四葉の龍騎士   作:ヌルゲーマー

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試験対応などがあり、大分空いてしまいました。
社会人となって、久しぶりの資格試験で緊張しましたね。

まとめてから投稿を検討しておりましたが、一話だけでもと思いました。
また、不定期に更新できればと思います。


九校戦編
第01話


「あなた、馬鹿?」

 

第一声にしては酷い状態だ。画面には年齢不詳な女性が、心底呆れている表情をしていた。

 

「久しぶりに連絡を取ったのに、第一声がそれは無いんじゃない?それに、大亜連合の支部一つ潰す事は決まっていたことだろう?『幽騎士(ゴースト)』は使ったけどさ」

 

「公にならない、そっちの事は別にいいのよ。まぁ『幽騎士』なんて、初めて聞くけど?」

 

ジト目でボヤく真夜に、ザンはさも驚いたフリをする。

 

「ええ、そうだっけ?いやー、気が付かなかった」

 

「ふーん、へー、そう。そういう態度とるんだ。あの頃の可愛いザンは何処に行ってしまったの?一緒にご飯を食べ、一緒にお風呂に入り、一緒に寝た、あの可愛いザンは!」

 

「待てぇ!食事はまだしも、その後は身に覚えが無いぞ!」

 

突っかかるザンを、真夜は一枚の紙をちらつかせながら笑みを浮かべる。

 

「…何だ、それ?…ん?何だその写真は!?」

 

「今の技術も捨てたものじゃないでしょう?合成とは分からないでしょ。実はこのデータ、もう送付できるようになっているのよ」

 

「そ、送付?」

 

「ええ。そういえば、このところ達也さんや深雪さんに会っていなかったわね。招待状でも送ろうかしら。誤って写真データが送付されちゃったら大変ですものね」

 

真夜が言い終わる前にザンは土下座していた。これ以上深雪の自分に対する態度が酷くなると、精神まで寒くなりそうだ。

 

「分かれば良いのよ。『幽騎士』については後で聞くとして、私の言っているのはテロリストが第一高校を襲撃したときよ」

 

「ああ、テロリストの丸焼き?」

 

ため息をつきながら頷く真夜。

 

「あなたねぇ、仮にも魔法が不得意だから二科生なんでしょうが。振動系に優れているとか、疑われるでしょう?人体を瞬時に焼き上げるって、教師たちが騒いでいなかった?」

 

「まぁ、そうなんだけど。武器も無かったし、これを使ったんだ」

 

そう言って、ザンは右手の甲側を真夜に見せる。はめていたグローブには炎の紋章がついている。

 

「それって、確かあなたが前の世界から持ってきたっていう…」

 

「そう、『龍騎士』の『神器』の一つ、『炎の聖櫃(ファイアー・アーク)』。そして、左手のグローブについているのが『闇の聖櫃(カオス・アーク)』」

 

本来、神器は七種類あるとされていたが、ザンは三種類しか発見することが出来なかった。一つは前の世界に置いて来てしまい、この世界にたどり着いたときに身に着けていたため、失われることは無かった。神器は龍騎士の力を変換する道具である。『龍の氣』を炎や闇の力に変換することが出来るのだ。

 

「そうなると、あの丸焼きは…」

 

「そう、こっちを使ったのさ。流石に高校の敷地内だから、最大にするわけにもいかないだろう?だから、肺が焼け呼吸が出来ない状態に留めたのさ」

 

どう考えても、そちらの方が残酷に聞こえる。死ぬことには変わらないが、一瞬で燃え尽きたほうが苦しみは短いのではないか。

 

「…どのくらいまで、炎の温度は上がるの?」

 

「具体的に測ったこと無いけど、超新星爆発の中心温度ぐらいまでは上がるよ。敵の魔法とぶつけて相殺したから」

 

「はぁ、もういいわ。どうせ立証なんてできないし。それより、あなたのその力、BS魔法としたらしいじゃない」

 

「ああ、ちょうどいい隠れ蓑だろう?」

 

「前は、あの魔法について使わないように言ったけど、それよりその力を、せめて学校では使わないようにした方が良いわね」

 

諦め半分の真夜の態度に、ザンは怪訝となった。

 

「何故だ?」

 

「どうしても強すぎるのよ。まぁ、二科生だから九校戦には出ないでしょうけど、全国が見る大舞台でその力を使うべきではないわ。それなら、あの魔法の方がまだましよ」

 

「でも、知っているだろう?あれは…」

 

言いよどむザンを、真夜は笑みを持って応えた。

 

「その為に、あの魔法の特訓をしなさい。規模、範囲、その他を考え、影響を最小限にするの。あなたが高校生活を送るためには、それを身に付けるしかないでしょう?。姉さんとも話していたんだけれども、あの魔法を使いこなした方が、魔法科高校生としては生活し易いでしょう」

 

「…確かに、あれからあの魔法を使用することすら避けてきたからな。使いこなせなくて、何の魔法師か。なるほど、ありがとう、真夜」

 

「いいのよ。あなたは私の家族のようなものじゃない。恩に着てくれるなら、夏休みに遊びに来なさいな」

 

「ああ、分かった。必ず行くよ。愛してる」

 

「なっ!」

 

真夜が顔を真っ赤にしたところで、ザンは通話を切ってしまった。この手の事が真夜は苦手と判断し、からかう材料としているようだが、はたして。

 

 

-○●○-

 

 

「それでは失礼します」

 

生徒指導室から出てきた達也は、外で待っていた人影に気がついた。

 

「…どうしたんだ?皆そろって」

 

エリカや美月、ほのかや雫、そしてレオまでいた。達也の問いに、レオが頭を掻きならが反論した。

 

「それはコッチのセリフだぜ。指導室に呼ばれるなんて、どうしたんだ?」

 

納得した達也は、所在悪げに頬を掻いた。

 

「実技試験の事で、訊問を受けていたんだ。手を抜いたんじゃないかって、疑われていたようだ」

 

「なにそれ!悪い点を取っても、なんのメリットも無いじゃない!」

 

エリカは激高していたが、雫は納得していた。

 

「でも、先生がそう思いたくなる気持ちも、分かる気がする」

 

「どうしてですか?」

 

雫の言葉に美月が疑問を持った。ただ、応えたのは鼻息を荒くしたほのかだった。

 

「それだけ、達也さんの成績が衝撃的だったんですよ!」

 

魔法科高校の定期試験は、魔法理論の記述テストと実技テストにより行われる。先日試験が行われ、学内ネットで優秀者が発表された。

総合点の優秀者は順当な結果であり、実技のみの結果も一科生の独占状態だった。だが理論のみの点数となると、上位三名の内二科生二名が入り、前代未聞の大番狂わせが起きてしまったのだ。

 

「しかも、達也さんは平均点で十点以上の差をつけ、ダントツの一位なんですよ!」

 

フーッ、フーッっと鼻息が聞こえるようなテンションのほのかを放置し、雫が解説する。

 

「いくら理論と実技が別物といっても、限度がある」

 

「先生は、端末越しにしか達也くんを知らない訳だし、しょうがないか。そういえば深雪とザンくんは?特に深雪は兄貴の一大事なのに」

 

「生徒会は今大忙しだ。九校戦の準備期間だからな。ザンは渡辺委員長と千代田先輩に連れて行かれたよ」

 

「風紀委員だから渡辺先輩はいいとして、千代田先輩が?」

 

皆の頭に疑問符が沸いたため、経緯を達也が説明することになった。

 

 

-○●○-

 

 

達也が生徒指導室まで呼び出される時までさかのぼる。

 

「あなたが、渡辺先輩の言うことも聞かない、生意気な一年坊ね!」

 

ショートカットの女子生徒が、ビシッと指をザンに突きつけていた。

 

「いえ、それは多分彼じゃないでしょうか?」

 

ザンはしれっと達也に振る。面倒事は達也に押し付けるのが一番とでも考えているのだろう。流石の達也も動揺していた。

 

「お、おい」

 

「こら、花音!忙しいのに仕事を増やすな!すまないな、達也くん、ザンくん。元気のある一年生の話をしていたら、この有様だ」

 

書類を巻いて花音の頭をポコッと叩き、摩利が二人に謝った。

 

「手を焼いているって言っていたじゃないですか、先輩!私は少し指導をしてやろうと思って…」

 

「それが余計な仕事を増やしていると言っているのだ!」

 

「じゃあ、せめてコイツらの実力を見せてくださいよ!私は九校戦の選手なんですから、お手合わせをお願いしたいな~」

 

九校戦。正式名称は全国魔法科高校親善魔法競技大会。毎年全国から選りすぐりの魔法科高校生が集い、その若いプライドをかけて栄光と挫折の物語を繰り広げる。

魔法関係者のみならず、多くの観客を集める魔法科高校生の晴れ舞台だ。

 

両手を合わせ笑みを浮かべる花音を見て、ため息をつく摩利。確かに風紀委員としての働きはすばらしいものがあるが、二人は二科生だ。一科生の、それも代表となる花音の相手となるとは考えづらい。

 

「いいでしょう。達也が相手になります!」

 

「おい!」

 

これは面白いことになりそうだと、ザンが積極的に乗り、達也が止めようとしたところに校内放送がかかった。

 

『一年E組、司波達也さん。生徒指導室まで来てください。繰り返します。一年E組、司波達也さん。生徒指導室まで来てください』

 

「…呼び出しがありましたので、渡辺委員長、失礼します」

 

達也は摩利に言い残し、風紀委員本部から出て行ってしまった。

 

「じゃあ、あなたが相手してくれるんだね?」

 

「あ!」

 

自分の掘った、巨大な墓穴に後悔するザンだった。

 

 

-○●○-

 

 

「ルールは分かっているわね?」

 

開始前の花音の問いに、ザンは首を横に振った。今時珍しいズッコケポーズから持ち直した花音は、恥ずかしさを紛らわす為か、コホンと咳を一つ。

 

「えーっと、自陣奥の櫓に立って自陣の氷柱十二本を護りながら、敵陣の氷柱を倒すのよ。簡単に言うと、全部倒せば勝ち!」

 

花音とザンは、それぞれ陣の櫓に立っていた。アイスピラーズ・ブレイク練習場で対決することになった二人だったが、ザンがルールすら怪しいため、花音が説明するという珍しい構図が成り立つ。

 

「ちょっといいですか?試合時間はどうするんですか?」

 

「大丈夫よ。あたしがすぐ倒すから」

 

質問に対して回答とならないものが返ってきた。仕方が無いため、ザンは一つ提案をすることにした。

 

「では、試合時間は最大五分というのはどうでしょう」

 

「何か意図があるのかね?」

 

号令担当の摩利が首を傾げると、ザンは頬を掻いた。

 

「さして意味はありませんよ。ただこう着状態となった場合、あまり長時間する意味も無いでしょう?俺の力量が知りたいだけでしょうし、それに先輩もすぐに終わると言っていますしね」

 

「いいですよ、それでも。すぐに終わらせますから!」

 

花音の余裕の表情に、摩利はため息をついた。こういった場合、あの男は絶対に何かしでかすはずだ。司波達也にこちらに来るように伝えてはいるが、最悪自分が止めるしかない。真由美にも連絡しているが、生徒会も忙しいし時間もかかるだろう。

 

「仕方がないな。ルールは花音の言ったとおり、制限時間は五分。敵の氷柱を多く倒したほうが勝ちだ。始め!」

 

開始と同時に、花音とザンはCADを操作し魔法発動に取り掛かる。ザンが珍しくCADを操作していることを見て、摩利は興味を持った。もちろん授業で魔法を使用しているだろうが、風紀委員などで魔法を使用しているのをあまり見ない。そうしている間に、早くも花音の魔法が発動する。

 

「地雷原」

 

摩利は花音の魔法について、意識せずつぶやいていた。振動系統・遠隔固体振動魔法。地面を振動させ、ザン側の氷柱一本をたやすく砕く。次の氷柱が振動し始めたところに、ザンの魔法が発動した。自陣と敵陣の間に、巨大な盾が出現する。

 

「な!」

 

花音が驚くのは無理は無い。巨大な盾が出現した後、氷柱の振動が完全に停止してしまったのだ。摩利も呆気にとられている。

 

「渡辺委員長、遅くなりました」

 

達也が現場に到着したときにタイマーが鳴った。五分経過、試合終了である。

 

「勝者、千代田 花音!」

 

「いや~、負けちゃった。はっはっは、残念残念」

 

何一つ残念がっていないザンと対照に、花音の顔には憤怒が見て取れた。

 

「あーもう!フラストレーションが溜まる!何よこのもやもや感は!」

 

「達也くんは知っているのか?彼の今の魔法を」

 

摩利の顔には冷や汗が流れていた。魔法を防ぐ盾。どのレベルまで防げるのか不明だが、魔法師にとって脅威となり得るものだ。達也の顔に困惑が無いことを訝んだ摩利は、達也に聞いてみたくなったのだ。

 

「あれは俺の固有魔法ですよ、委員長」

 

「固有魔法…。魔法について聞くのはルール違反だな。…そういえば、あの魔法で相手の攻撃を防げるのであれば、何故君は攻撃しなかったんだ?」

 

摩利の尤もな質問に、ザンは遠い目をした。

 

「…実は、あの魔法を使うと、他の魔法が一切使えないんです、俺。そのため、制限時間を設けさせていただきました」

 

「なるほど、そうなのか。…そういえば、君はBS魔法師だろう?BS魔法は使えるのではないのか?」

 

「ああ、そういえば使えましたね。まぁ、近代魔法を競い合う競技に、BS魔法を使っても、ね」

 

「手があるなら、使いなさいよね!もう一回よ、もう一回。ただし、さっきの魔法は無しだからね。フラストレーションたまるもの!」

 

あまりに一方的な言い分に、ある種の清々しささえ感じてるザンだった。

 

さきほどと同様にお互いに自陣の櫓に立つ花音とザン。右手に炎のマークが見えるグローブをはめようとしていたザンを見て、達也は嫌な予感がした。真由美と深雪が後から現われ、エリカとレオも到着していた。

 

「ルールは先ほどと同じ。試合時間もだ。それでは、始め!」

 

先ほどと同様に、花音がザンの氷柱を倒していく。先ほどと違うのは邪魔されないことだ。気分よく五本目に取り掛かったときに、ザンの動きが気になった。ザンはずっと手をかざしているが、特に変化は見えない。金色の湯気のようなものが自陣の氷柱にまとわりついているのが見えたが、特に変化は見当たらない。

 

「やっぱり、こう行かなくっちゃね!一年坊は何かやっているみたいだけど、先に全部倒しちゃえば終わりよ!」

 

その意見は正しい。ただし、ザンは余裕の笑みを浮かべていた。かざしていた右手を翻した時に、達也が声を上げる。

 

「伏せろ!」

 

ザンがパチンと指を鳴らすと、花音の陣を埋め尽くす炎柱が立ち上がる。瞬間の剛炎が消えると、花音の陣の氷柱は、水滴すら残さず全て消えていた。ザンの陣の氷柱も剛炎の影響を受け、三本を残すのみとなったのはご愛嬌か。

 

「勝者、桐生 斬!」

 

櫓から降りてくるザンに、皆声をかけられないでいた。現代魔法と異なるBS魔法。その威力をまざまざと見せ付けられた格好だ。達也が降りてきたザンの傍に寄る。

 

「…やりすぎだ」

 

「あ、やっぱり?真夜様にも釘をさされているんだよねぇ。コントロール難しいんだ、コレ」

 

「前も炎を扱った事があったな。どれほど威力が上がるのかはしらんが、周りを見てみろ」

 

ザンが見渡すと、一年生はあまりの威力に顔を青ざめており、花音は肩を震わしているようだ。摩利が声をかけようとしたが、その前に花音は走っていってしまった。

 

「あらら、どうしよう?」

 

「気にすることは無い。九校戦ともなれば、強敵がいくらでもでてくるだろう。天狗となった鼻がへし折られただけだ。そんな柔な子ではないし、()もいるから大丈夫だろう」

 

摩利の言う彼とは、彼氏なのかそれともカウンセラーか何かは分からないが、ザンはその人に心の中で謝罪していた。

 

「それにしても、キミがあれほどの事をするとはね。他の競技はどうだろう?」

 

「それいいわね、摩利。二科生代表として、出場できる競技があるかもしれないわ。十文字君にも話して、協議してみましょうよ」

 

真由美の同意に、ザンは慌てた。

 

「いやいやいや、わざわざ二科生から代表出す必要無いじゃないですか。既に代表は決まっているんでしょう?それに一科生の反発もあるでしょう?達也も何か言ってくれ!」

 

「大丈夫よ。大枠で決まっているけれども、優秀な選手がいるのであれば、一科生二科生と言っていられないでしょう?」

 

「そうだな。二科生が活躍すれば、会長や委員長のような考えになるかもしれない」

 

真由美による囲い込みに、達也まで同調し始めた。ザンはジト目で達也を睨む。

 

「…覚えていろよ。必ず巻き込んでやる」

 

ザンの呪詛に近い言葉が現実となるか否かが分かるのは、数日の時を要した。


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