四葉の龍騎士   作:ヌルゲーマー

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第06話

九校戦も四日目に入り、新人戦がスタートした。スピード・シューティングとバトル・ボードの予選が行われる。一高女子陣は北山雫、明智英美、滝川和美で一位から三位まで独占する活躍を見せた。特に雫が使用した魔法『能動(アクティブ)空中(エアー)機雷(マイン)』は魔法大学から『インデックス』に正式採用の打診が来ていたほどだ。魔法自身は達也のオリジナルであったが、登録は雫の名前でするよう依頼していた。上位独占によりうかれている一高と異なり、三高では急遽ミーティングを行っていた。

 

「…それでは、一高女子の上位独占は個人技能によるものだけでは無いというの?一条くん」

 

「ああ、他にも要因があると思う」

 

一条は吉祥寺に目配せした。吉祥寺が頷き一条の意見を補足する。

 

「…エンジニアだね。それも相当凄腕のエンジニアがついているのだと思う。優勝した選手のデバイス、あれは汎用型CADだった」

 

ミーティングルーム内が騒然となった。汎用型には照準補助機能がついていないはずだからだ。

 

「去年の夏、デュッセンドルフで発表された技術だよ。…実戦に耐えられるレベルではなかったけどね。でも、あの機能がエンジニアの技術で実現しているとしたら…」

 

「ああ、到底高校生のレベルではない。バケモノだ」

 

吉祥寺が言いづらいことを、一条がはっきり言った為、なおさら三高内に動揺が走った。

 

「そのエンジニアが担当する競技は、これからも苦戦するだろうな。少なくとも、デバイス面では大きなハンデがあると言って良い」

 

そう言いながら一条は立ち上がると、窓から空を見上げていた。本戦で優勝した一年生といい、汎用型に照準補助機能を付けてきたエンジニアといい、一高には昨年以上の人材がいることを憂慮する一条だった。

 

 

-○●○-

 

 

「スピード・シューティング、準優勝おめでとう、エイミィ」

 

「あ、ありがとうございます!ザンさん」

 

部屋に戻る途中だったのか、廊下を歩くエイミィを見かけてザンが声をかけたのだ。

 

「雫は強かったです。残念ですけど、力不足でした。来年は雫に勝って優勝して見せます!」

 

語り始めは悔しそうであり、ザンも思わず声をかけそうになった。しかし、その後は持ち前の明るさからか清清しい宣言が聞けた。ザンは思わずエイミィの肩に手を置いてしまった。

 

「その意気だ、君は強くなるよ。明日からはアイス・ピラーズ・ブレイクだったね。深雪や雫も強敵だけれど、がんばってね」

 

「は、はい!それに変なところで負けちゃったら、みんなのオモチャにされちゃう…」

 

恥ずかしそうにクネクネしているエイミィを見て、深雪たちはいったい何をしているんだかと、ザンはわりと本気で心配した。ちなみに、モブ…森崎はスピード・シューティングで準優勝したらしい。

 

 

-○●○-

 

 

九校戦五日目、アイス・ピラーズ・ブレイクの予選が始まった。ファッションショーの様に皆着飾って試合に臨んでいた。エイミィは乗馬の姿で、雫は振袖、深雪は所謂巫女さんファッションの緋色袴だ。それぞれが実力を発揮し順調に勝ち上がっていった。特に深雪は中規模エリア用振動系Aランク魔法の『氷炎地獄(インフェルノ)」を使用した事により、より注目を集めていた。

 

「やっぱり深雪は可愛かったわね~」

 

「ポイント、そこ?」

 

深夜が上機嫌でクネクネしており、真夜の突っ込みを意に介していなかった。

 

「確かに深雪は別格だったな。新人戦では取りこぼしたりはしないだろう」

 

魔法師としての話へ戻すザンだった。

 

「そういえば、あなたのところのバトル・ボードの選手の容体はどうなの?」

 

真夜がそのようなことを気にするとは思えず、ザンは怪訝な表情となるが気を取り直して問題無いことを伝える。

 

「おかげさまで命に別状はありませんでした。肋骨を折っておりましたが、一週間ほど安静にしていれば問題ありません」

 

「そう。ザン、その件に香港系国際犯罪シンジケート、無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)が絡んでいるわ。深雪さんや達也さん、あなたに影響するようなら殲滅しなさい」

 

「…それは軍部は知っているんですか?達也に情報を流しても良いでしょうか」

 

「達也さんに伝えても良いけれど、無頭竜について察知しているはずよ。それとなしに情報はこちらから流しているもの」

 

しれっと言う真夜に頭を抱えそうになった。これでは達也が無頭竜殲滅に動いてしまう。その事を懸念していたが、真夜たちは気にしていないようだった。

 

「人が生きるということは、きれい事だけではすまない事もあるのよ。特に深雪さんに影響を及ぼすと分かったら、達也さんはどうしても動いてしまうでしょうね」

 

達也には、できるだけそういった世界には足を踏み入れて欲しくない。ザンは勝手にそう願っていた。

 

 

-○●○-

 

 

九校戦六日目。達也と深雪が廊下を歩いていると、向こう側からは一条と吉祥寺が歩いてきた。向かい合う形で両者とも止まる。

 

「第三高校一年、一条将輝だ」

 

「同じく一年の吉祥寺(きちじょうじ)真紅郎(しんくろう)です」

 

「第一高校一年、司波達也だ。何の用だ?十師族一条家次期当主、『クリムゾン・プリンス』と弱冠十三歳で基本(カーディナル)コードを発見した天才少年、『カーディナル・ジョージ』」

 

自分たちのことを知っていることに、一条は興味を覚えた。

 

「ほう、俺の事だけではなくジョージについて知っているとは話が早い」

 

「しば・たつや…。聞いた事の無い名ですが、あなたの顔を見に来ました。九校戦始まって以来の天才技術者」

 

長い会話になるかもしれない。話を打ち切っても良いが、深雪の印象が悪くなってしまうかもしれない。話をあわせるにしても、深雪は自分の準備をさせたほうが良いと達也は考えていた。

 

「深雪。先に準備しておいで」

 

「はい」

 

深雪が頷き一条の脇を通り過ぎると、一条の目は深雪の姿を追っていた。

 

「『プリンス』、そっちもそろそろ試合じゃないのか」

 

一条はその事を指摘されるまで、深雪の面影を思っていた。吉祥寺は嘆息して達也を見る。

 

「…僕たちは、明日のモノリス・コードに出場します。君はどうなんですか?」

 

「…俺は担当しない」

 

「そうですか、残念です。いずれ君の担当した選手と対戦してみたいですね。もちろん、勝つのは僕たちですが」

 

「時間を取らせたな、司波達也。次の機会を楽しみにしている」

 

そう告げると、達也の下を離れ歩き出す一条と吉祥寺だった。達也は自分を初対面の時にフルネームで呼ぶ男と思い出そうとしていたが、無用な事と諦めた。一条と吉祥寺は廊下の角を曲がったところで、一人の男に出くわす。

 

「よ、『クリムゾン・プリンセス』」

 

「『プリンス』だ!…クラウド・ボールの優勝者が何の用だ?」

 

目の前にいたザンに、敵意に近い感情を表す一条。

 

「何だ、赤い衣装を纏って女装でもするのかと思ってたよ。これは失礼。それにしても、何でそんなにトゲトゲしいんだ?」

 

「…九校戦をやっている真っ最中に、他校の選手と会話しているほうがおかしいだろう?時と場合を考えろ」

 

尤もな理屈だが、ザンは一笑に付した。

 

「ふ~ん。今先ほどまで、我が校のエンジニアと選手に声をかけていたのは何処の誰だい?大体、深雪に見惚れていただろう?時と場合を考えるのは、どっちだろうねぇ?」

 

「…っ!新人戦のモノリス・コードに出てこい、桐生斬!そこで決着をつけるぞ!」

 

鼻息の荒い一条の言葉だったが、ザンは肩をすくめた。

 

「すまないが、新人戦モノリス・コードに俺の名前はエントリーされていないんだ。それに、もし俺が出場する事になっても、お前の前に立ち塞がるのは、多分俺じゃない」

 

「どういうことだ?」

 

「ま、とにかく今のところは申し訳ないがどうしようもない。一年待ってくれれば、代表選手に選ばれる様努力しよう」

 

そう言ってザンは手をひらひら振りながら歩いていってしまった。

 

「将輝は桐生の事となると冷静ではなくなるね」

 

「どうしてか、俺にもわからん!」

 

肩をいからせて、一条は歩いていってしまった。吉祥寺はその背中を見て嘆息した。

 

 

-○●○-

 

 

新人戦女子アイス・ピラーズ・ブレイクは一高の深雪、雫、エイミィが一位から三位を独占し、大会本部から同率優勝にしてはどうかと打診があった。雫や深雪の要望により同率優勝ではなく、競技を行う事を要望され決勝戦が行われた。雫はCADの同時操作や振動系魔法『フォノンメーザー』を使い深雪と戦ったが、深雪の広域冷却魔法『ニブルヘイム』と『インフェルノ』により破れた。

新人戦女子バトル・ボードは、ほのかが優勝を果たしていた。達也とザンは、ホテルのラウンジで深雪やほのか、エイミィの競技優勝、準優勝、三位入賞のお祝いをしていた。深雪は達也が自分を負かす為に動いていた事に不貞腐れ、達也は深雪がそのような事を望まない事を語っていた。エイミィもまた、ザンと過ごす一時を楽しんでいた。

 

 

-○●○-

 

 

九校戦七日目。新人戦ミラージ・バットはほのかと里美スバルが順調に勝ち進んでいた。男装の麗人のようなスバルが、ミラージ・バットの可愛らしい衣装を着こなす姿を見て達也が感心していたかは分からない。

片や新人戦モノリス・コードでは異変があった。一高が二回戦に望んだ際、事故があったのだ。市街地ステージで一高のスタート地点がビル内部だったのだが、開始直後に『破城槌』を受けたのだ。出場選手は皆重態。雫は、相手高校の不正があったと指摘していたほどだ。妨害工作の可能性が高い事を達也は理解していた。

ほのかとスバルによる、一高のミラージ・バット優勝と準優勝が決定した夜、達也はミーティングルームに呼ばれていた。

 

「司波達也、参りました。…ザン?」

 

「ああ、達也も呼ばれたのか」

 

ミーティングルームには、先客としてザンがいた。周りを見回すと浮かれた表情は無い。達也は嫌な予感がしていた。真由美が一歩前に出る。

 

「今日もお疲れ様でした。選手のがんばりはもちろんですが、達也くんの功績も大きいわ。お陰で、当校の新人戦は現在一位です。そして二位の三高との差は五十ポイントです。モノリス・コードを棄権しても二位以上は確保できました」

 

真由美は一息つき、表情を暗くする。

 

「あとは三高のモノリス・コードの結果次第…。とはいえ、三高はあの一条くんと吉祥寺くんが出場しています。まず、負ける可能性は低いでしょうね。新人戦準優勝。それで良いと思っていたのだけれども…」

 

一旦区切ると、真剣な表情となり達也とザンを見る真由美。

 

「ここまで来たら、新人戦も優勝を狙いたいの。だから達也くん、ザンくん。森崎くんたちの代わりにモノリス・コードに出場してもらえませんか?」

 

達也とザンはお互いに顔を見合わせる。お互い頷くと真由美へ振り返り、疑問をぶつけた。

 

「何故、自分たちに白羽の矢が立ったのでしょうか。自分らは二科生であり、また自分はスタッフです。それに他に出場できる選手が何人もいるはずです。一科生のプライドはこの際考慮に入れないとしても、後々の精神的なしこりを残してしまうのでは無いですか?」

 

真由美も痛いところをつかれ返す言葉が思い浮かばなかった。しかし、隣にいた巌のような男が代わりに口を開く。

 

「甘えるな、司波。スタッフであろうが、お前は代表チームの一員だ。チームの一員である以上、リーダーである七草の決断に逆らう事は許されない。決断に問題があれば、補佐する我々が止める」

 

一旦言葉を区切ると、十文字は改めて達也の両目を見つめる。

 

「逃げるな、司波。例え補欠であろうとも選ばれた以上、その勤めを果たせ」

 

その目と言葉に心を動かされた達也。その達也の目を見て、ザンも諦めたか天を仰いだ。

 

「分かりました。チームの一員として義務を果たします」

 

真由美はホッとした表情となり、十文字も満足気に頷いた。

 

「それで、自分以外のメンバーは誰なんでしょうか?」

 

「当然、そこにいる桐生だ。残りのメンバーは司波と桐生で決めろ。お前たちのチームだ」

 

―ひどい。俺が出場する事、いつの間にか決まってるじゃん。俺の意見、聞かれて無いじゃん―

 

「…チームメンバー以外から選んでも良いですか?」

 

「え?そ、それは…」

 

「かまわん。例外が一つや二つ増えたところで今更だ」

 

「十文字くん…」

 

十文字と達也の間で百面相している真由美を見て、思わずザンは笑ってしまった。

 

「はっはっは。…あ、失礼しました。…達也、残りのメンバーは、幹比古か?」

 

「そうだな。残りのメンバーは、一年E組、吉田幹比古にお願いします」

 

「分かった。俺は大会本部に伝えてくる。後は任せたぞ七草」

 

言うなり十文字は出て行ってしまった。真由美に振り返る達也は、今後について確認した。

 

「衣装などはどうしましょうか。ザンはクラウド・ボールの衣装がありますが、まさかそのまま出場するわけにもいかないでしょう」

 

「それらは、私たちが受け持ちます。必要なものがありましたら教えてください」

 

鈴音が雑務を受け持つ事と成った。中条と共に急いで準備する事になるだろう。達也はいくつかを鈴音に依頼していた。

 

「では、自分らも失礼します。幹比古と図り、今回の作戦を大筋で決めておきたいので。いくぞ、ザン」

 

「はいよ。では、失礼します」

 

そして達也とザンは部屋から出て行った。残った者たちは顔を見合わせて一息ついた。達也の意見に答えが出ていなかったのだろう。

さて、幹比古は巻き込まれる形となったが、それが本人にとって幸か不幸か、分かるまであと少し。

 


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