるか、またはどちらかに皆で行くかだが…」

 

「彼らの狙いは、図書館よ」

 

達也たちが行き先を悩んでいたときに、他所から答えがでてきた。

 

「小野先生?」

 

「遥ちゃん?」

 

先生をちゃん付けで呼ぶレオの頭を、エリカがCADで小突いていた。

 

「向こうの主力が、既に館内に進入しています。そこに壬生さんもいるわ」

 

「後ほど、ご説明していただけますでしょうか」

 

「却下します。…と言いたいところだけど、そうもいかないでしょうね。…その代わり、お願いが一つあるの」

 

「何でしょう?」

 

一旦呼吸を整え、達也を遥が見据える。

 

「カウンセラーとして要望します。壬生さんに機会をあげてほしいの。彼女は二科生としての評価と、剣道選手としての評価、そのギャップにずっと悩んでいた。私の力が足りず、彼らに漬け込まれてしまった。だから…」

 

「甘いですね」

 

遥の提案をばっさり切り捨てる達也。そして深雪に声をかけ、図書館へと移動しようとする。

 

「おい、達也」

 

「余計な情けで怪我をするのは、自分だけじゃない」

 

そうして達也、深雪、ザンは走っていってしまった。その後を追うように、レオとエリカモ走り出す。残された遥の顔は晴れない。

 

 

-○●○-

 

 

「二年、九時方向を固めろ!進入を許すな!」

 

「間合いを詰めろ、生徒たちに魔法を使わせるな!」

 

「既に乱戦のようだな」

 

図書館が見えるところまで走ってきた達也たちの目の前には、すでに乱戦と化していた。レオは速度を上げ、乱戦に突っ込む。

 

装甲(パンツァー)!」

 

「音声認識で魔法展開!?またレアなものを…」

 

「よく見てみろ、エリカ。CADがプロテクターも兼ねているんだ」

 

エリカが呆れている隣で、レオの魔法について達也の解説講座が始まった。

 

「ああいう風に使うなら、センサーなどを露出させない、音声認識の方が都合が良いんだ」

 

「それにしても、よくCAD壊れないね。あんな使い方をして」

 

「あれは、CADに硬化魔法を使っているんだ」

 

「あははは!ぱんつぁー!」

 

ザンも笑いながら乱戦に突っ込み敵を壁まで殴り飛ばす。その脇の敵は五メートルほど蹴り上げた。

 

「…ザンくんも、音声認識で何か魔法使っているの?」

 

「いや、アレはただ面白がって言っているだけだろう…。特に魔法は使っていない」

 

「やっぱり…」

 

達也とエリカは仲良くため息をついた。若干深雪が寂しそうにしている。

 

「あー、面白かった。レオ!先に入っているぞ!後はよろしく!」

 

「おう!まかせとけ!」

 

満足したザンは、レオに声をかけ図書館に入っていく。達也たちも同様に入って行った。


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